圧力容器モデル合金の照射脆化に及ぼすMn,Ni添加効果
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カテゴリ: 第16回
圧力容器モデ 合金の照射脆化に及ぼすMn N 添加効果
Effects of Mn, Ni addition on radiation induced hardness in RPV model alloys
九州大学 応用力学研究所九州大学 総合理工学府
同上
渡濫 英雄入江 拓也合屋 佑介
Hideo Watanabe Takuya Irie Gouya Yusuke
云貝 非云貝同上
Abstract
The neutron irradiation of Fe based model alloys and steels leads to an increase in the ductile-to-brittle transition temperature (DBTT) with a decrease in the upper shelf energy. It is well known that the Cu content has a strong influence on the embrittlement phenomena; especially, the Cu-rich precipitates have been thought to be directly responsible for the embrittlement. In contrast, mechanical property studies for the steels with different Cu levels have shown that so-called matrix defects are dominant in the embrittlement of low-Cu steels as well as in that of high-Cu steels at high fluences. To study the effect of dislocation loop formation at high fluencies and high flux on radiation hardening in those steels, neutron and ion irradiation have been conducted for Fe-based model alloys with different Ni and Mn levels. The neutron irradiation was performed in BR2 (BAMI and CALLIST) . Hardness tests were conducted before and after the ion irradiation at room temperature. After the irradiations, microstructure was observed by Cs?corrected microscope (ARM200FC).
Keywords: Cu precipitate, dislocation loop, STEM-EDS, Cs corrected TEM
はじめに
原子炉圧力容器鋼は,運転中に中性子照射を受けることにより,照射欠陥が形成され,高経年化に伴い脆化する この照射脆化の主要因として,照射によって導入された点欠陥集合体と考えられるマトリックス欠陥の形成や鋼材中の不純物である Cu や他の添加元素の集合体から成る照射欠陥クラスターの形成などが挙
られる しかし,高照射 でのNi,Mn などによる照射脆化の カ に いて不 な点が い 本研究では圧力容器鋼モデル合金に中性子照射を行い,硬度試験,引張試験及び内部組織観察により溶質原子クラスター・転位ループによる脆化挙動を考察した
実験方法
本研究では、Fe をベースとした 21 種類のモデル合
金と銅濃度の異なる2 種類の実用鋼を使用した。試料の焼鈍条件は、 u e-Fe は800 ℃で1 時間、 の他のモデル合金は 1000 ℃で 24 時間焼鈍した 空冷し、800℃で 1 時間焼鈍する。また、実用鋼である A533B 材の焼鈍条件は900℃1 時間の 664℃で4 時間、600℃ 40 時間の3 段階焼鈍を施した。(表1)
中性子照射は、日本原子力研究開発機構保有のJJR3 炉にて低温低照射(100℃以下、0.0024dpa) とベル
ー・モル研究所に設置されているBR2 炉にて低温高照射(100℃以下、0.24dpa)、高温高照射(290℃、0.1dpa , 0.16dpa)の条件で実施した。
HMV-1-SNJ ビッカース硬度試験機を用いて、荷重条件[1kgf、15sec]で硬度試験を実施した。引張試験は、引張速度 0.2mm/min で行った。引張試験片には SSJ3規格を使用した。硬度の回復過程を熱処理による焼鈍実験により調べた。中性子照射したモデル合金を段階
に 空中で600℃まで30 間熱処理し、熱処理が
、ビッカース硬度を 定した。この実験により、熱処理による硬度の低下幅の大きな温度帯を特定した。
試料には原子炉(BR2)で中性子照射したNi,Mn の含有量が異なるモデル合金を用いた また照射条件( CALLISTO ) は,照射温度 290℃, 照射量8.28X1023[n/m2](約0.16dpa), 照射条件(BAMI)は,照射温度 100℃以下,照射量 1.25X1024[n/m2](約 0.24dpa)である 照射 、 大学の量子 ル ー材料科学国際研究センターにて,硬さ 定並びに引張試験を実施した。また、試料温度を 350℃から 550℃ まで100℃刻みで30 間, 空中で熱処理し,ビッカース硬度試験及び引張試験,内部組織観察を行った
連絡先:渡濫英雄、〒816-8580 春日市春日公園6-1 九州大学応用力学研究所
E-mail: watanabe@riam.kyushu-u.ac.p
実験結果及び考察
(Mn添加効果)
図1に高温高照射(290℃、0.1dpa , 0.16dpa)によるビッカース硬度の変化を示す。図1から、全ての試料において照射量依存性が見られなかった。これは0.1dpa の照射で既に脆化が飽和している為だと考えられる。 Mn を含んでいる試料と含まない試料を比較すると、Mn を含む試料での硬度上昇幅が大きく、Mn による硬度上昇の影響が非常に強い事が かる。
図2にFe-1.4Mn-xNi とFe-xNi の硬度回復実験の結果を示す。図2 から、Fe-1.4Mn-xNi の硬度回復温度の゜ークは、450,... 500℃である事が かる。この結果からFe-1.4Mn-xNi の試料では、熱安定性の高い転位ループが形成されており、脆化の要因として支配 であると推定できる。一方、Fe-xNi の硬度回復温度の゜ークは、350℃,... 400℃である為、硬度上昇の主な要因は転位ループではなく、転位ループの核となる微小Ni クラスタだと推定できる。
(Ni添加効果)
図1よりFe-1.4Mn-xNi の試料では、Ni の溶質
濃度が増加するに従って、硬度上昇幅も増加する。硬 度回復実験の結果から、Fe-1.4Mn-xNi の硬度上昇の要因は転位ループだと推 できる為、Mn が含まれている試料では、Ni の添加が転位ループの形成を促進する働きがあると考えられる。
図3 は、低温高照射(100℃以下、0.24dpa)によるビッカース硬度の変化を示す。図4よりCu を添加した試料と末添加の試料の硬度上昇幅を比較すると、 の差は10HV 程度あり、Cu 0.1wt%では、主要な脆化要因とは言えず、低温照射におけるCu の影響は低い。図4 は高温高照射(290℃、0.16dpa) ビッカース硬度の変化を示している。図4の結果からCuを含んでいる試料は、Cu を含まない試料より、大きく硬度が上昇している。特に の傾向は、Ni,Mn の含有量が い試料で顕著である。これは、微小なCu を核とするクラスターにNi, Mn が集積し、溶質原子クラスターが成長することにより推 できる。
表 1
図 1
MATERIAL
Mn
Ni
Cu
Fe
1
(0.1)
balance
2
0.6
(0.1)
3
1.4
(0.1)
4
0.4
5
0.8
6
1.4
7
1.4
0.4
(0.1)
8
1.4
0.8
(0.1)
9
1.4
1.4
(0.1)
図 2
250
200
Hardness (HV)
150
100
50
0
sample
図 3
参考文献
Watanabe, H., Masaki, S., Masubuchi, S., Yoshida, N., Kamada, Y., Journal of Nuclear Materials 417(2011) 932.
Watanabe, H., Arase, S., Yamamoto, T., Well, P., Onishi, T., Odette, G. R., Journal of Nuclear Materials 471(2016) 343。
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図 4