ウェルドオーバーレイ工法の規格化に関する経緯
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カテゴリ: 第15回
ウェルドオーバーレイ工法の規格化に関する経緯
Some Backgrounds on Standardization of Weld Overlay Technique in Japan
○日本原子力発電株式会社
堂﨑 浩二
Koji DOZAKI
Member
株式会社テプコシステムズ
町田 秀夫
Hideo MACHIDA
Non Member
Weld Overlay is a typical technique which took many years and huge amount of efforts for standardization in Japan, though it had already been well-developed with many application examples abroad as one of the repair methods. There has not an application example in Japan at all in spite of many efforts. This paper keeps a record of some backgrounds on standardization process of the weld overlay in Japan so as to consider better processes in the future.
Keywords: Weld Overlay, Standardization
1.緒言
補修技術として完成していながらも、実用のた めの手続きに非常に時間と労力を要した例としてウェルドオーバーレイ(WOL)工法が挙げられる。 WOL 工法は肉盛溶接による補修工法のひとつであり、米国で多くの適用実績を有し、米国機械学会規格 ASME Sec. XI で規格化されている。このため日本での適用についても、当初は大きな課題はないものと考えられた。平成 16 年(2004 年)までに国の原子炉安全小委員会機器設計 WG においてWOL 工法(設計、施工管理、検査)の技術基準への適合性が審議された。また、火力原子力技術協会
(火原協)「炉内構造物等点検評価ガイドライン検 討会」(現在は日本原子力安全推進協会(JANSI) に移管。)で WOL 工法はガイドライン化され、日本機械学会(JSME)維持規格にも取り込まれた。しかしながら、実機適用に当たっては、JSME 維持規格における欠陥角度の制限との関係を整理す ることや、検査性を巡って PD 制度への適用が課題とされ、これらの検討にさらに時間を要した。それらもやがてクリアされ、最終的には平成 21 年(2009 年)に原子力安全・保安院(NISA)による亀裂解釈文書に WOL 工法が追記され、完全に適用可能となった。ただし、JSME 維持規格の形でエンドースされたわけではなく、この意味でまだ完成形には至
っていない。
本稿では、関係者の多大な努力にもかかわらず、いまだに我が国での適用事例なしという結果にな っている補修技術の例として、WOL 工法の規格化に関する経緯をできるだけ残し、今後の参考とし
連絡先:堂﨑浩二
日本原子力発電株式会社
〒101-0053 東京都千代田区美土代町 1-11
E-mail:kouji-douzaki@japc.co.jp
て供することとしたい。
2.WOL 工法とその規格化の概要
WOL 工法は、図1に示すとおり、SCC 亀裂が発生したオーステナイト系ステンレス鋼製の一次系配管等の周溶接継手に対して、自動ティグ溶接を用いて、耐 IGSCC 性に優れた溶接金属(フェライト含有量の高い低炭素オーステナイト系ステンレス鋼溶接材料)を当該配管の外面全周にわたり複数層肉盛する補修工法である。
WOL 部は構造強度部材であり、原配管に発生した周方向亀裂が全周貫通しても構造強度上問題のない設計としている。
riginal溶接部Butt Weld
Crack欠陥
StructuralWeldWOeldverlOverlayay
Fig. 1 ウェルドオーバーレイ工法の概念
米国において初めて Hatch 原子力発電所に適用
Weld Overlay 概要図
配管
(1982 年)され、その後 BWR プラントで 2002 年時
点で既に 1000 個所以上の適用事例がある。これまで、超音波探傷試験で WOL 施工部に亀裂が進展した事例は報告されていない。スペイン、スイス、台湾などでも適用実績がある。
