特集記事「保全の維持を目指して【第二編】保全の維持を目指す実例」

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特集記事「保全の維持を目指して【第二編】保全の維持を目指す実例」

(株)JERA 尾崎 宏 Hiroshi OZAKI, 阿部 貴秀 Takahide ABE, 佐藤 尚史 Takashi SATO

1.はじめに
第一編では、取り組み概要を紹介したが、ここではその取り組みの実例について紹介することとする。

2.実例紹介
2.1 保全行為の実例
最初に、外壁剥がれの再発防止取り組みについて紹介する。外壁が剥がれた不具合事例を図1に示す。
a. 現状把握
外壁の折版は通常、胴縁と呼ばれる骨組み(溝形鋼)にビス等で固定されており、胴縁は間柱等に中ボルトで固定されている。過去の台風被害では、強風によりビスが外れ外壁が剥がれる不具合は見受けられるが、中ボルトが緩み、胴縁ごと剥がれた不具合は少ないと考えられる。
そこで dokenにおいて現地確認したところ、不具合が発生した箇所は図2に示すように中ボルトが緩んだため胴縁と胴縁受けプレートの間にすき間が生じ汚れていることを確認した。また、それ以外の箇所でも中ボルトの緩みを確認した(図3)。そのため今回の不具合は、なぜ中ボルトに緩みを発生させたのかの真因究明について以下に述べる。
b. 分析評価①
当時の構内で観測された風速記録を図4に示す。地上から高さ 10mのレベルで最大平均風速 13.8m/sを記録している。風向は北北東からであり、これは当該部位の外壁を剥がそうとする風向きであるが、外壁は平均風速 32m/sに耐えられる風荷重で設計しているため、風による影響とは言い難い。
c. 分析評価②
本建屋は石炭を整粒するためクラッシャー機器(図5)を設置しており、建屋の構造体で支えている。建屋との縁を切ってないため、実際、現地で胴縁に触れたところ、この振動が伝わっていることを確認した。
すなわち中ボルトには長年、クラッシャー機器により振動が与えられたことで徐々に緩みが発生し、今回、設計風速よりも小さな風で外壁が胴縁ごと剥がれた可能性が高いと推測される。
d. 実行・標準化
再発ゼロに向け、まずは建屋全体の中ボルトの緩みを点検し、緩みがあればしっかりと固定する。また今後も建屋は使用し続けるため、緩み防止としてダブルナット等の対策を行う。さらに振動している機器がある他の建屋についても中ボルトの状態を把握し、緩んでいれば同様の対策を行う。最後に今回得た経験知を形式知化するため社内で規定された媒体の中から最適な反映先を選択する必要があると考えている。

図1 不具合事例(建屋東面外壁の剥がれ)
図2 胴縁と胴縁受けプレートの間の汚れ
図3 中ボルトの緩み
図4 風速記録
図5 クラッシャー機器

2.2 予兆監視業務の実例
次に、発電機シールリングラブの予兆検知実例を紹介する。
当社火力発電所の発電機の多くは、発電によって発生する発電機内の熱を水素ガスで冷却しているため、その水素ガスが発電機外部へ漏洩しないように、様々な処置が施されている。その一つとして発電機ロータ貫通部からの水素ガス漏洩を防止するために、シールリングという部品が用いられている。このシールリングは、常に発電機ロータと油膜を介して安定状態で接触しているが、シールリングに傷・変形等の損傷が生じると、発電機ロータとの接触が不安定となって発電機ロータ軸受振動が機能低下を示す。図6はその機能低下を検知・分析評価・真因究明・再発防止を講じた事例である。
このシールリングに関する過去のトラブル事例を以下に示す(図7)。この事例は予兆検知システムが導入されていない発電所にて、軸受振動の上昇が続き、結果、シールリング・発電機軸受に損傷を与え、発電機軸受の分解点検時に初めてシールリングの損傷に気付いたものである。
このように、予兆検知システムによる機能低下の早期発見は、メンテナンス費用の削減だけでなく、不具合による予定外停止による稼働率低下の防止につながる。

