ソフトセンサ(仮想計測)を用いたプラント水質監視に関する取り組み

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カテゴリ: 第16回
ソフトセンサ(仮想計測)を用いたプラント水質監視の取り組み 二菱重工業掬 澤津橋徹哉 Testuya SAWATSUBASHI Non-Member 二菱重工業掬 梶伸之介 Shinnosuke KATI Non-Member 二菱重工業掬 嬉野絢子 Ayako URESHINO Non-Member 二菱重工業掬 松原龍一 Ryuichi MATSUBARA Non-Member 二菱重工業掬 松澤寛 Hiroshi MATSUZAWA Member 東京大学 船津公人 Kimito FUNATSU Non-Member Abstract On a power plant, the water quality of system water needs to be properly monitored and controlled. On this study proposes a monitoring method for the concentration of Chloride, one of the main impurities dissolved in feed water of a power plant. The proposed method is based on soft sensor, and variable selection through GAVDS contributes the predictive models to higher prediction accuracy. Keywords: soft sensor, monitoring, water quality, 1.はじめに 発電所では,独立系発電業者(IPP)案件の増加や熟練運転員不足を背景に,健全運転のための水質管理支援ニーズが増している[1]。 昨今,AI,IoT の技術進展が目覚ましく,ソフトセンサと呼ばれる仮想計測の技術開発が盛んに進められ, 化学・石油産業,半導体産業,鉄鋼産業,製薬産業へ の実用が進んでいる[2]。 そこで,このソフトセンサを活用することで,プラント水質を迪続的に仮想モニタリングし,運転最適化 (性能・健全性・ランニングコスト)の実現を目指して研究を開始した状況である。 本発表,プラント水質に混入する塩化物イオン(Cl)を題材に,その濃度予測の検討事例を紹介する。2.ソフトセンサとは ソフトセンサ ソフトセンサ[3,4]とは,Fig.1 に示すとおりオンラインのハードセンサで直接測定が容易な温度,圧力などの説明変数と,手分析などで不定期に得られる目的変数との間 で数値モデルを構築し,以降,監視したい目的変数の値 を推定する方法である。この手法は,既存のセンサ値を用いて,現在,過去,未来の状態を推測することで,あたかもハードセンサかのように対象となる状態量を仮想計測することが 能である。 迪絡先 澤津橋 徹哉,〒851-0392 長崎県長崎市深堀町5-717-1 三菱重工業樹 総合研究所 E-mail:tetsuya_sawatsubashi@mhi.co.jp Fig.1 ソフトセンサの概念図 時刻遅れを考慮した説明変数の選択手段 ソフトセンサで数値モデルを構築する際,目的変数 と相関の大きい説明変数を選択することが重要である。物理モデルや経験から,目的変数と説明変数の関係が 既知の場合は,良好なモデルを構築できるが,データ セットによっては,時間遅れを伴う場合や単純な一次 式のモデルでは説明できないケースがあり,相関の高 い変数の選択が課題となる。 そこで,今回は,遺伝的アルゴリズムを用いた動特性の考慮と変数選択を同時に行う手法(genetic algorithm-based process variables and dynamics selection, GAVDS[5])を採用した。Fig.2 に GAVDS の考え方を示す。プラントの にある変数(Fig.2 y)を, にある変数(Fig.2 x1, x2)から予測する際,時刻t における y(t)は,同一時刻に得られる x1(t)や x2(t)から予測す るよりも,x1(t-t1)やx2(t-t2)から予測を行ったほうが予測精度の高いモデルが構築できる。GAVDS を用いることで時刻遅れを考慮した変数選択が 能となる。 特性値 Fig.2 GAVDS による変数選択例 予測モデル 選択されたモデル構築用サンプルを用いて予測モ デルの構築を行う。今回の解析では線形回 手法である部分的最小二乗法(Partial Least Squares Regression, PLS[ ]), 線形回 手法であるサ ート ター回 (Support Vector Regression, SVR[7]),ランタムフォレスト(Random Forest, RF[8])の3 手法を比較した。 適応型ソフトセンサ プラントでは,劣化や配管へのスケール付着等によ って予測対象の目的変数と予測に用いる説明変数の関係が時間の経過とともに変化していく。このため,初期のモデル構築用サンプルから作成した予測モデルの 精度は時間の経過とともに低 していく。この問題に対処する為,適応型ソフトセンサが用いられる。適応 型ソフトセンサでは,予測モデルを更新しながら予測 を行う。更新を行う際に利用するサンプルの選択方法の いでMW(Moving Window)方式[9]とTIT(Tust in Time)方式[10]などが研究されている。MW 方式では新しいサンプルをいくつか選択し予測モデルの構築を行 う。一方,TIT 方式では過去のサンプルから現在のプラント状態に近いサンプルをいくつか選択し予測モデ ルの構築を行う。