コンクリート構造物のASR診断方法に関する評価

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カテゴリ: 第15回
コンクリート構造物の ASR 診断方法に関する評価 Evaluation on ASR diagnostic method for concrete structures 三菱総合研究所 江藤淳二 Junji ETOH Member 東北大学 五十嵐豪 Go IGARASHI NON - Member 太平洋コンサルタント 小川彰一 Shoichi OGAWA NON - Member 太平洋コンサルタント 渋谷和俊 Kazutoshi SHIBUYA NON - Member 名古屋大学 丸山一平 Ippei MARUYAMA NON - Member 国立環境研究所 山田一夫 Kazuo YAMADA NON - Member 三菱総合研究所 滝沢真之 Masayuki TAKIZAWA Member Abstract Recently, many concrete structures such as bridge piers of the highway, damaged by Alkali Silica Reaction (ASR) have been observed in Japan. From this background, based on the latest knowledge of domestic and international, the ASR diagnostic method that emphasizes the petrological examination after the core sampling was proposed on Japan Nuclear Energy Safety Organization (JNES) report. In this research, in order to confirm the effectiveness of ASR diagnostic method for concrete structures proposed in JNES report, various petrological examinations were performed on core samples collected from concrete specimens with different degradation progress phases, and the ASR diagnostic method was evaluated . Keywords: ASR, Concrete core, Aggregate, Diagnostic method , Aging management 1 諸言 これまで日本ではアルカリ骨材反応(ASR)によって劣化を生じた構造物の事例は、急速膨張性を示す骨材によるものが多数報告されてきたが、近年では遅延膨張性 骨材 1)(10 数年以上経過してからコンクリートにひび割れを生じる。)よる劣化事例が報告されている2), 3)。 このような背景のもと、旧独立行政法人原子力安全基盤機構(旧JNES)が、RE レポート(以下、JNES レポート)として、国内外の最新知見に基づき、コア試料採取後の岩石学的試験を重視したコンクリート中に生じたASR の診断方法を提案している4)。Fig.1 に提案されているコンクリート構造物のASR 診断フローを示す。本診断フローでは、日常点検によるひび割れ等の外観の変状を 検出、既存記録の調査、現地調査と進み、ASR が疑われるような部材であれば、環境及び変形のモニタリングを行い、その結果に応じてコンクリートコアを採取し、各種岩石学的評価を行うことが提案されている。 そこで、本研究では、各種岩石学的評価の適用性検証を目的として、劣化進行段階の異なる各種の供試体より 採取したコアサンプルを対象に各種試験結果の比較を行い、ASR 診断方法を評価した。具体的には、劣化進行段階の異なる各種の供試体に対して、コアの外観観察(可視光観察、実体顕微鏡観察、ASR 蛍光試薬を用いた観察 (蛍光法)、コンクリート薄片観察(フィルムスキャナによる写真撮影、偏光顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡観察 (SEM)等を実施し、提案されているASR 診断方法を評価した。 Fig.1 ASR diagnostic method for concrete structures (proposal)4) 連絡先:江藤 淳二、株式会社三菱総合研究所、 〒100-8141 東京都千代田区永田町2-10-3、 E-mail: junji_eto@mri.co.jp Fig.1 (continued) ASR diagnostic method for concrete structures(proposal)4) 2 試験体作製 各種岩石学的評価に用いるコアを採取し、ASR 反応性 評価において必要な試験体の基礎データを取得するため に、アルカリ量、促進程度(促進養生温度、あるいは促 進材齢)が異なるコンクリート試験体(RILEM AAR-3 または AAR-4 に準じた方法で作製した試験体)を作製し、この試験体からコアを採取して外観観察及び岩石学的評 価を実施した。反応性粗骨材には骨材TO(急速膨張性骨材)及び骨材WI(遅延膨張性骨材)を、非反応性粗骨材及び細骨材には骨材 IO(石灰石骨材)を用い、普通ポルトランドセメントを使用した。Table 1 にコンクリートの調合を示す。