オーステナイト系ステンレス鋼溶接金属の衝撃特性に及ぼす熱時効の影響評価

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カテゴリ: 第16回
オーステナイト系ステンレス鋼溶接金属の衝撃特性に及ぼす熱時効の影響評価 Effect of thermal aging on impact behavior of austenitic stainless steel welds 東北大学 大学院工学研究科 阿部 博志 Hiroshi ABE Member 東北大学 大学院工学研究科 黒山 結音 Yuito KUROYAMA Non- Member 東北大学 大学院工学研究科 渡邊 豊Yutaka WATANABE Member Austenitic stainless steel welds typically have duplex microstructure with a few to over 10 % of 8-ferrite in austenite to prevent hot cracking during solidification. Therefore, austenitic stainless steel welds are also susceptible to thermal aging embrittlement similar with cast duplex stainless steels (CDSSs). Although microstructural morphologies of 8-ferrite in austenitic stainless steel welds is different from that of CDSSs, the effect of that on an thermal aging embrittlement behavior is not fully known. In this study, the effect of microstructural anisotropy on a thermal embrittlement of welds has been investigated. Charpy absorbed energy decrease ratios with thermal aging depends only on the ferrite content, whether weld metals or cast duplex stainless steels. It has been suggested that the previous knowledge about thermal aging behavior of duplex stainless steels can be applicable for that of stainless steel welds. Keywords: Thermal aging embrittlement, Weld metal, Austenitic stainless steel, Charpy impact test 1 緒言 原子力発電プラントにおいて注視すべき高経年化事 の 1 つとして、二相ステンレス鋼の熱時効がある。従来二相ステンレス鋼の熱時効脆化は、豊富なデータと H3T モデル(脆化予測式)[1]に基づいて適切に評価・管理されている。また、フェライト量 14%以下では熱時効による有意な靭性低下は生じないとされている。一方でステンレス鋼溶接部についてはその定めがなく、時効脆化挙動の把握が必ずしも充分ではない。 ーステ イト ステンレス鋼溶接金属は溶接時の高温割れ防止の観点から、y 相中に数~十数%の 8 相を含 二相組 となっており、原子 温度に 時されると二相ステンレス鋳鋼と同様に熱時効脆化する可能性がある。例えば PWR 配管溶接部は、成分調節によりフェライト率が数%程度のため、時効による靱性低下が顕在化してもその程度は小さい。一方 BWR 配管溶接部では、フェライト率が 10%を超えてネットワーク状に分布する場合があるため、溶接部の脆化特性に即した時効脆化管理方法を検討しておく必要がある。加えて、溶接金属の靱性は異方性を持つことが一部で指摘されている。 したがって、溶接金属と二相ステンレス鋳鋼の熱時 連絡先: 阿部 博志、〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-01-2東北大学 大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻、電話 022-795-7911、e-mail hiroshi.abe@qse.tohoku.ac.jp 効脆化挙動の違いの有無を明確にし、二相ステンレス鋳鋼の既存知見の溶接金属への活用可否や、溶接金属の評価に際しての新たな課題について検討する必要がある。 研究では、熱時効された ーステ イト ステンレス鋼溶接金属と二相ステンレス鋳鋼を対 としてシャルヒー衝撃試験ならびに破面観察を実施し、両者の比較を行った。 2 試験方法 供試材と熱時効条件 供試材は SUS316L 溶接金属、比較材として ASTM CF8 に相当する組成の二相ステンレス鋳鋼を用いた。供試材の化学組成を 1 に す。フェライト量はそれ ぞれ 9.5 %程度と同程度であった。組 観察結果に基づいて、シャルヒー衝撃試験片の採取方向を決定することとした。 熱時効温度は 475cとした。熱時効脆化の主原因は 8 相が相分離し硬化することであるとされている[2]ため、8 相の硬さを脆化の程度を測る尺度とした。山田ら[3] は種々の CF8M における 8 相初期硬さと熱時効による最大到達硬さをまとめており、8 相硬さが荷重 25 g での測定で 600 HV*(25 g)を超えると材料の吸収エネルギーは概ね飽和すると報告している[4]。この知見を参 Table1 Chemical composition of the materials, wt% 考に随時 8 相硬さを測定し、十分に脆化したと判断される熱時効材をシャルヒー衝撃試験に供した。 シャルピー衝撃試験 試験には標準サイ'(55 mmx10 mmx10 mm)の V ノッチ付きシャルヒー衝撃試験片を用いた。試験は JIS Z 2242 または ASTM E23 に準じて実施された(試験温度 -196、-100、25、150、280c)。続いて、シャルヒー衝撃試験後の破面に対して SEM 観察を行った。 3 試験結果ならびに考察 金属組織観察結果と試験片採取方向 各供試材の微視組 を図 1 に す。SUS316L 溶接金属は FA(初晶 8)モード凝固組 であるバミキュラー8 が大部分を占めていた。さらに、3 次元的な組 の特徴を図 2 に す。板厚方向にバミキュラー8 が直線的かつ連続的に成 しており、T-L 面では断続的となっていることが確認できる。バミキュラー8 は 8/y 相界面の整合性が悪く[5]、かつ 8 相の優先成 方向とへき開面が一致する[6]ため、き裂の進展経路になりやすいと考えられる。