特集記事 「核融合エネルギー開発の現状」(6)核融合原型炉における保守保全の考え方
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特集記事 「核融合エネルギー開発の現状」(6)核融合原型炉における保守保全の考え方
量子科学技術研究開発機構 六ヶ所核融合研究所
染谷 洋二 Youji SOMEYA
1.はじめに
日本の核融合原型炉概念設計では、現在、プラントの設計活動と並行して保守保全シナリオの策定を進めている。特に、核融合炉の炉内機器は重水素と三重水素(トリチウム)との核融合反応で発生する高エネルギー中性子(14.06 MeV)により高い中性子損傷を受けるため、数年毎の定期的な交換が必要になる。さらに、高線量環境の中で大型機器を遠隔制御で交換することも求められる。原型炉での炉内機器の設計方針は、所定の運転期間
(中性子損傷量)までは機能を担保するように設計し、その期間を超えて健全性を確保するため定期交換を行うという考え方である。他方、高エネルギー中性子が発生する核融合原型炉では、冷却水の放射化に伴い主冷却系などが広範囲にわたって高線量率になることにも留意する必要があり、プラント主要機器の放射線防護が保全の重要な課題である。本記事では、核融合原型炉の保守保全技術の概念検討の状況と課題を解説する。
2.核融合原型炉における保守保全
2.1 核融合原型炉内の概念案
図 1に原型炉サイトのイメージ図を示す。サイト内には主にトカマク建屋、熱交換器等、タービン建屋、トリチウム処理建屋、ホットセル、および放射化物管理建屋などが存在する。原型炉では炉心プラズマで発生する核融合出力( 1500 MW)をプラズマ周辺に配置する機器において、主に中性子との核反応によりエネルギーを増倍し、1880 MW程度を熱出力として回収する [1]。電気出力としては加圧水型原子炉( PWR)での熱効率を仮定すると 250 MW級のプラントになる。次に、図 2にトカマク建屋内で炉心にあたる原型炉の炉内構造図を示す。図 2から炉心プラズマ付近には、発電のための熱回収や燃料であるトリチウムの生産・回収の役割を担う増殖ブランケット、炉心プラズマ中のヘリウム除去の役割を担うダイバータ、炉心内部を真空に保つと共に、安全上の一次障壁の役割を担う真空容器、及び高エネルギーの荷電粒子を閉じ込めるための磁力線の籠をつくる超電導コイルなどが存在する。核融合炉の炉内機器は核融合反応で発生する高エネルギー中性子( 14 MeV)により炉心プラズマから外側へ広範囲の機器が放射化する。特に炉内機器であるブランケットとダイバータは高エネルギー中性子による損傷を強く受けるため、ある一定以上の中性子損傷量(照射時間)までは機能を果たすように設計し、定期的な機器交換により健全性を確保する方針である。但し、高線量環境下(最大値:10 kGy/h)において大型機器(10 m程度)の搬入出と冷却配管の切断・再溶接を遠隔機器により実施するには視野の確保など耐放射線の観点で課題である。なお、強い中性子損傷を受ける炉内機器の主要構造材には耐放射線性に優れた低放射化フェライト鋼(F82H)[2]を使用する。冷却水条件は F82Hの使用温度域(290℃~ 550℃)から現行の PWRプラントを踏襲し、入口 /出口温度を 290℃ /325℃とし、運転圧力を
15.5 MPaと定めた。また、真空容器や超伝導コイルにおいては、定期的な機能検査を実施し、健全性を確保する方針で検討を進めている。特に一次障壁である真空容器は二重壁の構造を採用しており、高線量環境下になる内壁(プラズマ側)の溶接ラインなどの健全性を確保する保全方針の策定が課題である。
図1 核融合原型炉概念のイメージ
他方、核融合原型炉の一次冷却系には、炉内機器であるブランケットやダイバータから燃料であるトリチウムが透過し、その透過速度は 5.7 g/dayである [3]。この透過量に対し、一次冷却系におけるトリチウム管理濃度を CANDU炉と同様に 1TBq/kgと仮定すると主冷却系での必要流量(7600 kg/s)の内、94kg/hを処理すればよい。このトリチウム水処理系の能力は韓国( Wolsong)で稼働している重水炉での処理能力(最大処理流量: 100 kg/h, トリチウム処理濃度:0.037 . 2.2 TBq/kg)と同程度である
