デジタル打音検査とAI・シミュレーションの統合的活用による コンクリート内部構造診断の実現 (2)AIによる逆問題解析

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カテゴリ: 第17回
デジタル打音検査と AI・シミュレーションの統合的活用によるコンクリート内部構造診断の実現 (2)AI による逆問題解析 A study on internal structure diagnosis of concrete structures incorporated with digital hammering inspection, AI and simulation technologies (2) Inverse problem analysis using AI 原子燃料工業 松永嵩 Takashi MATSUNAGA Member 原子燃料工業 小川良太 Ryota OGAWA Member 原子燃料工業 匂坂充行 Mitsuyuki SAGISAKA Member 原子燃料工業 礒部仁博 Yoshihiro ISOBE Member 東京大学 吉村忍 Shinobu YOSHIMURA Member 東京大学 山田知典 Tomonori YAMADA Member One of the most common inspection methods for concrete structures is hammering inspection. While this method makes it possible to quickly inspect a vast number of inspection targets, it has the problem of lacking objectivity of judgment results and recordability. In this study, we aimed to develop a technology to quantitatively diagnose the internal structure of concrete structures by digital hammering inspection. The approach of the research was to build an AI trained by CNN with a database that relates the results of digital hammering inspection to the internal structure of concrete. The constructed AI was able to estimate the size and depth of defects with sufficient accuracy. Keywords: Digital Hammering Inspection, Simulation, Machine Learning, Concrete Structure 1.はじめに コンクリート構造物は、トンネル、橋梁、建築物等で 広く用いられ、社会基盤の中核をなす重要な役割を担っ ており、これらのコンクリート構造物を安全に活用して いくためには、建設時の十分な品質管理と戦略的な維持 管理が不可欠である。 コンクリート構造物の施工時の品質管理や維持管理に おける一般的な点検手法としては,目視検査や打音点 検、詳細調査としてはコア抜き調査等が広く知られてい る。目視点検や打音検査については、膨大な数の検査対 象を短時間で合理的に調査可能な点検手法である一方 で,点検者の経験,技量に依存することや,技能継承が 適切に行われていないことや点検員の主観と経験に基づ く定性的判断に依存し,記録性に乏しいことに課題があ る[1]。コア抜き調査については、圧縮強度や中性化等の詳細の状況を把握可能であるが、サンプリングの箇所や 数量の制約から構造物全体の性能を把握することは容易 連絡先: 松永嵩、〒590-0451 大阪府泉南郡熊取町朝代西1-950、原子燃料工業株式会社 E-mail: tk-matsunaga@nfi.co.jp ではないという課題がある[2]。 このような背景の中,センサを用いた打音点検技術 (以下,「デジタル打音検査」という)によりコンクリートの変状を評価する手法が開発されているが,施工不 良と変状は多岐にわたり,それらを識別し,その規模 (大きさ,表面からの深さ等)を十分に定量評価するま でには至っていない[3]-[9] 。また、それ以前に多岐にわたる施工不良と変状に対応する面的な打音検査時の振動現 象の解明が望まれるが、多数のモックアップ試験に基づ くデータベース(以降、「DB」という)の構築には膨大な時間と労力を要する。 そこで、本研究では、デジタル打音検査結果からコンクリート構造部の内部構造を診断する技術を開発した。 開発アプローチとしては、FEM 解析及び機械学習を利用してコンクリート変状とデジタル打音検査結果の大規 模DB を構築し、これを逆に機械学習させることにより、デジタル打音検査結果からコンクリートの変状を推 定する逆解析モデルを開発した。本報では、後者の逆解 析モデルの構築に関してとりまとめた。なお、本報では変状の一例として、内部空洞を評価対象とした。 2.デジタル打音検査装置及び振動特性 デジタル打音検査装置 本研究で用いたデジタル打音検査システムと得られる 振動波形、周波数分布をFig. 