原子力プラントへの無線技術の適用について

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カテゴリ: 第15回
原子力プラントへの無線技術の適用について Application of wireless technology to nuclear power plants (株)日立製作所 大場 希美 Nozomi OBA 非会員 (株)日立製作所 里見 弘久 Hirohisa SATOMI 非会員 (株)日立製作所 佐藤 義人 Yoshihito SATO 会員 (株)日立製作所 山田 大樹 Hiroki YAMADA 非会員 Abstract High reliability is essential to wireless communication system in nuclear power plants. Since there are many obstacles made of metals in nuclear power plants, most of transceivers are located in the non-line-of-sight environment. The non-line-of-sight environment makes highly-reliable communication difficult. To solve this issue, we have proposed the rotating polarization wave (RPW) communication for instrument control. In this report, the effectiveness of the RPW is evaluated in the actual factory and the nuclear power plant. As a result, we confirmed the following two points: In the case of the conventional radio, the communication quality changes depending on the antenna angles. By applying RPW, we can improve the received power by 6dB and packet error rate by 10 times. These results prove that RPW can communicate more stably than the conventional radio. Keywords: high reliability, wireless communication system, nuclear power plant, non-line-of-sight, RPW 1.まえがき 無線ネットワークは広く社会インフラとして利用されており、原子力プラントでも状態監視等への適用が検討されている。しかし課題の一つとして、プラント内では金属製機器や鉄筋コンクリート(RC)壁により通信が困難なエリア(不感エリア)が発生し、それをカバーするためのアクセスポイントの増加に伴う設置コストの増大があげられる。 その対策として壁越し通信及び回転偏波無線方式を検討し、実証試験を実施した。以降は回転偏波無線方式について報告する。 2.回転偏波無線方式の原理 従来無線方式との比較をFig.1 に示す。 従来無線は、主として偏波(電磁波の振動方向)を固定する直線偏波を活用するのに対して、回転偏波無線では時間と共に偏波が回転する回転偏波を活用する。[1]無線を用いて通信を行うにあたり、送受信機間に障害物が存在し、見通しが得られない環境では直接波を用いた通信が困難となる。 連絡先:大場希美、〒319-1221 茨城県日立市大みか町5-2-1、(株)日立製作所 原子力制御システム設計部E-mail:nozomi.ohba.bq@hitachi.com よってこのような環境下では反射波を用いて通信を行う必要がある。一方で、反射波を用いた無線通信では受信波同士が干渉しあうため、送受信機の位置関係により、減衰量や位相が変動し、通信の信頼性が低下してしまう。信頼性の低下を避けるには、干渉の影響が少ない良好な伝搬路を通過した受信波が必要となる。 回転偏波を用いた場合、複数の受信波の中から、干渉 の影響が少ない良好な伝搬路を通過した偏波角度の信号 を選択し復調することで高信頼な通信を実現できる。さ らに機器の配置変更などで通信環境が変化した場合にも、その都度良好な伝搬路を選択することでロバストな通信 を実現できる。 Fig.1 Comparison with Conventional Radio 弊社工場で回転偏波無線方式の見通し外通信の効果を確認した後、実フィールドとなる原子力プラントにて実証試験を実施した。 3.工場環境での測定 測定条件 弊社工場の模式図と通信試験の送受信点配置をFig.2に示す。 