[4]。さらに CANDU炉での蒸気発生器でのトリチウム移行量は各伝熱管における酸化膜により抑制され、発電系・タービンエリアにおいて PWRと同程度のトリチウム濃度まで減衰するとされる [5]。したがって、核融合炉の付帯設備の保守・保全計画は軽水炉と重水炉で構築された知見から構築できるものと考えられる。
2.2 核融合原型炉における保守・保全の留意点
軽水炉と異なる点で核融合炉の保守・保全において、特に留意すべきことは、大型機器であるブランケットと
図2 核融合原型炉の炉構造表1 冷却水の放射化に関わる主な核反応
ダイバータを高線量環境下である真空容器内から数年おきに交換する必要がある点である。さらに、核融合炉で発生する中性子が 14 MeVと高エネルギーであることから冷却水の放射化に関わる閾値反応(表 1参照)「16O(n, p)16N, 17O(n,p)17N」が多く起こる点にも留意が必要である。これより、主冷却系など広範囲に高線量エリアが拡大し、安全のために炉心近くに配置する緊急時遮断弁、並びにプラント主要機器や制御系機器の放射線防護が保全の観点で重要な課題である。
3.定期的な炉内機器の交換手法
3.1
原型炉における炉内機器の保守手法
原型炉の核融合出力は 1.5 GWで主半径は 8m程度である。定期交換対象機器であるブランケットとダイバータの運転期間(照射期間)はそれぞれ 4年と 1年とした。表2に実験炉 ITERと原型炉における機器交換に関わる考え方と作業環境について示す。表 2から、 ITER側からの要求値は真空容器内のブランケットモジュールを 8週間以内に一体を交換し、全モジュールは 2年間で交換しなければならない。また、交換作業時の線量目標値は 250 Gy/hである [6,7]。一方、原型炉では炉内の線量率が 10 kGy/hと高く炉内機器の細かな保守はホットセルで実施する方針である [8]。
3.2
核融合原型炉機器の保守手法
プラント稼働率を高めるために真空容器内での切断 /再溶接などの時間がかかる作業とその検査を最小限に抑えることが重要であり、原型炉設計では、交換対象機器の保守はホットセルで行い、搬出後直ぐに新しい機器を搬入することで、稼働率の低減を抑えられるアイデアを
表2 核融合炉内機器の主な保守手法について
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取り入れている [8]。したがって、放射化した炉内機器は、運転終了後に直ちに交換することが求められるが、主に 2つの観点で機器交換に時間を有する。①高線量環境下での遠隔装置による機器の交換
.特に配管の切断 /再溶接などの繊細な作業を遠隔装置で実施する必要がある。②機器交換・搬送中に残留熱による機器昇温の抑制.運転終了後に 1ヶ月間の冷却期間を経て搬出すれば機器温度を外部空冷で制御が可能である。
※残留熱: 40 MW(終了直後)→ 2 MW(一ヶ月後)
②に関しては、真空容器内の機器を運転中に用いた既設配管での冷却系統を用いて、機器温度の制御を行いながら一ヶ月間保管する。なお、この期間に残留熱を利用して、炉内機器を 300℃程度まで昇温し、主にプラズマ対向壁に滞留するトリチウムを可能な限り回収する。
①に関しては、各保守用ポートにおいて、線量率低減のためにポート遮蔽体後方から遠隔機器でアクセスし、各機器の冷却のために接続されている配管を機器搬出時には切断し、機器搬入時には再溶接する。また、機器を移動する際も遮蔽体後方にある把持部を固定し交換作業を行う(図 2参照)。ここで、遠隔機器の主な可動域である各保守用ポート内を含めた運転終了後の炉内線量率分布を中性子輸送コード MCNP-5 [9]と放射化計算コード DCHAIN- SP2001 [10]により評価した。なお、放射化した機器の誘導放射能は運転終了から一ヶ月後の値に基づき評価した。図 3にブランケット及びダイバータの機器搬出前に遠隔機器で行う冷却配管部の切断・再溶接時の
図3 運転終了一ヶ月後の空間線量分布
空間線量率分布を示す。また、図 4には、機器搬出後のガンマ線ストリーミングを考慮した空間線量率分布を示す。
・炉内機器に接続される冷却配管の切断・再溶接
