バレルフォーマボルト、炉心そう等のIASCC保全に関する取り組み

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カテゴリ: 第15回
バレルフォーマボルト、炉心そう等のIASCC 保全に関する取り組み IASCC maintenance activities on Barrel Former Bolts and Core Barrel 二菱重工業株式会社 最上 雄一 Yuichi MOGAMI 二菱重工業株式会社 和地 永嗣 Eiji WACHI 関西電力株式会社 池田 惇 Atsushi IKEDA (一社) 原子力安全推進協会 関弘明Hiroaki SEKI Abstract Core barrel is a cylindrical support structure in reactor internals in PWR (Pressurized Water Reactor) plants and a baffle-former assembly and fuel assemblies are placed in it. Barrel former bolts fasten a baffle-former assembly to Core barrel. Core barrel and Barrel former bolts are exposed to relatively high neutron irradiation due to their proximity to fuel assemblies. In order to properly manage the structural integrity of these parts against the degradation caused by neutron irradiation, inspection and evaluation guidelines was established in around 2000. Since then, the guidelines have been updated incorporating such knowledge as operating experience and research results. In this paper, the history of the guidelines including the current activities is overviewed. Keywords: Reactor Internals, Barrel former bolts, Core barrel, IASCC, Maintenance, Guideline 1 緒言 加圧水型原子力発電所(PWR)の炉内構造物におけるバッフル構造は(Fig.1)は、燃料集合体を囲むように鉛 に されたバッフル板、それを炉心そうに固定するフォーマ板、それらを締結するボルトから構成される。バッフル板をフォーマ板に固定するボルトをバッフルフォーマボルト、フォーマ板を炉心そうに固定するボルトをバレルフォーマボルトと称する。バッフル構造は、燃料領域とその周囲の領域を区切り、一次冷却材の大部分を燃料領域に、残りをバッフル板背後のバイパス領域に分する流路形成機能を有する。 バッフル構造は、燃料集合体に近接しており、炉内構造物の中でも比較的高い中性子照射を受ける。炉内構造物の主要材料であるステンレス鋼が中性子照射を受ける と、照射誘起偏析や転位ループの生成などミクロ組織レベルで様々な変化を生じる。PWR 一次系水中では通常、ステンレス鋼には応力腐食割れ(SCC)は起こらないと されているが、一定 上の中性子照射、引張応力条件下において照射誘起応力腐食割れ(IASCC)が発生するこ とが分かっている。 最上 雄一 〒652-8585 兵庫県神戸市兵庫区和田崎町1 丁目1 番1 号、三菱重工業掬 パワードメイン 原子力事業部 機器設計部 原子炉機器設計課 E-mail:yuichi_mogami@mhi.co.jp バッフル構造の中でも特に炉心近くに設置されている バッフルフォーマボルトは、中性子照射量が高く、運転中常に締結等による引張応力が生じていることから、1980 年 、 においてIASCC を原 とするバッフルフォーマボルトの損傷事例が複数報告されている。 こうした事例を受け、国内におけるバッフルフォーマ ボルト保全に資するため、2000 年に火力原子力発電技術協会に発足した「炉内構造物等点検評価ガイドライン検 討会」により、PWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[バッフルフォーマボルト](初版)が発行され[1]、運用されてきた。本ガイドラインでは、バッフルフォーマボルト のIASCC による損傷発生時期の予測評価手法、許容可能損傷ボルト数、点検時期の設定方法等を定めたものである。 