ジオポリマーを活用した燃料デブリ取り出し工法の提案(その2)
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カテゴリ: 第15回
ジオポリマーを活用した燃料デブリ取り出し工法の提案(その2)
A new method of fuel debris retrieval with geopolymer for Fukushima Dai-ichi NPP (Phase-2)
東京大学
鈴木俊一
Shunichi SUZUKI
Member
東京大学
酒井泰地
Taichi SAKAI
Non-Member
東京大学
岡本孝司
Koji OKAMOTO
Member
The mission of decommissioning of Fukushima Dai-ichi NPP is the long-term, complicated and difficult task. In this paper, a new method to retrieve fuel debris using geopolymer will be discussed.
Keywords: Fukushima, Decommissioning, Fuel debris retrieval, Geopolymer
1 緒言
福島第一原子力発電所の廃止措置で最大の課題である燃料デブリ取り出しは2021 年からの開始に向けて工法の検討が進められている1)。取り出し案として冠水工法と 気中工法が主に検討されているが、格納容器の止水や放 射性核種を含む粉塵の飛散防止など不確定要素は多い。
これに対し、鈴木ら2)、3)はジオポリマーを活用した新しい燃料デブリ取り出し工法を提案している。この工法は、格納容器底部に落下した燃料デブリ表面をジオポリマーで被覆することで、時間経過に伴う性状が変化する燃料デブリや構造物の安定化などが実現できるとの特徴を有する。
昨年、福島第一原子力発電所2号機及び3号機においてPCV 内部調査が行われ、燃料ハンドルや制御棒がPCV 底部において観察された4)、5)。この結果はともに事故時に RPV 底部に制御棒の RPV 貫通孔よりも大きな開口部が生じたことを示しており、燃料デブリ取り出し時にはRPV 底部をより安定な状況にして作業安全を高める必要性があることを示唆している。
このように、福島第一原子力発電所の燃料デブリ取り出しを するためには、現状 びに を えて、数多くの視点から課題を捉える必要がある 。
2 燃料デブリ取り出しのための要求機能
ー放射性物質の閉じ込め機能の確保ー
(1) 燃料デブリ取出し準備の課題
燃料デブリを取り出す前には、先ず閉じ込め機能の強化が必要であり、そのためには閉じ込めを多重化し、最終壁で可能な限り閉じ込めることが重要である。例えば、最終壁としてのPCV での閉じ込めは、高線量作業であり
困難なことから、アクセス容易な原子炉建屋の内面をコーティングする、あるいは他建屋を壊してから原子炉建屋の外を覆うことも対策案の一つと判断される(図1)。その他、空調系は負圧管理とともに、a核種も含めた核種除去可能な空気浄化系の設置や、燃料デブリを取り出す閉じ込め空間は管理しやすいように極力コンパクトとする概念も重要である。
図1 放射性物質の閉じ込めの概念
(2)燃料デブリ取り出し時の課題
燃料デブリ取り出し時において す き課題を 下に示す。
①閉じ込めを確実に行う
・多数の末確認貫通部
・取り出し時のa 粒子等放射性物質飛散防止
・サンドクッション等からの漏えい対策
②安全に燃料デブリを取り出す
・RPV 底部(含むCRD ハウジング)の安定性
・ペデスタル基礎部の安定性
・取り出し環境(線量、温度)
・循環冷却ラインの健全性
・取り出し量・期間
・臨界管理
③ の廃棄物管理をしやすくする
・多種・多量の分散している廃棄物分別・管理
上記の課題を満たす手順を図2 に示す。
図2 燃料デブリ取り出し手順
①先ず上記原子炉建屋の閉じ込めを行う。
②ジオポリマーを充填する前に、内部状況についてサンプリング等により調査を行い、燃料デブリを含む放射性物質がどこにあるかを十分に把握する。
③燃料デブリを冷却するため、アイソレーションコンデンサーを活用した冷却配管あるいはヒートパイプなどの受動的安全性を有する冷却システムを燃料デブリ周辺に設置する(図3)。
図3 燃料デブリ冷却システム
④PCV 底部を安定化しPCV とS/C を隔離する。