1 に示す。本システムは測定対象を打撃し、励起された振動を広帯域AE センサで捉える。この振動波形を高速フーリエ変換することで、 周波数分布を得る。 この周波数分布から固有周波数を抽出し、測定対象の経年変化等を評価する。なお、着目する周波数範囲(1 k~10 kHz 程度)でフラットな感度を有する広帯域AE センサを使用し、打撃物については、打撃部質量が113 g、打撃面直径が12 mm の点検ハンマーを用いた。 Fig. 1 AE digital hammering inspection system コンクリートの振動特性 コンクリート表面をデジタル打音検査することで得ら れる周波数分布のうち、本研究では、縦波共振の固有振 動数とたわみ振動の固有振動周波数に着目した。 これらの固有振動数について、縦波共振の固有周波数は式(1)、たわみ振動は、例えば、長方形で周囲の境界条 件が単純支持の場合、式(2)のように表せられる[10]。内部空洞により、板厚方向において見かけのヤング率が低下する場合や、内部空洞とコンクリート表面のかぶり部においてたわみ振動が生じた場合、得られる周波数は健全状態の値より変化する。 ??= ?? = 1???1-??2????√(1+???(1-2?? ??(1) ??= ??√???2[ ?? 2 + ?? 2] 212??1-??) ( ??)(?? (2) ??natural frequency[Hz], ??Young’s modulus[Pa] ??density[kg/??],??elastic wave velocity[m/s],D:thickness [m] a,b:rectangular defect size[m], ?:thickness of spalling[m] ??Poisson’s ratio,?? ??:Order of vibration mode 3.逆解析モデルのデータベース構築 3.1FEM 解析条件 デジタル打音検査結果を数値解析するため、ADVENTURE Cluster を用いて時刻歴応答解析を行った。解析モデルの形状はFig. 2 に示すように、3000 mm x 3000 mm x 厚み400 mm とした。打音検査による振動計測点(緑色の点)は内部空洞の直上位置を原点として、 15 点とし、打撃による荷重点は計測点の右側5cm の赤 色の矢印の位置とした。各種解析条件については、先行 研究[11]を参考に、Table 1 とした。なお、打撃荷重を付与した位置近傍の節点における、コンクリート表面垂直 方向速度成分の振動波形を高速フーリエ変換し、着目する振動モードの周波数を評価指標とした。 また、コンクリート部は一様部材としてモデル化し、 周囲の境界条件については、実験条件を模擬するため拘 束せず自由端とした。 なお、打音検査による荷重と振動の計測点を15 点としているが、Fig. 3 に示す通り、15 計測点を8 回折り返 すことで、10 cm 格子で9 x 9 点の面的な打音検査で得られる81 点の固有周波数のコンター図として評価に用いている。 Fig. 2 FEM analysis model Table 1 FEM analysis conditions 3.3 逆解析 AI のデータセット 全結合ニューラルネットワークに対し、内部空洞サイ ズ、内部空洞のかぶり厚を入力層に、コンクリート表面 で得られる面的な周波数を出力層にし、FEM 解析結果を機械学習させた。機械学習モデルの概要をFig. 4 に、学習条件をTable 2 に記す。 Fig. 6 は損失関数の遷移で、学習データおよび検証データも単調減少しており、過学習をしていないことを確 認した。Fig. 5 はこの学習したモデルに内部空洞サイズおよび内部空洞のかぶり厚を与えて、その条件で得られ るデジタル打音検査のコンター図を出力した結果であ り、このデータを逆解析AI のデータセットとした。 Input layerIntermediate layerOutput layer Defect sizeFrequency (X, Y)=(0, 0) Frequency (X, Y)=(100, 0) Frequency (X, Y)=(200, 0) Frequency (X, Y)=(300, 0) Mesh Basic node spacing 50 mm and 200 mm Elements Quadratic tetrahedral elements Material parameters Young’s modulus 37GPa Density 2400 kg/m3 Poisson's ratio 0.2 Hammering load Load 100 N Waveform Triangular wave Loading time 0.1 ms Time related conditions Analysis interval 4μs Max analysis time 10 ms Total steps 2500 step Cover depth No. Unit: 2 No. Unit: 20 No. Unit: 20 Frequency (X, Y)=(400, 300) Frequency (X, Y)=(400, 400) No. Unit: 15 Fig. 3FEM analysis conditions considering