図 3の評価結果から保守開始時の空間線量率はブランケット保守用ポート内で 0.01 (Sv/h)、ダイバータ保守用ポート内で 0.1 (Sv/h)になる [11]。したがって、線量率が高い原型炉において、保守用ポート内に機器交換時における冷却配管の切断・再溶接点を集約する事により、作業環境における線量率を ITER(250 Sv/h)よりも低減し得ることが分かる。他方、核融合炉では高エネルギー中性子照射の (n, α )反応で発生するヘリウムによる溶接時割れを防ぐために溶接時の入熱がなるべく小さいレーザー溶接が有効と判断しており、 ITERでの溶接手法にもレーザー溶接が採用されている。ここで、 ITERでの溶接時の目標肉厚が 3 mmに対し、加圧水条件を採用している原型炉での肉厚は 28.5 mmである。したがって、ITERでの開発で得られた高放射線環境下での遠隔保守機器の知見をベースに引き続き原型炉に向けた遠隔機器開発が必要である。・炉内機器の交換
交換対象であるブランケットセグメントとダイバータは中性子損傷による機器運用寿命が異なることから個別に交換することが求められる。ブランケットセグメントとダイバータの機器重量は 100㌧と 32㌧である。特に交換用ポートから交換する大型機器(高さ:10m)のブランケットセグメントは、交換時の落下防止のために炉内での複雑な姿勢制御を最小化し確実に大型機器を搬出できる方式を採用している [2,12]。次に最初の機器をホットセルへ搬出後は、機器に設置されていたポート遮蔽も取り除かれ、交換ポート内へのガンマ線ストリーミング
図4 機器交換時の炉内空間線量分布
が増加し、ブランケット及びダイバータ保守用ポート内の空間線量率が 100 (Sv/h)まで増加する(図 4参照) [11]。また、全ての交換機器を搬出し、新しい機器を搬入する際の各保守用ポート内の線量率は 10 (Sv/h)である [11]。したがって、評価した炉内線量率分布を考慮し、機器交換に用いる遠隔装置の中で特に放射線に弱い部品(モーター、カメラ、電源ケーブル、グリスなど)に配慮した設計が必要である。
4.冷却水の放射化に伴う炉心周辺影響
4.1 核融合原型炉における冷却水の放射化
核融合反応で発生する高エネルギー中性子は、主に核融合プラズマの周りに配置された炉内機器であるブランケット内冷却水との核反応により 16N(半減期: 7.13秒、ガンマ線:6.1 MeV程度)と 17N(半減期:4.14秒、中性子:1.2 MeV程度)が発生する。他方、安全設計の観点から炉内機器主冷却系には緊急時遮断弁を可能な限り炉心に近い生体遮蔽を出て直ぐに設置する必要があり、放射化した冷却水が十分な減衰を待たずに遮断弁に達する。従って、当該設置位置での弁の健全性検討を実施するために線量率評価を実施した。さらに、熱交換機器等が設置される補機系建屋での影響評価も実施した。炉内に設置されるブランケットモジュールに負荷される中性子照射量には分布が存在するが、本計算には、中性子壁負荷の最大値(外側赤道面のモジュール)である 1.66 MW/m2で計算を行った。図 5に原型炉ブランケットモジュールの概念図を示す。原型炉ブランケットは横幅: 1.4m、高さ: 0.7m、奥行: 0.7mの大きさで、ボックス内の耐圧性向上のためにハニカム構造の補強リブが存在する。なお、当該リブ内には冷却チェンネルが存在する。また、ハニカム型に囲まれた領域には燃料であるトリチウムを生産するための混合増殖材と冷却のための U 字冷却配管を設置する。評価の結果、運転中のモジュール単体の発熱量は 2.7 MW程度で、必要流量が 12.9 kg/sと分かった。次にモジュール内の冷却水は①ブランケット第一壁内配管、②増殖領域内配管、③補強リブ内配管の順で流れるように設計した。CFD(Computational .uid dynamics)解析の結果、各領域での流速は平均で①: 5.4 m/s、②: 1.1 m/s、③: 3.6 m/sであると分かった。次にモジュール内での核反応による窒素生成量は、16N:3.67 × 1010 (1/cm3/module)と 17N:3.42 × 106 (1/cm3/module)になると分かった。最後にモジュール内の冷却水流動解析の結果と核解析による窒素生成量からブランケットモジュール出口部での窒素濃度は 16N:3.2 × 1010 (1/cm3/ module)と 17N:2.7 × 106 (1/cm3/module)になると分かった。