このバミキュラー8 が溶接金属厚さ方向に直線的かつ連続的に分布していることから、溶接金属厚さ方向にき裂が進展するようにシャルヒー衝撃試験片を採取することとした。 熱時効材のフェライト硬さ測定 熱時効に伴う各供試材の 8 相硬さを図 3 に す。SUS316L 溶接金属は 5000 h 時効後に約 700 HV*(25 g)に達したため、5000 h 時効材を用いることにした。一方 CF8 は 3000 h 時効後に 1000 h と変わらず約 600 HV*(25 g)であったことから、十分に脆化していると判断し 3000 h 時効材を用いることにした。 シャルピー衝撃試験結果と破面観察結果 供試材の未時効時および時効後の吸収エネルギーと試験温度の関係を図 4 に す。供試材の吸収エネルギーは時効により顕著に低下し、室温ではSUS316L 溶接金属、CF8 共に 50 %程度低下した。SUS316L 溶接金属は採取位置により試験片を区別したが、有意な差はみられなかった。ここで過去の知見[4, 7-16]の溶接金属および二相ステンレス鋳鋼の未時効時および充分に脆化した後の室温における吸収エネルギーと 研究結果のそれを図 5 において比 較する。図 5 からわかるように吸収エネルギーの低下率はフェライト量に依存し、溶接金属と二相ステンレス鋳鋼でその傾向に大きな差はない。そのため、 吸収エネルギーの初期値が低い溶接金属は、吸収エネルギー底値が低い傾向を している。溶接金属の吸収エネルギー初期値がばらつく原因はさらなる調査が必要だが、吸収エネルギーの低下率については二相ステンレス鋳鋼の知見を溶接金属に活用できる可能性が唆された。 図 6、7 にSUS316L 溶接金属および CF8 の室温におけるシャルヒー衝撃試験後の破面を す。図 6 に すように SUS316L 溶接金属の破面は未時効時はディンプルに特徴付けられる延性破面を すが、時効後の破 Fig.1 Microstructures of (a) SUS316L welds (b) CFS Fig. 3 microstructural image of SUS316L welds Fig.3 Hardening behavior with thermal aging at 475 ℃ 面ではディンプルは観察されず、比較的平坦な破面上に 8 相が観察された。これは熱時効により 8 相が硬化 したことで 8 相がへき開破壊しやすくなり、直線的か つ連続的に分布している 8 相をき裂が優先的に進展し Fig.4 Relationship between charpy absorbed energy and temperature Fig.5Relationship between ferrite content and charpy absorbed energy decrease ratio Fig.6 SEM images of fracture surface at RT of the charpy impact specimen of SUS316L welds non-aged (b) aged at 475 ℃ for 5000 h Fig.7 SEM images of fracture surface at RT of the charpy impact specimen of CFS (a) non-aged (b) aged at 475 ℃ for 3000 h たためと考えられる。図 7 に すように CF8 の破面においてもディンプルが観察されたが、SUS316L 溶接金属のものと比較するとディンプル径が大きなものが多い。時効後の破面では大きなディンプルの中心に 8 相が観察され、8 相がディンプルの発生源になっていると考えられる。熱時効された二相ステンレス鋳鋼はこのような破面を呈することが知られており[17]、 試験結果も従来知見と傾向が一致した。 4 結言 熱時効された ーステ イト ステンレス鋼溶接金属と二相ステンレス鋳鋼を対 としてシャルヒー衝撃試験ならびに破面観察を実施し、両者の比較を行った。 熱時効に伴う吸収エネルギーの低下率は概ねフェライト率で整理が可能で、溶接金属と二相ステンレス鋳鋼の に大きな違いが無いことを実験により した。したがって、吸収エネルギーの低下率については二相ステンレス鋳鋼の知見を溶接金属に活用できる可能性が 唆された。一方でステンレス鋼溶接金属の靱性が異方性を有するかについてはさらなる検証が必要と考えられ、例えば破壊靱性試験による評価が望まれる。 謝辞 研究は科学研究費補助金(15H05564)の助成を受けた。ここに記して感謝の意を す。 参考文献 Kawaguchi, S., et al., Proceedings of ASME PVP 2005, PVP2005-71528, (2005). Chung, H. M., and Leax, T. R., Materials Science, Vol. 6, (1990), pp. 249-262. 山田卓陽, 根岸和生, 工藤大介, 桑野寿, INSS Journal, Vol. 7, (2000), pp. 145-158. Yamada, T., Okano, S., Kuwano, H., Journal of Nuclear Materials 350, (2006), pp. 47-55. 井上裕滋, 小関敏彦, 新日鉄技法第385号, (2006). 神谷修, 熊谷一男, 菊地靖志, 溶接学会論文集, Vol. 9, No. 4, (1991), pp. 525-531. Chopra, O. K., NUREG/CR-4513, Rev. 1, ANL-93/22, (1994). Gavenda, D. J., Michaud, W. F., Galvin, T. M., Burke, W. F., and Chopra, O. K., NUREG/CR-6428, ANL-95/47, (1996). Chandra, K., et al., Materials Science and Engineering A 534, (2012), pp. 163-175. Lucas, T., Forstrom, A., Saukkonen, T., Ballinger, R., and Hanninen, H., Metals & Materials Society and ASM International, Vol. 47A, (2016). Alexander, D. J., Alexander, K. B., Miller, M. K., Nanstad, R. K., NUREG/CR-6628, ORNL/TM-13767, (2000). Li, S., Wang, Y., Li, S., Zhang, H., Xue, F., Wang, X., Materials and Design 50, (2013), pp. 886-892. 三浦靖史, 澤部孝史, 新井拓, M&M2015 材料力学カンファレンス, (2015). 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