特集記事「保全の維持を目指して【第一編】保全を維持する取り組み」
公開日:特集記事「保全の維持を目指して【第一編】保全を維持する取り組み」
(株)JERA 黒岩 智樹 Tomoki KUROIWA, 佐藤 尚史 Takashi SATO, 松田 茂弘 Shigehiro MATSUDA
1.はじめに
エネルギー事業を取り巻く環境が大きく変化を続ける中、(株)JERAは燃料の上流調達から発電、電力・ガスの販売に至る一連のバリューチェーンを確立し事業開発、燃料調達電力販売、発電所運営にそれぞれ責任をもつ事業開発本部、最適化本部、 O&M・エンジニアリング本部の3本部制を敷きグローバルに役割を果たす企業を目指している。
その中において O&M・エンジニアリング本部では、これまでの発電所操業を通じて培った知見をベースに、様々な取組を通じて柔軟かつ機動的な発電所運営を実現している。加えてデジタル技術を用いた遠隔監視やビッグデータを活用した予兆管理の導入などを進め、世界トップクラスの O&M・エンジニアリングサービス "JERA O&M Way"を内外に提供していく。
本稿では O&M・エンジニアリング本部 東日本 O&M・エンジニアリング技術部(以下東技術部)における保全を維持する取り組みについて、概要及びその具体的実例について紹介する。
2.取り組み概要
2.1 取り組みの構図
東技術部はデータアナライジングセンター( DAC)、設備技術センター( EC)、土木・建築センター( doken)の3つのセンターから成り立っている。元東京電力や海外などの火力発電プラントにおいて、 DACが予兆監視分析評価業務を行っており、エンジニアリングにおいては ECが主に機械、電気設備の技術主管を、dokenが土木・建築設備の技術主管を担っている。
図1に東技術部内3センター連携の概念図を示す。3つのセンターは組織的連携をはかっており、蓄積したビックデータを用いて DACアナリストが経験知を活用してユニット通常運転時の予測値を作成し、発電所からリアルタイムで送られてくるセンシングデータとの自動比較を行い、その偏差を機能低下として検知している。検知で捉えたある設備状態に対し、 EC・dokenのエンジニアと共に、設備状態を正確に把握し、過去の関係する経験知の抽出を行う。その後エンジニアは保全を維持する取り組み(事実確認、真因究明、再発防止、基準への反映)において、そのアウトプットを DACアナリストへ返していく。 DACアナリストはその結果を形式知化し、自らの更なる予測値精度向上に努めている。このサイクルを絶え間なく繰り返すことで、我々は常に"カイゼン"し、保全を維持することに努めている。
図1 カイゼン力/技術力/デジタル化 の掛け合わせ(東技術部内連携)
このカイゼンは、自社設備の稼働率・性能維持につながるのはもちろんのこと、海外プラントなどへのサービスの充実にもつながっている。このカイゼンはサービス品質の安定化に貢献し、サービス基盤がより強固になり、我々の O&Mの提供の広がりにつながっていく。
データの連携により DACはお客さまとの接点となり、 EC・dokenはサービスレベルを高める役目を果たしている。
2.2保全を維持するということ
本項では、東技術部内の"カイゼン力"である、保全を維持する取り組みについてふれる。私たちが定義する保全とは不具合が起こらない状態のことであり、それを永続させるため設備が最適な状態であり続けることを目指している。最適な状態とは、発電プラントを構成するそれぞれの設備が、その役割に応じた機能を最大限最適に発揮できる状態と言いかえることもできる。
図2に私たちが徹底する保全サイクルを示す。左側は設備不具合が起こっていない、または潜在化しているループである。この場合、設備状態把握を行い機能低下を検知し、設備に手をかける行為の絶え間ない磨き込みを行っており、その結果は社内で規定された媒体に反映し、同様な機能低下については将来において誰でも同様な行動をとり保全を維持することを徹底する。
図2 保全サイクル
意に反して設備不具合が発生してしまった場合には、右側のサイクルに移行する。不具合が発生してしまった場合には、まず不具合現象の事実確認を行う。現場・現物・現実をあらゆる手段で把握し、原理・原則から知恵を絞って真因究明を行っていく。設備が機能を発揮するための仕組み(原理)と条件(原則)を理解して、真の原因(真因)を突き止める。不具合部品を修理、現状復旧しただけでは不具合の真因が潜伏したままとなり、後に不具合が再発してしまうため、真因を突き止め、それを取り除くことが重要でこの一連のプロセスが再発防止を徹底するポイントと考えている。またこのサイクルにおける結果も規定された媒体へ反映していく。不具合は起こしてはならないことだが、その経験は自社の知見として蓄積し保全を維持することを徹底することにつなげる。
