プラント機器の劣化予測手法の開発 -電動弁劣化挙動シミュレーション?
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カテゴリ: 第15回
プラント機器の劣化予測手法の開発
ー電動弁劣化挙動シミュレーションー
Development of a Method for Predicting Deterioration of Plant Equipment
-Simulating Deterioration Behavior of a Motor Operated Valve-
東芝エネルギーシステムズ(株)
柏瀬
翔一
Shoichi KASHIWASE
東芝エネルギーシステムズ(株)
尾崎
健司
Kenji OSAKIMember
東芝エネルギーシステムズ(株)
畠山
誠
Makoto HATAKEYAMA
東芝エネルギーシステムズ(株)
金子
智一
Tomokazu KANEKO
Although a large amount of data (especially in abnormal conditions) is necessary to predict deterioration of nuclear power plant equipment, it is quite difficult to obtain it. For this reason, simulation is expected to be an effective approach to estimate conditions of equipment instead of data acquisition. In this study, we focused on and built a model for a motor operated valve, since the inspection cost is generally expensive due to the number of the valves used in a nuclear power plant. We analyzed the transient of stem thrust in normal and abnormal conditions of its packings. Our analytical result successfully reproduced the difference in the stem thrust; if the packings abrade away, the change of friction force by the packings becomes smaller in the transition of valve opening to closing.
Keywords: Simulation, Motor Operated Valve, Packing, Stem Thrust, Deterioration
はじめに
原子力発電所では、定期検査期間の短縮と保全物量の適正化の観点から、定期検査中の分解点検を主体とした 時間計画保全から状態監視保全ヘの移行が検討されてお り、数量が多く、点検保守の負荷が大きい回転機械や電動弁に対する診断技術の適用が進むことが予想される。電動弁については、海外において緊急時の作動保証が 必要となる重要な弁に対して診断技術開発が積極的に進められ、状態監視保全が導入されているが、国内の発電所では状態監視保全は実用的な運用には至っていないの
が現状である。
状態基準保全には異常兆候を捉えた上での計画的保守立案が理想となるため、電動弁の挙動を予測し、状況に合わせた保守を実施することで、点検コストを最適化する手法を検討中である。機器の劣化状態の予測とその原因の推定には、挙動データ、特に異常時のデータが必要 となるが、原子力プラント機器の異常データを取得することは容易ではない。そこで、電動弁の機能を物理モデ
ルで表現し、挙動をシミュレーションし、異常の判定や劣化状態を予測する手法を開発する。
電動弁の劣化挙動モデル
電動弁モデル
Fig.1 Modeling componentry of motor operated valve
電動弁の実機試験では、異常の有無を、開閉動作を行 うことによって判断している。本稿では電動弁のうち仕
弁を対 として、開閉動作時の弁 の 荷重(ス
ラスト荷重)の挙動を評価し、異常の有無による挙動の違いを評価した。図l に電動弁の構成と評価モデルを示す。電動弁からモータ、ステムナット、グランドパッキン、弁 、弁体など主要な構成部品を機能ごとに抽出し、これらの挙動を物理 程式で記述した。ステムナットおよびグランドパッキンの挙動を表す 程式については次節で述べる。
ここでは解析ソフトウェアとしてModelica[l]を用いた。Modelica はオブジェクト指 のマルチドメイン・モデリング言語であり、複雑なシステムのモデリングに適 している。特に、物理現 を表現するモデル構築に使用される。図1のように、Modelica では、部品単位で作成したモデルを連結することで電動弁全体の挙動を解析できる。
電動弁の開閉挙動
電動弁の開閉動作はモータを動力として行われており、ステムナットによってモータの回転運動が弁 の並進運
動に される。弁 の引き上げ を正とすると、ステムナット回転角?と弁 下端部の位置zとの関係は次式で表される。
これに関しては次節で議論する。
2 3 弁棒の引き上げ位置と外力
外力Foutと弁 下端部の引上位置zの関係について述 べる。弁体直径をD、弁 と弁体接続部のクリアランスをl、弁座の深さをhとして座標を図2のようにとる。
まず、弁 、弁体の引上げ動作時を考える。z < 0 のとき、外力として弁 及び弁体の重力とグランドパッキンの摩擦力が働く。さらに、このとき弁 が弁体を通して弁箱底部を押さえつけていることから、底面部のひずみによる反力が働く。