point Fig. 4Machine learning conditions for the planar evaluations of digital hammering inspections. Table 2 Machine learning conditions Activation function ReLU Optimizer Adam Learning rate=0.001 Beta1=0.9 Bata2=0.999 Decay=0 Weight initialize Truncated normal distribution Mean=0.0 Standard deviation=0.05 Bias initialize Zero Loss function Mean squared error Epoch 15000 Regularize L2, ?=0.01 Training Dataset Defect size (mm)Covering depth [mm] Sound- 50 x 50 x 1005, 10, 150, 280 100 x 100 x 1005, 20, 25, 100, 150, 280 200 x 200 x 1005, 20, 150, 280 Test Dataset Defect size (mm)Covering depth [mm] 50 x 50 x 10020, 100, 200 100 x 100 x 100100, 200 200 x 200 x 100100, 200 Defect size A[mm] A x A x 100 Covering depth [mm] Fig. 5 An example of large-scale DB construction with internal defects through machine learning trained by FEM simulations. Fig. 6 Errors of machine learning process as a は内部空洞のサイズとかぶり厚として学習させた。 Fig. 7 にモデルの概要を示す。入力された9×9 の面的なデジタル打音検査結果は、3×3 のフィルタ32 個の畳込み層2層とMAX プーリング層の後に全結合層を配置して、サイズおよびかぶり厚を出力する構造としている。学習は、Fig. 5 の全データを6分割して交差検証法を適用した。 Fig. 8 は学習過程の損失関数の遷移で、学習データおよび検証データも単調減少しており、過学習をしていな いことを確認した。 function of epoch for the train and test data. Full Connection Output 4.逆解析 AI の構築 畳み込みニューラルネットワークの構築 コンクリート内部構造推定の一例として、コンクリー ト表面の複数箇所のデジタル打音検査から得られる固有 周波数のマップから内部空洞サイズ、かぶり厚を推定す る逆解析モデルを示す。本モデルはCNN(畳込みニューラルネットワーク)で構成した。入力層は、100mm Conv. 9×9×32 Pooling 4x4x32 格子で9×9 の面的なデジタル打音検査結果で、出力層にFig. 7 Overview of the CNN model Fig. 8 Total loss function of epoch for the train and test data. 逆解析モデルの検証 CNN による逆解析モデルの検証結果の例をFig. 9、Fig. 10 に示す。予測誤差は概ね15% 以内であるが、空 洞サイズの予測に関しては、サイズが小さい場合に誤差 が大きく、かぶり厚の予測に関しては50-150mm の中間範囲の誤差が大きいことが示された。この要因としては は、空洞サイズが小さい場合には固有周波数のコンター 図の変化が中央部に限定されること、また、かぶり厚が50-150mm の中間範囲は、それよりも浅い場合に支配的なたわみ振動モードと、深い場合に支配的な縦波共振の 境界領域であることが考えられる。 この逆解析モデルを現場適用する際には、欠陥サイズ が大きい場合や、欠陥が表面近傍にある場合は、かぶり コンクリートの剥落に繋がる危険性が高く、そのような 条件の場合には正しく推定していることから、危険性の高い箇所を迅速に特定するスクリーニング検査として有 効であると考える。また、構造物の配筋図等の情報を踏 まえて総合的に評価することで、空洞サイズ、空洞位置 の精度向上が期待できると考える。 Fig. 9 Verification of estimation results(defect size) Fig. 10 Verification of estimation results(covering depth) 5.まとめ 本研究では、デジタル打音検査結果からコンクリートの変状を推定する逆解析モデルを開発した。以下に得られた知見を取りまとめる。 コンクリート構造物に内部空洞が生じた場合の、コ ンクリート表面におけるデジタル打音検査結果をFEM 解析で計算し、その計算結果と機械学習を用いることでデータを拡張することで、デジタル打音検 査~コンクリート構造物の変状を推定する逆解析AI のデータベースが構築できた。 データベースの構築に用いた、欠陥状態からデジタ ル打音検査結果を出力する全結合ニューラルネット ワークモデルは、学習データ、検証データともに収 束し、過学習することなく構築可能であった。 