不具合については以下のように考えている。図3に不具合発生の概念図を示す。機器の機能低下が進行すると不具合状態として水面上に現れてくる。機能を最大限最適に発揮できる状態であり続けることとは不具合が発生する直前に機能低下の進行を止めることである。
図3 不具合発生概念図
不具合未然防止について少し具体的にふれる。図4は時間経過と設備状態の関係性を示している。設備に手をかける行為により設備の機能は回復するが、また時間と共に機能低下していく。あらかじめ設備の機能低下速度を運転データだけで定量的に把握できれば、設備の寿命直前に手をかける事で過剰とならず、コストミニマムに保全を維持することができる。私たちは左側のループの中でこの機能低下速度の定量把握を目指している。
図4 保全行為と状態把握行為
しかし、あらかじめ機能低下速度を把握できていない設備も存在する。これらについては、状態把握を行い機能低下を把握する。状態把握については、人間による記録や運転データ、特設の計測機器などで得られる情報を複合することにより為されるが、設備不具合が潜在化し始めている、つまり機能低下している状態を把握して排除することが重要である。
今まで把握することが困難であった機能低下をより早期にみつけることが DACの存在意義である。次項ではこの DACの取り組みについて述べていく。
2.3保全の維持における予兆監視
DAC(図5)では、社内外の発電プラントの運転データをクラウドへ集中化し、様々な取り組みを行っている。その一つが予兆監視であり、予兆監視業務は、主に「①検知」、「②分析評価」、「③真因究明」、「④再発防止」、「⑤経験知の形式知化」、のプロセスにて実行され(図 1)、このプロセスの概要は「 2.1 取り組みの構図」で述べた通りである。ここでは「①検知」について詳細に述べる。
図5 DAC
DACアナリストは、クラウド上に蓄積したビッグデータ(運転データ)を用いて、正常時の運転データを教師データとして機械学習させ、本来あるべき運転値を示す予測値をリアルタイムで算出し、それと発電所からリアルタイムで送られてくる実測値を常に比較し、これら予測値と実測値の偏差を常時確認し、その偏差が設定された閾値を超過した場合に警報を発生させる異常予兆検知システムを用いている(図6)。
図6 予兆検知システム
従来は、設備に不具合が発生した場合、固定された警報設定値に実測値が到達するまで、設備不具合の検知は出来なかったが、このシステムは、運転時の微細な状態変化を早期に捉えることが出来るため、従来よりも早い段階での設備機能低下の検知が可能となった。
これにより、設備不具合による急なプラント停止の回避、運転パラメータ調整による機能低下速度の緩和、発電停止時期の調整、当該部品及び作業人員の事前手配等をすることが出来るようになり、予定外のプラント停止時間の削減に貢献している。また設備機能低下が微少の段階で検知することも可能であるため、メンテナンス費用の削減にも貢献している。
この早期検知を実現する上で重要となるのが、予測値の精度を上げるために、相関関係の強いセンシングデータ群(以下"モデル")を適切に作成することである(図7)。例えば、図に示すように"GT排ガス温度"の予測値を作成する場合、"燃焼温度"だけでは予測精度が非常に低い結果となり実用出来ない。よってこの"燃焼温度"信号に加えて"出力"、"排ガス流量"、"ブレードパス(BP)温度"といった信号を追加すると予測精度が高くなることが分かる。このようにモデルを構成する信号が不十分であったり、不適切な信号を選定してしまうと、正常システムな予測値が作成されなくなってしまい、誤検知が多く発生してしまう。
図7 モデル(例)
3.まとめ
日々、運転データを確認し、その相関関係から設備の機能低下箇所・原因を特定できる DACアナリストの持つ"経験知"がモデル作成において重要な役割を担い、そしてそれがモデルへ反映されることで"形式知"化され、誰もが高いレベルで標準化された予兆監視業務に取り組む仕組みが出来ている。
(2020年 8月 9日)
著者紹介
著者:黒岩 智樹所属:株式会社 JERA O& M・エンジニアリング本部 O& M・エンジニアリング技術部東日本 O& M・エンジニアリング技術部 設備技術センター
著者:佐藤 尚史所属:株式会社 JERA O& M・エンジニアリング本部 O& M・エンジニアリング技術部東日本 O& M・エンジニアリング技術部 データアナライジングセンター
著者:松田 茂弘所属:株式会社 JERA O& M・エンジニアリング本部 O& M・エンジニアリング技術部東日本 O& M・エンジニアリング技術部