デジタル打音検査を用いたコンクリート構造物の診断技術開発

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カテゴリ: 第17回
デジタル打音検査を用いたコンクリート構造物の診断技術開発 Development of diagnostic technology for concrete structures using digital hammering inspection 国土交通省中部地方整備局 尾崎俊彦 Toshihiko Ozaki Non Member 国土交通省中部地方整備局 竹内由紀 Yuki Takeuchi Non Member 国土交通省中部地方整備局 木村元 Hajime Kimura Non Member 中央復建コンサルタンツ株式会社 栗山廣志 Hiroshi Kuriyama Non Member 中央復建コンサルタンツ株式会社 宮城大助 Daisuke Miyagi Non Member 株式会社テイコク 天野俊一 Syunichi Amano Non Member 原子燃料工業株式会社 藤吉宏彰 Hiroaki Fujiyoshi Member 原子燃料工業株式会社 松永嵩 Takashi Matsunaga Member 原子燃料工業株式会社 礒部仁博 Yoshihiro Isobe Member Abstract In this paper, we discuss the results of application of “Integrated system of digital hammering inspection and digital visual inspection” to the detectability of flacking, cracks and backside cavities of the tunnel lining as well as flacking and backside cavities of concrete paving in a national highway tunnel. Keywords: tunnel lining, concrete paving, non-destructive inspection, AE sensor, digital hammering inspection 1.はじめに コンクリート構造物の維持管理 国土交通省は“令和2 年度版国土交通白書”において、高度経済成長期以降にその多くが整備された社会インフラについて、建設後50 年以上経過する施設の割合が、2033 年時点では道路橋で約63%、トンネルで約42%と見込まれており、その割合が増加傾向にあることを指摘している。同白書では、今後の技術者の減少や維持管理・更新費の増加などの課題を提示するとともに、その対応として、新技術を活用した維持管理・更新の高度化・効率化が重要であると述べている。 国土交通省は2014 年に道路法施行規則において5 年に1 度の近接目視を基本とする点検を法定点検として義務化し、道路管理者向けに点検要領[1],[2]をとりまとめて いる。その後、2019 年に上記要領を改定し、①変状や構造特性に応じた点検対象の絞り込み、②新技術の活用による点検方法の効率化を目的とした「点検支援技術性能カタログ(案)」を発行し、様々な技術の導入に取り組んでいる。 また、原子力分野においては、“原子力施設における 連絡先: 藤吉宏彰、〒590-0451 大阪府泉南郡熊取町朝代西1-950、原子燃料工業株式会社 E-mail: h-fujiyoshi@nfi.co.jp 建築物の維持管理指針・同解説(日本建築学会)”において「原子力施設の建築物に要求される機能を供用期間にわたって維持するためには、維持すべき要求機能を明確にした上で、定期的な点検に基づく維持管理を着実に実施することが重要である」と述べるとともに、「維持管理において必要な情報は、目視による方法や非破壊による方法で得る計画とし、局部破壊による方法は躯体への影響を考慮し必要最小限とする」と述べている。 道路トンネルの維持管理の現状・課題 トンネル覆工コンクリートにおいては、施工条件や経年劣化により、うき、ひび割れなどが進行すると、コンクリート片の剥落による第三者被害の恐れが指摘されている。また、矢板工法のトンネルでは、覆工コンクリート背面に空洞が形成されやすいことが知られており、目視では確認できない内部欠陥、空洞等が存在している場合があることから、突発性崩壊の発生の観点など、必要に応じて覆工巻厚の状態や背面空洞の有無を把握することが重要である[1]。 