川内原子力発電所の第1回安全性向上評価の概要について
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カテゴリ: 第15回
川内原子力発電所の第 1 回安全性向上評価の概要について
Overview of First-round Safety Improvement Assessment on Sendai Nuclear Power Station
九州電力
江藤
和敏
Kazutoshi ETO
Non-member
九州電力
今村
和紀
Kazunori IMAMURA
Non-member
九州電力
井上
政春
Masaharu INOUE
Non-member
Sendai Nuclear Power Station is the first one in Japan whose units has restarted under new regulatory requirements after Fukushima-Daiichi Nuclear Disaster. For these restarted units, Safety Improvement Assessment is mandated to be conducted after every outage by the new regulatory requirements. The assessment shall be reported to Nuclear Regulatory Authority (NRA) and disclosed on the Web. Kyushu Electric Power Company submitted the assessment report first in Japan to NRA on July 6, 2017 for Sendai unit 1, on September 25, 2017 for Sendai unit 2 in compliance with this requirement.
NRA decided to hold open hearings to discuss continuous improvement of the Assessments among its secretariats and utilities, including that for following restarted plants. As a result of the hearings, NRA identified 10 areas for improvement (AFIs) on the Assessment. All utilities shall address these AFIs.
This paper describes the overview of these assessments, the major AFIs and the efforts to address them.
Keywords: Safety improvement, Safety analysis report, Periodic safety review, Probabilistic risk assessment, Stress test, Global assessment
1.はじめに
川内原子力発電所第 1 号機は、「新規制基準への
適合性審査」に国内で初めて合格、平成 27 年 9 月 10
日に通常運転に復帰、その後、約 13 ヶ月間、安全・安
定運転を続けた。平成 28 年 10 月 6 日から施設定期検
査を開始し、平成 29 年 1 月 6 日に終了、通常運転に復帰した。
再稼働した原子炉施設は、核原料物質、核燃料物 質及び原子炉の規制に関する法律第四十三条の三の 二十九に基づき、施設定期検査終了毎に、施設定期 検査終了時点の状態を対象とし、当該検査終了後 6 ヶ月以内に安全性向上評価を実施し、その後、原子力規 制委員会に遅滞なく届け出ることとされており、国内で 初めて平成 29 年 7 月 6 日に川内 1 号機の初回届出を行い、この結果を公表した[1]。
1 号機に引き続き、川内 2 号機が再稼働し、その後
の施設定期検査を平成 29 年 3 月 24 日に終了したこと
から、同様に、安全性向上評価を平成 29 年 9 月 25 日に届出、公表した。
平成 29 年度第 21 回原子力規制委員会(平成 29 年
7 月 5 日)で了承された「実用発電用原子炉の安全性向上評価届出に係る対応について」に従い、「実用発 電用原子炉の安全性向上評価の継続的な改善に係る 会合」が開催され、川内 1 号機及び 2 号機の安全性向上評価届出書の記載内容に係る議論等を通じて、安 全性向上評価届出に係る改善が必要な事項が事業者 及び原子力規制庁の共通認識としてとりまとめられ、平 成 29 年度第 59 回原子力規制委員会(平成 30 年 1 月
17 日)に報告された。
これを受け、当社は、平成 30 年 3 月 30 日に、改善が必要な事項の一部を反映した補正を行った。
