特集記事 「核融合エネルギー開発の現状」(8)世界各国の核融合炉開発の動向
公開日:特集記事 「核融合エネルギー開発の現状」(8)世界各国の核融合炉開発の動向
東北大学 大学院工学研究科
飛田 健次 Kenji TOBITA
1.はじめに
現在の核融合開発の中核プロジェクトである ITERの目的は、核融合エネルギーの科学的、技術的実現性を確立することであり、その建設段階には( 1)核融合炉に特有の機器の製作技術やシステム全体の統合技術を蓄積し、運転段階には (2)実際の核融合燃料(重水素 .トリチウム)を用いて燃焼プラズマの制御及び炉工学の基盤技術を確立することを目指す。しかし、 ITERでは核融合エネルギーは発生させるが発電までは行わないことから、ITER参加極の多くは、次段階の DEMO炉(日本の原型炉と同義であるが、本稿では DEMO炉で統一する)で発電実証を行うべく、各極が独自に DEMO炉開発計画を練り核融合開発に取り組んでいる。ここで、 DEMO炉とは、 (1)核融合エネルギーによる発電、 (2) トリチウム燃料の自足自給、 (3)実用段階を見通しうる稼働率を実証する炉の通称である。 DEMO炉の役割については各国がほぼ同じ認識であるにもかかわらず ITERのように国際協力で一つの DEMO炉を建設する機運が高まらないのには、設計諸元などの具体的目標の相違、想定する炉工学技術の相違、実用段階における特許の問題など幾つかの理由がある。
本稿では、 ITER以降の核融合開発について諸外国の考え方や開発の状況について概説する。
2.ITER以降の各国の核融合炉計画
2.1 EU
ITERのホスト国である EUの ITERへの投資額は参加極の中で最大であり、総コストに占めるコスト分担は建設期が約 45%、運転期が 34%に上る。このことから、 EUは DEMO炉に向けた開発ロードマップをいち早く取りまとめ [1]、ITERの技術基盤を活用して核融合発電につなげる開発計画を練ってきた。
EUの DEMO炉の最新のスケジュールは、表 1のとおりであり、 ITERの建設と並行して DEMO炉の概念設計を進め、ITERのファーストプラズマ(運転開始 , 2025年の予定)の後から工学設計活動に着手して DEMO炉実現のための本格的な技術・機器開発を実施し、 2035年以降に予定されている ITERの本格的な核融合燃焼実験の結果をみて 2038年に DEMO炉の建設判断を行う計画である [2]。
EUは日欧共同事業である幅広いアプローチ活動において DEMO炉に向けた研究開発に日本と共同で取り組んでいることから、 DEMO炉に向けた課題を共有しており、その役割や開発スケジュールは日本の計画に近い。
しかしながら、日本と EUが同一の DEMO炉を目指さないのは、開発戦略上の相違点があるからである。日本は古くから連続運転の可能な定常炉を目指し、 DEMO炉の要となる燃料増殖ブランケットは水冷却固体増殖方式をベースにすることが開発方針になっている [3]。こ
れに対し EUは ITERの延長上のプラズマ運転技術を想定して 1時間程度のパルス(間欠)運転の可能な DEMO炉を主案としており、増殖ブランケットについても 1)
ヘリウムガス冷却固体増殖方式、または 2) 水冷却液体増殖方式を想定しており、この結果、炉の寸法( EU炉がやや大)や炉構造に日欧間で相違がある。
表1 EU のDEMO 炉の開発計画
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2.2 中国
中国で核融合開発が本格化したのは 1980年代で、日米欧露からは大きな遅れをとっていたが、 ITERへの参加を契機として自力をつけつつある。核融合エネルギー開発に向けた中国のロードマップを図 1に示す。 ITERに続く次期装置は中国工学試験炉 CFETRである。この炉の計画は 2段階に分かれていおり、それぞれの主目標は以下のとおりである。
1)CFETRフェーズ I: 2030年代に運転開始.低パワー(核融合出力 200 MW)で連続運転技術を確立
2)CFETRフェーズ II: 2040年代に運転開始.核融合出力 1 GW以上で運転し、DEMO炉の基盤技術を試験。
図1 中国の核融合エネルギー開発ロードマップ [4]
フェーズ Iの出力は ITERより小規模であるが、 ITERでは運転後期に計画されている長時間運転( 3,000秒)よりもいち早く連続運転技術を確立するところに主眼がある。フェーズ IIでは核融合出力を増大させ、高熱負荷、高中性子照射環境下で炉内機器の試験を行う必要がある。このため、 CFETR フェーズ IIでは、フェーズ Iよりも大きい新規の炉を建設することになる。このような 2段階のプロジェクトになったことで、当初、工学試験炉と呼んでいた CFETRの位置づけは変化し、最近では「CFETRは中国の DEMO炉」と明言している。CFETRでの実証試験の後は、 2050年以降には電気出力 1 GW級の核融合実用炉を建設する計画である。
CFETRの概念設計は 2017年に完了し、現在は建設判断に向けて工学設計活動を実施中である。 CFETR工学設計のために 1000億円規模の予算で、 2025年を目処に工学設計と、核融合に特有の機器(超伝導コイル、遠隔保守、ダイバータ、増殖ブランケットなど)を開発するための R&D施設の整備を完了する計画である。 CFETR計画には、中国内の大学( 42大学)、研究機関、民間会社などが全面的に協力しており、900名を超える研究者、技術者、学生が設計や R&Dに参画している。中国の若手研究者、技術者や学生は核融合は将来性のある分野と見て人材の流れが核融合に向かっており、圧倒的な人的資源が中国の研究の原動力となっている。このように、人的資源と資金力を背景に中国の存在はポスト ITERへの取組において際立っており、今後の中国の動向は他の国の DEMO炉計画へも影響を及ぼすであろう。
2.3 米国
核融合エネルギー実用化の最後のステップは DEMO炉というのが国際的な共通認識であるが、図 2に示すように、米国には現在 3つのアプローチの提案があり、主案は確定していない。 Pathway I及び IIは厳しい中性子照射と表面熱負荷に晒される炉内機器の技術開発を ITERよりも小型の装置( FNSF, Fusion Nuclear Science Facility)で行うとともに、数十年来、米国が目指してきた経済性の高いプラズマ運転に小型装置で挑戦しその技術基盤に基づいて DEMO炉に進む構想である。この FNSFを ITERと同方式のトカマクとするのが Pathway I
