特集記事「高度評価・分析技術」(5) 実機配管の内圧クリープ試験による寿命評価法・非破壊検査法の実証

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特集記事「高度評価・分析技術」(5)実機配管の内圧クリープ試験による寿命評価法・非破壊検査法の実証

一般財団法人 電力中央研究所材料科学研究所 構造材料領域
西ノ入 聡 Satoshi NISHINOIRI


1.はじめに
電力中央研究所は、発電所で実際に使われている主蒸気管や再熱蒸気管等の大径管直管部を試験体として、高温下で蒸気による内圧とジャッキによる曲げ荷重を負荷し、破損するまでの変形や損傷の進行などを計測することが可能な世界最大規模の実験装置である「実機コンポーネント寿命評価実験設備」(BIPress;Bending and Internal Pressure on real structural samples)を 2006年度に開発した [1]。国内の 600℃級超々臨界圧( USC)火力発電プラントでは、設計寿命である 10万時間よりも短い運転時間において高クロム鋼製配管溶接部での蒸気リーク等の不具合が 2000年代初頭からいくつか発生している。高クロム鋼のクリープ損傷は、従来鋼のように管外表面から進行するのではなく、管厚内部から進行することが明らかになってきた。そこで当所では内部損傷も評価可能な解析的クリープ寿命評価法を開発するとともに、BIPressによる大径管内圧曲げクリープ試験を行い、開発した解析的クリープ寿命評価法の妥当性とクリープ損傷検出への非破壊検査手法の適用性を検証してきた。 2016年度以降は、評価対象を次世代火力発電の候補材に変更し、高クロム鋼同様の試験と検証を実施中である。本報では、実験装置の概要と、同装置を用いた寿命評価法・非破壊検査法の実証研究例、ならびに試験体の変形・損傷モニタリングに使用する高温用センサを紹介する。なお、本号の特集記事( 4)では既設プラントの保守管理への適用を念頭に「余寿命評価」の用語を使用しているが、本稿ではプラント設計への適用も念頭に「寿命評価」の用語を使用した。
2.実験装置の概要
一般に、単軸クリープ試験は外径 10 mm程度の丸棒試験片を、内圧クリープ試験は外径 50 mm程度の円管試験片を用いて行われる。材料の特性が均一である母材に対してはこの試験方法の妥当性が確認されているが、溶接部に対しては大型の配管試験体による検証試験が必要と考えられる。実際の配管(外径 0.4~ 1 m)では溶接部は配管全体のごく一部であり、周囲から強い拘束を受けることから、配管溶接部は通常の試験片では再現困難な複雑な応力状態となる。また、火力発電所の配管には、蒸気による内圧に加えて、起動停止時の熱伸びによる曲げ負荷も作用する。当所の開発した BIPressは、発電所で実際に使われている主蒸気管や再熱蒸気管等の大径管直管部を試験体として、高温下で蒸気による内圧とジャッキによる曲げ荷重を負荷し、破損するまでの変形や損傷の進行などを計測することが可能である。
BIPressの構成を図 1、主な仕様を表 1に示す。なお、試験体破断時には高温高圧の蒸気が噴出するため、安全確保のために試験室は地下に設置され、地上部分の監視室において試験の制御と監視が行われている。試験室は荷重装置、電気炉、フレームより構成される。電気炉は周方向 3分割、軸方向 7分割のブロックとなっており、試験体外表面に取り付けた熱電対の計測値にもとづき、各電気炉ブロックの出力が制御される。所定温度まで加熱された試験体は、監視室内のバルブの開閉によって給水され、水蒸気加圧によって内圧が負荷される。変位は、試験体外表面の鉛直方向変化量を石英棒により電気炉外に取り出し、ひずみゲージ式の変位変換器により計測される。試験体の変形・損傷モニタリングに用いている各種センサからの出力は、監視室内の PCに取り込み、リモートで監視できる体制である。


図1 実験装置の構成
表1 実験装置の主な仕様


験体が試験室躯体に衝突することを防止するためのハニカム板の設置、試験中の映像監視システムの増強、圧力変化時やひずみ・変位の変化率増大時に試験担当者にメール通知するシステムの追加などが挙げられる。
BIPressを用いた内圧曲げクリープ試験の大きな目的は、寿命比(試験体破断時間と試験時間の比)何 %の時点で溶接部等におけるクリープ損傷を各種非破壊検査法で検出できるのかを検証することであり、当所や共同研究機関(プラントメーカ等)による試験体検査のための試験中途止めを数回実施する。例えば予想破断時間が 5,000 hの場合、試験体検査期間と試験体搬出入・据付・試運転等の工事期間を合わせると、 1回の試験に 1年半から 2年程度を要する。従来は 1回の試験での試験数は 1であったが、 2020年度までに改修を行い、曲げをかけずに 3体の試験体に同一内圧を負荷することで、 1回での試験数を 3とすることも可能となった。この場合の実験装置の構成例を図 2に示す。