また、ASR による劣化進行段階は、試験体の膨張率と膨張が飽和に達する期間(養生を継続しても膨張が大きく継続しない材齢)等を考慮して設定した。設定した劣化進行段階をTable 2 に示す。 基礎データとして、コアを採取するコンクリート試験体の膨張率変化を測定した。作製した試験体の膨張率の測定結果をFig.2 に示す。コア採取は、Table 2 で設定した劣化進行段階に達した状態で実施した。 Table 1 Mix proportion of concrete Table 2 Degradation progress phases コアを採取した時の膨張率のプロットは、大きいサイズで表示している。凡例の( )内は、(使用骨材(骨材TO の場合は省略)又はフライアッシュの有無))ーアルカリ量 (30, 55)ー養生温度ー劣化進行段階(m, 1)を表す。 Fig.2 Measurement results of ASR expansion of the prepared concrete specimen 3 試験結果 外観観察 可視光源下の展開写真 採取直後のコア表面が乾かないうちに水膜ができるように十分な水で濡らした状態で市販のポリ塩化ビニリデン(PVDC)製ラップで包み、その上から湿布で包んだ状態で 間以上経過した後、コンクリートコアを し外観観察を行った。可視光源下で撮影した画像から作成した展 写真例を図4.9 に、観察結果のまとめをTab1e 3 に示す。図 4.9 に示されるように、中期から後期にかけて反応性骨材に反応リムが生じ、コア側面全体を白色のASG が覆っている様子が確認されたことから、ASR 診断への有効性があると判断できる。 Table 3 Summary of observation results Fig.3 Example of observation results of concrete core samples (5538, 75 mmx141 mm) 実体顕微鏡観察 コンクリートコア側面の観察を行った後、小割切断機で半分に油式切断し、アセトンで切削油を洗い流し、1 日程度 した後、実体顕微鏡観察を行った。Fig.4 の側に実体顕微鏡による撮影画像例を示す。なお、右側には 側の撮影画像に用いた同一切断面のマクロ写真を示す。反応性骨材のASG の滲み出し、反応リム、ひび割れといった様子が確認されたことから、ASR 診断への有効性があると判断できる。 Fig.4 Example of cutting surface observation results of concrete core samples by stereoscopic microscope (3038l) UV 光源下での展開写真(蛍光法) 蛍光発色試薬により、アルカリシリカゲル(ASG)は短波長UV 光下で緑色に蛍光反応を示す。そのため、ASG を容易に観察でき、コアの外観観察の段階におけるASG の検出に有効と考え、蛍光法を実施した。コンクリートコア側面の可視光での観察を行った後、前処理として、蛍光発色試薬(ファースト社製)を塗布し、ポリエチレ ンフィルムで包んだ状態で30 分以上経過した後に、フィルムを取り外し表面の余剰な試薬を乾燥させた。照明には、短波長(254nm)UV ランプ(アズワン、SUV-16x2台)、カメラには、デジタル一眼カメラ(SONY、a 7R II、4240 万画素、35mm フルサイズCMOS センサー、E30mm F3.5 マクロレンズ)を用いた。短波長(254nm)UV 光源下で撮影した画像から作成した展 写真例をFig.5 に、観察結果のまとめを Tab1e 4 に示す。可視光による外観観察と比較してコア側面全体をASGが覆っている様子が明確に確認されたことから、可視光源下での展 写真に加えて蛍光法を実施することでASR 診断への有効性があると判断できる。 Fig.5 Example of observation results of concrete core samples by fluorescence method (5538, 75 mmx141 mm) Table 4 Summary of observation results (fluorescence method) 岩石学的評価 コンクリート薄片の偏光顕微鏡観察 コンクリート薄片の偏光顕微鏡写真例を Fig.6 に示し、各劣化進行段階における偏光顕微鏡写真例をFig.7に示す。薄片全体の分布情報(モルタル、反応性粗骨材、非反応 性粗骨材、ひび割れ、気泡の位 関係)は限定されるが、粗骨材、細骨材の岩種及び鉱物組成、反応性骨材内や反応性骨材からペーストマトリクスへと延びるひび割れや、ひび割れや気泡を充填するASGを微細なレベルまで観察 可能であることが確認されたことから、ASR 診断への有効性があると判断できる。 Fig.6 Example of observation results of concrete core samples by polarization microscope (5538l, x20, 4.9 mmx7.3 mm) Fig.7 Example of observation results of concrete core samples by polarization microscope at 薄片スeaキchャdeナgradation progress phases (5538) コンクリート薄片を大山らの報告5)を参考にして、市販 のフィルムスキャナ(EPSON、GT-X980、最大光学解像度6,400dpi)を用いてFig.8 に示すように全景写真を撮影した。また、観察結果のまとめをTable 5 に示す。