0 < z < l のとき、弁 下端部は弁体接続部のクリアランスに位置しているため、弁 の重力とグランドパッキンの摩擦力のみが外力となる。
z 邸lの時、弁 は弁体の引き上げを開始する。このとき、弁 及び弁体の重力、グランドパッキン摩擦力に加えて弁座の摩擦力を受ける。l + h < z < D + l では弁及び弁体の重力とグランドパッキンの摩擦力が働く。
D + l < z になると、弁 及び弁体の重力に加え、弁体上部と弁箱上面の接触による垂直抗力が働く。以上を数式でまとめると次のようになる。
ds
z = 2 ? tan 0
(l)
ステムナットの回転角?は全閉状態時をゼロとした。ここで、dsは弁 直径、0はステムナットのリード角である。ステムナットの回転角?はステムナットの回転に関する運動 程式
dw
I (2)=T+ T
dtmotorout
w = d?(3)
dt
M:弁体質量m:弁 質量g: 重力定数
FG:グランドパッキンの摩擦力の大きさFz:弁箱壁面からの垂直抗力の大きさFC:弁座の摩擦力の大きさ
(5)
を解くことで求められる。wとIはそれぞれステムナットの角速度と慣性モーメントである。ステムナットの慣性モーメントはステムナットの長さをLn、直径をdnとして I = mn(dn2 + ds2)/8で与えられる。mnはステムナットの質量を表している。Tmotorは外部モータからステムナ ットに働くトルクである。Toutは重力と摩擦力などの外力によって生じるトルクである。外力をFoutとするとステムナットに作用するトルクToutの関係は、トルク係数ksとdsを用いて
一 、弁体挿入時にはグランドパッキン摩擦力および弁座の摩擦力の きは引き上げ時と逆 となる。
Tout = ksdsFout(4)
と表される。外力Foutは弁 の引き上げ位置に依存する。
Fig.2 Position of the bottom edge of stem
2.4 グラントハッキン摩耗事象
劣化事例として、グランドパッキン摩耗時のスラスト荷重を評価した結果を報告する。図3に示すように、グ ランドパッキンはボルトナットでパッキンを締め付ける ことで弁 周りがシールされており、弁の開閉動作時には弁 にグランドパッキンによる摩擦力が働く。グランドパッキンのモデルでは、パッキン押えによってグラン ドパッキンに面圧が加わり、その側圧で弁 を締め付ける構造が次式で記述される[2]。
の挙動の概要を以下の①~⑦に示す。
①弁体が弁座に押し付けられた状態で電動弁が起動。弁座のひずみによる反力の寄与が大きくなってい るためスラスト荷重は負の値を示す。
弁体の押し付けが くなるにつれ反力の寄与がさくなる。
③弁体の押し付けがなくなると弁 が持ち上がり始める。弁 と弁体の接続部に隙間を有するため、
F = 冗dtP [1 - exp (- 2?
2?KNCl/](6)
t
隙間を上昇する間、グランドパッキンによる摩擦力が働くようになる。
④弁体が上述の隙間を移動し、弁体の持ち上げを開
d ボルト呼び径K 単性係数
t パッキンの厚さN パッキンのリング数P パッキン押えによる圧力
l パッキン長? 摩擦係数
C 圧縮率
パッキン押えによる圧力Pは、ボルトのトルク係数と締め付けトルクをそれぞれkb, Tbとすると
始する。このとき、弁体が弁座から離脱する際の摩擦力の寄与が大きくなる。
⑤ 離脱後はグランドパッキンによる摩擦力の寄与が支配的となる。
⑥ 開から閉ヘと弁 の動作 が わると、グランドパッキンによる摩擦力の きが わるため、スラスト荷重の きが 化する。
⑦ 弁体が弁座に達すると、ふたたび弁体を押し付け
P =2Tb
冗kbd[(ds/2 + t)2 - ds2/4]
(7)
るためスラスト荷重は負の値になる。
で与えられる。これより、弁 に働くグランドパッキンの摩擦力の大きさがFG = ?Fより得られる。
以上のグランドパッキンモデルからプログラムを作成し、弁開閉動作時の弁 ステム荷重時間 化をシミュレーションで求める。
Fig.3 Structure of gland packing
解析結果
図4に弁 のスラスト荷重の解析結果を示す。実線は電動弁が正常な場合の解析結果である。全閉止状態から弁体が引き抜かれて全開状態となり、再び全閉止するまでの弁 のスラスト荷重の 化が再現されている[3]。そ
一 、グランドパッキンに摩耗が生じ、摩擦力が全く働かない状態で解析を行った結果を点線で示している。開動作から閉動作に わる際に弁 スラスト荷重の 化
(⑤→⑥の 化)が正常時(実線)に比べて さくなっていることがわかる。このように、摺動部の劣化事 が弁 スラスト荷重 化に顕著に現れることが確認できた。
Fig.4 Analytical results of transient of stem thrust
まとめ
電動弁の摺動部劣化事 としてグランドパッキン摩耗を対 に、正常時と摩耗時の弁 挙動を解析し、想定されるスラスト荷重の違いを確認した。今後は、現場にて監視可能なモータ電流値等の挙動予測や劣化の時間 化の予測評価を試みる。その他、ポンプ等のプラント機器についてもモデル化を行い、機器単体からプラント全体 までの挙動が予測可能なシステム開発を行う。
参考文献
Modelica Association, https://www.modelica.org/
D.F. Denny and D. E. Turnbull, “SEALING CHARACTERISTICS OF STUFFING-BOX SEALS FOR ROTATING SHAFTS”, Proc. Instn Mech. Engrs,
Vol 174 No.6, 1960, pp.271-291
扮他、“電動弁診断技術の裔度化ヘの取り組み”、日本保全学会 第7回学術講演会 C-5-6、20l0