構築した、欠陥状態とデジタル打音検査のコンター 図を畳み込みニューラルネットワークで学習させる ことにより、デジタル打音検査結果から欠陥状態を 推定する逆解析AI を構築した。 構築した逆解析 AI は、欠陥の形状および深さに対して、±15%で推定可能であり、欠陥サイズ小さい場 合や、欠陥が深い場合については誤差が大きくなる 傾向が得られた。なお、現場適用する際には、欠陥 サイズが大きい場合や、欠陥が表面近傍にある場合 は、かぶりコンクリートの剥落に繋がる危険性が高 く、そのような条件の場合には正しく推定している ことから、危険性の高い箇所を迅速に特定するスクリーニング検査として有効であると考える。 謝辞 本研究は国土交通省令和元年度~2年度建設技術研究開発助成制度により実施した「デジタル打音検査とAI・ シミュレーションの統合的活用によるコンクリート内部構造診断の実現」の成果の一部である。 参考文献 舟波尚哉,村上祐貴,外山茂浩,小海元暉:熟達点 検者の打音点検動作の形式知化に関する基礎的研究,コンクリート工学年次論文集,Vol.41,No.1, pp.1871-1876,2019.7 森寛晃, 久保善司, 佐藤彰, 小川彰一:弾性波法によるASR 劣化コンクリートの劣化度評価, コンクリート工学年次論文集,Vol.26,No.1,2004 N. Gucunski, A. Imani, F. Romero, S. Nazarian, D. Yuan and D. Kutrubes, Nondestructive Testing to Identify Concrete Bridge Deck Deterioration, The Second Strategic Highway Research Program, SHRP 2 Report S2-R06A- RR-1, National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. 2012. J. Ye, T. Kobayashi, M. Iwata, H. Tsuda and M. Murakawa, Computerized Hammer Sounding Interpretation for Concrete Assessment with Online Machine Learning, Sensors, 2018, Vol.18, No.3, 833. J. Zhang, W. Yan and D. Cui, Concrete Condition Assessment Using Impact-Echo Method and Extreme Learning Machines, Sensors 2016, Vol.16, No.4, 447. J. Tong, C. Chiu and S. Liao, An Elastic-Wave-Based Imaging Method with Synthetic Aperture Focusing Technique for Scanning Defects inside Concrete Structure, Journal of Applied Science and Engineering, Vol. 16, No. 1, 2013, pp. 45-50. Stoji? D, Nestorovi? T, Markovi? N, and Marjanovi? M., Experimental and numerical research on damage localization in plate‐like concrete structures using hybrid approach, Structural Control and Health Monitoring 2018, DOI: 10.1002/stc.2214. Liarakos EV, Providakis CP. Concrete damage mapping combining laser scanning vibrometry, dynamic response modeling, and ordinary kriging regression. Material Design & Processing Communications 2020; DOI: 10.1002/mdp2.153. Y. Takahashia, S. Maeharaa, Y. Ogawab and T. Satoh, Concrete Inspection Systems Using Hammering Robot Imitating Sounds of Workers, 35th International Symposium on Automation and Robotics in Construction (ISARC 2018), 2018, pp. 214-218. 日本機械学会JSME テキストシリーズ, 振動学, 丸善出版, 2005. 蒲原章裕,川越健,太田岳洋,横山秀史,石原朋和,浦越拓野:打音測定法の岩塊の安定性評価の検 討,土木学会論文集C(地圏工学),Vol.71, No.2, pp.108-118, 2015
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