ナトリウム機器ステンレス鋼溶接部の欠陥数密度評価

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カテゴリ: 第17回
ナトリウム機器ステンレス鋼溶接部の欠陥数密度評価 Evaluation of Defect Number Density in Sodium Equipment Stainless Steel Welds 原子力機構 豊田晃大 KodaiTOYOTA Member 原子力機構 橋立竜太 RyutaHASHIDATE Member 原子力機構 矢田浩基 HirokiYADA Member 原子力機構 高屋茂 ShigeruTAKAYA Member 原子力機構 宮越博幸 HiroyukiMIYAKOSHI Non-member 原子力機構 加藤章一 ShoichiKATO Non-member Probabilistic fracture mechanics (PFM) evaluation requires information on the probabilistic distributions of the number and size of initial defects, material properties such as crack growth rate due to fatigue and creep, and load to evaluate the failure probability of components. In this study, ultrasonic testing was conducted on the welds of the test equipment used in the research and development of fast reactors, and the number and size of defects were evaluated. The results could be used as conservative values of initial defects, and the values related to initial defects for PFM evaluation of FBR components were examined. Keywords: Fast reactor, PFM evaluation, Non destructive inspection, Ultrasonic testing, Sodium equipment 1.はじめに 確率論的破壊力学(PFM, Probabilistic Fracture Mechanics)は、構造機器や構造物の欠陥存在位置、亀裂 の進展速度、荷重、構造物の使用温度や雰囲気等の破壊現象に関する因子を確率変数として扱うことで破壊が発生する頻度(破損確率)を評価するものである。PFM 評価では破壊現象に関連する因子が持つばらつきを単純に積算するのではなく、因子(確率変数)を相互的に評価するため、最終的な評価結果が過度に保守的になりにくいという特徴がある。PFM 評価で用いられる代表的な確率変数として、以下の①~⑤等が挙げられる[1]。 ① 初期欠陥分布 ② 供用前検査(PSI)、供用期間中検査(ISI)による亀裂の検出 ③ 亀裂の進展速度 ④ 破壊靭性値等の破壊強度特性 ⑤ 荷重の値や繰り返し数 例えば初期欠陥分布であれば、機器の溶接部に対して行 連絡先:豊田晃大、〒311-1393 茨城県大洗町成田町 4002 番地、日本原子力研究開発機構、 E-mail: toyota.kodai@jaea.go.jp った欠陥の数密度や寸法のデータをできるだけ正確にイ ンプットする必要がある。 高速炉は沸点の高いナトリウムを冷却材に用いることで、ナトリウム機器内部の内圧を低く抑えることがで き、薄肉の機器設計が可能であるという特徴がある。ただし、高温ナトリウムとの接液による腐食やクリープを考慮し、ナトリウムと接液する構造材料にはSUS304、316FR 鋼[2]といったオーステナイト系ステンレス鋼が主要構造材料として挙げられる。 オーステナイト系ステンレス鋼溶接部における初期欠陥分布の公開データとして、Chapman らによってまとめられた例などはあるものの[3,4,5]、初期欠陥分布や検査による亀裂検出確率のデータを蓄積することで、PFM 評価に用いる確率変数の精度を向上させていくことが重要である。 よって本研究では、高速炉研究開発に使用された試験 装置の溶接部に対し超音波探傷(UT)を実施し、欠陥の個数及び寸法等のデータを取得することとした。さら に、取得した欠陥の個数や寸法等のデータとChapman らが提唱したモデルの値を比較した。 2.高速炉用ナトリウム機器の欠陥分布測定 欠陥分布の測定対象機器は、構造物熱過渡強度試験装 置(TTS)の高温ヘッドタンク(図1)とした。TTS は、運転時間延べ約42,000 時間、定格条件となる高温試 験時間が延べ約28,000 時間に達する大型ナトリウム試験装置である。運転時の平均的な温度は、高温系で約 600 ℃(最高650 ℃)である。高温ヘッドタンクはSUS304 製、公称板厚が13 mm のナトリウム機器である。 TTS の高温ヘッドタンク溶接部に対し、UT を実施し欠陥分布の測定を行った。オーステナイト系ステンレス 鋼に対するUT では、材料組織中の柱状晶が検査精度に影響を及ぼすことが考えられる。よって本研究では、UT の結果から代表箇所を選定し、マイクロフォーカスX 線CT[6]を用いた高精度の測定も実施した。 超音波探傷による欠陥分布測定方法 ナトリウムは常温で固体状態であるため、ナトリウムタンクを含めたナトリウム機器にはヒータや熱電対、保温材が取り付けられている。TTS 高温ヘッドタンクも同様にヒータ、熱電対がスポット溶接で取り付けられており、その上から保温材を装着した機器である。UT に際し、保温材、ヒータおよび熱電対を取り除いたのち、UT 装置の探触子を走査させるために溶接線から±10 cm 程度の範囲でサビやバリを除去した。 高温ヘッドタンクには図2 に示す通り、タンク周方向の溶接線が3 本、タンク軸方向の溶接線が2 本存在する。