図6 シールリングラブ予兆検知事例
図7 シールリングラブトラブル実例

2.3オンラインクリープ寿命評価
次にクラウドに集中化されたデータを活用した、ボイラーチューブのオンラインクリープ寿命評価を紹介する。
ボイラーチューブリークの中でもクリープによるチューブリークは、図8に示すような大きな開口となり、リーク量が多量で運転継続が難しくなるとともに、1箇所リークが発生すると類似機能低下箇所が多数あり、リーク箇所のみを修理しても再発するリスクが高い状態となる場合が多い。
ECではクリープによるチューブリークを未然防止するためのクリープ寿命評価手法を長年にわたり磨き込んできた。クリープ寿命は評価部位であるボイラーチューブの「①温度」、「②応力」、「③材料のクリープ強度特性」を用いて評価する。「①温度」は運転データを用い内部流体温度と熱負荷から伝熱計算により求めている。「②応力」は運転データである内部流体圧力とボイラーチューブの外径・肉厚を用いて計算するが、ボイラーチューブ内外面のスケール生成・剥離により肉厚を減少させるモデルで評価を行っている。スケールの生成・剥離特性データは実機長時間使用材料を調査した結果を反映した当社独自のものであり、クリープ寿命評価の高精度化に寄与している。「③材料のクリープ強度特性」は各材料の長時間データを収集し、材料によってはボイラーチューブリーク実績をデータに反映した当社独自のものを使用している。
この寿命評価法を多くのクリープ損傷事例に適用し評価モデルのカイゼンを行ってきた。昨年、社外の設備に対してクリープ寿命評価を実施し、チューブリークの可能性を指摘したものが、数ヶ月後に図9に示すチューブリークが発生した実績も得ている。
単位時間当たりのクリープ寿命消費は、設備の出力変化などの運転状態により大きく変化する。よって出力変化の頻繁な設備においては、オンラインでクラウドに集中化されたリアルタイム運転データの変化を反映した評価を行うことで、より精度の高い評価を行うことが可能となる。そこで ECエンジニアが作成した寿命評価モデルを DAC アナリストが寿命評価システムとしてクラウド上に構築し、今年の 4月から運用を開始している。図10にオンラインクリープ寿命評価監視画面の例を示す。

図8 クリープによるチューブリーク例
図9 スペーサ溶接部チューブリーク事例
図10 オンラインクリープ寿命評価監視画面

開発したオンラインクリープ寿命評価システムは以下の特徴を有している。
・1分周期で寿命消費率を計算し積算
・設備利用率(出力変化)を反映した評価が可能
・制御不調などで蒸気温度が上昇したときの寿命消費に与える影響を瞬時に評価可能
・定期検査時に外径、肉厚、スケール厚さを実測した場合は、システム内の計算値と整合するように寿命評価パラメータを補正し精度向上可能(過去分のバックフィット評価も可能)
オンラインクリープ寿命評価は、クリープによるボイラーチューブリークの未然防止に寄与する予兆監視システムに該当し、更に最小限のメンテナンス計画(検査、取替)の実現にも寄与するものと考えており、評価対象設備を増やしている。

3.今後の展開著者紹介 
このように様々な取組によって生まれた"経験知"を"形式知"とすることが、自社設備の稼働率向上、メンテナンス費削減等につながることはもちろんのこと、自社以外の設備に対してもよりレベルの高い安定したサービスが可能になると考えている。
世界トップクラスの O&M・エンジニアリングサービス"JERA O&M Way"を提供していくために、引き続き絶え間なくカイゼンを進めていく。
(2020年 8月 9日 )

著者:尾崎 宏所属:株式会社 JERA O& M・エンジニアリング本部 O& M・エンジニアリング技術部東日本 O& M・エンジニアリング技術部 設備技術センター
著者:阿部 貴秀所属:株式会社 JERA O& M・エンジニアリング本部 O& M・エンジニアリング技術部東日本 O& M・エンジニアリング技術部 土木・建築センター
著者:佐藤 尚史所属:株式会社 JERA O& M・エンジニアリング本部 O& M・エンジニアリング技術部東日本 O& M・エンジニアリング技術部 データアナライジングセンター

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