また、路面においては、コンクリート舗装はアスファルト舗装と比較して高い耐久性を有し、維持管理コストが経済的というメリットを有する一方、アスファルト舗装に比べて長期間の養生が必要であり、維持修繕が困難という課題がある[2]。また、トンネル周辺地山の地下水位が高い場合、コンクリート舗装下の路盤が地下水で満 たされ、重交通の走行による舗装版の振動が起こることで、路盤内で液状化が発生し、路盤内の細粒分が中央排水工に流出することで、空洞が生じる場合がある。 上記のようなコンクリート構造物の変状に対し、従来の打音点検に加えて、赤外線を用いた点検手法がある が、表面の温度差により診断するため、外気温により適用時期に制限があることや[4]、また構造物表面から5cm 程度が計測限界とされており、対象の表面に光沢や汚れがあると、それによって生じる温度差を誤認することが課題として挙げられる[5]。 他にも、電磁波レーダを用いた点検方法があるが、電磁波レーダの探査可能深度は50cm 程度であることや [6]、また、鉄筋間隔が狭い場合や、鉄筋が上下に重なっ ている場合は、鉄筋による反射波の影響を受け、その下の空洞の検出は困難であることが課題として挙げられる [7]。 一方、従来の「叩き点検」は上記で挙げた種々の制限を比較的受けることなく、コンクリート表層にあるうきや剥離を調べることができる。しかしながら、叩き点検は点検者の主観的評価で判断するため、客観性に乏し く、定量的な評価が出来ないという課題がある[8]。 デジタル打音検査を用いた非破壊検査 上記背景のもと、著者らは、診断結果が点検者の経験などに依存せず、かつ定量的な評価が可能な「デジタル打音検査」システムを開発し、コンクリート構造物に適用してきた[9]。 本報では国道トンネルのコンクリート構造物を対象に 「点検支援技術性能カタログ(案)」に掲載された「デジタル打音検査とデジタル目視点検の統合システム」を用いて、(1)覆工コンクリートのうき、ひび割れ、背面空洞の検出性、覆工厚の推定、および(2)路面のう き、路面下空洞の検出性、舗装厚の推定への適用結果について報告する。 2.デジタル打音検査技術の概要 計測装置 本装置は計測対象を打撃し、励起された振動を広帯域AE センサで捉える(図1)。振動特性は計測対象の形 状、拘束状態により変化するため、その変化から経年劣化等の構造物の状態を確認する。 コンクリート構造物の評価指標 デジタル打音検査によって得られた振動波形におい て、①振幅が最大値の10%に減衰するまでの時間(以 降、「振動持続時間」という)(図2 上)、②振動波形を高速フーリエ変換して得られる周波数分布における有意な強度のピーク(以降、「評価ピーク周波数」という) (図2 下)を評価指標として[9]、コンクリート構造物のうき、剥離の検出に用いた。評価ピーク周波数については(1)式、(2)式により板厚方向の縦振動、並びにたわみ振動を評価することが可能である。また、著者らの既往の研究結果[10]から、内部にうきを有する試験体のうき部で振動持続時間が増加する傾向を確認している。 ここで、著者らの先行研究[11]から、図3 に示すようにコンクリート背面に空洞がある場合は、地山への振動の拡散が抑制されることにより、このピークがシャープになることが推定される。従って、空洞の有無を把握し得る特性を利用し、デジタル打音検査による背面空洞、並びに路面下空洞の検出を試みた。 なお、板厚の影響を考慮するため、覆工コンクリート (設計覆工厚60cm)と路面(設計舗装厚25cm)においてそれぞれの変状の検出性についても確認した。 図1 デジタル打音検査計測システム 図2 デジタル打音検査の評価指標 ????????= 2????(1) ?????????2???? 2???? 2 ????= 2 ?12????1 - ????) ?? ????? + ?????? ? (2) ???? 固有周波数[Hz],???? 弾性波速度[m/s],D : 厚み[m], ???? ヤング率[Pa],???? 密度[kg/????], a, b: 欠陥の平面寸法[m],?: 剥離部の厚み[m], ????ポアソン比, ???? ????: 振動モードの次数 図3 背面空洞と周波数分布の形状の関係 3.覆工コンクリートへの適用 目地部(補修部) 事前に従来打音検査で「うき」と判断され、モルタルで補修された目地部において、10cm の格子状にデジタル打音検査した結果を図4 に示す。図中の赤枠は補修された目地部を示す。目地部の評価ピーク周波数は周囲の覆工コンクリートと比較して著しく低い。