UT による高温ヘッドタンク溶接部の欠陥分布測定は、図2 に示す高温ヘッドタンクの溶接線のうち、一部探傷不可範囲を除くすべて(合計約15.6 m)に対し測定を実施した。測定には汎用のデジタル超音波探傷機器と ≒3770[mm] ≒3770[mm] ≒3770[mm] Fig.1 Appearance of the high temperature head tank Fig.2 Weld line of high temperature head tank 屈折角45°の探触子を用いた。接触触媒はソニコートで、標準試験片はSTB-A1 とした。対比試験片には板厚中央部および、板厚方向に表面から5 mm の位置にφ3.0 の穴が付与ものを、距離振幅補正(DAC)曲線作成に用 いた。UT はJEAC 4207 (2016)に準拠して実施したほ か、欠陥の検出率をできるだけ高くするため[7]、作業は 非破壊検査レベル3 技術者の監督の下で、非破壊検査レベル2 および非破壊検査レベル3 技術者が行った。 マイクロフォーカスX 線CT による欠陥分布測定方法 前述の通り、オーステナイト系ステンレス鋼に対する UT では、材料組織中の柱状晶が検査精度を低下させることが懸念される。よって本研究ではUT による欠陥分布測定を実施したのち、測定結果から代表箇所を選定し マイクロフォーカスX 線CT を実施することで、オーステナイト系ステンレス鋼に対するUT 結果の精度を確認することとした。 マイクロフォーカスX 線CT による測定を実施する部位として、以下の部位を選定した。選定した部位を図3 および表1 に示す。 ・周方向溶接に対するUT でピークが検出された部位、ただしUT で欠陥が検出されなかった場合はエコー高さが最大となった場所(図3 および表1 中の①) ・軸方向溶接に対するUT でピークが検出された部位、ただしUT で欠陥が検出されなかった場合はエコー高さが最大となった場所(図3 および表1 中の②) ・T 字溶接部(図3 および表1 中の③) ・余盛高さが最大の部位(最終溶接線、図3 および表1 中の④) ・高温ヘッドタンク製作時の放射線探傷(RT)でブロ ーホールが検出された部位(図3 および表1 中の ⑤、⑥、⑦)※ただし、高温ヘッドタンク製作時のRT では、図3 および表1 中の⑤~⑦の区間(約50 cm)にブローホールが検出されており、図3 および表1 中の⑤、⑥、⑦すべてにブローホールが存在するという意味ではない。 マイクロフォーカスX 線CT の測定箇所を選定したのち、プラズマ溶断により測定対象の周囲を切断した。た だし、プラズマによる熱影響を避けるために対象の溶接 線から±25 cm 以上離れた場所を切断した。プラズマ溶断による切断後はワイヤーカット等の手法により溶接線 Fig.3 The part of the high-temperature head tank selected to perform microfocus X-ray CT Table 1 Specimen number and location of specimen collection Specimen Number Specimen Description ① HET-01 Part having the highest UT signal in circumferential welds ② HET-02 Part having the highest UT signal in longitudinal welds ③ HET-03 T-shaped welding area ④ HET-04 Part where the height of excess weld metal is highest ⑤ HET-05 Part where a blowhole detected by RT might exist (1) ⑥ HET-06 Part where a blowhole detected by RT might exist (2) ⑦ HET-07 Part where a blowhole detected by RT might exist (3) の周辺以外を除去し、試験片を作製した。 試験片を作製したのち、マイクロフォーカスX 線CT を実施し、欠陥分布測定を行った。マイクロフォーカスX 線CT では、X 線発生器とX 線検出器の間に試験片を設置し、ステージ上で試験片を回転させて様々な角度から透過像を撮影することで(図4)、試験片の内部を三次元的に可視化することができる。欠陥分布の測定は、マイクロフォーカスX 線CT によって取得された3D データをもとに行った。欠陥は検査員が目視にて判断、計数し、サイズおよび位置は画像データ(3D 画像データ) から測定した。 欠陥分布測定結果 高温ヘッドタンクに対するUT の結果、欠陥は検出されなかった。UT の結果に対し、材料組織中の柱状晶の影響を精査するために図3 および表1 に示す代表箇所に対しマイクロフォーカスX 線CT を実施した。ただし、タンク周方向溶接とタンク軸方向溶接ではUT 結果でエコー高さが最大となった部分から試験片を採取した。 マイクロフォーカスX 線CT の結果を表2 に示す。測定の結果、高温ヘッドタンク製作時のRT でブローホールが検出された箇所において、最大で直径1 mm 程度の Fig.4 Microfocus X-ray CT measurement ブローホールが検出された(図5)が、それ以外の部位では欠陥がないことが分かった。本測定で検出された欠陥はいずれもブローホールであり、亀裂は検出されなかった。検出されたブローホールはJIS 規格(JIS Z 3106) 上、有意な欠陥と判定されるものではなかった。測定結果が高温ヘッドタンク製作時のRT 結果と一致していることから、ブローホールは高温ヘッドタンクの施工時に導入されたものであり、材料や使用環境に由来するものではないと推察される。 UT は微小な球状の欠陥を検出しにくいという特徴がある[8]。ブローホールは球状の欠陥であり、本研究で測 定されたブローホールは直径が最大で約1 mm であることを考慮すると、材料組織中の柱状晶の影響の有無に関わらず本測定におけるUT によるブローホールの検出は困難であったといえる。