特集記事 「核融合エネルギー開発の現状」(7)核融合炉の規格基準整備に向けた活動状況

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特集記事「核融合エネルギー開発の現状」(7)核融合炉の規格基準整備に向けた活動状況
特集記事 「核融合エネルギー開発の現状」(7)核融合炉の規格基準整備に向けた活動状況
量子科学技術研究開発機構 那珂核融合研究所
角舘 聡 Satoshi KAKUDATE
1.はじめに
核融合原型炉 [1]における炉構造・遠隔保守機器の概念設計が原型炉研究開発ロードマップやアクションプランに従って進められており、 ITERが運転開始予定の 2025年頃に概念設計の妥当性を確認する C&Rが実施される。規格基準の策定作業は 2025年以降に段階的に進める計画であるが、構造技術基準の骨格となる構造上の特徴、負荷荷重の特徴、要求される信頼レベルなどの技術項目を整理し、本格的な規格基準の検討がスムーズに進むように概念設計の段階から規格基準整備のための準備活動を実施していく。
核融合原型炉を構成する真空容器や超伝導コイル構造、ブランケットなどの機器の構造健全性を確保するために規格基準は構成機器ごとに材料、設計、製作、試験・検査および運転、維持・保守、廃止までの各段階を 1つのパッケージとして規定する体系とする、いわゆるシステム化規格の考え方に従う方針である [2]。
本報では、量子科学技術研究開発機構(QST)が実施している日本機械学会( JSME)核融合設備規格における規格の策定活動の現状と、今後の規格基準整備の計画について報告する。
2. 構造技術基準の整備状況
核融合設備( ITERや原型炉が構成する機器)の構造技術基準の策定・整備を目的に、 JSME発電用設備規格委員会の下に核融合専門委員会が 2002年 7月に設置され、産学官から構成される専門家により核融合設備の構造技術基準に関する協議や規格化を行ってきた。
図 1に現在の JSME発電用設備規格委員会の構成概要を示す。核融合専門委員会設立当初は、下部組織として品質保守・材料分科会、設計・交換技術分科会、溶接・接合・検査分科会の 3つの分科会が置かれていたが、現


図 2 「核融合設備規格 超伝導マグネット構造規格(2017 年版)」の概要
図1 JSME発電用設備規格委員会

在は統廃合により、金属製および非金属製の機器に関する技術課題や規格基準案などを協議する分科会として、それぞれ金属構造物分科会と非金属構造物分科会を設置している。
核融合専門委員会では、これまで 2008年に世界初の核融合設備規格として「核融合設備規格 超伝導マグネット構造規格」が英語版とともに品質保証、材料、設計、製作、非破壊試験、耐圧・漏れ試験からなる規格基準として発行された。次いで、超伝導 TFコイル構造の一部であるラジアルプレートの製作に適用することを想定し、熱間当方加圧(HIP: Hot Isostatic Pressing)拡散接合技術を追加し、図 2に示す条項から構成された 2017年版が 2019年 8月に発行された [3]。本超伝導 TFマグネット構造規格の [材料」、「設計」、「製作」に関わる技術の詳細は参考文献 [4]から [8]を参照されたい。
また、核融合設備で使用される中性粒子入射( NBI: Neutral Beam Injector)装置用絶縁構造体構造規格(NBI絶縁構造体規格)が JSME発電用設備規格委員会 核融合専門委員会及び非金属構造物分科会にて規格化に向けた審議を継続中である。
NBI装置はプラズマの加熱・電流駆動などを行う装置であり、絶縁構造体は NBI装置を構成する高電圧ブッシングの一部である。この高電圧ブッシングはセラミック管(内側)と、異方性材料であるガラス繊維強化プラスチック(GFRP)製の管(外側)を組み合わせた二重同軸管となっており、二重壁の真空容器と同様に高真空と放射性物質の閉じ込め境界の機能が要求される [9]。
NBI絶縁構造体規格は GFRP管を対象にした構造規格であり材料、設計、製造、試験からなる規格案を ASME section X[10]などを参考に、脆性材である GFRPを構成部品にする高圧ブッシングの構造健全性を確保するために規格化するものである。審議状況については、 JSME発電設備規格委員会のホームページを参照されたい。
3.今後の規格基準の整備計画
JSME核融合専門委員会金属構造物分科会では、これまで進めきた超伝導マグネット構造規格の改定活動は、