図2 内圧のみの試験時の実験装置の構成例

2006年度の竣工以降も、 BIPressには試験条件に合わせた増強や複数回の長時間試験の経験を踏まえた安全対3.実証研究の経緯策が追加実施されてきた。安全対策として、破断時の噴 BIPressを用いた実証研究の経緯を表 2に示す。 2006出蒸気量を低減するための試験体の中子(二重管)構造へ年度の竣工から 2015年度までは、既設火力発電所(600℃の変更、周溶接部の全周破断が生じた場合に飛散した試級、USC発電)の高クロム鋼製配管溶接部のクリープ損
表2 BIPressを用いた実証研究の経緯

傷に起因する蒸気リーク等の不具合への対応を目的として、同装置を用いた大径管内圧曲げクリープ試験を行い、国内のプラントメーカと連携しながら解析的クリープ寿命評価法の妥当性とクリープ損傷検出への非破壊検査法の適用性を検証してきた。具体的には、鋼種を 12Cr鋼と 9Cr鋼、評価部位を長手溶接部と周溶接部とし、計 4回の試験を実施した [2, 3]。2016年度以降は、 NEDO助成事業「次世代火力発電等技術開発 /次世代技術の早期実用化に向けた信頼性向上技術開発」(2017年度~ 2021年度)において、国内の材料メーカ・プラントメーカ等と連携しながら、次世代火力発電(700℃級、先進超々臨界圧( A-USC)発電)の候補材に対して高クロム鋼同様の試験と検証を行うことで、保守技術の開発に取り組んでいる [4]。具体的には、鋼種をニッケル基合金 HR6Wと Alloy617、評価部位を周溶接部と管台溶接部とし、計 2回(2回目の試験は曲げをかけずに 3体の試験体に同一内圧を負荷)の試験を実施している。 2022年度以降は、今後の実証研究に向けた準備を実施予定である。
4.寿命評価法・非破壊検査法の実証研究例
ここでは、 9Cr鋼周溶接大径管試験体を対象に実施した内圧曲げクリープ試験の例を紹介する [3]。試験体の構造と寸法を図 3に示す。材質は 9Cr鋼(火 STPA28)であり、溶接のない継目無鋼管を周溶接で接合して試験体を製作した。試験条件を表 3に示す。試験条件は周継手に作用する軸力と、内圧によるフープ応力の比を 1:1とし、温度 650℃において簡易評価による破断時間が約 5,500hとなるように設定した。本試験においては計 5回の中途止め検査を実施した。
試験体最下部付近の軸方向ひずみの推移を図 4に示す。溶接部表面のひずみの急激な変化を捉え 6,930 hで中断検査を実施した結果,軸方向の引張応力が作用する地側の周溶接線に沿って表面き裂が観察された。各中途止め検査で取得した周継手の探傷画像と寿命比の対応を図 6に示す。フェーズドアレイ UT(超音波)法を用いた探傷の結果、寿命比 54 %に相当する 3,500 h経過時点でクリープ損傷と推定される指示を検出することに成功した。指示の検出範囲は、試験時間の経過とともに軸方向ならびに周方向に拡大した。周継手 Aの断面写真例を図 5に示す。断面観察の結果、母材と溶接金属の境界に形成される溶接熱影響部( HAZ)に沿って管厚内部からクリープ損傷が進行しており、管厚方向のき裂長さと周方向のき裂位置が UTの結果とよく対応したことから、9Cr鋼周溶接部のクリープ損傷検出へのフェーズドアレイ UT法の適用性が示された。