偏光顕微鏡視野と比較して薄片全体の分布情報(モルタル、反応性粗骨材、非反応性粗骨材、ひび割れ、気泡の位 関係)を取得可能であり、コアの外観観察と薄片の偏光顕微鏡観察の中間のスケールの情報を補完できる。図に示 されるように、粗骨材、細骨材の岩種や、顕著なASR が生じている場合、フィルムスキャナによって反応性骨材 の反応リムに沿った骨材内部のひび割れ、反応性骨材か ら周囲のセメントペーストマトリクスへと延びるひび割れ、ひび割れや気泡を充填するASG が観察可能であることが確認されたことから,外観観察及び偏光顕微鏡観察 と組み合わせて実施することでASR 診断への有効性があると判断できる。 Fig.8 Example of observation results of concrete core samples by film scanner at each degradation progress phases (5538l, 24 mmx32 mm) Table 5 Summary of observation results (film scanner) コンクリート薄片のSEM 観察 SEM 観察には、ショットキー電界 出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(JEOL、JSM-7001F、加速電圧 0.5,--30kV、 倍率 x10,--1,000,000、分解能 1.2nm(30kV)、3.0nm(1 kV))を使用し、加速電圧 15.0kV、ワーキングディスタンス10mm、電流量1.40nA で観察を行い、コンクリート薄片のSEM 観察から得られた反射電子像(BEI 像)写真例をFig.9 に、SEM 観察結果をTable 6 に示す。図に示されるように、偏光顕微鏡と比較して薄片全体の分布情報 (モルタル、反応性粗骨材、非反応性粗骨材、ひび割れ、気泡の位 関係)は限定されるが、劣化進行段階の違いに応じて、反応性骨材内や反応性骨材からペーストマトリクスへと延びるひび割れや、ひび割れや気泡を充填するASGをより微細なレベルまで観察可能であることが確認されたことから、ASR 診断への有効性があると判断できる。 Fig.9 Example of SEM observation results of concrete core samples (5538l, 24 mmx32 mm) Table 6 Summary of SEM observation results 謝辞 本研究は、原子力規制庁「平成28年度原子力施設等防 災対策等委託費(高経年化技術評価高度化(アルカリ骨材反応によるコンクリート構造物の長期健全性評価に関する研究))事業」における成果の一部である。 参考文献 T. Katayama, A review of alkali-aggregate reactions in Asia ?Recent topics and future research, S. Nishibayashi, M.Kawamura (ed.), East Asia alkali-aggregate reaction seminar,Tottori, Supplementary Papers, pp. A33-A44, 1997. T. Katayama et al., Late-expansive alkali-silica reaction in 4 結論 コンクリートコアの採取によるASR 診断方法の検証を目的として、ASR 促進試験後の試験体から採取したコンクリートコアを対象に、岩石学的評価の各試験項目を実施した。 コンクリートコアの外観観察(可視光、蛍光法、実体 顕微鏡観察)から劣化進行段階に応じたASG を検出できることを確認した。コンクリートコアの可視光による外観観察に加えて、ASG 蛍光反応試薬を塗布し、短波長 (254nm)UV 光の観察を実施することで、コンクリートコアの表面ににじみ出たASGを容易に観察できることを確認した。 コンクリート薄片の偏光顕微鏡観察及び SEM 観察から劣化進行段階に応じたASR によるひび割れ、ASG が観察できることを確認した。コンクリート薄片の偏光顕微鏡観察に加えて、フィルムスキャナによる写真撮影を実施することで、コンクリートコアの外観観察よりもミクロ、コンクリート薄片の偏光顕微鏡観察よりもマクロな中間のスケールの観察が可能になることを確認した。 the Ohnyu and Furikusa headwork structures, Central Japan, Proceeding of the 12th International Conference on Alkali-Aggregate Reaction in Concrete, pp.1086-1094, 2004 T. Katayama: Late-expansive ASR due to imported sand and local aggregates in Okinawa Island, southwestern Japan, Proceedings of the 13th International Conference on Alkali-Aggregate Reaction, pp.862-873, 2008 中野慎木郎、原子力用コンクリートの反応性骨材の 評価方法の提案、JNES-RE-2013-2050 (2014) 大山次男,伊藤嘉紀,北風嵐: “フィルムスキャナーによる岩石・鉱物の大型薄片の偏光像観察”, 東北アジア研究, 4, pp. 207-211 (2000)
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