また、目地部の評価ピーク周波数は周囲の覆工コンクリートと比較して長いという結果が得られ、目地部のうきにおけるデジタル打音検査の検出性を確認した。 アーチ部(ひび割れあり) ひび割れを有するアーチ部のデジタル打音検査結果を図5 に示す。ひび割れ部はひび割れのない箇所と比較してピーク周波数が低い傾向にあることから、ひび割れによって周囲からの拘束力が低下していることが影響したと考えられる。また、一部の箇所で振動持続時間が4ms と長い箇所が見られた。当該箇所の振動持続は図4 における目地部の「うき」箇所よりも短いことから、現状では顕著な「うき」には至っていない状態と想定される。次に、ひび割れの生じていない箇所の評価ピーク周波 数が概ね2500Hz であり、コンクリートの弾性波速度を 3500m/s と仮定すると[12]、(1)式より覆工厚は70cm となる。設計値は60cm であり、デジタル打音検査による覆工厚の推定が概ね良好な結果であった。 図4 目地部(補修部)のデジタル打音検査結果 図5 アーチ部(ひび割れあり)のデジタル打音検査結果 アーチ部(ひび割れなし) アーチ部の側壁側から天端近傍にかけて実施したデジタル打音検査結果を図6 に示す。当該アーチ部は図5 のひび割れ箇所の上部に位置している。天端側は側壁側と比較して評価ピーク周波数が高く、これは覆工厚の違いによるものと考えられる。コンクリートの弾性波速度を3500m/s と仮定すると (1)式より覆工厚は、天端部付近で58cm 程度、天端~側壁にかけて50cm 程度、側壁側で70cm 程度となる。 また、天端側は側壁側と比較して、振動持続時間が短い。これは拘束力低下の要因となるひび割れが、側壁側の方で少ないためと考えられる。 縦断方向20m 長さ トンネル覆工に背面空洞がある場合、偏荷重の影響でトンネル縦断方向にひび割れが生じている可能性がある [13]。したがって、トンネル縦断方向のひび割れがある箇 所を含む長さ20m の範囲でデジタル打音検査を実施した。 デジタル打音検査によって得られた周波数分布の形状を概ねシャープ、ブロードに分類した結果を図7 に示す。2 章に記載した通り、周波数分布がシャープであるほど、背面空洞の存在の可能性が高いと仮定すると、トンネル軸方向にひび割れが生じている箇所において、周波数分布がシャープとなる箇所が多く、背面空洞の可能性を示唆する結果となった。 一方、ひび割れのない箇所については、概ねブロードな波形が得られ、地山と覆工が密着している箇所が多いと推測される。 図6 アーチ部(ひび割れなし)のデジタル打音検査結果 図7 トンネル覆工の周波数分布形状による分類結果 4.路面への適用 目地部近傍 目地部近傍の路面を詳細に10cm の格子状にデジタル打音検査結果を図8 に示す。評価ピーク周波数はコンクリート舗装部において概ね8,000Hz 程度に分布しているが、わだち掘れをアスファルトで補修した箇所(赤破 線)は2,000Hz 程度と低く、(2)式で表される「うき」が生じている可能性がある。また、アスファルト補修部付近(赤破線)でも3ms を超える振動持続時間の長い箇所が確認され、「うき」が生じている可能性がある。 次に、コンクリートの弾性波速度を3,500m/s と仮定し [10]、評価ピーク周波数から舗装厚を推定すると、(1)式 より、コンクリート舗装部(8,000Hz)の舗装厚は設計値25cm に対し22cm 程度であった。 縦断方向20m 長さ 路面を進行方向に長さ20m の範囲を20cm 間隔でデジタル打音検査した結果を図9 に示す。 ピーク周波数は8,000Hz~9,000Hz 程度に分布しているが、従来打音検査で「うき」と判断された箇所(図中の黒線囲み)は2,000Hz 程度と低い。当該箇所以外にも図中赤丸箇所は3,000~4,000Hz と低く、これらの箇所で、 「うき」が生じていると判断される。 また、振動持続時間は中央線側のライン3 において 「うき」による振動持続時間の増加が考えられる。 次に、コンクリートの弾性波速度を3,500m/s と仮定 し、評価ピーク周波数から舗装厚を算出すると、(1)式より、わだち掘れのないライン2(8,000Hz 程度)の厚みが22cm 程度である一方、ライン1、ライン3 のわだち 掘れ(9,000Hz 程度)の厚みは19 cm 程度となる。実際に直尺を用いてわだち掘れのくぼみ量を計測したとこ ろ、1.5~2.0cm 程度であり、評価ピーク周波数と(1)式から算出した車線中央部と轍部の舗装厚の差(3cm 程度)と概ね一致した。 