2.安全性向上評価の概要
安全性向上評価の概略フローを図 1 に示す。
図 1 安全性向上評価フロー
まず、①保安活動の実施状況調査を実施し、施設定 期検査終了時点の発電所の状態(設備、運用)を調査 する。
この調査結果に基づき、② 確率論的リスク評価
(Probabilistic Risk Assessment; PRA)、③安全裕度評価(所謂、ストレステスト)等により保安活動の効果を評 価するとともに、安全性向上対策を抽出する。
これらを踏まえ、④総合評価を実施し、安全性向上 計画を策定する。
なお、PRA、ストレステストは、大規模工事等による変 更がない場合、5 年毎に実施する。
図 2 に安全性向上評価による継続的な安全性向上の仕組みを示す。安全性向上評価を施設定期検査毎 に実施し、継続的に原子炉施設の安全性を向上させる。
3.安全性向上評価届出書の内容
安全規制によって法令への適合性が確認された範囲
建設から施設定期検査終了時点までの設置許可、 工事計画、保安規定の変更履歴を調査し、最新の許
認可の状態を以下の構成でとりまとめた。
発電用原子炉施設の概要
敷地特性
構築物、系統及び機器
保安のための管理体制及び管理事項
法令への適合性確認のための安全性評価結果
安全性の向上のため自主的に講じた措置
前回の定期安全レビュー(Periodic Safety Review; PSR)の評価対象期間が平成 23 年 3 月迄だったことを
考慮し、平成 23 年 3 月の福島第一原子力発電所事故以降の保安活動の実績、最新の科学的・技術的知見の反映状況を調査し、保安活動が適切かつ有効である ことを確認した。
また、保安活動の結果として、安全性向上対策を抽 出した。主なものを表 1 に示す。
安全性の向上のため自主的に講じた措置の調査及び分析
3.1 項で調査した発電所の最新の状態に基づき、確率論的リスク評価、安全裕度評価等を実施し、これらの評価結果から、安全性向上対策を抽出した。
確率論的リスク評価
炉心損傷頻度(Core Damage Frequency; CDF)、格納容器機能喪失頻度(Containment Failure Frequency; CFF)等を評価した。また、リスク重要度を活用し、安全性向上対策を抽出した。
なお、PRA の詳細を述べた別稿[2]がある。
炉心損傷頻度、格納容器機能喪失頻度の評価
施設定期検査終了時点での発電所の構築物、系統及び機器の状態に基づき CDF、CFF を評価した結果、図 3 に示すとおり、従来から自主的に取り組んできた重大事故対策及び新規制基準への適合のための重大事 故対策(図中 SA)によるリスク低減効果が確認できた。
図 2 安全性向上評価による継続的な安全性向上
137Cs の放出量が 100TBq を超えるような事故の発生頻度
格納容器が機能喪失する場合には、137Cs の放出量は 100TBq を超えると定性的に判断し、137Cs の放出量が 100TBq を超えるような事故の発生頻度は、CFF と同じとした。
図3 CDF、CFF の比較
敷地境界における実効線量
炉心損傷後に格納容器の機能が維持されている場 合の 7 日間の敷地境界における実効線量を評価した。この条件下で大気中に放出される最大の放射能量 は約 3.2TBq となり、これから敷地内で観測した 1 年間の気象データを基に年間の種々の気象条件を網羅す るような気象シーケンスで敷地境界における 7 日間の
実効線量を評価した。これらの結果、全気象シーケンス の評価結果の平均値は約 43mSv となった。
安全性向上対策の抽出
リスク重要度分析結果から抽出した安全性向上対策を表 2 に示す。
表 2 PRA から抽出した安全性向上策
主な安全性向上対策
期待される効果
重要シナリオに対する教育・訓練の強化
事故時の重要シナリオに対する運転員の意識を高め、事故対応能力を向上
できる。
メタクラ保護継電器のデジタル化
耐震信頼性向上により、地震時の CDF を 1.7×10-6
( 1.0×10-6 ) * から 8.5×10-7
( 6.6×10-7 ) * へ 、 CFF を
1.5×10-6 ( 8.7×10-7 ) * から
6.3×10-7(5.1×10-7)*へ低減
できる。
* ()内の数値は 2 号機の評価結果
安全裕度評価
設計基準を超える地震、津波に対して、発電所がど こまで頑健性を確保できるかを確認するとともに、クリフ エッジに到達した際の対応を検討した。また、これらの 結果を踏まえ、安全性向上対策を抽出した。
なお、安全裕度評価の詳細は、別稿[3]に述べる。
評価結果
地震、津波に対する出力時炉心の安全裕度評価結 果を表 3 に示す。
表 1 保安活動から抽出した主な安全性向上対策
主な安全性向上対策
概要
保守管理
メタクラ*1 保護継電器のデジタル化*2
長期保守信頼性
原子炉容器出口管台保全工事*2
国内運転経験の予防処置
緊急時措置
特別高圧開閉所*3 の更新
回線数増強、高台移設による信頼性向上
運転シミュレータ*3 への重大事故解析コード導入
