マルチコイルプローブを用いた渦電流探傷による磁性材に対する割れ抽出技術
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カテゴリ: 第15回
マルチコイルプローブを用いた渦電流探傷による磁性材に対する割れ抽出技術
Crack Extraction technique for Magnetic Materials by Eddy Current Testing with Multi Coil Probe
(株) 日立製作所
三木
成重
将裕
将史
Masahiro Miki
Soushi Narishige
遠藤
久
Hisashi Endou
Member
日立 GE (株)
東北大学
吉田高木
功 敏行
Isao Yoshida
Toshiyuki Takagi
Member
内一
哲哉
Tetsuya Uchimoto
Member
Abstract
Eddy current testing (ECT) with multi coil probe has been developing for enhancing surface inspection. Defect extraction method based on phase angle of lissajous waveform was effective to identify between defects and noises. This paper describes applicability of crack extraction method for magnetic material. The criteria based on feature of phase angle on magnetic material could extract defects to separate from noises like liftoff using experiment and simulation.
Keywords: Eddy current testing, multi coil probe, magnetic material, phase angle analysis, crack extraction
1 緒言
渦電流探傷法(ECT)は、構造物の表面検査技術を非接触 で定量的に評価できる手法であるため、多くの研究開発がな れている。 らは一 のプローブ 査でを測定できるマルチコイル(アレイ)プローブを用いた検査技術の開発を推進している。
マルチコイルプローブはフレキシブルなシートの上に複数のコイルを配列した構造であるため、一度にを測定でき、構造物の形状に追従して測定できる特性を利用して曲面などの複雑形状部でも検査できる[1][2]。こ れまでに、マルチコイルプローブによる割れ検出性は、ステンレス鋼や高ニッケル合金などの非磁性材に対する測定 が報 れている。また、磁性材に対する割れの検出性 に関しても報 れている[3][4]。
連絡先:三木将裕、〒319-1221 茨城県日立市大みか町7-2-1, (株)日立製作所 研究開発グループ エネルギーイノベーションセンタ 原 カシステム研究部
E-mail: masahiro.miki.np@hitachi.com
一方で、ECT ではリフトオフに代表 れるノイズと割れ信号を識別することが重要である。これまでに、非磁性材においてはマルチコイルプローブの位相角に着目してノイズと割れを識別できることが示 れている[5]。本報
では、磁性材にお る割れ信号の特 を とシレーションで分析し、これらの特 に基づいてノイズを分離して割れ信号を抽出する技術に関して報 する。
2 マルチコイルプローブによる探傷
らが適用を進めているマルチコイルプローブの構成と測定方法について説明する。図1 に示すマルチコイルプローブは複数のコイルを千鳥状に配列した構造であ
、コイルの励磁と検出を電 的に て測定を行
。測定には2 つの測定モードを用いる。 1 の測定モードは、左列に並んだコイルから励磁コイルと検出コイルを組合せて (例 ば、Ev とDv) 測定するV 検出モードである。 2 の測定モードは、左列に並んだ励磁コイルと 列に並んだ検出コイル(例 ば、EH とDH)を組合せて測定するH 検出モードである。コイルの組合せをながら測定することで、割れの進展方向によらず任意の
方向の割れに対して検出できる。
測定例として試 体表面に したノッチの測定体を図2 に示す。表面に沿ってプローブを移動 せて測定を行 。この測定 はC スコープ画像で表示して、割れの表面性状を確認できる。図3 は、磁性材に付与したプローブ長手方向の深 1mm のノッチの測定 である。磁性材の場合、V 検出モードでは正値、H 検出モードでは負値の信号として表示 れる。
また、割れの識別評価にはリサージ 波形を用いる。図4 に示す2 つの は図2 の体 で測定した。リサージ 波形では各検出モードの信号の振幅と位相角0に基づいて評価するが、これらは材料の磁気特性に依存する。 図4 (a)に示す非磁性材のリサージ 波形の特 はV 検出
モードの振幅は大きく0は90゜となる。また、H 検出モ
強い磁束変化が発生する。これは漏洩磁束によるものであ 、磁性材ではこの変化のためH 検出モードで強い信号を検知している。
ECT Detector
Control PC
Multi coil probe
ードの振幅は小 い。図4 (b)に示す磁性材のリサージ波形の特 はV 検出モードの振幅は大きく0は90゜となる。H 検出モードの振幅も大きく、0は250゜である。
Coil
Sheet
E : Excitation coil D : Detection coil V : V mode
H : H mode
Fig.1 Multi coil probe and scan mode on measurement
3 シミュレーションによる検討
前章で示したよ に磁性材と非磁性材のリサージ 波
Multi coil
Test piece
Amplitude Vy [V]
-20+2
形の特 が異なる。この違いをシ レーションによ考察した。シ レーションには変形磁気ベクトルポテンシャル法に基づいた3 次元渦電流解析コードを用いた
[6]。ここでは割れと検出モードの方向がなす角aの2 つの場合に対する を示す。
はじめにV 検出モードに相当するコイル配置でのについて述べる。図5 にaが0゜の場合のコイルおよび試
体断面の磁束密度に関するシ レーション を示す。図5 (a)には解析時のコイルと割れの配置を示し、図5
Measurement area
Notch
Coil position
Y
Probe position
XX
V modeH mode
C scope image