図3 核融合原型炉の構成機器
特集記事「核融合エネルギー開発の現状」(7)核融合炉の規格基準整備に向けた活動状況
HIP拡散接合技術を加えた最新版の規格化を終了した。今後、 JSMEの規格基準策定活動の主体は核融合原型炉の規格基準の整備に向けた活動とし、核融合原型炉の「安全要件」、「核融合設備の共用状態における負荷条件と設計区分」などの設計条件を段階的に整理し、参考文献 [2]に基づいて、規格基準の枠組みを整備する予定である。
核融合原型炉を構成する機器は放射性物質を内蔵する機器や事故時の影響緩和のための機器等安全に関するもの、および安全には関与しないが圧力境界をなすものに区別される。核融合原型炉の基準案は機器ごとに、それらの信頼性確保に関わる材料、設計、製作・検査、維持、保守・交換に関する要求を規定する。
このため、最初に、核融合原型炉の主な機器構成や機能、安全要求(主に閉じ込め機能)についてまとめ、次に、主要な機器について規格基準の整備に向けた活動を、最後に、核融合原型炉を構成する機器の保守保全に関する活動示す。
3.1 核融合原型炉の主な構成機器
図 3に核融合原型炉の主要機器を示す。これらの機器の運転上および安全上の主な機能は以下のようにまとめられる。
1)真空容器(二重壁)
・プラズマ運転に必要な高真空の維持
・プラズマ電流立ち上げに必要なトロイダル一周抵抗
の確保

・電磁力に耐える機械的強度の確保
・超伝導コイルを保護する放射線遮蔽の確保
・バックプレートの支持、位置決めを保証するための
形状精度

・燃料となるトリチウムや放射化ダストを閉じ込める
隔壁を形成

2)真空容器内機器
2-1)ブランケットモジュール
・熱の取り出し
・燃料となるトリチウムの生産
2-2)バックプレート
・ブランケットモジュールが受ける電磁力の支持、位
置決めを保証する形状精度

・超伝導コイルや真空容器を保護する放射線遮蔽の確

2-3)ダイバータ
・磁力線に巻き付いて入射する粒子による高い熱負荷
の徐熱
・超伝導コイルや真空容器を保護する放射線遮蔽の確保
3) ブランケットモジュール、バックプレート、ダイバー
タの冷却配管・高温、高圧に耐える機械的強度の確保・トリチウムや腐食生成物の閉じ込め

4) 超伝導 TFコイル構造体

・放射性物質を内蔵する機器ではないが真空容器に有意な影響を与えないことを極低温下における強度として期待される。

核融合原型炉を構成する機器は要求される安全機能や運転上の機能、負荷条件(中性子負荷、高温 /極低温、電磁力など)を満足するように構造健全性を確保し、プラントの安全で継続的な運転を維持することが必要である。
構造健全性の確保とは、核融合原型炉の構成機器である真空容器、ブランモジュール、ダイバータなどの機器ごとに品質保証を含めて、材料、設計、製作、試験・検査、維持の各段階を 1つのパッケージとして規定し、全ての段階で、技術の信頼性を評価 /確認することによって保証する。例えば、設計では、各供用状態でどのような荷重が作用するのかを考慮し、表 1に示すように想定される破損様式である延性破損、疲労破損、クリープ破損、座屈破損、脆性破損に対して、発生する応力を適切に評価する必要がある [11][12][13]。

