コンクリート建屋のレーザ切断工法
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カテゴリ: 第16回
コンクリート建屋のレーザ切断工法
The laser cutting construction method of a concrete building
二菱重工業株式会社
赤羽 崇
Takashi AKABA
Member
二菱重工業株式会社
呉屋 真之
Saneyuki GOYA
Non-Member
二菱重工業株式会社
森 宏樹
Hiroki MORI
Non-Member
二菱重工業株式会社
奥田 剛久
Takehisa OKUDA
Non-Member
二菱重工業株式会社
下鍋 典昭
Noriaki SHIMONABE
Non-Member
鹿島建設株式会社
井上 隆司
Takashi INOUE
Non-Member
鹿島建設株式会社
中越 淳郎
Junro NAKAGOSHI
Non-Member
Abstract
The demolition technics of the thick broad concrete wall of atomic power building of a Fukushima Daiichi nuclear power plant by the remote laser cutting have been developed. In this time, the outline about laser cutting technology of a concrete wall, the demolition method and equipment is introduced.
Keywords: Reactor building demolition, a concrete wall, laser cutting, remote work
1 はじめに
福島第一原子力発電所原子力建屋のコンクリート解体 を対象として、レーザを用いた遠隔解体技術を開発している(図1)。対象とするコンクリートの板厚は、薄い箇所は200mm(壁)で、最も板厚の厚い箇所は1200mm(柱)もの厚みがある。これまで、原子炉や一般建築物の解体 を対象としてコンクリートのレーザ切断技術の開発が報 告されているが、1000mm を超える板厚のコンクリート切断例はない([1]~[4])。今回、1200mm のコンクリート柱の厚板までを対象としてレーザ切断の可能性について試験を実施し、検証を行なった。また、本技術を用いた解体工法および切断装置について行なった検討結果について紹介する。
図1 福島第一原子力発電所
2 厚板コンクリート切断の課題
コンクリート柱はレーザビームを水平に照射させて切 断することを想定している。図2 にコンクリート柱切断のイメージ図を示す。レーザ切断は、レーザの持つエネルギでコンクリートを溶かし、アシストガスを使い溶融 コンクリート(ドロス)を施工点から除去することで実現する。1000mm 級の板厚を有するコンクリート切断を実現する上で想定される主要な課題は以下の2 つである
(図2、3)。
(1)1200mm 長さのコンクリート溶融に必要なレーザエネルギーの確保
(2)溶融コンクリート(ドロス)の除去
図2 コンクリート柱切断イメージ
レーザ
入射面
断面図
コンクリート
レーザビーム
図4 切断装置全体図
図3 厚板コンクリート切断の原理
1200mm
課題に対する対策としては、効率良いコンクリート溶融の実現のため、細長いレーザビームの形成、およびド ロスの押し出しに必要なガス量を供給するための必要最小限の切断幅の形成が必要である。
細長いレーザ光の形成として、従来の集光型によるレーザビームに替えて、超長焦点レーザ光の涸用を検討
した。これにより、集光スポット径は従来より大きいが、1200mm 板厚の表面と裏面におけるビーム径がほぼ同等で、コンクリート溶融に必要なパワー密度を維持し、切 断性能向上が期待できる。
また、溶融コンクリートの除去を促進するため、アシストガス流量を増大し、効果を確認した。
3 切断試験
切断試験で用いた装置を説明する。
レーザ発振器:25kW ファイバレーザ装置
レーザヘッド:MHI 開発長焦点レーザヘッド
駆動装置:ロボット
切断速度: ~12mm/min
アシストガス: 空気
ガス流量: ~5000L/min
初めに切断との相関が強いと考えられるレーザパワー、切断速度およびアシストガス流量をパラメータとして、
切断試験を実施し、切断可能なコンクリート板厚を評価した。
ロボット長焦点レーザ切断ヘッド
図5 レーザ切断ヘッド
パワーおよびガス流量依存性