バッフルフォーマボルトのガイドライン初版の発行後、同じバッフル構造の構成部品であり、運転中に比較的高 い引張応力が生じる部位としてバレルフォーマボルト、炉心そう(溶接部)についても、IASCC 発生時期の予測評価手法や点検時期の設定方法等を定めたガイドラインとして、PWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[バレルフォーマボルト](初版)[2]及びPWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[炉心そう(] 初版)[3]が2001 年に発行され、 運用されてきた。 これらガイドライン初版の発行 、JNES 事業等によるIASCC に関する知見拡充、応力評価手法の高度化等が行われ、これらの知見を反映して、原子力安全推進協会に移管後の炉内構造物点検評価ガイドライン検討会より、これら3 つのガイドラインの第2 版が2014,-.. 2015 年に発行され[4, 5, 6]、その後も同検討会において改訂を検討継続中である。 ここでは、これらガイドラインを通したバレルフォーマボルト、炉心そうのIASCC 保全に関する評価手法高度化の取り組みを紹介する。 が作用した後、運転中もバッフル構造の熱変形や照射下クリープ、スウェリング等による荷重が作用し、運転時 間と北に複雑に変動する。ガイドライン初版では、ボルトに発生する熱応力のみをFEM 解析で求め、照射下クリープやスウェリング等の効果を別で求めて足し合わせる方法を示している。 Baffle plate Former plate Core Barrel Reactor internals (PWR)Baffle structure Type 304SS 50-60mm in thickness Figure 1 Baffle structure in PWR reactor internals 2 バレルフォーマボルトのガイドライン概要 2 1 ガイドライン初版の概要 炉内構造物点検評価ガイドラインは、炉内構造物各部 品に要求される機能が維持できるよう、合理的な点検・ 評価の方法を示している。バレルフォーマボルトのガイ ドライン初版における点検・評価のフローをFig. 2 に示す。 バレルフォーマボルトの点検時期は、IASCC に関する ー やボルトの中性子照射量、応力等から予測した損傷ボルトの総数が許容損傷ボルト数を超えないように設定する。 バレルフォーマボルトの応力は、製造時に初期締結力 Fig. 2 Inspection and evaluation flow for Barrel former bolts[2] 2 2 ガイドライン第2 版における見直し バレルフォーマボルトのガイドライン初版の発行 、JNSE 事業等による IASCC に関する知見拡充、応力評価手法の高度化等を反映し、新しい知見や手法取り込んだ ガイドライン第 2 版が 2015 年に発行された。ここでは、IASCC に関する知見拡充、ボルトの応力評価手法高度化、 ボルト損傷予測手法の改良について紹介する。 IASCC に関する知見の拡充 2000---2008 年度に JNES「照射誘起型応力腐食割れ(IASCC)評価技術」事業にて、約 70dpa までの実機照射材を用いた定荷重SCC が行われ、その結果を基にIASCC 発生しきい応力線図が定められた(Fig.3)[7]。本図は、割れが発生する可能性のある領域を照射量と応力で示したものであり、ガイドライン第 2 版では本図を基にIASCC 損傷評価を実施する旨を定めている。 IASCC 損傷評価手法が評価ガイドとして提案されており、ガイドライン第 2 版ではこの手法を取り入れている。これは、ボルトの応力がIASCC による割れ発生しきい応力を超えた時点で割れが発生するとする考え方である。この考え方に従い、(2)項で得られたボルトの応力履歴を(1) 項のIASCC による割れ発生しきい応力線図に重ね合わせることにより、損傷時間が求められる。 <全体図><拡大図> バッフル板、フォーマ板、炉心そうそれぞれの接触面に接触条件を考慮 ・ソリッド要素で模擬 Fig. 3 IASCC threshold stress curve[7] ボルトの応力評価の高度化 計算機能力の向上に伴い、ガイドライン初版発行当時 に比べてバッフル構造の変形やボルト首下部の応力をより精緻に評価できるようになった。ガイドラインでは、 スウェリングや照射下クリープを評価式の形でサブルーチンとして組込むことで、熱変形と同時にこうした照射変形の も考慮したFEM 解析手法を示している。ここでは、1 プラントあたり400---700 本程度あるバレルフォーマボルトの首下部のヒーク応力とバッフル構造全体の変形を同時に求めるため、Fig. 4 に示すようなグローバル <ボルトのイメージ> 弾塑性解析で首下ヒーク応力を 接算出 <ローカルモ ルのイメージ> ・ソリッド要素で模擬 Fig. 4 FEM models for barrel former bolt stress analysis[5] [グローバルモ ル] モ ル、ローカルモ ルの 2 つのモ ルを用いるズーミング手法を用いている。バッフル構造全体をモ ル化したグローバルモ ルの変形履歴を、ボルト周辺のみを詳細にモ ル化したローカルモ ルに受け渡すことで、ボ ルト首下部の応力履歴を詳細に評価している。