九州大学での原子力に関する新たな教育プログラム
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カテゴリ: 第15回
九州大学での原子力に関する新たな教育プログラム
Curriculum for Nuclear Engineering and Radiation in Kyushu University
九州大学
藤本
望
Nozomu Fujimoto
Non member
九州大学
安田
和弘
Keisuke Maehata
Non member
九州大学
前畑
京介
Kazuhiro Yasuda
Non member
Abstract
Kyushu University has education programs of nuclear engineering. So far, the program contents are mainly for technological and theoretical programs. However, workers in nuclear engineering are expected to have wide knowledge of nuclear engineering including latest technology of nuclear engineering, regulation and management of facilities to satisfy safety requirements. Kyushu University has started new program in a field of nuclear engineering. The new program covers wide area of nuclear engineering including reactor engineering, material engineering, radiation monitoring, regulation and management of facilities, etc.. The paper presents outline of new program and present status of it.
Keywords: Human resource, Nuclear Engineering, Regulation, Training, Curriculum
1 緒言
九州大学では、工学部エネルギー科学科、大学院工学 府エネルギー量子工学専攻及び総合理工学府先端エネル ギー理工学専攻において原子力工学教育を行っている。 今回、これまでの教育内容を見直しその充実を図るとと もに、規制に関する視点を加えた新しい人材育成プログ ラムを開発した。本報ではその内容について報告する。
2 これまでのカリキュラムと課題
九州大学での原子力工学に関する教育は、工学部のエネルギー科学科及び大学院工学府エネルギー量子工学専攻及び総合理工学府先端エネルギー理工学専攻で行われている。工学部のエネルギー科学科は定員約100 名の規模である。このエネルギー科学科では、2 年生の前期終了
にエネルギー量子工学コース、エネルギー 工学コース及びエネルギーシステム学コースと3 コースに分かれて教育を実施している。
学部卒業後、エネルギー量子工学コースの学生は主にエネルギー量子工学専攻(定員約30 名)に進み、エネル
先:藤本望、819-0395 744、九州大学大学院工学研究院エネルギー量子工学部門、E-mail: n.fujimoto@nucl.kyushu-u.ac.jp
図1 九州大学での原子力教育体制
ギーシステム学コースの学生の一部が先端エネルギー理 工学専攻(定員約35 名)に進んでいる。Fig. 1 に九州大学での原子力教育体制の概要を示す。
工学部では、工学一般に関する基礎教育が主であり、 熱力学、 理化学、電磁気学、統計力学、量子力学等基礎的な内容の科目が主である。専門的な科目は3 年生において原子炉 理学、エネルギー化学工学、プラ 理工学等が行われている程度である。
大学院のエネルギー量子工学専攻では、原子炉システム、核燃料、核燃料サイクル、原子核 理、放射線計測、放射線防護、原子炉システム、核燃料および核燃料サイクル、材料 射 等原子力工学に関する い を開 し、習得した知識を放射線計測ならびに原子炉材料科学 放射 の い?分 に関する実 科目を
じて実際に体 し、知識の確認と実 技術の基礎を習得できるようになっている。更に、原子力分野で使用され る各種シミュレーションコードの基礎とその操作法を習 得し、 ?実 により学んだ 理現象と数値モデルの相互関係を経 ?理解できるようになっている。表1 にエネルギー量子工学専攻での原子力に関する主要科目を 示す。