WOL に関する規格としては、ASME B&PV Code Sec. XI Code Case N-504-2 “Alternative Rules for Repair of Class 1, 2, and 3 Austenitic Stainless Steel Piping Section XI, Division 1”(1997 年 3 月承認)に最初に規定され、USNRC : NUREG-0313,Rev.2(1988年 1 月)”Technical Report on Material Selection and Processing Guides for BWR Coolant Pressure Boundary Piping”の中で、WOL 工法を IGSCC に対する補修工法として認めている。
ASME では、Code Case N-504 に続き、PWR のク
ラス 1~3 機器の異材継手部への適用を前提としたWOL 工法の Code Case N-740 : Full Structural Weld Overlay を策定した。WOL 層のみで構造強度を確保できるように設計することは基本形と同じであるが、亀裂がない場合に Mitigation(緩和)として用いることも可能である。
さらに、原子炉容器管台等の PWR クラス1機器の異材継手部に適用するもので、Code Case N-740 をベースとし、Mitigation を目的とする WOL 工法である Code Case N-754 : Optimized Structural Weld Overlay をも策定した。これは、原配管継手部の外側 25%厚さ部分を強度部材として利用し、内表面での残留応力の改善(圧縮方向)をも考慮に入れWOL 板厚を最適化した(optimized)WOL 工法である。
表1に米国及び我が国における WOL 工法の規格化に関する概略の年表を示した。
Table 1WOL 工法規格化の経緯
注:ASME Code Caseの成立年は概略
3.WOL 工法規格化における経緯
WOL 工法については、旧原子力安全・保安院
(NISA)原子炉安全小委員会機器設計 WG において、主要な論点に関する議論は平成 14 年の段階で
ほぼまとまっていた。平成 16 年、原子炉安全小委員会において機器設計 WG より報告され、WOL 工法は技術的に妥当なものであることが確認された [2]。我が国に明確な UT 検査要求規定や検査実績がないものの、ASME Sec. XI を参考に検査手法を適切に設定することで適用が可能とされた。
しかし、JSME 維持規格に許容亀裂形状に長さ制限(角度にして 60 度制限)が設定されているため、全周亀裂を想定した評価を行う WOL 工法は、中心角 60 度を超える亀裂には適用できない、とされた。
このため、平成 16 年 6 月、NISA は JSME 発電用設備規格委員会(JSME 規格委)に対して維持規格における 60 度制限規定の改訂を行うよう要請を行った。この要請を受けて JSME 規格委では、JSME 維持規格分科会の下に「周方向欠陥角度制限検討タスク」を設けて約1年半に及ぶ検討の結果、「発電用原子力設備規格 維持規格(JSME S NA1-2002)
【事例規格】周方向欠陥に対する許容欠陥角度制限の代替規定(CC-002)」を策定した[3]。この JSME 事例規格では、WOL 工法を適用した配管では原配管の 60 度制限は適用外となること、WOL 等の補修をしないで継続使用する配管に対しては、60 度制限に代わり、周方向欠陥長さと深さの両方を考慮した新たな制限規定に置き換えることとしていた。
NISA は、当該 JSME 事例規格の技術評価を行ったが、当初は簡単に決着するかに見えたこの問題で、後述するとおり、長い周方向亀裂の検査における見落としの問題が発覚したことをきっかけに、NISA、 旧原子力安全基盤機構(JNES)及び JSME の間で欠陥サイジングの誤差と欠陥深さ制限との関係についての議論が巻き起こる事態となった。多大な労力と時間をかけて策定された JSME 事例規格はそのまま受け入れられず、結局、平成 19 年5 月、NISA は技術評価書において、WOL 適用時については事例規格を妥当であるとし、補修をしない配管への適用については相当に条件を付けて認めることとした。とはいえ、これにより 60 度制限は WOL 適用の障害でなくなった。
残された課題として、超音波探傷の問題があっ
た。国内BWR プラントの原子炉再循環系配管(PLR 配管)にて溶接金属まで進展した SCC 亀裂が発生したことから、溶接金属まで進展した SCC 亀裂を有する配管に WOL を施工した場合にも、ひびの先
端部を捉えられる技術が必要となった。このため、WOL を施工した部位の SCC 亀裂を超音波探傷検査にて所定の精度で検出、サイジングできること を検証する必要が生じた。
これを受け、産業界は、WOL を施工した配管における超音波探傷手法の実機適用化に関する研究を実施し、次の結論を得た[4]。