運転員の知識・技能向上
外部要請
敷地周辺地震観測装置*3 の追加
地震動評価に関する信頼性向上
*1 メタルクラッドスイッチギアの略で、高圧電源スイッチのこと
*2 1、2 号機共に抽出された措置
*3 1、2 号機共用設備
表 3 安全裕度評価結果
事象
クリフエッジ事象
クリフエッジ
クリフエッジに到達した際の対応
地震
タービン動補
駆動蒸気入口弁を
助給水ポンプから蒸気発生
器への給水不能*1
1029Gal (1026Gal)*2
手動で開弁し、タービン動補助給水ポンプによる蒸気発生
器への給水を再開
津波
タービン動補
可搬型ディーゼル注入ポンプによる蒸気発生器又は炉心への注水
助給水ポンプ
故障による蒸
15m
気発生器への
給水不能
*1 804Gal(882Gal)*2 の地震でメタクラ保護継電器が故障し、非常用所内電源が喪失、冷却手段がなくなり炉心損傷に至るが、故障した保護継電器の除外処置により非常用所内電源を復旧させることができることから、このクリフエッジは回避できるとした。
*2 ()の数値は 2 号機の評価結果
号機間相互影響評価
耐性を考慮した相互影響評価
耐性(クリフエッジ地震加速度、津波高さ)が異なるこ とにより、片ユニットの炉心や使用済燃料ピットの燃料 が先に損傷し、発電所内の放射線量が上昇した場合 でも、他ユニットのクリフエッジ評価結果に影響しないこ とを確認した。
事象進展過程を考慮した相互影響評価
両ユニットが同時に発災した場合においても、現在の 重大事故等に対応する体制で対応可能であること、発 電所内の資源(燃料、水、電力)は 7 日間連続で供給可能であることを確認した。
停止中ユニットから運転中ユニットへの影響評価
片ユニットが停止中(モード外)で、他ユニットが運転中である場合を考える。停止中ユニットは機器搬入口 が開放されており、津波高さが 13.3m を超えた場合、当該ユニットの格納容器内に浸水する。加えて、エアロッ クが開放されていることから、当該ユニットの補助建屋 に浸水し、更に、連絡している運転中の他ユニットの補 助建屋に浸水することにより、運転中ユニットの安全機能を喪失させる。この概念図を図 4 に示す。
しかし、停止中ユニットのエアロックを閉止することに より、補助建屋への浸水を防ぐことができることから、運 転中の他ユニットへの影響は生じないことを確認した。
安全性向上対策の抽出
安全裕度評価から抽出した主な安全性向上対策を表 4 に示す。
表 4 安全裕度評価から抽出した安全性向上対策
主な安全性向上対策
期待される効果
クリフエッジ到達後の措置を含む安全裕度評価結果の発電所員への教
育・訓練
設計を超える自然現象に対する緊急時対策要員の対応能力を向上できる。
メタクラ保護継電器のデジタル化
地震によって故障する保護継電器の除外処置が不要となる。
大津波警報時の停止中ユニットのエアロック閉止
運転中の他ユニットへの浸水を防ぐ。
図4 停止中ユニットから運転中ユニットへの浸水の概念図
4.総合的な評定
保安活動の実施状況調査、確率論的リスク評価、安 全裕度評価等の結果を踏まえ、総合評定を実施し、安 全性向上計画を策定した。
総合評定
川内原子力発電所は、1 号機、2 号機、共に高い運転実績を残しており、これは運転開始以降、当 社が保安活動を確実に実施していることによると 考えられる。
今後実施すべき安全性向上対策が抽出されたが、 いずれも保安活動の欠陥によるものではなく、プラ ントの安全性をさらに向上させるためのものである。
今後も、保安活動の確実な実施を基本に、リスク 情報を活用しつつ、原子力発電所のリスクを合理 的に実行できる限り低減させていく。
安全性向上計画
抽出した主な安全性向上対策の実施計画を表 5 に示す。
なお、届出後の実績を反映している。
5.安全性向上評価届出に係る改善事項
実用発電用原子炉の安全性向上評価の継続的な改善に係る会合
平成 29 年度第 21 回原子力規制委員会で了承された「実用発電用原子炉の安全性向上評価届出に係る 対応について」に従い、「実用発電用原子炉の安全性 向上評価の継続的な改善に係る会合」が開催され、川
内 1 号機及び 2 号機の安全性向上評価届出書の記載内容に係る議論等が行われた。
この議論は原子力規制庁と電力との間で、公開で行 われ、電力側は当社を始め、関西電力、四国電力、東 京電力 HD、並びに、電気事業連合会が参加した。
川内の届出書を題材とした議論は計 5 回開催され、これらを通じて、安全性向上評価届出に係る改善事項 が事業者及び原子力規制庁の共通認識としてとりまと められ、平成 29 年度第 59 回原子力規制委員会に「実用発電用原子炉の安全性向上評価届出に係る改善事 項について」として報告された。これには 10 項目の改善が必要な事項が含まれており、この内、改善が必要 な主な事項とされたものが以下の 3 項目である。
届出書全般の記載の深さについて、評価等の結果だけでなく、調査及び評価の方法、プロセスも 含めた詳細について、取組の内容が理解される 程度の記載とする。