先端エネルギー理工学専攻でも、原子核エネルギー理 工学、原子力材料学、放射線基礎、次世代エネルギーシ ステム工学により原子力に関する専門的な教育を行って いる。
1 大学 子 学 での原子力に関する主要科目
講義
・原子炉システム工学
・量子線計測学
・核燃料工学
・エネルギー混相流体工学
・核燃料サイクル工学
・核融合プラズマ工学
実験
・原子力工学基礎実験
・核燃料サイクル実験I
・核燃料サイクル実験II
・原子力数値
シミュレーション
・放射線数値
シミュレーション
このように、九州大学の大学院専攻(エネルギー量子 工学および先端エネルギー理工学)の原子力教育カリキ ュラムは、これまで一定の成 を挙げてきたと考えられる。しかしながら、放射線に関する知識 原子力安全のための運用?法規制等に関する知識では必ずしも十分とは えない。
例えば、実 科目である「原子力基礎工学実 」では、中 子の計測 原子炉中の中 子挙動の理解を目的としたものであり、a線、B線およびッ線などの い放射線計測に関する実 技術の習得には至っていない。
また、「核燃料サイクル実 IおよびII」は、核燃料サイクルに即して関 する材料科学および放射 り
いに関する実 知識と技術を習得するための優れたカリキュラムと考えるが、「原子力基礎工学実 」と「核燃料サイクル実 IおよびII」の相関は薄く、また学生の研究テー (専門 )の違いのためにもあり、双方を受
している学生は少ないのが現状である。
3 新たな人材育成プログラムの概要
目的
原子力の利用において、安全の確保はすべてに優先す るものである。原子力安全の究極の目的は、公衆に対す る放射線の影響の低減である。これを達成するためには
放射線に関する知識
原子力に関する知識と放射線?放射能の関係
原子力安全のための運用?規制等に関する知識
が必要である。
島第一原子力発電所の事故は、巨大システムとしての原子炉の安全 理に対して、専門的な知識とに分野を超えた総合的な思考が重要であることを改めて 知らしめた。他方、原子力の安全な推進のためには安全 と規制の双方に精 することが重要であると く認識されており、原子力安全および原子力規制に必要な知見を 持つ人材の育成が強く望まれている。
原子力の利用は、放射線の持つ 的な の 点から、国の規制の下での利用が認められている。このこ とから、原子力の利用の現場においては法規制について の理解が である。これには、放射線に関する い知識に加えて、原子力分野の他の技術、例えば炉 理、燃料?材料、各種計測技術、保健 理、構造健全 等についての関 を理解することが必要である。
このような 点から、原子力規制庁の原子力人材育成事業に応募し、新たな人材育成プログラムとしての教育 カリキュラムの開発を進めることとした。
目標とする人材像
現 、原子力施設の保安 動においては 保 の考え方が り入れられて来ていること、原子力施設を運営していく組織においては安全文化の醸成が求められてい ること、東京電力 島第一原子力発電所の事故以降、リスクコミュニケーションの必要 が認識されてきていることがある。これらの原子力施設の保安 動での重要な項目についての教育は、将来原子力に携わる学生にとっ て必要 な知識になりつつある。
このようなことから、今後、原子力施設の保安の確保 のためには、原子力についての理論的な知識の上に、原 子力安全を達成するための運用?保守?規制の内容とそ の必要 を理解することが必要であると考えた。
更に、このような法規制と原子力?放射線に関わる技術的な面の相互の関係について、法律に基づく規制だけ でなく、原子力産業に携わる者すべてが理解すべき 理の手法について理解させることは、原子力の人材育成上 重要な点であると考える。
このことから、本プログラムでは、以下のような人材 の育成を目指すこととしている。
い原子力分野の技術、知識を持つ多面的?総合的な思考のできる人材
放射線計測、放射線防護、材料学、原子力安全研 究、保健 理、廃炉?廃棄 処理等原子力工学に関する多 な分野について、 と実習を して理解し、さらにこれらの分野 について 携して考えることのできる人材
基礎知識?技術を習得し、安全?規制の知見を有する人材
原子力工学に関する知識を踏まえ、原子力施設の 安全の考え方とそれを達成するための規制体系、 そのための実際の保守 理、核 防護、 保
といった各種の 動を理解し、具体的な規制の意味を理解できる人材
このような人材の育成を目的として、九州大学におけ る原子力教育カリキュラムに、多面的?総合的な思考のできる人材育成と安全?規制の知見を有する人材育成の
点を新たに加え、実 ?演習項目を整備することによって、より充実した原子力教育カリキュラムの開発を行 うことを目指している。