Fig.2 Schematic Drawing and Arrangement of Transmitting and Receiving points 送受信点は280m 程度離して受信点を3点配置し、それ ぞれ受信電力とパケット誤り率(PER)を測定した。送信点の様子をFig.3 に、受信点の様子をFig.4 にそれぞれ示す。 Fig.3 State of Transmission Point Fig.5 Power Attenuation Fig.4 State of Reception Point 測定結果 受信電力の測定結果をFig.5 に、PER の測定結果をFig.6 にそれぞれ示す。なおFig.5は電力減衰を算出し比較した。 Fig.6 Pocket Error Rate Fig.5 より、直線偏波の電力減衰は送信アンテナ角度を変化させると最大で6.2dB 変動することが分かった。また回転偏波と直線偏波の電力減衰を比較すると、最大で7.1dB 受信電力が向上することが分かった。さらに回転偏波は受信点ごとの変動が小さいことが見て取れ、これは受信点ごとに最適な偏波を受信した結果であると考えられる。 Fig.6 より、どの受信点においても回転偏波が優位な特性を示すことが分かる。また直線偏波の一部の角度にて通信困難な地点においても、回転偏波を用いることで通信が可能となることが確認できた。 まとめ 回転偏波を用いることで最大7.1dB 受信電力が向上することを確認した。またこれに伴い、PER が低減することを確認した。以上の結果から、見通し外環境における回転無線方式のカバレッジ拡大効果を確認した。 4.原子力プラントでの実証試験 測定条件 測定は建屋内の階段と金属構造体の多いタービン建屋にて試験を行った。直線偏波無線の通信品質のアンテナ角度依存性確認及び回転偏波無線の直線偏波無線に対する優位性確認のため、階段では受信電力を、タービン建屋ではPER を測定した。 なお受信電力測定時の試験構成をFig.7 に、PER 測定時の試験構成をFig.8 にそれぞれ示す。 Fig.7 Configuration of Received Power Measurement Fig.8 Configuration of PER Measurement 階段での評価 測定箇所の写真と測定環境をFig.9 に示す。階段はB2F から4F まで続いており、B2F~4F 間で電波を受信した際の減衰を測定した。その結果をFig.10 に示す。 Fig.9 Measurement Environment of Stairs Fig.10 Measurement Result of Power attenuation 直線偏波を通信に適用した場合、アンテナ角度による変動が8.7dB である一方、回転偏波の場合は2.7dB に抑えられていることが分かった。また回転偏波は直線偏波と比べ、最大で4.1dB 高い電力を取得可能であり、このことより回転偏波は直線偏波に比べ、アンテナの設置角度によらず安定した通信が可能であるといえる。 タービン建屋での評価 測定環境と送受信点の配置をFig.11 に示す。また各測定点において取得したPER の結果をFig.12 に示す。 Fig.11 Measurement Overview Fig.12 Measurement Result of PER Rx1 を除く全ての地点において、回転偏波が直線偏波の全角度と比較しても優位もしくは同等なPER を取得できることが分かった。なおRx1 地点は送信点から受信点が比較的見通しが確保できる環境にあり、現在実装されている受信方式では、見通し環境下において回転偏波は直線偏波と比較して受信電力が低くなるためである。 まとめ 階段・タービン建屋の両地点において、直線偏波は送信アンテナ角度の影響を受けて受信電力、PER 共に悪化した。このことから直線偏波無線のアンテナ角度に依存した通信品質変動を確認することができたといえる。ま た見通し外環境下では、回転偏波は常に直線偏波の全角 度と比較して優位か同程度以上の通信品質を確保できた。これにより原子力プラントにおいても、回転偏波無線の 直線偏波無線に対する優位性を確認した。 5.結論 工場環境にて回転偏波無線方式の有用性を確認した後、実フィールドとなる原子力プラントにて、回転偏波無 線の不感エリア縮減効果確認のために受信電力と誤り率を測定し、以下の知見を得た。 ・直線偏波無線を発電所内通信に適用した場合、送信アンテナの角度に依存して通信品質が変動する。 ・回転偏波無線を適用した場合、直線偏波無線においてアンテナ角度を最適化した場合と同程度以上の通信品質が確保できる。 ・回転偏波無線の適用により、直線偏波無線と比較して受信電力6dB、パケット誤り率10 倍以上の改善が見込まれる。 以上より、回転偏波無線が直線偏波無線と比較して安定した通信が実現できる見通しを得た。 参考文献 山田大樹、 武井健、 “回転偏波無線による通信カバレッジ拡大効果の評価”、 電子情報通信学会ソサイエティ大会、 2017
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