グローバ 0 時間 [ローカルモ ル] バッフル構造 (炉心そう) スウェリング・照射下クリープを考慮 10 万時間50 万時間 ローカルモ ルの境界条件として、駆動節点にグローバル解析で求めた変位を付与 ルモ ルからローカルモ ルヘの ー 受け渡しのイメ フォーマ板 炉心そう 駆動節点 ージをFig. 5 に示す。 ボルト損傷予測手法の改良 JNES「照射誘起型応力腐食割れ(IASCC)評価技術」事業において、Fig. 6 に示す「しきい値モ ル」に基づく バレルフォーマボルト Fig. 5 Data transfer from Global model to Local model[5] 第2 版における点検時期 上記のような最新知見に基づいたバレルフォーマボルトの評価の結果、プラントライフに亘ってIASCC は発生しないとの結果が得られた。また、損傷時に安全機能に しないと評価されていること、国内 でIASCC によるバレルフォーマボルトの損傷が報告されていないことから、ガイドライン第 2 版では「 体的な点検時期を定しない」とした。また、照射量や応力が最も高いバッ フルフォーマボルトの点検結果等に応じて点検を検討していくこととした。 炉心そうのガイドライン初版の発行 、バレルフォーマボルトと同じくIASCC に関する知見拡充に加え、2001 ---2008 年のJNES 事業「複雑形状部機器 管健全性実証」[8]で検証された溶接残留応力評価手法の反映等を反映し、 新しい知見や手法取り込んだガイドライン第2 版が2015 年に発行された。IASCC に関する知見拡充はバレルフォーマボルトの節で紹介したため、ここでは、溶接残留応 力評価手法の高度化について紹介する。 応力 感受性発生までの時間 Fig. 6 Estimation of bolt failure time[5] 3 炉心そうのガイドライン概要 3 1 ガイドライン初版の概要 炉心そうは円筒状の溶接構造体であり、Fig. 7 に示す通り、縦方向、横方に複数の溶接線がある。これらのうち、ガイドラインでは、炉心高さに位置し、最も中性子照射量が高い周方向溶接線(C3)をIASCC の評価・点検対象としている。 炉心そうのガイドラインにおける点検・評価のフローをFig. 8 に示す。炉心そうの溶接残留応力や中性子照射量を考慮した IASCC 評価を行い、プラントライフ中にIASCC の発生の可能性を評価する。IASCC が発生するとの評価が得られた場合には、想定亀裂形状に対して応力集中拡大係数 KIを計算し、破壊靱性値 KIC と比較することで不安定破壊の発生有無を評価する。応力拡大係数が 破壊靱性値を上回る場合には点検実施要と判断する。 ガイドライン初版においては、プラント運転開始後 60 万時間後まで ISASCC は発生せず、万一亀裂が発生しても亀裂の進展は板厚内で停止し、不安定破壊も生じないことから、点検を省略することができるとしている。 3 2 ガイドライン第2 版における見直し Fig. 7 Weld lines in Core barrel[6] Fig. 8 Inspection and evaluation flow for Core barrel[3] き裂安定性評価の変更 損傷予測の変更 溶接残留応力評価手法の高度化 ガイドライン第2 版では、上記JNES 事業を反映した溶接残留応力手法が示されている。炉心そう溶接部をモル化し(Fig. 9)、非定常熱伝導解析を実施して各節点の溶接中の温度履歴を求める。その後、この温度履歴を用いて熱弾塑性解析を実施して溶接残留応力分布を求める。この結果の例をFig. 10 に示す。 Fig. 9 Weld residual stress analysis model [6] Fig. 10 Stress distribution in Core barrel welding cross section [6] 第2 版における点検時期 上記のような最新知見に基づいた炉心そうの評価の結果、プラントライフに亘ってIASCC 発生しないとの結果が得られた。また、 に炉心そう溶接部に亀裂が発生したとしても板厚内で停止し、不安定破壊も生じないと評価されていること、国内 でIASCC による炉心そうの損傷が報告されていないことから、ガイドライン第 2 版では「 体的な点検時期を 定しない」としている。また、照射量や応力が最も高いバッフルフォーマボルトの点検結果等に応じて点検を検討していくこととしている。 4 現状の取り組み 上記のような知見拡充、評価手法の高度化に加えて、 炉内構造物点検評価ガイドライン検討会では、炉内構造物の機能や劣化モードの有無に応じて合理的に点検を行 う仕組みを検討しており、炉内構造物の点検を「一般点検」と「個別点検」に分類している。 2017 年に発行された一般点検ガイドライン第3 版[9]で は、一般点検と個別点検の分類を明 化した(Fig. 11)。一般点検とは、安全機能を有する機器・部品であって、個別点検で想定している劣化事象 の要 による損傷 やその兆候を検出するため、目視(VT-3)により合理的な点検、評価を行うものである。個別点検とは、安全機能を有し、かつ有意な劣化モードのある機器・部品に対し、運転期間中損傷発生の可能性のある有意な経年劣化事象を検出し、劣化モードに応じた手法で行う点検であ る。PWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[バレルフォーマボルト]及びPWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[炉心そう]においては、バレルフォーマボルトと炉心そうは個別点検対象と扱われている。 Fig. 11 Categorization flow for inspection types[9] 一方、前述の通り、バレルフォーマボルト、炉心そう のガイドライン第2 版において、バレルフォーマボルト、炉心そうはプラントライフに亘ってIASCC は発生しないとの評価結果が示されているため、バレルフォーマボルト、炉心そうに対してIASCC は有意な劣化モードでないと判断される。このため、これら部品は、個別点検対象ではなく、一般点検対象として扱われるのが望ましいこととなる。 これまで知見の やそれに基づいた評価手法の高度化、一般点検・個別点検の 理等が進んできているため、バレルフォーマボルト、炉心そうの個別点検評価ガイド ラインは廃止し、一般点検ガイドラインに基づいて点検 を実施していくとの方針で検討が進められている。また、バレルフォーマボルトと炉心そうに対してIASCC が有意な劣化モードでないとした根拠として、これら部品の使 用条件の比較やIASCC 評価例等をバッフルフォーマボルトの点検評価ガイドラインの中に取り込む方針で検討されている。こうした方針を反映し、近くバッフルフォーマボルトのガイドライン改訂第3 版が発行される予定である 。 5 まとめ PWR 炉内構造物のバレルフォーマボルト、炉心そうの IASCC 保全に資するため、PWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[バレルフォーマボルト](初版)[2]及びPWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[炉心そう](初版)[3]が2001 年に発行された。 その後、IASCC に関する最新の知見や評価手法等を反映したPWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[バレルフォーマボルト](第2 版)[5]及びPWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[炉心そう](第2 版)[6]が2015 年に発行され、両部品についてはプラントライフに亘りIASCC が発生しないとの評価結果や国内 プラントでIASCC による損傷事例がないこと等から、「 体的な点検時期は 定しない」とされた。 これまで知見の やそれに基づいた評価手法の高度化、一般点検・個別点検の 理等が進んできているため、現在、炉内構造物点検評価ガイドライン検討会において、バレルフォーマボルト、炉心そうの個別点検評価ガイド ラインは廃止し、一般点検ガイドラインに基づいた点検 を求めていく方針で検討が進められている。また、廃止 されるガイドラインのうち、バレルフォーマボルト、炉心そうのIASCC 評価等に関する部分はバッフルフォーマボルトの点検評価ガイドラインの中に取り込む方針で検討されている。こうした方針を反映し、近くバッフルフォーマボルトのガイドライン改訂第3 版が発行される予定である 。 参考文献 火力原子力発電技術協会 “PWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[バッフルフォーマボルト](初版)”、平成12 年 火力原子力発電技術協会 “PWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[バレルフォーマボルト](初版)”、平成13 年 火力原子力発電技術協会 “PWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[炉心そう](初版)”、平成13 年 原子力安全推進協会 “PWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[バッフルフォーマボルト](第2 版)”、平成26 年 原子力安全推進協会 “PWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[バレルフォーマボルト](第2 版)”、平成27 年 原子力安全推進協会 “PWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[炉心そう](第2 版)”、平成27 年 独立行政法人 原子力安全基盤機構“平成20 年度 照射誘起型応力腐食割れ(IASCC)評価技術に関する報告書” 独立行政法人 原子力安全基盤機構“平成19 年度 複雑形状部機器 管健全性実証に関する事業報告書“ 原子力安全推進協会 “PWR 炉内構造物点検評価ガイドライン[一般点検](第3 版)”、平成29 年
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