? フェーズドアレイ法を用いて、実機で想定される最大の WOL 厚さに対して検査体積
(原配管外側から 25%の範囲)に接近あるいは存在している溶接部及び母材部の SCC 亀裂先端位置を特定できる
? フェーズドアレイ法の WOL 外面からのSCC 亀裂の深さ測定精度は、平均二乗誤差平方根(RMSE)で 1.9 ㎜となり、ASME Sec XI Appendix VIII のクライテリアである3.2mm 以内を満足
? 試験員及び試験評価員は ISI の経験及びステンレス鋼溶接部検査経験を有し、JIS Z2305 レベル2であればよい
60 度制限問題の解消、検査性の課題解決を受けて、JNES に設置された新保全技術適合性検討会
(RNP)において、WOL 工法の技術基準への適合性が検討・確認され、H21 年 6 月国の原子炉安全小委で承認された。最終的には平成 21 年(2009 年) に規制当局である原子力安全・保安院(NISA)による省令第 62 号第 9 条の解釈を与える文書(亀裂解釈文書)に別記-13 として WOL 工法の適用に当たっての要件が追記されることで、WOL 工法が完全に適用可能となった[5]。この亀裂解釈は現在、原子力規制委員会に引き継がれている[6]。
平成 14 年に原子炉安全小委機器設計WG で論点が整理されてから、最終的に原子炉安全小委で承認されるまで、約 7 年もの時間がかかったことになる。その間、SCC 亀裂が発生していた PLR 配管はことごとく新管に取り替えられ、溶接残留応力対策も施されて使用されていき、WOL 工法が適用されることはなかった。
4.60 度制限を巡る議論
上述のとおり経緯を見てくると、機器設計 WG で整理された論点のうち、WOL 施工配管に対する超音波探傷手法の実機適用化に関しては、目的(溶接金属に進展した亀裂先端を捉える)と手段(現実的
な超音波探傷手法を適用した試験による性能確認及び精度検証)が必要かつ十分に整合した形で行われ、適切な過程であったと評価できる。
しかし、原配管に対する欠陥の 60 度制限問題に関しては、目的(WOL 工法の適用時には原配管の60 度制限を受けないようにする)に対し、手段として JSME 維持規格を修正する(事例規格策定を含め)必然性があったのか疑問が残る。さらに、その手段を用いることにした中においても、事例規格で導入した周方向欠陥長さと深さの両方を考慮した代替規定と、欠陥サイジング誤差が強く関連付けて論じられたことで議論が紛糾してしまい、WOL 工法の適用とは無関係の部分で長い時間と労力を要することになった。以下にこれらの点について当時の議論を整理しておく。
目的と手段の不整合
WOL 工法では、肉盛溶接部だけで WOL 施工後の配管の強度を確保する設計としていることから、構造健全性確保の観点からは、WOL 施工後は原配管の亀裂角度を 60 度に制限する必要がなくなるこ
とは自明である。維持規格の 60 度制限が、亀裂のある配管を補修せずに継続使用する場合に適用さ れるものであることもまた自明であるが、WOL 工法を適用すれば原配管の亀裂に対する 60 度制限規定は適用除外となる旨の記載がないことから、3. で述べたとおり、NISA は JSME に対し、維持規格における対応を求め、JSME が応じた経緯がある。この議論は明らかに形式論であるから、技術的 な検討を必要とせず、WOL 施工後の原配管は 60 度制限規定の適用を除外する旨を例えば NISA 文書として記載・発行する等により目的は達せられる のであり、必ずしも JSME 維持規格の改訂(事例規格策定を含め)を要しなかったはずである。また、JSME 側の対応においても、例えば WOL 施工時の60 度制限除外規定のみを事例規格として記載・発行すれば目的は達せられ、補修なしで継続使用す る場合の 60 度制限規定の代替規定までを追求する必然性はなかったはずである。この意味において、当時の NISA 及び JSME の対応は目的に対する手段が必要最小限でなく、当面必要な目的以外の目 的をも達成する手段を選択したと言うことができ
る。
この手段選択の背景として、60 度制限規定の導
入理由が明確に残されておらず、この機会に根拠の明確な規定に変えたいとの動機があったことが挙げられる。早期決着を見込み、より広い目的を達成することをねらったものの、後述するように目的を広げた部分で議論が紛糾してしまい、当初の目的の達成を遅らせることになった。
工学的判断の排除