なお、炉内に配置されるブランケットモジュールは全部で 1072体である。次にブランケットセグメントに設置される 13体程度のモジュール内冷却水はセグメント後方で統合され、リングヘッダーへ移行する(図 6参照)。その際の窒素濃度は 16N:1.73 × 1010 (1/cm3)、17N:8.95 × 106 (1/cm3)となる。これら放射化した窒素は最も早くて 13秒程度で生体遮蔽の出口まで流れる。現在の設計では生体遮蔽を出て直ぐに遮断弁を設置する。従って、当該設置箇所での放射能濃度は 16N:0.46 (GBq/cm3/ segment)、17N:2.42 × 10-5 (GBq /cm3/segment)に至ると分かった。ここで、放射線による遮断弁の影響に関して、欧州の原型炉(EU DEMO)において 2 MGyと定めている [13,14]。日本の原型炉における遮断弁設置位置での放射化した窒素濃度は、 EU DEMOと同程度であり、およそ 7 FPY (Full power year)以内に遮断弁の交換が必要になる可能性がある。従って、当該遮断弁の健全性を確保するために交換も含めた保守・保全シナリオを構築する必要がある。
図5 原型炉ブランケットにおける冷却水フロー図6 原型炉ブランケット熱輸送系の冷却系イメージ
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図7 炉心上部のリングヘッダーイメージ
4.2 補機系領域移行前の放射化窒素減衰案
図 6からブランケットなどの炉内機器からの冷却水は炉心上部のリングヘッダーで統合され、その後に熱交換器などが設置される補機系建屋へ移動する。ここで、核および流動解析の結果、リングヘッダー統合後の補機系建屋入口での窒素濃度は 16N:8.27 (GBq/cm3 /ring header)、17N:2.76 × 10-4 (GBq/cm3 /ring header)である。このような高い線源強度の放射化した冷却水が補機系内へ移行する前に減衰する手法として、トカマク上部での冷却配管周回数を増やすことを検討している。図 7に 1周分の冷却配管を追加したイメージを示す。予備解析の結果、冷却配管の周回数を 1から 3周分と増加すると補機系での放射能濃度は 27%(1周追加)、7%(2周追加)、及び 2%(3周追加)と減衰し、仮にトカマク上部に 3周分の滞留時間を追加できれば、比較的容易に補機系エリア内の機器健全性を確保できる。他方、トカマク上部での周回数増加に伴う保水量の増加は、安全性における最終障壁(建屋)防護に懸念が残る。現在の設計ではガードパイプの適応を考えており、設計の合理性なども含めて設計検討を進めている。
5.まとめ
核融合原型炉の炉内機器である増殖ブランケットとダイバータは、 ITERよりも更に高い中性子損傷を受けるため数年毎の定期的な交換が必要になり、炉内の放射化レベルが高いことから ITER以上に厳しい高線量下での作業が必要な点が課題であった。この課題に対し、交換機器後方にポート遮蔽体を設置し、保守用ポート内の線量率を ITERよりも低線量(~ 0.1 Gy/h)に抑えると共に、繊細な作業が要求される接続配管の切断・再溶接点をこのポート内に集約することで、原型炉機器の接続配管における切断・再溶接に見通しを得た。但し、機器交換に伴うガンマ線ストリーミングによる保守用ポート内の線量率増加は課題であり、引き続き、遠隔装置の線量影響に配慮した設計検討が必要である。また、冷却水の放射化に伴い一次冷却系など広範囲に高線量率のエリアが拡大し、プラント主要機器などの放射線防護が保全の重要な課題であった。 3次元核解析と流動解析の結果、炉心付近に設置する緊急時遮断弁の寿命が 7年程度であり、当該弁の交換を含めた保守・保全シナリオを構築することにより健全性を確保する必要がある。また、補機系エリアにおける水の放射化影響低減のためにトカマク上部にて冷却配管を周回することを考えており、設計の合理性なども含めて検討を進める。
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(2020年 5月 25日)
著者紹介
著者:染谷洋二所属:量子科学技術研究開発機構六ヶ所核融合研究所専門分野:中性子工学