カリキュラムの概要
本カリキュラムでは、原子力規制の基本となる放射線 防護の基礎知識の習得、原子炉安全工学に必要な材料設 計と分析技術等について学び、理解する。これと せて原子力規制の考え方とその運用について学ぶ。更に、現 場において規制への り組みと運用に関する実例を学ぶ。これらのことにより、「規制?安全」の 点の教育を充実させることを目指す。
具体的には、実 項目の見直しと充実、現場での学習を追加する。更に、実 項目のうちいくつかを演習科目として り上げ、解析を実施することにより一層の理解を図ることとしている。
原子力基礎工学実 の課題追加
中 子の減速?拡散およびッ線エネルギースペクトル計測の内容を見直して、より教育 の高いものへと改定すると に、新たに中 子エネルギースペクトル計測および液シン法によるB線の測定実 を追加する。
具体的な項目は、3He 計数 による中 子計測実 、飛行 法による中 子エネルギースペクトル計測、レムカウンターによる中 子線量計測、Ge 検出器及びNaI(Tl) によるッ線スペクトル計測、液体シンチレーションカウンタによるB線計測である。これにより受 学生は、中
子線、B線、ッ線と い放射線の計測原理と実 技術を習得できるようにする。
ここで学んだ内容は、放射線と の相互作用の理解を めるものであり、原子力規制で用いられる各種の制限値 測定方法の技術的根拠を理論と実際の両面から学ぶことを目指している。
さらに、電子顕微鏡?X 線 素分析実 を新たな教育カリキュラムとして実施する。本テー では走査電子顕微鏡を用いた材料 察の原理と実 手法を学び、材料表面を 察しながら、所望の場所の 素分析を行う手法を学ぶ。
素分析法としては、 来の 体検出器を用いた検出法と最近開発された高エネルギー分解能放射線検出器
( イクロカロリメータ法)を用いたX 線 素分析を行うことにより、 島第一原子力発電所のデブリ分析等に応用できる最新技術についても学ぶ。走査電子顕微鏡法は、材料と電子の相互作用を学ぶ良い題材である。なお、 本実 項目は「原子力基礎工学実 」と「核燃料サイクル実 」の両方の受 者に受 させ、本人の専攻にとらわれることなく、 い知識を習得させる。
これらのことにより、基礎実 項目を放射線全般に関するものに拡充させる。また、演習科目において実 科目との 携を図ることによりより い理解を目指す。
この か、核燃料サイクル実 Iとして、 化 ラミ クスの 及びX 線構造解析実 、材料 実 を辞しする。核燃料サイクル実 IIとしては、水素同位体の分 実 、 沈法を用いた90Sr と90Y の分 実 多孔
体を対象とした熱伝 実 を実施する。核燃料サイクル実 IおよびIIはこれまで実施してきた実 項目であり、引き続き実施する。
演習科目
演習科目として、放射線数値シミュレーションでは放
射線?粒子線解析コードPHITS を用いて、中 子計測実
及び ン 線スペクトル計測の解析を行い、放射線についての理解を めることとしている。
また、原子力数値シミュレーションでは、モンテカルロコードMVP を用いて中 子挙動の解析 、分子動力学計 コードMXDORT を用いた 化 の 解析、伝熱流動解析コードOpenFORM を用いて多孔 体の熱伝実 の解析を行い、実 と せて理解を めることとしている。
原子力特
放射線 ?規制、放射線防護、原子炉に関する技術開発?規制、新規燃料の技術開発?規制、 島第一原子力発電所の廃炉技術および放射線測定?規制に関する特
を新たに開 する。本 は、原子力に関する座学?実 で得た知識を基に、原子力規制を理解することを目的とする。そのため、まず規制の基本となる法体系、 原子力施設、核燃料施設、放射線施設に対する規制の考え方、保健 理等について を行う。
2 特別講義概要と講師
講義概要
講師
1
核燃料 の と 規
学内講師
2
放射線の 応 規
学内講師
3
原子炉プラントの概要と 規
学内講師
4
原子炉材料の試験技術と規制
学内講師
5
放射線防護 人体への
学内講師
6
原子炉規制に わる国の体制等
学外講師
7
核燃料設計と照射ふるま
学外講師
8
規制に対する発電事業者の対応
学外講師
9
放射線計測機の開発と1F 原発廃炉への対応
学外講師
これらの においては、法規制の体系だけでなく、原子力安全を確保するための 保 の考え方、安全文化、核 防護、保障措置といった原子力利用に関する
い内容についてカバーすることを目指す。これらの
は、原子炉 核燃料施設での実務経 を有する本学教員を中 に行う。
その後、原子力発電プラントの運転、保守、設計、製 造に関わる原子力規制の運用と安全を確保するための最 新技術の動向にについて、原子力規制庁の担 者、日本
