特集記事「発電プラントや送電設備における IoT技術とビッグデータの活用」
公開日:特集記事「発電プラントや送電設備における IoT技術とビッグデータの活用」
東北大学高木 敏行 Toshiyuki TAKAGI
これまでの発電事業は、電力事業者によって長年の経験を生かして運転や保全が進められてきた。きめ細やかな配慮によってこれまで安全に運営されてきている。しかしながら、そこで得られた知識や運転は暗黙知であったという反省がある。このために技術者の高齢化に伴う技術継承の困難さがあった。さらに、運転や保全の高度化や効率化には定量化と最適化が必要であるが、経験知では定量化が困難である。電力自由化の中で電力事業者は競争的環境下に置かれているが、効率的な事業運営には暗黙知の定量化が必要であると認識されている。
最近では、センサーやアクチュエータの高度化と IoT化により大量データの取得が可能となってきた。さらに、ビッグデータに対するデータ取り扱い技術や AI技術によりそのビッグデータから形式知を得ることが可能になってきている。これにより、データ駆動型の運転や保全が可能になるところまで来た。
さて、発電プラントや送電設備において、 IoT技術やビッグデータを活用することで運転や保全の高度化を考えるとき、以下のような課題があるとされている [1,2]。
1)これまでにも多くのデータが取得されているが、データ間の連携方法やデータの処理方法が不明である。また、アナログなデータ多くあり、デジタル化が困難である。
2)従来の技術では近づくことさえ不可能な設備や機器があり、データを取得することが困難である。
3)取得したデータを共有することに対する危惧があり、知的財産情報やノウハウが流出する可能性がある。
4)そもそもが、 IoT技術やビッグデータ活用のメリットが不明である。何から初めて良いかがわからない。
今回の特集号では、上記のような課題に対して、先進的な取り組みを紹介する。最初の記事では、火力発電所の操業により蓄積した知見と、それに加えて、最新のデジタル技術を用いて、データアナライジングセンターが中心となって保全を維持する取り組みについて紹介する。加えて、保全の現場での複数の設備での寿命評価やトラブルの予兆検知の実例について報告する。
次に、火力発電プラントの状態監視をするために、制御機器や監視システムで取得した時系列データに対してビッグデータ解析技術であるインバリアント分析技術を適用した例について述べる。
さらに、レーザースキャン法と新たに開発した飛行制御用モジュールを用いることで、近接目視が困難な設備に対しても適用を可能としたドローンの試作とその動作の検証について紹介する。
最後に、電力設備保守運用の高度化や点検業務効率化のためにデジタル技術がどのように利用できるかという観点から、送電線点検ドローン、無線技術を用いた情報伝送システム、ディープラーニングを用いたメータ読み取り技術の高度化について紹介する。
IoT化やビッグデータの活用が進むことでプラントの高度化が進み、効率が向上することはもちろんのこと安全性も高まっていくものと考えます。発電プラントや送電設備などがデータ駆動型技術の活用によりその運転や保全が高度化していくことを期待しています。
参考文献
[1]"データの活用等による火力発電所の事業運営の効率化に向けた手引き案", https://www.nedo.go.jp/library/ ZZIT_00008.html.
[2]"発電設備における AI & IoTの導入・開発状況と課題", https://eneken.ieej.or.jp/data/8680.pdf.
(2020年 8月 27日 )
著者紹介
著者:高木 敏行
所属:東北大学専門分野:非破壊材料評価/機能性材料システム/保全学