3.2 規格基準の整備に向けた活動
規格基準は先に述べたようにシステム化規格の考え方に基づき、品質管理を含め、材料、設計、製作、試験検査、運転・維持、保守交換について、機器の構造健全性に関わる全段階を 1つのパッケージとして規定する方針である。このため、核融合原型炉の運転上および安全上の機能や荷重条件を考慮した概念設計において課題となる技術項目をピックアップし、課題解決のための検討作業に着手した。ここでは、紙面の都合から、安全区分や荷重条件、基本構造について基本的な枠組みを検討中である真空容器内機器(ブランケット、ダイバータ、バックプレート)は割愛する。参考文献 [14]を参考にされたい。本項では、閉じ込め機能を要求される最も重要な機器である真空容器、および、閉じ込め機能は要求されないが安全機器である真空容器に影響を及ぼさないような設計が要求される超伝導 TFコイル構造、高温耐圧機器である冷却配管について、主な技術課題と課題解決の取り組みを以下に示す。なお、課題解決された技術は最終的にはシステム化規格の中に組み込み 1つのパッケージとして全体の整合が取れるように規格基準を整備していく。
表1 想定される損傷モード [11][13]
1)真空容器構造
放射性物質の閉じ込め境界となる最も重要な機器の一つであり、 3.1項1)の機能を満足するような構造設計が要求される。特に、リブ付 2重壁構造、遮蔽体内蔵型とするため、特殊な溶接構造を採用せざるを得ない。構造設計基準を構築する上では、以下に示す技術課題について最新の溶接施工技術や非破壊検査技術、 Plastic analysisの評価手法 [15]などを参考に課題解決の検討を進める。
・複雑な 3次元構造物の取り扱い
・電磁力の取り扱い
・特殊な接手の取り扱い
・片側からの非破壊検査

2)超伝導 TFコイル構造
核融合原型炉では極低温(約4K)下で十分な強度および靭性を有する新規材料の開発が必要である。このため、規格化を見据え、既存鋼種である XM19などの化学成分の一つである N量を変化させて強度との関係を調査する小規模試作(小溶解材 50kg程度)試験を短期的な取り組みとして実施し、新規材料の候補を絞り込むことによって、中長期の開発計画を策定する予定である。この新規材料の目標値は 0.2%耐力( 4K)を 1200 MPa以上、4K破壊靭性値(KIC(J))を 200 MPa √ m以上としている [15]。また、中長期的には、小溶解試作試験で詳細化した開発計画に基づいて、溶接性の確認や産業規模 (>10トン )の試作と機械的試験を実施し、最終的には、既に規格として発行済みの「核融合設備規格 超伝導マグネット構造規格」に開発した新規材料を登録し、規格化する予定である。なお、新規材料として規格に登録するためには、図 2に示す APPENDIX 23 新規材料採用ガイドラインに従って、化学成分、マクロおよびミクロ組織、機械的性質、溶接接手に関する試験データなどの技術資料を準備し、 JSME発電用設備規格委員会へ審議要求する必要がある。
3)冷却配管の溶接・検査
ブランケット用冷却配管は表 2に示すとおり高温高圧に耐える機能と、 3.1項 3)の機能を満足することが要求される。これらの配管はブランケットを交換するために 3年から 4年程度の頻度で遠隔保守機器(ロボット)により肉厚 28.6mm、160本の配管の切断、溶接・検査が真空容器内の放射線環境下で行われる。このため、ロボットを利用した冷却配管溶接・検査技術の課題は以下に示すとおりであり、要素試験を進めながら規格基準の根拠となるデータを整理し、冷却配管溶接部の技術基準を整備する。
・溶接の標準溶接条件(レーザパワー、アシストガス
流量、溶接速度、フィラー材料)の特定
・溶接中のレーザスポット位置と溶融金属との位置関
係を把握するモニタリング技術の確立
・最新の非破壊検査技術(超音波探傷試験)を取り入れ
た検査手法の確立
表2 冷却配管の仕様