図3 大径管試験体の構造と寸法
表3 試験条件


図4 試験体最下部付近の軸方向ひずみの推移

図5 周継手 Aの断面写真例


図6 各中途止め検査で取得した周継手の探傷画像と寿命比の対応
5.試験体の変形・損傷モニタリングに  用いている高温用センサ
BIPressでは、これまでに 650℃(高クロム鋼)と 750℃(ニッケル基合金)における 5,000 h以上の内圧曲げクリープ試験を実施してきた。試験体の変形・損傷モニタリングに使用している高温用センサの種類と適用方法を表 4に示す。ひずみは、試験体表面にスポット溶接で取り付けた高温用カプセル型ゲージ(使用温度範囲 -196~ 650℃または 750℃、計測範囲 20 mm)によって計測する。また、当所が開発した高温用光ファイバ AEセンサ(使用温度範囲~ 650℃、感度は圧電型より大幅に低い)を試験体表面に直接固定、あるいは試験体に取り付けた導波棒を電気炉外に引き出し、圧電型 AEセンサ(使用温度範囲~ 200℃程度)をその先端に固定することで、変形・損傷にともなって発生するアコースティック・エミッション(AE)を計測する [5]。ひずみゲージ法では、計測点数と同数のゲージおよびひずみアンプが必要であるが、高温用カプセル型ゲージは比較的高価であるため、高温で使用可能かつ安価な分布型ひずみセンサが望まれる。 AE法では、高温で使用可能かつ高感度なセンサが望まれる。当所は NEDO委託業務「 NEDO先導研究プログラム /エネルギー・環境新技術先導研究プログラム /超高温設備の革新的オンライン監視システムの開発」(2019年度~ 2021年度)において、 750℃で長期間使用可能で計測精度の高い光ファイバセンサ(温度分布・ひずみ分布・ AE)、同センサの空間分解能向上のための信号処理技術、大規模クリープ解析技術およびそれを用いたデジタルツイン技術の開発を、中国電力、北海道電力、大阪府立大学、沖電気工業、非破壊検査(株)と共同で進めている [6]。その成果を BIPressでの試験に適用することで、大径管溶接部に対する寿命評価の高度化が期待される。
表4 高温用センサの種類と適用方法


6.おわりに
ベースロード電源から、再エネの出力調整用電源へと火力発電所に求められる役割が変化する中、負荷変動や起動・停止にともなうクリープ疲労による大径管溶接部の損傷の懸念が高まっている。また、カーボンニュートラルの実現に向け、水素・アンモニア発電等の技術開発が本格化しつつある。BIPressは既設火力発電所のクリープ条件下での不具合への対応を目的として開発されたが、評価対象は火力プラント材料に限ったものではなく、クリープ疲労負荷への拡張も可能である。世界に類を見ない本実験装置を、今後も社会の要請に合致した研究開発に活用していきたい。
謝辞
高クロム鋼溶接部に関する研究は、三菱重工業(当時)、 IHI、バブコック日立(当時)、東芝(当時)、日立製作所と協力・連携して実施したものであり、試験体は三菱重工業(当時)、バブコック日立(当時)、IHIから提供いただきました。ここに記して謝意を表します。
次世代火力発電の候補材に関する研究は、国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構の助成事業の結果得られたものです。ここに記して謝意を表します。

参考文献
[1] 屋口正次 , 三浦直樹 , 緒方隆志 , 酒井高行 :"設備診断技術実証のための大型実験設備"実機コンポーネント寿命評価実験設備 BIPress"の開発", 電力中央研究所報告 , Q08001,(2008).
[2] 西ノ入聡 , 高橋由紀夫 :"火力発電プラントにおける高温 /高圧蒸気配管(高クロム鋼配管)の余寿命診断技術 3. 大型配管試験体でのクリープ寿命評価法の検証と課題", 電中研 TOPICS, Vol.17, pp.7-10 (2014).
[3] 西ノ入聡 , 高橋由紀夫 , 福冨広幸 , 屋口正次 :"9Cr鋼
(火 STPA28)製大口径周継手配管の内圧曲げクリープ試験 : 試験方法及び試験結果" , 第 54回高温強度シンポジウム予稿集 , 日本材料学会 ,(2016).

[4] 福田雅文 :"特集「先進超々臨界圧火力発電システムの実用化研究開発」11. 実機メンテナンス技術の深耕", 火力原子力発電技術協会誌 , Vol.69, No.11, pp.67(2018).

[5] 西ノ入聡 , 福冨広幸,緒方隆志 :"光ファイバ AEによる損傷監視手法の開発 -第 2報:センサ耐久性向上と実機模擬環境下での AE計測", 電力中央研究所報告 , Q07012,(2008).
[6](一財)電力中央研究所 , 中国電力(株) , 北海道電力(株), 大阪府立大学 , 沖電気工業(株), 非破壊検査(株):"超高温設備の革新的オンライン監視システ

ムの開発" , NEDO先導研究プログラム 2020年度パンフレット , pp.68(2020).
(2021年 5月 14日)


著者紹介
著者:西ノ入 聡所属:電力中央研究所   材料科学研究所構造材料領域専門分野:材料強度、非破壊検査

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