60 度制限の代替規定は、事例規格の添付1に解説されているとおり、欠陥の角度が 60 度を超えた場合の許容欠陥深さは、当該部の崩壊強度が配管系代表部の設計・建設規格上の塑性崩壊強度と同程度となることを目安に設定したものである。また、オーステナイト系ステンレス鋼の SCC 亀裂に対する UT の欠陥寸法測定精度を 4.4mm、検出限界を 2.0mm と見込んでも、維持規格の欠陥深さ制限である板厚の 75% を満足する範囲として、6.4/0.75=8.6mm 以上の厚さの配管のみを適用対象としている。これらの考え方に基づき、配管スケジュールごとにエルボまたはティーに接続される管のうち厳しい方の欠陥深さをもって許容欠陥深さの表を与えている[3]。
平成 18 年 3 月 9 日、原子炉安全小委基準評価
WG が開催され、JSME より上述の事例規格の制定経緯、考え方及び規定内容を説明し、NISA より事例規格に肯定的な内容の技術評価の案が説明された。この時点で WG は事例規格及び技術評価案の内容に対して肯定的であり、しばらくコメント期間を設けた上で、次回 WG を開催し、そこで承認に至る雰囲気であった。
Fig.2 PLR 配管における欠陥の見落とし[7]
ところが、Fig. 2 に示すように、直前の平成 18 年
2 月に福島第二原子力発電所 3 号機のPLR 配管に、直近の検査で確認されなかった欠陥が切断による 断面調査によって発見されており、ちょうど次回 の基準評価 WG を待つ間に、欠陥検出の見落としであることがはっきりしたという背景があった。
約 3 か月後の平成 18 年 6 月 15 日に開催された基準評価 WG においては、NISA は事例規格の許容欠陥深さが、設計・建設規格の塑性崩壊強度に相当する強度の水準を有すること(保守性を有すること)は認めながらも、欠陥サイジングの誤差と欠陥深さ制限の関係に強くこだわるようになり、事例規格は一転、そのままでは認められない状況となった。その後の約 1 年間、亀裂進展評価末期にサイジング誤差を考慮した場合や、亀裂を最初に検出した際に行う亀裂のモデル化の時点でサイジング誤差を考慮した場合の許容欠陥深さの変化等の議論に費やされた。
JSME 側の主張は、もともと事例規格は PD 制度
が導入されるまでの暫定規定であること、従って サイジング誤差の影響は、考慮するとしても亀裂 のモデル化の時点で考慮すればよく、その影響は 亀裂進展評価の中で吸収されてしまうため、事例 規格のとおりで問題はないとするものであった。 しかし、NISA は、亀裂角度が 60 度以下の場合には亀裂の破壊強度評価(亀裂のある断面における 塑性崩壊)を実施しているのに対して、それを超え た場合には亀裂深さが配管の塑性崩壊強度に律速 されるという評価の不連続性を指摘し、亀裂角度 60 度を超えた場合には、角度 60 度、深さ 75%の亀裂に対する限界荷重による許容欠陥深さの評価を 行うことを要求した。これは配管設計上の限界を 超える荷重を想定することを意味する。Fig. 3 に、JSME 事例規格とNISA 技術評価書それぞれによる許容限界を比較して示した。簡単のため、ステンレ ス鋼熱影響部の亀裂から母材部で破壊する場合を 想定している。両者の差は、NISA 技術評価書の想定荷重が過剰であることに由来している。
基準評価 WG では、設計における許容応力に基
づく工学的な判断としての事例規格の妥当性を支持する意見や、実際の荷重に安全率を考慮するという維持規格の基本的な考え方を無視し、荷重を仮想的に大きく設定することで安全率を上乗せすることに異論があったものの、NISA 主張のとおり
通過した。このことは、工学的判断をあえて排除し、設計評価法に過剰な安全裕度を持たせた例と考え られる。
言うまでもなく、工学的判断はこれからも原子力分野においても必要とされている。米国 NRC のホームページには、「NRC の規制へのアプローチにおけるリスク及びパフォーマンスの概念」とのタイトルで、リスクインフォームド規制及びリスクインフォームド・パフォーマンスベースト規制の両方において、エンジニアリングジャッジを活用することのメリットや、当然使うべきものであるとの説明がなされている[8]。我が国においても、NRC にならってRector Oversight Process (ROP)の考え方を規制に導入する取り組みが始まっており、工学的判断の重要性はますます高まっている。
Fig. 3 許容限界の比較(母材のケース)
必須とベター論の混同
4.1 で述べたとおり、WOL 施工後の原配管は 60 度制限規定の適用を除外する旨を例えば NISA 文書として記載・発行する等により目的は達せられるのであり、必ずしも JSME 維持規格の改訂(事例規格策定を含め)を要しなかったものを、あえてJSME 規格の改訂に向かったことは、目的と手段の不整合であるとともに、必須とベター論の混同の問題でもあったと考えられる。
目的達成のために必要最低限の手段を実行することは、何が必須かを明らかにすることであり、実行結果が許容されるレベルと判断されれば、すなわち対象技術は適用可能となるのである。このこ
