ベイズを用いた圧力容器鋼の照射脆化予測の検討 ー予測精度のより一層の向上に向けてー
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カテゴリ: 第16回
ベイズを用いた圧力容器鋼の照射脆化予測の検討ー予測精度のより一層の向上に向けてー
Application of Bayesian Estimation Method to Irradiation Embrittlement Correlation of RPV Steels
京都大学
森下 和功
Kazunori MORISHITA
Member
京都大学
中筋 俊樹
Toshiki NAKASUJI
Student Member
Abstract
An embrittlement correlation method is one of the most important techniques to ensure the integrity of pressure vessel steels in nuclear power plants. In Japan, this is being addressed in accordance with the Japan Electric Association Code (JEAC4201) that was constructed using actual measured data of irradiation embrittlement of pressure vessel steels. In the present study, as a key step towards developing more reliable methodologies, statistical arguments were made on the embrittlement data. Based on this, more appropriate interpretation of the conventional MC correction in JEAC4201 was made, and moreover, a new correction method was developed within the framework of Bayesian estimation. This new correction method will be useful to establish further advanced management methodologies using the probabilistic risk assessment approach.
Keywords: Neutron Irradiation Embrittlement, Reactor Pressure Vessel, JEAC4201 Embrittlement Correlation, Statistics, Bayesian Estimation, Reactor Integrity
はじめに
福島原子力発電所事故の発生を受けて、原子力エネル ギーシステムは想定外の事象が生じても耐えて回復する
力、 リエンス性を ことが められている。このためには、
①起こり る事象を正しく想定し対応すること
②想定外の事象が生じた時に遥切な修正が可 なことが 要であり、これらを たすよ な対 ?対応を行ことが必要である。本研究では、軽水炉圧力容器鋼の照 射脆化予測に いて、特に、②に着目する。
軽水炉圧力容器鋼は、中性子照射脆化による高経 化に対応するため、照射脆化予測や監視な の保全活動を実施する必要がある。照射脆化に いての②とは、予測と実測の違いを事後処理する方法論の構築である。現行
規制の照射脆化予測法(JEAC4201-2007[1][2] よび
だけ、予測値をシフトして補正を行 ものである。しかしながら、その妥当性に関する議論が十分でないため、
「後付けの予測法」と椰楡されることも多い。一方、ベ イズ統計学やデータマイニング工学、スパースモデリン グな のすでに 得したデータを 用して 論を行 データ イエンス分 の研究が に行 れて り、めざましい進展がみられる。本研究ではデータ イエンス分 のベイズ統計を活用した今までにない予測の修正法に いて議論した。MC 補正にか る たな予測の補正法を提案した。
ベイズによる脆化予測モデル
ベイズ統計学について
ベイズの定理は、以下の式である。
f(D H)冗(H)
JEAC4201-2007(2013 補 [3][4] に いては、MC
冗(H D)
冗(D)
補正と呼ばれる脆化実測値を用いた予測値の補正が行 れているが、これは、脆化の予測値と実測値の差の平均
ここで、冗(H)はパラメータHの事前分布であり、デー タDを 得する前のパラメータHの確率分布である。
冗(D)はデータDが得られる確率分布である。f(D H)は尤度であり、パラメータHのもとでデータDが得られる確率分布を表す。また、冗(H D)は事後分布であり、デ
ータDが得られた時のパラメータHの確率分布を意味する。このベイズの定理を用いて、データDが得られるたびに上記の式によりパラメータHの分布を更 する。このよ にデータの 得毎にパラメータを更 することをベイズ更 とい (図1 。
図1 ベイズ統計の概要
ベイズによる脆化予測の補正と結果
従来の照射脆化予測モデルであるJEAC4201-2007 よびJEAC4201-2007(2013 補 をもとに、ベイズ統計学を り入れた簡易的な予測モデルを構築した。
△DBTTpre △DBTTcal + ?X
得方法は異なる。4 回目の実測データが得られたのちのMC 補正量は16.2℃、残差の標準偏差は13.7℃となった。このことから、ベイズ補正に いても十分に予測値の補正が行えることが分かった。
表1 ベイズ更新によるパラメータ?Xの平均値の推移
Neutron fluence
[n/cm2]
△DBTTmes
[Co]
△DBTTcal
[Co]
?X
[Co]
0 (initial)
-
-
0
0.5×1019
51
25.9
8.9
2.1×1019
53
56.8
5.6
3.5×1019
72
65.6
5.8
6.5×1019
114
80.4
10.6
120
100
80
ΔDBTT [Co]
60
[2][4]40
ここで、△DBTTcalは現行規制の脆化予測法 で得られ
る計算値、△DBTTpre
は補正後の予測値である。?Xは補20
正するためのパラメータであり、すでに得ている脆化デ ータ△DBTTmesからベイズ 定により得る。 たなデータが得られる度に?Xを更 する。
ベイズによる脆化予測の補正を行った例を紹介する。 ベイズ更 を行 にあたり、プラント K の照射脆化データ(運転時間の異なる 4 回の測定分 を実測値として用
いる。測定データが1 得られるごとに?Xの分布を更
した。プラントK の△DBTTmes、△DBTTcal よび?Xの分布の平均値の 移を表 1 に示す。?X の平均値だけ
△DBTTcal をシフトさせて脆化予測の補正を行った結果を図2 に示す。4 回目の補正を行った後の?Xを用いると、
実測データと予測値の残差の標準偏差は 14.0℃となり、ベイズ補正がない場合の 21.2℃から大きく低減することができた。
図 2 には、照射脆化予測の現行規制である JEAC4201- 2007(2013 補 )に記載されている MC 補正を行った結果(△DBTT も示している。MC 補正は、プラント
ごとのDBTT 初期値のばら きをDBTT 予測値をシフト
させることにより補正する。したがって、モデル式はベイ ズによる本研究のものと同様であるが、パラメータ?Xの
0
0246810
Neutron fluence [1019 n/cm2]
図2 ベイズによる照射脆化予測の補正
まとめ
照射脆化予測の精度向上の試みの1 として、ベイズ統計を用いてすでに得られている脆化データを活用した 照射予測の補正を行った。本研究で提案したベイズによ る照射脆化予測の補正が有効であることを確認した。
参考文献
[1] (社 日本電気協会, ‘原子炉構造材の監視試験方法”, JEAC 4201-2007, 2007
[2] 樹, ら, 電力中 研究所報告 , 研究報告:Q06019, (2007).
(社 日本電気協会, ‘原子炉構造材の監視試験方法”, JEAC 4201-2007 [2013 補 ], 2013.
樹, 中島健一ら,電力中 研究所報告 ,研究報告:Q12007, (2013).