(b)には非磁性材、図5 (c)には磁性材にお る検出コイル近傍の解析 を示す。非磁性材では割れを迂 するよ
Fig.2 Measurement setupFig.3 Result with multi coil for test piece with notchprobe for magnetic material
に渦電流が試 体内部まで流れ、コイルに磁束が発生
する。しかし、磁性材では渦電流が試 体表層部に強く流れ、検出コイルの試 体近傍に強い磁束が発生する。これらの磁束変化をV 検出モード信号として検出する。次に、H 検出モードに相当するコイル配置での に
ついて述べる。図6 にaが90゜の場合のコイルおよび試
体断面の磁束密度に関するシ レーション を示す。図6 (a)には解析時のコイルと割れの配置を示し、図6
y
5
4
3
2
y signal [V]
1
)
(V
号ム
Y
0
-1
-2
-3
-4
-5
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
x signal [V]
Xム号(V)
y
5
4
3
2
y sigYnal [VV) ]
1
(
号ム
0
-1
-2
-3
-4
-5
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
x signal [V]
Xム号(V)
には非磁性材、図6 (c)には磁性材にお る検出コイル近傍の解析 を示す。非磁性材ではコイル内部の磁束変化は小 いが、磁性材では試 体近傍のコイル中心に
Nonmagnetic material(b) Magnetic material
Fig.4 Comparison of lissajous waveform between non-magnetic material and magnetic material
Detection coil
Excitation coil
Flux
2.0
mm
(a) Coil arrangement against slit
Detection coil
[mT]
0.2
0.1
0.0
Coil arrangement against slit
[mT]
0.05
0.025
0.0
Eddy current profile
Eddy current flow direction
-0.1
-0.2
-0.025
-0.05
Result of non-magnetic material(b) Result of non-magnetic material
Notch
Result of magnetic material
Fig.5 Flux density profile due to eddy current flow at α=0
deg. by simulation
(c) Result of magnetic material
Fig.6 Flux density profile due to flux leakage at α=90 deg. by
simulation
4 割れ抽出技術
前章までに検討したV 検出モードとH 検出モードでの
リサージ 波形の特 である信号振幅と位相角に考慮した信号処理によって、割れ信号の抽出技術を開発した。 これまでに非磁性材では有効であることを確認 れているため[5]、磁性材に対する有効性を確認した。
ここでは、表面部をガウジング した試 体での検出試 について説明する。マルチコイルプローブでの測定 を図7 に示す。試 体は磁性材である 合金鋼を
用いた。試 体には2 つのノッチを縦方向に し、点線で んだ の試 体表面部はガウジング した。
technique for the Feedwater nozzles of Nuclear Power Plant Reactor Pressure Vessels.", EJAM, Vol.8, No.4,
NT82, 2017
遠藤久 他, "フレキシブルアレイプローブの欠陥信号自動判定システムの開発", (社)日本非破壊検査協会平成22 年度春季講演大会 講演概要集, 2008, pp.11-12
他, “ノイズを 渦流探傷信号の高 シ
レーション”, 日本 学会 文集(A ),65
638 号, 1999, pp 2024-2031,
Amplitude [V]
これによ 、表面部では試 体とコイルの距離が不均一
-2
Probe position [mm]
0+2
となるためリフトオフノイズが発生する。図7 (a)にマルチコイルプローブでの測定 を示す。V 検出モードの
0 070
Gouged zone
Coil
測定画像において、ノッチ信号の他に、ガウジング部の
境界および中央部でリフトオフによ 生じた強いノイズ信号を測定した。この測定信号に対して、割れ信号の抽 出処理を 施した を図7 (b)に示す。ガウジング部のノイズ信号は除去でき、ノッチ信号のみを抽出できるこ とを確認した。
5 まとめ
マルチコイルプローブを用いたECT の磁性材への適用を検討している。磁性材での割れ信号の特 として、V 検出モードとH 検出モードの2 つの測定方式で強い信号が発生する。特にH 検出モードではシ レーションによ 漏洩磁束に起因することが分った。また、リサージ
波形の位相角に注目した信号処理によ 、ノイズを分離して割れ信号のみを抽出できることを確認した。
参考文献
西水亮 他, "複雑形状部検査のための渦電流探傷シ
ステムの開発", 日本原 カ学会和文 文誌, Vol.7,
No.2, 2008, pp.142-151
Marchand B. 他, "Innovative Flexible Eddy Current Probes for the Inspection of Complex Parts", World Conference on NDT, Durban, April 2012.
三木将裕 他, "マルチコイルプローブを用いた磁性
position [mm]
60
0
Coil position [mm]
60
0
0
Coil position [mm]
60
0
Coil position [mm]
60
Notch 1Notch 2
Defect detection result
V mode
Probe position [mm]70
Defect extraction result
材の欠陥検出性評価", (社)日本非破壊検査協会平成28 年度秋季講演大会 講演概要集, 2016, pp.11-12
"Development of the Eddy Current Testing (ECT)
Fig.7 Result of crack extraction for alloy steel gouged at surface by multi coil probe