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3.3 核融合原型炉を構成する機器の保守保全
実用に供しうる稼働率がアクションプランで求められている。稼働率を向上させるためには遠隔保守機器による保守時間の合理化だけでなく、運転中の構成機器の構造健全性を維持する取り組みも重要である。
核融合原型炉プラントの安全で継続的な運転を維持するための保守保全の考え方を既存の規格 [16]を参考に整理するとともに、供用中検査への確率論的破壊力学(PFM: Probabilistic Fracture Mechanics)[17]の適用性検討などを実施し、維持規格の骨格をまとめる。
4.まとめ
核融合原型炉構造設計規格基準の策定活動は 2025年頃から R&Dと伴に本格的に開始される予定であるが、規格策定には時間がかかること、規格の枠組み策定のためにはある程度の工学設計が必要であることから、前倒しで検討し、 JSME核融合専門委員会や金属構造物分科会にて核融合原型炉の主要な機器について本稿で取り上げた課題を協議し、機器の概念設計に基づいて構造設計規格開発を段階的に取り纏める予定である。


参考文献
[1] K.Tobita et al. : "Japan's E.orts to Develop the Concept of JA DEMO During the Past Decade", FUSIN SCIENCE AND TECHNOLOGY, Vol.75, PP372_383(2019)
[2] 多田栄介、羽田一彦、丸尾毅 :"ITERの安全性と構造健全性確保について",J. Plasma Fusion Res, vol78,No.11, PP1145-1156(2002)
[3] 日本機械学会 核融合設備規格 "超伝導マグネット構造規格(2017年版)"JSME S KA1-2017
[4] 中嶋秀夫,島本進,他 :"核融合炉'ITER'の超伝導コイル用極低温構造物",低温工学, 48巻 10号, pp508-516(2013)
[5] 中嶋秀夫 :"核融合装置のトロイダル磁場コイル用極低温構造材料の機械的性質と材料規格",低温工学, 54巻 6号,pp427-436(2019)

[6] 西村新,中嶋秀夫 :"核融合炉用超伝導マグネット構造の構造材料規格の開発",機械学会論文集 (A編 ),78巻 780号 , PP804-807(2012)
[7] 西本健太 :"JJ1鋼核融合炉超伝導コイルケース用部材",低温工学,54巻 6号,pp445-451(2019)
[8] 井口将秀ら :"熱間等方加圧拡散接合処理による粗粒化が FM316LNH接手及び母材の極低温引張及び疲労特性に与える影響",低温工学, 54巻 6号,pp477-484(2019)
[9] 特集  ITER工学設計,プラズマ・核融合学会, Vol.78,第 6章,pp64_75(2002)
[10] ASME Section X, "FIBER-REINFORCED PLASTIC PRESSURE VESSEL", 2015 ASME Boiler & Pressure Vessel Code
[11] "原子力プラントの健全性評価に関する講習会(テキスト)",(社)日本溶接協会,2019
[12] 日本機械学会 発電用原子力設備規格 "設計・建設規格(2016年版)" JSME S NC1-2016
[13] 原子炉構造工学、オーム社
[14] 原型炉設計合同特別チーム 2015年度 年次報告, QST-R-3

[15] 原型炉超伝導コイルワーキング報告書,原型炉特別チーム,QST-M-18
[16] 朝田誠二ら:"機械学会設計・建設規格事例規格における弾塑性有限要素解析を用いたクラス1容器に対する強度評価",日本機械学会論文集( A編), 74巻 748号,pp1485_1491(2008)
[17] 日本機械学会 発電用原子力設備規格 "維持規格" JSME S NA1-20176
[18] 吉村忍、関東康祐、"リスク活用のための確率論的破

壊力学技術(基礎と応用)"、(社 )日本溶接協会 ,2017(2020年 6月 2日)

著者紹介 
著者:角舘 聡所属:量子科学技術研究開発機構専門分野:遠隔保守技術

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