パワー依存性
レーザパワーの増大に従い、切断可能な板厚は厚くなるが、飽和する傾向が見られた(図6)。飽和する要因としては、パワー増大により切断幅が増大する傾向がみられたことから、溶融体積が増大したことで、パワー増大による切断板厚が増大する効果が小さくなったためと推測される。
切断幅がパワー増大により増大した理由は、熱レンズ効果により焦点シフトが生じ、ビーム径が増大した影響と推測される。長焦点レーザ光学系においても、レーザの焦点位置は、熱レンズ効果を考慮して決める必要があることが分かった。
ガス流量依存性
ガス流量の増大とともにリニアに切断可能板厚が増大した(図7)。但し、ガス流量を増大していくと、効果が となった。この原因として、ガス流速が 速を超え、流速が飽和したためと推測される。ガス流速を向上させるため、ガスノズル形状をラバールノズル形状ヘ変更することとした。
図6 切断板厚とレーザパワーとの相関
1200mm 切断実証
1200 m切断試験状況を図8 に示す。熱レンズ効果による焦点シフト対策を実施することで、パワー増大ととも に切断板厚が増大することが確認出来た(図9)。
また、でガス流量増大とともに切断板厚が増大するこ とが確認され、板厚1200mm の切断を実証することができた(図10)。ガス流量40(相対値)と50 で、切断可能板厚が同一なのは、コンクリート板厚1200mm のためである。
図8 板厚1200mm コンクリート切断の様子
1400
1200
1000
コンクリート切断厚み( mm)
目標板厚: 1200mm
ガス流増大効果が
流増大
ガス
が
効果
800
速の領域
600
400
200
0
0
5101520253035404550
ガス流量)
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
4000
4500
( L/min
図7 切断板厚とガス流量との相関
図9 切断板厚とレーザパワーとの相関(改良後)
1400
5000
1200
コンクリートの切断厚み( mm)
1000
800
本試験結果をもとに、1200mm 切断に向け、切断パワー増大により生じる熱レンズ効果(焦点シフト)の対策としてレーザヘッドの改良、および、溶融コンクリートの除去を効率改善のため、ガスノズル形状の改良を行な
600
400
200
0
0
102030405060
ガス流量
1000
2000
3000
4000
5000
6000
( L/min )
い、1200mm 切断の実証試験を行った。
図10 切断板厚とガス流量との相関(改良後)
コンクリート内部の鉄筋の影響
鉄筋コンクリートは内部に最大cp40mm程度の鉄筋を多数含んでいる。鉄筋の有無、本数によるレーザ切断ヘ の影響を調査した(図11)。切断位置によりコンクリートのみの部分もあり、また、3~4 本同時に切断が必要な場合もある。
鉄筋無しの場合は、速度6mm/min で切断可能であったのに対して、鉄筋4 本同時切断時には、切断速度が半分程度に低下した。切断状況から、コンクリートと鉄の溶融物(ドロス)が混ざり合うことで流れにくくなっていることが切断速度低下の要因として考えられる。
1200mm
図11 鉄筋コンクリート断面図
(レーザ(赤線)と鉄筋との干渉の様子)
4 レーザ切断システム
鉄筋無 5 まとめ
1000mm を超える厚板コンクリート切断を実証する
鉄筋少 ことができた。また、本技術をもとに建屋切断解体の工法および切断装置の実現の見通しを得た。レーザは制御
鉄筋多性が良く、非接触で切断可能なため、機械の噛み込みが生じない点が優れており、放射線量が高い、作業者が近
づきにくい場所の遠隔切断に涸している。
他方、現時点では、ワイヤソーなどの既存工法に比べ て、単体での切断速度劣る。今回の試験結果から、切断
大型クレーンにて、レーザ切断ヘッドやレーザビーム
ダンパを含む駆動装置、コンクリート切断片把持機構を吊りながら施工。又、レーザ発振器、冷却装置や粉塵回収装置等の周辺機器をコンーナ内に備えたシスームを検討。
速度向上には、レーザ出力増大および、ガス流速の高速
化が有効であることが確認できた。本技術の実用化に向けて、切断速度の高速化技術の開発を進める。
参考文献
大出力レーザによるコンクリート切断に関する研究その2, 日本建築学会, 大会学術講演概要集, 1989
大出力レーザによるコンクリート切断に関する研究その2, 日本建築学会, 大会学術講演概要集, 1989
レーザによるコンクリート切断研究 西松建設技報
(1984)
異種材料切断能力調査試験(炉内構造物切断技術確証試験)NUPEC((財)原子力発電技術機構) H6年度報告書.