UT による測定結果では欠陥指示がなく、オーステナイト系ステンレス鋼における材料組織中の柱状晶がUT での欠陥検出精度に及ぼす影響を精査できなかった。代表箇所に対するマイクロフォーカスX 線CT による測定でも亀裂が検出されなかったことから、高温ヘッドタンク溶接部には亀裂は存在していなかった可能性が高い。 材料組織中の柱状晶が欠陥検出精度に与える影響を調 査するためには、今後模擬亀裂を導入したオーステナイ ト系ステンレス鋼に対しUT を実施することが必要である。 Table 2 Results of microfocus X-ray CT Specimen Number Specimen Description Result ① HET-01 Part having the highest UT signal in circumferential welds - No defects ② HET-02 Part having the highest UT signal in longitudinal welds - No defects ③ HET-03 T-shaped welding area - No defects ④ HET-04 Part where the height of excess weld metal is highest - No defects ⑤ HET-05 Part where a blowhole detected by RT might exist (1) φ0.5 One defect (Blowhole) ⑥ HET-06 Part where a blowhole detected by RT might exist (2) - No defects ⑦ HET-07 Part where a blowhole detected by RT might exist (3) φ1.04 One defect (Blowhole) Fig.5 Blowhole detected by microfocus X-ray CT 高速炉用ナトリウム機器の初期欠陥数密度評価 本研究では、TTS の高温ヘッドタンクに対するUT およびマイクロフォーカスX 線CT を行うことで、欠陥の数密度データを取得した。検出精度の評価は不十分であるものの、公称板厚13 mm のSUS304 に対して、合計約 15.6 m の溶接線では亀裂が存在しないという結果を得た。また、代表箇所の合計約1.4 m に対するマイクロフォーカスX 線CT の結果、φ0.5 とφ1.04 のブローホールが1 つずつ検出された。 Chapman ら[3,4,5]の研究結果によると、溶接線1 m あたりの初期亀裂個数は約1.2 個と予測されている。本研究でUT を行った溶接線約15.6 m に対しこの予測をあてはめると、初期亀裂の個数は約18 個となる。しかし、本研究で実施したUT 結果では亀裂は検出されなかった。この結果から、Chapman らの提唱したモデルは保守的な評価結果を与えると判断できる。 以上より、例えば高速増殖原型炉「もんじゅ」のホッ トレグ配管(SUS304 製、肉厚約11 mm)やコールドレ グ配管(SUS304 製、肉厚約14 mm)のように、高速炉用ナトリウム機器に使用される薄肉のオーステナイト系ステンレス鋼において、初期欠陥の数密度データとしてChapman らの提唱したモデルを保守的に使用することが考えられるが、引き続き、高速炉研究開発用の試験施設解体や、高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃止措置に伴い欠陥分布のデータを蓄積していくことが重要である。 まとめ 高速炉機器では初期欠陥分布などの測定データがほと んどないという現状の課題に対し、本研究では高速炉用 ナトリウム機器であるTTS 高温ヘッドタンクに対し欠陥分布測定を行った。UT とマイクロフォーカスX 線CT による測定の結果、ブローホールが検出されたが平面状の欠陥(亀裂)は検出されなかった。 本研究では高速炉機器のPFM 評価に資する初期欠陥のデータを取得し結果を報告した。高速炉機器に対するPFM 評価を発展させるために、今後はオーステナイト系ステンレス鋼に対するUT の検出精度の評価に関する検討と、欠陥分布のデータ蓄積が必要である。 謝辞 本研究を実施するにあたり、非破壊検査株式会社の大 谷清和氏に多大な協力をいただいたため、ここに謝意を表する。 参考文献 吉村忍、関東康祐、 “リスク活用のための確率論的破壊力学技術 -基礎と応用-”、 日本溶接協会、 2020. 日本溶接協会、原子力研究委員会 FMF 小委員会、“明日のエネルギーの礎に-高速炉新材料の実用化に向けて-”, 1999. O. J. V. Chapman, “Simulation of Defects in Weld Construction”, ASME PVP-Vol.251, pp.81-89, 1993. U. S. Nuclear Regulatory Commission, “Technical Element of Risk-Informed Inservice Inspection Programs for Piping”, Draft Report, NUREG-1661, 1999. Khaleel, Mohammad A, and Simonen, Fredric A. “Evaluations of Structural Failure Probabilities and Candidate Inservice Inspection Programs”, United States: N. p., 2009. 高橋亮、 “マイクロフォーカスX 線CT の撮影原理 と解析例”、表面技術、66 巻12 号、2015、pp.594- 597. 平澤泰治ほか、 “ステンレス鋼配管突合せ溶接継ぎ手の超音波探傷試験員に対する教育・訓練の有効性 に関する検討”、 保全学、15 巻1 号、pp.77-91、2016. 田上稔、 “鋼構造物溶接部の非破壊検査”、 溶接学会誌、76 巻4 号、2007、pp.210-214.
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