[5]、超小型の球状トカマク方式(ST, Spherical Tokamak)とするのが Pathway IIである [6]。これに対し、米国科学アカデミー戦略アプローチ分科会は、核融合エネルギーの実用化を急ぎ開発コストを抑制するため、 ITERと実用炉の間を DEMO炉のワンステップでつなぐことを提言しているが( Pathway III)[7]、開発戦略は未だ決着しておらず、議論が継続中である。
図2 米国の核融合実用化アプローチ案
2.4
韓国
韓国は 2037年までに DEMO炉を建設することを目指し 2012年から K-DEMO [8]の概念設計を開始した。炉工学技術の開発を先送りして、 K-DEMO運転フェーズの前半( 2037-2050年)は炉内機器の試験にあて、その技術に基づいて炉を改修し、後半の運転フェーズで発電実証を目指す計画である。
2.5
ロシア
ロシアの計画は他国とは一線を画し、 10年以上にわたり核融合 -核分裂ハイブリッド方式の核融合炉の設計を進めてきた。炉心となるプラズマ性能は現状の技術で対応可能であり、核融合反応の出力は 40 MWと小規模ながら炉内にウランを搭載したブランケットを装着してその 10倍の熱出力を得る構想である [9]。ブランケットで増倍される中性子束を利用して DEMO炉につながる炉内機器の照射試験を行うことを目指す。
3.終わりに
世界各国の ITER以降の核融合エネルギー開発計画と進捗状況を紹介した。各国とも今世紀中頃に核融合の実用化を視野に入れたロードマップを定め、 DEMO炉やそれに繋がる試験装置の設計や技術開発が始まっている。現段階では、これらの DEMO炉構想は各国独自のものとなっているが、ある時点で一部では国際協力による DEMO炉の統合化が進むことも想定しうる。
設計や技術開発とともに留意しなければない視点として、機器の複雑さとそれに伴う建設工期の問題がある。 ITERの場合、機器製作が国際分担による現物調達システムを採用して手続きが複雑になっている側面はあるものの、2007年に建設開始、建設完了見込みが 2025年と、実に 20年弱に及ぶ建設期間を要している。昨今の核融合ベンチャーの登場も、核融合炉が大がかりになって実現までの道のりが遠のいているところに一因があろう。 DEMO炉では建設コストの合理化と工期短縮、本質的には求められることが考えられ、保守を見越したシステムの単純化も今後の重要な開発課題となるだろう。また、核融合炉の起動において必要となる初期装荷トリチウムや核融合炉の機器製作において必要となる鉱物資源(リチウム、ベリリウム、タングステン、ニオビウムなど)については核融合 DEMO炉時代を支えるほどの供給力が確保されていないのが実状である。日本では、量研機構が中心になって DEMO炉に向けたリチウムやベリリウム資源の確保に向けた取組を始めており、一層の進展を期待したいところである。
参考文献
[1] F. Romanelli:"Fusion electricity, a roadmap to the realization of fusion energy", European Fusion Development Agreement", EFDA . Nov. 2012ISBN 978-3-00-040720-8
[2] G. Federici:"Progress and updates on DEMO design activities in Europe", American Nuclear Society Fusion Energy Division June 2018 Newsletter. http://fed.ans.org/ wp-content/uploads/2018/06/June-2018-Newsletter.pdf
[3] 原子力委員会核融合専門部会 :"今後の核融合研究開発の推進方策について", (平成 17年 10月 ). http:// www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/kakuyugo2/siryo/kettei/ houkoku051026/index.htm
[4] Yuanxi Wan et al.: "Overview of the present progress and activities on the CFETR", Nuclear Fusion, Vol.57, 102009 (17pp) (2007)
[5] C.E. Kessel et al.: "Overview of the fusion nuclear science facility, a credible break-in step on the path to fusion energy", Fusion Eng. Design, Vol.135, 236-270 (2018)
[6] J.E. Menard et al.: "Fusion nuclear science facilities and pilot plants based on the spherical tokamak", Nuclear Fusion, Vol.56, 106023 (43pp) (2016)
[7] NAS Board on Physics and Astronomy: "Final Report of the Committee on a strategic plan for U.S. burning plasma research", The National Academic Press (2019)
[8] K. Kim et al.: "Design concept of K-DEMO for near-term implementation", Nuclear Fusion, Vol.55, 053027 (9pp) (2015)
[9] B.V. Kuteev et al.: "Status of DEMO-FNS development",
Nuclear Fusion, Vol.57, 076039 (8pp) (2015)(2020年 5月 24日)
著者紹介
著者:飛田健次所属:東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻専門分野:核融合炉システム