とは当たり前のようだが、現在において、この当たり前のことを改めて確認し共有することが極めて重要であるという気がしてならない。
なぜならば、昨今では、福島第一原子力発電所事故の反省を踏まえ、安全の追求には終わりがないとか、自主的安全性向上とかが、一種のスローガン的に共有されている向きがあるが、これらのスローガンが、安全確保に必須の条件を無限に引き上げ続けなければならないという意味であると誤解されると、それは却って危険なことになりかねないからである。
もとより安全確保に必須の条件こそは、新規制 基準において明確化され、基本的には不変であっ て、常に正確に関係者に共有されていなければな らない。規制当局も常に言っているとおり、これは 必ず守るべき最低限の基準に過ぎないのであって、それよりも高いレベルの安全確保のための条件は 無限に考えることができる。しかし、必要最低限の 基準を満足すれば許容することにして、安全確保 の水準をより高いレベルに引き上げる努力をたゆ まなく続ける必要があるということである。すな わち、自主的安全性向上というのはベター論の部 分での話なのである。
WOL 工法のケースでは、原配管の 60 度制限を
撤廃することというのは WOL 工法を適用可能にするという目的から見て必須ではなく、明らかに ベター論であった。それにもかかわらず、必須とベ ター論を区別してアクションすることなく、結果 としてこのベター論の部分の議論に時間を奪われ て、肝心の目的達成を遅らせてしまったことは、結 果として必須とベター論の混同と言えるであろう。
また、ベター論である原配管の 60 度制限の撤廃の議論においても、保守性を確認した事例規格の考え方が、必須論的な意味で許容されながら、それよりも過大な荷重に対して耐性を持つことを要求した技術評価書の方法は、ベター論的な意味を必須論的な意味にすり替えてしまったものとも言えるであろう。この意味では二階層の必須論とベター論の混同が生じていたとも言える。
なお、60 度制限の場合は必須とベター論の区別は(今から見れば)容易であるが、WOL 工法向けの PD 制度の導入については、判断がつきにくいところである。一応、本稿ではこれを必須と判断しているが、見方によっては、これをもベター論に位置
づけられたはず、と考える人もいるかもしれない。
5.まとめ
WOL 工法は米国で多くの適用実績を有し、ASME Sec. XI、火原協(現 JANSI)ガイドライン及び JSME 維持規格において規格基準化が進められたものの、適用に当っては、溶接金属内部に進展し た場合の亀裂の検出・サイジング精度の検証、原配管に対する維持規格の周方向亀裂に対する角度制 限の解消が課題とされ、その解決に非常に長い年 月と労力が費やされたが、未だに実機適用例がな いままとなっている。特に亀裂角度制限の問題へ の対応においては、目的と手段の不整合、工学的判 断の排除、必須とベター論の混同という教訓が残 された。本稿は、結果として、労多くして功少なし、となった技術の規格化の経緯から、少しでも後の 教訓を引き出すことをねらったものである。異論、批判もあると思うが、建設的な議論の基となれば 幸いである。
謝辞
本稿の執筆に当り、東北大学の青木孝行先生よ り、貴重なご意見を頂いた。ここに感謝の念を表します。
参考文献
BWR 補修工法ガイドライン[ウェルドオーバーレイ工法](第 2 版), 平成 27 年 3 月, 一般社団法人 原子力安全推進協会 炉内構造物等点検評価ガイドライン検討会
「原子力設備へのウェルドオーバーレイ工法の適用について、平成 16 年 5 月 26 日、機器設計ワーキンググループ」、資料 12-4-2、原子炉安全小委員会
発電用原子力設備規格 維持規格(JSME S NA1- 2002)【事例規格】周方向欠陥に対する許容欠陥角度制限の代替規定(CC-002)
H. Chikahata, et al., Weld Overlay (WOL) UT Joint Study Results, 7th International Conference on NDE in relation to Structural Integrity for Nuclear and Pressurized Components
「発電用原子力設備における破壊を引き起こすき裂その他の欠陥の解釈について」、平成 21 年
12 月 25 日、原子力安全・保安院
「実用発電用原子炉及びその附属施設における破壊を引き起こす亀裂その他の欠陥の解釈」、平成 26 年 8 月 6 日、原子力規制委員会
応力腐食割れ(SCC)に関する現在までの知見の総括、平成 18 年 7 月 5 日、原子力安全・保安院、独立行政法人原子力安全基盤機構
NRC ホームページ、https://www.nrc.gov/about- nrc/regulatory/risk-informed/concept.html