次に、適切な検査間隔の検証を目的として20cm 間隔の計測データを間引くことで、計測間隔を40cm、60cm とした場合の結果を図10 に示す。計測間隔60cm であっても長さ120cm の「うき」を十分検出可能であることを確認した。実際は検出すべき変状の平面寸法に応じて適切に計測間隔を設定することが望ましい。 次に、覆工コンクリートの背面空洞の評価と同様、路面に対しても周波数分布形状から路面下空洞の検出を試みた。路面のデジタル打音検査で得られた周波数分布の形状を概ね3 段階(シャープ、ブロード、非常にブロード)で分類した結果を図11 に示す。2 章に記載した通り、周波数分布がシャープであるほど、路面下空洞が生じている可能性が高いと仮定する。 図11 のうきの生じている箇所の周囲において、周波数分布がシャープになる傾向があり、路面下空洞の可能性を示唆する結果となった。うきの生じていない箇所については、概ねブロードな周波数分布が得られ、舗装と路盤が密着している箇所が多いと推測される。 図8 路面(目地部近傍)のデジタル打音検査結果 図9 路面のデジタル打音検査結果(長さ20m) 図10 デジタル打音検査における計測間隔の検証 図11 路面の周波数分布形状による分類結果 5.まとめ 国道トンネルのコンクリート構造物を対象に「点検支援技術性能カタログ(案)」に掲載された「デジタル打音検査とデジタル目視点検の統合システム」を用い、 覆工コンクリートのうき、ひび割れ、背面空洞の検出性、覆工厚の推定、および(2)路面のうき、路面下空洞の検出性、舗装厚の推定に適用した。 トンネル覆工コンクリート目地部において、従来打音検査でうきと判断された箇所はデジタル打音検査で検出可能であることを確認した。 覆工コンクリートにおいて、背面空洞が生じている可能性のある箇所は、周波数分布形状がシャープとなる傾向を得た。 デジタル打音検査で得られる周波数から覆工厚を概ね推定可能であることを確認した。 路面(コンクリート舗装)において、従来打音検査でうきと判断された箇所はデジタル打音検査で検出可能であることを確認した。また、適切な検査間隔を評価した。 デジタル打音検査で得られる周波数から舗装厚を概ね推定可能であることを確認した。 路面(コンクリート舗装)において、路面下空洞が生じている可能性のある箇所は、周波数分布形状がシャープになる傾向を得た。 参考文献 国土交通省道路局“道路トンネル定期点検要領”,平成31 年3 月 国土交通省道路局“舗装点検要領”,平成29 年3 月 日本道路協会,“超寿命化のための適材適所の舗装技術「コンクリート舗装の普及に向けて」” 川上幸一“赤外線熱計測による地下鉄覆工コンクリートの浮き検出方法の検討とその応用”土木学会論文集, Vol. 74, No.1, 25-39, 2018. 渡辺健“コンクリート構造物の点検における評価対象別の非破壊試験 ③剥離および内部欠陥”コンクリート工学,Vol. 53, No.8, 2015. 8 田中正吾“電磁波レーダを用いたトンネルの高精度リアルタイム非破壊検査”計測と制御,第44 巻第3 号 2005 年3 月号 森雅司“コンクリートの非破壊試験の理論と実際 ②電磁波法の理論と実際”コンクリート工学, 51 巻, 3 号, p. 278-282, 2013. 歌川紀之“トンネル覆工コンクリートの診断―打音法及び非接触診断技術―”日本音響学会誌 69 巻3 号(2013),pp.127-132 戸田一郎他“コンクリート構造物のデジタル打音検査の判断指標に関する検討”コンクリート工学年次論文集,Vol.42, No.1, 2020 国土交通省“点検支援技術性能カタログ(案)令和2 年6 月「TN020001-V0020 デジタル打音検査とデジタル目視点検の統合システム」技術の性能確認シート” Susumu MIURA et al.: Hammering inspection using AE sensor for embedded hardware, E-Journal of Advanced Maintenance Vol.11 No.1, pp.16-26 , 2019 木村芳幹“超音波トモグラフィー法によるコンクリート構造体品質の推定”GBRC Vol.33 No.2 2008.4 森充広“覆工背面に空洞を有するトンネル覆工および周辺地盤の変形挙動に関する模型実験”, 農業農村工学会論文集 IDRE Journal No. 300 (83-6), pp.I_195-I_205, 2015
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