⑤PCV 内にプラットフォームを構築、あるいは下部充填によりRPV 底部にアクセスし、RPV 底部及びCRD ハウジングを安定化する。
⑥切断はPCV 内部から燃料デブリを直接取り出すか、あるいはペデスタル自体をワイヤーソー
にて輪切りし、燃料デブリを細断して取りだす。
3 ジオポリマーの活用
ジオポリマーはアルカリシリカ溶液とアルミナシリカ 粉末の脱水縮合反応によって形成される非晶質ポリマーの総称であり6)、耐放射線性・耐熱性・核種浸出性が低い等の特徴を有しているため、福島第一原発の廃棄物固化などの分野への適用が検討されているが7)、本工法への適用のためには施工性に関する検討が必要である。
本研究では、ジオポリマーに関して先の工法の実現に要求されるa. 輸送機能、b. 拡散機能、c. 固化機能の3つの機能について試験を実施した。
具体的には各機能に対応する試験として、a. 漏斗試験、
b. スランプ試験、c. 固化試験を行った。スランプ試験については、試験環境として気中/水中の2 種類を設け、気中環境では床面温度を25/50/80 ℃に、水中環境では床面温度25/80 ℃に設定し試験を行った。試験材料としては、Amec Foster Wheeler plc(現、Wood Group)が開発したSIAL?と呼ばれるジオポリマーを用いて、混練開始から の経過時間によって粘性の異なる3種類の試験体を用い て試験を実施した。また、実際に利用する際には、遮蔽 性能の向上や燃料デブリの再臨界防止を目的とした添加物を付与する可能性もあるため、金属粉末の添加の有無 が流動性にどのような影響が与えるか確認した。
く工法の成立性に関する 察> a 輸送機能
漏斗試験の結果から、ジオポリマーの輸送性能はフレッシュコンクリートやモルタルと比較して同等 上の性能を有していることが判った(図4)。セメントペーストと比 ても混練後 2 時間が経過するまではジオポリマーの方が低粘性であり、想定される施工時間において十分な流動性を保持して輸送可能であると判断される。
図4. 漏斗試験結果
拡散機能
スランプフロー試験の結果を図5に示す。図で A,B は、それ れ混 後 2 時間経過、4 時間経過したサンプルを示し、水中及び気中で温度を変えて試験を行った。試験結果から、粘度が するまではジオポリマーは のセメント系材料と同等の拡散性能を示した。水中での拡散性能については、20℃の条件下ではスランプフロー値は同温気中条件よりも大きくなる一方、高温水中の条件下では同温気中条件よりも温度の影響が大きくなった。
図5 スランプフロー試験結果
図5から、温度の上昇に伴ってフロー値が減少し、水 中では 加する傾向がみられるが、それ れジオポリマーの脱水縮合が加 および遅延したためと えられる。ただし、80℃水中条件のフロー値は同温気中条件よりも小さい値となったが、この理由として熱水中では周囲か らも熱が伝達されたため固化が促進されたと えられる。
c. 固化機能
スランプフロー試験の結果より、8 ℃ 下の水中条件でジオポリマーが固化することが分かった。また、燃料デブリは現状水冷により十分に冷却されているが、中心部は ℃ い高温との 結果もあるため、気中 ℃ の条件での固化状況を把握した。高温気中環境ではジオ ポリマー生成に重要な水分が蒸発するため、多孔質の固体となったが、その上にジオポリマーを流し込むと均一形状のジオポリマーが生成された。この理由として、第一層目のジオポリマーが熱遮蔽材として機能し、第二層の生成を可能にしたと判断される。
上のことから、ジオポリマーは高温気中条件でも多重流し込みの多層構造構築により、施工可能となることが示唆されるが、表面を冷却する水スプレーとの併合に より、より安定した充填が可能になると判断される。
新 燃料デブリ取り出し
実験結果等から、ジオポリマーを活用して一 固化により安定化してから燃料デブリを取り出す手法は、安全、合理的、かつ な工法として有 であると判断される。図6はジオポリマーによりPCV 底部及びRPV 底部を固化し、PCV 内に作業プラットフォームを構築して燃料デブリを取り出す工法である。PCV 底部を固化することにより、PCV とS/C の隔離、RPV ペデスタルの補強、取り出し時の飛散防止などを図ることができる。また、RPV 底部及びCRD ハウジングは固化によって取り出し時に燃料デブリが落下することなく、取り出しが可能となる。 なおジオポリマーに鉄ビーズ、ボロンビーズなど充填剤を添加することにより、遮蔽の強化や臨界防止などの機能を追加することも可能となる。