MW 方式と TIT 方式の概念を Fig.3 に示す。今回の解析では,予測モデルの構築に利用す るサンプルの選択方法として,MW 方式を採用した。 時間経過 Fig.3 適用型モデルの比較 特性値 不純物濃度予測の検討状況 検討対象の系統図と予測データ位置 検討対象となるプラント系統図を Fig.4 に示す。何らかの原因で系統内に海水が混入し,海水に含まれる Cl イオンが循環水系統に混入すると,復水系統、給水系統、ボイラ系統、蒸気系統などを経由して蒸気に混入し,最 的にター ン に析 する。そのため,復水 を検知するサンプリングス ットとして,高圧ドラム水のCl イオン濃度を選定した。高圧ドラム水の Cl イオン濃度を推定することで,不純物混入状況によるプラント運転継続 否の早期判断を行い,海水 えいによるターン腐食リス を最小限にすることを目的とする。 Fig.4 対象プラントの系統図 検討対象データ 説明変数 目的変数として用いたデータの一 をTable 1 に示す。説明変数としては,電気伝導 ,pH 等, プラントに取り付けられている,オンライン測定が 能な変数を設定した。また,目的変数として,Cl イオン混入を把握するために最適な変数である,高圧ドラム水のCl イオン濃度とした。解析には対象期間の2344 サンプル(目的変数は134 サンプル)を用いた。前半の933 サンプル(目的変数は 3 サンプル)を初期データとして用い,MW 方式でモデルを更新しながら後半の 1411 サンプル(目的変数は 71 サンプル)の予測を行った。また,MW 方式における 用するサンプル数は,10 から初期データの目的変数サンプル数までのう ,最適な値を選定した。なお,目的変数である塩 濃度の分析に要する時間は10 分を想定した。 Table 1 検討対象の変数 説明変数 目的変数 迪続データ(各2345 点) 手分析データ(134 点) 復水 ンプ 口CC,EC 高圧ドラム水Cl 低圧 入口CC,EC,DO,pH,N2H4 ③低圧ドラム水EC,pH,Si ④中圧ドラム水EC,pH,Si 高圧ドラム水EC,pH,Si ⑥低圧過熱 口蒸気CC ⑦ガスター ン燃焼 入口蒸気CC, ⑧再熱 口蒸気CC ⑨高圧過熱 口蒸気CC 発電容量,真空度,補給水量 の選択領域を予測精度の高さに応じてバイアスをかけ重 合 た図である。以 の結果から,高圧ドラム水のCl の予測において,20 分前後の高圧ドラム水EC が重要であることを示唆している。 2)Cl 濃度予測 データセットの前半区間を学習データ,後半区間を 検証データとし,後半区間のCl 濃度予測を実施した。適用型モデルとしてプラント状態のドリフトに対 応 能な手法であるMW を,回 モデルはPLS,SVR RF を用いた。解析結果をTable2 に示す。検証の結果, RF の予測精度が最も高い 定係数R2 0 ことが された(F )。今後データを するとともに, T 方式を用いるなど検討を継続し, 性の高いモデルを構築することで,Cl 予測精度の更なる向を図っていく。 Table 2 Cl 濃度の予測結果 サンプル 回 モデル 2 R RMSE MW SVR 0. 2 0.03 MW RF 0. 8 0.03 MW PLS 0. 3 0.03 R2 Coefficient of determination(決定係数) RMSE Root mean square error(平均平方二乗誤差) 0 2 CC 電気伝導 ,EC 電気伝導 ,DO 存 ,pH 水 イオン濃度,N2H4 ヒドラ/ン 検討結果及び考察1)GAVDS 解析結果例を以 に示す。ヒートマップで黄色く表示されて 0 ー6 0 ー2 高圧ドラム水 Cl濃度 [mg/L} 0 08 0 0 0 Fig. 期間 [day} Cl 濃度の実測値と予測値のトレンド比較(解析手法 MW-RF) いる箇所が選択された変数と時刻である。F 5 は 位 10 体 時刻(x10min間隔) Fig.5 GAVDS 解析結果例 まとめ 発電所のプラント水質を題材に,ソフトセンサによる塩化物イオン濃度の仮想計測の 能性を検討した。 遺伝的アルゴリズムを用いた変数選択, 線形回 モデルと適用型モデルを組み合 たプラント運転追従型のソフトセンサモデルを構築し,これまで迪続測定が困難であった塩化物イオン等の成分濃度を,仮想計測でき る 能性が示された。 今後,データの と他のプラント水質での検証を進め,モデルの改良や異常検知との組合 による精度向など,火力・原子力関迪プラントの安全運転,保全活動に資する技術開発を進めていく。 参考文献 [1] 椿崎仙市ら 三菱重工技報, 2018, 55(1), 30-35 [2] 大賽ら 化学工学, 2019, 83(4) 船津公人ら ソフトセンサー入門, 基礎から実用的研究例まで, コロナ社(2015) P. Kadlec, et al. Comput. Chem. Eng. 2009, 33, 795-814 [5] H. Kaneko, K. Funatsu. AIChE, 2012, 58( ), 1829-1840 [ ] S. Wold, et al., Chemom. Intell. Lab. Syst., 2001, 58, 109-130 D. Basak, et al., Neural Inform. Proc., 2007, 11(10), 109-130 L. Breiman, Machine Learning, 2001, 45, 5-32 T. C. Teng, J. of Taiwan Inst. Of Chem. Eng., 2010, 41, 472-481 [10] K. Fujiwara, et al., AIChE, 2009, 55, 1754-17 5
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