原子力研究開発 構の研究者、発電事業者 原子力メーカの技術者等による を行う。これにより、安全を確保するための規制の考え方、現場での 保 動、体制の実際について学び、座学 実 で学んだ内容を統合して理解できるようにする。
これらにより原子力の規制?安全に関する教育の充実を図るとともに、廃炉技術開発、デブリ分析、廃棄 処理処分技術等の現状と最新技術についても学習する。
原子力施設見学
本申請プログラムの内容と密接に関 する日本原子力研究開発 構、原子力関 企業等の原子力施設の見学を計 している。特 で学んだ原子力に対する規制施設の保守 理、 保 動等について、現場で実際に目にし、体 する。 せて原子力規制に 事している現地の技術者から規制に対する対応と現場での業務?作業との関係を自分の目で見る 会とする。具体的には、規制を運用するための核燃料および核 の計量 理、放射線 理、 域 理、製造現場での安全 理等の実情を学ぶための見学とする。これにより ?実 ?演習を じて学んだ内容と規制の関係について理解できるようにする。
また、九州大学卒業生を含む第一線で 躍する研究? 技術者と 流する 会を えることも本施設見学の目的の一つであり、知識の のみではなく、将来、 分野で 躍するモチベーションを涵養することも期待している。
4 平成29 年度の実施状況及び今後の計画
カリキュラムは平成29 年度からの開始である。初年度は必要な実 器具等の購入が必要なため、すべての項目を実施することはできなかったが、実施に向けての準備を せて進め、次年度からすべての項目の実施を行う予定である。
1)
本カリキュラムは、大学院での の受 が前 となっている。 についてはこれまでのカリキュラムにって実施した。
2)実 及び演習
原子力基礎工学実 で新たに追加する実 科目のうち、
図 2 電子顕微鏡を用いた実験風景
飛行 法による中 子エネルギースペクトル計測およびレムカウンターによる中 子線量計測は実 テキストの整備及び実 材の整備を行った。これ以外の実 項目は実施することができた。実 風景をFig.2 に示す。
また、演習科目としては、放射線?粒子線解析コードPHITS を用いた、中 子計測実 及び ン 線スペクトル計測の解析、モンテカルロコードMVP を用いて中 子挙動の解析、分子動力学計 コードMXDORT を用いた
化 の 解析、伝熱流動解析コードOpenFORM を用いて多孔 体の熱伝 実 の解析を実施した。
3)特
特 として、表2 に示す を実施した。 には一部参加の学生を含め、25 名の学生が聴 した。また、TV 会議を利用して約25kmはなれた筑紫キャンパスとも接続して を実施し、伊都キャンパス及び筑紫キャンパスの二つのキャンパスで受 できるようにした。特
風景を図3 に示す。
図3 特別講義の風景
4) 原子力施設見学
今年度は、見学の準備として、訪問予定の燃料製造メ ーカ、プラントメーカ、研究炉施設を訪問し、見学の主 旨と目的を説明し、見学の内容 期についての調整を行った。次年度以降、学生による見学を実施する予定で ある。見学においては、それぞれの施設について学ぶと ともに、施設ごとの保守 理 規制対応状況について説明を依頼しており、 で学んだ内容が現場でどのように行われているかを学ぶことができるように計 している。
なお、本教育カリキュラムは原子力規制庁の原子力人材育成事業の補助を受けており、5 年の補助期 となっている。補助期 終了後は、規模は縮小する予定であるが、実 及び演習については引き続き実施する計 である。
特 及び原子力施設見学についても引き続き実施する予定である。特 については、学内 師により規制体系、保健 理、施設の保守 理と い分野をカバーしていることから、規模は縮小することになるが目標とする分野をカバーする は 能であると考えている。
原子力施設見学については、訪問先を減らす等、規模を縮小して継続していくことを考えている。
5 結言
今回の新たな教育カリキュラムでは、 い原子力分野の技術、知識を持つ多面的?総合的な思考のできる人材かつ基礎知識?技術を習得し、安全?規制の知見を有 する人材の育成を目指し、実 項目の見直しと充実、現場での学習を追加した。
平成29 年度は本カリキュラムを実施する最初の年度であることから、一部は準備のみとなりすべてのカリキュラムを実施することはできなかった。しかしながら本カリキュラムの目的である、規制に関する教育及び理論と実際の関係を理解するための と実 演習の関 を理解させることはできつつあると考えている。
平成30 年度からは本カリキュラムを本格的に実施することとなる。これにより、いっそうの教育 を挙げ優秀な人材の育成を行えるように本カリキュラムの継続的な見直しを進めていく予定である。