く燃料デブリ取出しに関する新 >
ージオポリマー等で燃料デブリを準安定化してから取り出すー
基本概念:
シンプルかつコンパクトに取り出しを行う
(閉じ込め空間を極力小さく)
RPV底部、ペデ底部に
準安定化処理
ジオポリマー等を注入して燃料デブリを準安定化
ペデ内外にプラットフォーム
作業プラットフォーム
を新設して燃料デブリを
取り出し
図6 ジオポリマー充填工法(その1)
図7は、より広範囲にジオポリマーを流しこむことにより、PCV 内のプラットフォームをより容易に構築する工法である。燃料デブリが堆積しているCRD ハウジングは上部からのアクセスが困難であり、また からのアクセスも上下作業となるため困難が伴う。落下防止を図り ながら、本作業を行うためには、RPV の下部に機構を設置するよりも、充填してから取り出し作業を行う方がよりシンプルな工法と えられる。本工法は充填中にプラットフォーム外枠を挿入して、最終的に充填する工法であるが、プラットフォームを造らずに全体を充填してから、ワイヤーソーにより切断する方法もオプションとして えられる(図8)。図9は燃料デブリ周辺はジオポリマー、その他は沈降型超重泥水を使用する工法である。ここで,沈降型超重泥水はNB 研究所が開発した比重の重い充填材であり8)、高粘性材料のため燃料デブリ掘削時
5 結論
大規模燃料デブリ取り出しには、燃料デブリを安定化 した後、放射性物質を閉じ込めながら取り出すことが有効である。実験によりジオポリマーの施工性の評価を行 った結果、ジオポリマーが実機環境を想定した条件下で輸送・拡散・固化の各工程において施工性を備えていることが示され、ジオポリマーを用いた大規模燃料デブリ取り出し工法の成立可能性が示された。
図7 ジオポリマー充填工法(その2)
取り出し (3)
燃料デブリ取り出し
(PCV内にて、ペデ内作業
し)
・ペデスタル内を安定化後、燃料デブリをワイヤーソーにて切断
(最もシンプル )
ワイヤーソー
で切断
図8 ジオポリマー充填工法(その3)
に発生する微小粉末を飛散させずに閉じ込める機能を有する。また、施工後不要になった際には流し取ることが可能なため、燃料デブリ 外の場所に本材料を適用することにより、よりシンプルな取り出しが可能になると判 断される。
取り出し ( ) 燃料デブリ取り出し
(PCV内にて)
・デブリ周辺はジオポリマー、その他は沈降型超重泥水 で安定化し、上下作業を分離して切断
(飛散防止、回収簡素化)
ワイヤーソー
で切断
沈降型超重泥水
ジオポリマー
図9 ジオポリマー+沈降型超重泥水充填工法
謝辞
ジオポリマー(SIAL?)を使った実験や実験結果の討論等で富士電機株式会社およびWood Group plc.に多大なご協力を頂いた。また沈降型超重泥水については NB 研究所及び早稲田大学から多くの技術アドバイスをいただいた。この場を借りて感謝の意を表する。なお、本内容は、文科省「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業 廃止措置研究・人材育成等強化プログラム」の東京大学「遠隔操作技術及び核種分析技術を基盤とする俯 鰍的廃止措置人材育成」における成果の一部である。
参 文献
原子力損害賠償・廃炉等支援機構, “東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2015”, (2015)
鈴木俊一、田村雄介、岡本孝司、“俯鰍的アプローチによる福島第一廃止措置の新たな工法検討”, 日本保全学会第13 回学術講演会要旨集, (2016)
鈴木俊一、岡本孝司、“ジオポリマーを活用した燃料デブリ取り出し工法の提案”, 日本保全学会第 14 回学術講演会要旨集, (2017)
東京電力 HD株,“福島第一原子力発電所 3 号機原子炉格納容器内部調査について”、2017 年11 月30 日
東京電力 HD株,“福島第一原子力発電所 2 号機原子炉格納容器内内部調査実施結果”、2018 年2 月1 日
川尻留奈、他、”ジオポリマーの基礎物性と構造利用に関する基礎的研究”, コンクリート工学年次論文集Vol.33 (2011)
特定原子力施設放射性廃棄物規制検討会 (第5回) 東京電力ホールディングス株式会社,”水処理二次廃棄物の処理にむけた検討状況”、2-17 年2 月10 日
NB 研究所提供資料