届出書第 1 章の記載について、既存の許認可図書の記載内容を形式的に合本するのではなく、米 国 UFSAR(Updated Final Safety Analysis Report) や IAEA 安全ガイド(GS-G-4.1 (DS449))等を参考に、プラントの最新状態(as is)を一つの図書で把握できるように記載する。
PRA について、PRA の結果を公表するだけではなく、過去に公開した PRA との違いを含め、PRA の内容を分析し、その結果を明らかにする。また、PRA の目的に照らして評価手法の妥当性を判断し、目的に合っていない場合には、目的に沿ったPRA 手法への見直しを行い、その内容を明らかに
表 5 主な安全性向上対策と実施計画
主な安全性向上対策
実施時期
1 号機
2 号機
メタクラ保護継電器のデジタル化
第 23*1~26 回定検
第 22*2~25 回定検
原子炉容器出口管台保全工事
対応済み
第 23 回定検
特別高圧開閉所の更新
2023 年 7 月
運転シミュレータへの重大事故解析コード導入
2018 年 7 月
敷地周辺地震観測装置の追加
対応済み
重要シナリオ(再循環切替)に対する教育・訓練の強化
適宜
適宜
クリフエッジ到達後の措置を含む安全裕度評価結果の発電所員への教育・訓練
適宜
適宜
大津波警報時の停止中ユニットのエアロック閉止
対応済み
*1 川内 1 号機第 23 回定検;平成 30 年 1 月 29 日~平成 30 年 6 月 29 日(予定);安全系のメタクラについては対応済み
*2 川内 2 号機第 22 回定検;平成 30 年 4 月 23 日~平成 30 年 9 月 28 日(予定);安全系のメタクラについては完了予定
する。
改善が必要なその他の事項とされている 7 項目の 1 つに、「決定論的安全評価について、最新知見を取り 入れた評価手法を積極的に適用する。」がある。具体的には、決定論的安全評価に、例えば、不確かさを考 慮した最適評価(Best Estimate Plus Uncertainty; BEPU) 等の手法を採用することが考えられる。
改善が必要な事項に対する取組み
改善が必要な主な事項(1)に関しては、改善が必要 なその他の事項の中に、「届出書全体について、外部 評価を活用する。」があり、補正書案を電力各社にレビ ューいただき、この結果も反映した。
改善が必要な主な事項(3)に関して、例えば、川内 1
号機には、過去に平成 16 年のアクシデントマネジメント
整備後確率論的安全評価報告書、平成 24 年の第 2 回
定期安全レビュー報告書、並びに、平成 26 年の設置変更許可申請書に公表済みのレベル 1 内的事象PRA の結果があることから、これらの CDF との相違について、以下の解析条件の感度解析を行い、評価結果の相違 理由及び各評価結果の妥当性を確認した。
起因事象発生頻度
緩和策
ヒューマンエラーの従属性
故障率
共通原因故障パラメータ
これら、並びに、高浜 3 号機の安全性向上評価届出を題材にした「実用発電用原子炉の安全性向上評価 の継続的な改善に係る会合」(平成 30 年 3 月 14 日)で
の議論を踏まえた、川内 1 号機及び 2 号機安全性向上
評価届出の補正書を平成 30 年 3 月 30 日に原子力規制委員会に提出した。
なお、改善が必要な主な事項(2)の「as is」化については、第 2 回届出までには完成させるべく、現在、作業を進めているところ。
謝辞
ご多忙の中、川内の安全性向上評価届出を題材とし た「実用発電用原子炉の安全性向上評価の継続的な改善に係る会合」に参加いただいた東京電力 HD の滝沢慎氏、上村孝史氏、田邊恵三氏、西野正一郎氏、関 西電力の田中裕久氏、合田克徳氏、四国電力の西村幹郎氏、中川俊一氏、香川明彦氏、電源開発の小林哲朗氏、電気事業連合会の熊谷征則氏、並びに、原 子力安全推進協会の倉田聡氏、電力中央研究所の梅木芳人氏、廣瀬圭二郎氏に感謝します。
また、「実用発電用原子炉の安全性向上評価の継続 的な改善に係る会合」での議論を踏まえた補正を実施 するにあたり、補正書案をレビューいただいた北海道電 力、東北電力、東京電力 HD、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、日本原子力発電及 び電源開発の関係諸氏に感謝します。
参考文献
九州電力ホームページ、
https://www.kyuden.co.jp
山田真也、井上政春、河辺幸成、平塚大悟、“川内原子力発電所の安全性向上評価における PRA について”、日本保全学会第 15 回学術講演会予稿集(2018).
今村和紀、江藤和敏、“川内原子力発電所の安 全裕度評価について”、日本保全学会第 15 回学術講演会予稿集(2018).
江藤和敏、“川内原子力発電所の安全性向上評価について”、日本原子力学会誌、Vol.60、No.2(2018)、pp.21-24.
江藤和敏、“川内原子力発電所の第 1 回安全性向上評価の概要について”、第 18 回保全セミナー予稿集(2018)、pp.1-36.