インバリアント分析技術(SIAT)を利用した非破壊検査の高度化
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カテゴリ: 第15回
インバリアント分析技術(SIAT)を利用した非破壊検査の高度化
Advanced nondestructive inspection using System Invariant Analysis Technology (SIAT)
日本電気(株)
相馬
知也
Tomoya SOMA
Member
東北大学 流体科学研究所
高木
敏行
Toshiyuki TAKAGI
Member
東北大学 流体科学研究所
内一
哲哉
Tetsuya UCHIMOTO
Member
東北大学大学院 工学研究科蔡 世超Cai SHI CHAO
In non-destructive inspection, the probability of abnormality finding in image diagnosis, ECT inspection and so on depends mostly on skills of individuals. Therefore, training of inspectors is an important issue in the maintenance and management of facilities. This study aims at improving accuracy in nondestructive inspection by applying System Invariant Analysis Technology (SIAT) which is one of big data analysis techniques. The feasibility is confirmed by the experiment using ECT this time and it is reported here.
Keywords: ECT, AE, NDT, SIAT, Invariant
1.はじめに
近年、非破壊検査の分野においても人材不足と後進の育成は大きな課題となっている。非破壊検査における異常発見の可否は、画像診断やプローブ走査などの個人の技術や能力によるところが多い。このため、検査者の育成は設備の維持管理において重要な課題となっている。近年、機械学習にみられるように、データ分析技術の 発展はめざましく、従来までは画像認識や音声認識などで利用されてきた技術がメンテナンスの分野にも利用され始めてきている。非破壊検査への適用においては、X 線検査などにおいて、画像を中心としたディープラーニングの利用が考えられる。しかし、学習過程においては
正常データに加え、異常データも学習させる必要がある。このため、非破壊検査の現場における様々な異常検知を行おうとした場合は学習データの準備に課題がある。このようなことから、ディープラーニングの利用は限定的である。
異常データの学習が困難なことに対し、正常データの収集は非常に容易である。このため正常な状態のデータのみを学習させ、異常を検知する技術を使うことができれば、非破壊検査においても機械学習や分析技術が利用可能となる。このような技術が人の能力を補完することで、人材不足の解決に役立つものと考えられる。
本研究は、正常状態すなわち検査現場における検査者の習熟度合からくる計測のブレも考慮した「いつもの状態」を学習し、「いつもとちがう」を検知できる技術であ
るインバリアント分析技術を利用し、非破壊検査における判断の高度化を狙ったものである。
2.インバリアント分析技術の概要
2.1 手法と特徴
インバリアント分析技術は、検査データやプラントの運転情報として得られる時系列データから、それらの関係性を網羅的に抽出する分析技術である1。学習したセンサ間の関係性を対象システムの「いつもの状態」とし、その関係性が変化した時刻と場所をリアルタイムに監視することで、異常兆候を発見することができる(図1)。また、発電プラントなどにおいては、早期に異常兆候を発見できることから、障害が大きくなる前に対処の計画を行うことが可能となるため、設備稼働率の向上につながる。
図1 インバリアント分析技術概要
3.非破壊検査への応用
インバリアント分析技術の非破壊検査への適用可否を
確認するため、渦電流探傷試験(ECT)を例に実験を行った。
ECT における課題
ECT においては、プローブを検査者が手で動かしながら検査を実施する。このため検査対象表面の状態や検査者の熟練度によって、プローブが検査対象から離れてしまうリフトオフによりノイズが生じる。このような状態で得られた信号は実際の異常(亀裂)との区分けが困難である。リフトオフの信号と亀裂の信号を自動的に分離し亀裂のみを検知できるようにすることが求められる。
検証の手順
最初にモデル作成のため、対象となる異常のない材料上でランダムにプローブを動かしモデル用データを作成する。今回の検証では、同時にサンプリングされる3周波数のデータをそのまま利用してモデルを作成した(図2)。
図2 モデル作成用計測の仕組み
データ採取中のプローブは時々斜めになったり、滑りが悪く若干の浮き(リフトオフ)が発生する状況となる。このデータを「いつもの状態」とし、学習データとして用いる(図3)。計測データの波形を見ると、各周波数はほぼ同じような波形をしており、強さ(電圧値)のみが異なっている。このようなデータでモデルを作成した場合、各データ間には強いインバリアントが形成されるが、今回の検証においても想定通りの結果となっている。このため、異常検知に対して有効なモデルが作成されていると考えられる。
図3 Invariant Model 作成手順
作成したモデルがどの程度、誤検知をするかを確認するためスリット周辺でプローブを動かし異常検知を行った。その結果、異常度合いを示すAnomaly Score は上昇せず誤検知はしていないと確認された(図4)。
図4 異常検知の確認(異常なし部分)
次にスリットの検知を実施した。スリット上を通過させるようにプローブを動かしデータを採取した。図5 のデータ波形では、計測の最初と最後にプローブのリフトオフによる信号の乱れが見られる。このデータを使ってインバリアント分析による異常検知を行う。Anomaly Score を確認すると、スリット上では異常度の上昇が顕著にみられるが、リフトオフ部分においては見られない。この結果から、リフトオフによる計測データの乱れはインバリアント分析によってフィルタされ、本来の異常部分のみが検出されていることがわかる(図5)。
図 5 異常検知の確認(異常あり部分)
今回、様々なスリット幅及び周波数を利用して実験を行ったが 100%の検知が可能とはならなかった(表 1)。各実験の計測データを見ると、時間軸に対する計測データのずれに対してモデルが過剰に反応していると考えられる。このためモデル作成及び異常検知の際に適切な前処理を行うことで、すべての異常状態において検出が可能なインバリアントモデルが作成できるものと考えられる。
表 1 計測周波数毎の実験結果
4.今後の展望
今回の実験では、インバリアント分析によるリフトオフのフィルタリングが高い確率で可能であることが確認できた。しかし、検出性能には課題が残った。今後は適切な前処理の検討と実験による確認、モデル精度の向上と実環境での検出性能確認も行っていく。
また、AE への応用も可能と考えられることから、AEセンサを使って同様の異常検知検証を実施していく。
参考文献
[1] 加藤清志,宮崎寛之,相馬知也,高城真弓,ビッグデータ分析とクラウド?異常を見抜くインバリアント分析技術?,NEC 技報,Vol.67 No.2,(2014)