ケーブル絶縁材の健全性診断に向けた非破壊検査システム開発
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カテゴリ: 第15回
ケーブル絶縁材の健全性診断に向けた非破壊検査システム開発
Development of nondestructive inspection system for soundness diagnosis of cable insulating material
原子燃料工業)
藤吉
宏彰
Hiroaki
FUJIYOSHI
Member
原子燃料工業)
儀部
仁博
Yoshihiro
ISOBE
Member
関西電子ビーム)
川島
崇利
Takatoshi
KAWASHIMA
関西電力)
浦島
千裕
Chihiro
URASHIMA
関西電力)鈎心心TadashiMAGARI
Abstract
Insulation degradation of cable insulation causes fire due to electric leakage. Cable insulating materials laid in nuclear power plants deteriorate over time, heat and influence of radiation. Here we investigated the degradation tendency of insulating materials by radiation irradiation by hammering inspection using AE sensor. As a result, for any cable insulation material, curing of insulating material with irradiation could be detected as a change in natural frequency. From here, the applicability of AE hammering test as a sound inspecting method for cable insulation was confirmed.
Keywords: hammering test, AE sensor, non-destructive inspection, cable, insulating material
はじめに
原子力発電所で使用されるケーブルの多くは電気絶縁性の高い高分子が利用されているが、高分子は熱や放射線により次第に絶縁性能が低下する1。
ケーブルの絶縁性能についてはその性能を損なうことなく、ケーブルを敷設状態のままで劣化度を測定する非破壊劣化診断技技術の開発が進められている2。例えばIM 法は破断伸びと高い相関性があり、絶縁材の劣化診断における有用性が示されているが、架橋ホリエチレンなど一部の絶縁材については十分な相関がみられていないものがある3。
そこで筆者らは上記の絶縁材を含む複数種類のケーブルに して、AE ン を用いた により、放射線による絶縁材の劣化 出を非破壊的に試みた。
試験体の選定
試験体として、前章で述べた架橋ホリエチレン絶縁、 および原子力発電所において絶縁低下の評価 象となっているエチレンプロヒレンゴム絶縁4を含む3種類のケーブルおよび絶縁材と同じ材質の板材2 種類を選定した。試験体の仕様をTable 1 に、外観をFig. 1 にそれぞれ示す。
なお、C-1,C-2 は芯線を絶縁材で覆い、その外側は被覆により保護されている。また、C-3 は絶縁材にのみ覆われている。
Table 1 Specification of samples
Sample
type
Sample
name
Material
Size(mm)
Cable
C-1
Insulating material
XLPE
Sheath vinyl
cf> 41 Length 300
C-2
Insulating material
EPM
Sheath CR
cf> 38.2 Length 300
C-3
Insulating material
XLPE
Sheath -
cf> 20 Length 300
Plate
P-1
XLPE
□ 100
Thickness 10
P-2
EPM
(XLPE Cross-linked polyethylene、
EPM Ethylene propylene rubber、CR Chloroprene rubber
Fig. 1 Irradiation samples
連絡先: 藤吉宏彰、〒90-0451 大阪府泉南郡熊取町朝代西1-950、原子燃料工業株式会社
E-mail: h-fujiyoshi@nfi.co.jp
放射線照射
前章で示した試験体について、関西電子ビーム)が所 有する10MeV 電子線照射施設を用いて、電子線を照射した。本照射施設は、透過性、均一性に優れ、商用として
内 高の10MeV 電子線照射が 能である5。
実機のケーブル布設環境を考慮すると劣化要因となる放射線はッ線が主と考えられる。
ケーブル絶縁材のような高分子材料において、ッ線と電子線は吸収線量が同じであれば本質的には同じ効果を与える(二次電子による励起やイオン化の発生、それによるラジカルの生成 ことから6、本研究ではッ線と比較して短時間での照射が 能な電子線を用いて実機環境を想定した絶縁材の劣化を評価する。
照射
電子線照射条件をTable 2 に示す。各照射条件において試験体3 体 つ照射した。
電子線照射は通常運転時の原子炉格納容器内ケーブル布設箇所周囲の平均線量率の 大実測値(0.29Gy/h)7を考慮し、1kGy を照射1 回あたりの吸収線量(ここでは水の吸収線量相 。以降、 線量 という とし、目 線量に達するまで繰り返し照射した。また、照射による内部導線の発熱による効果を確認するため、1kGy/回に加えて、電子線電流値を上げた30kGy/回の2 通りを設定した。
なお、絶縁材全周に均一に照射するため、試験体を回転させながら電子線を照射した。
Table 2 Irradiation condition
Integrated irradiation dose
1kGy/time
30kGy/time
Current value
1.73mA
10mA
Transport speed
15.00m/min
2.89m/min
Scan width
1100mm
1100mm
Total dose
(kGy)
Number of irradiation
0
0
0
50
67(50
-
100
133(100
-
200
267(200
-
300
400(300
-
400
553(400
-
500
667(500
22(17
1000
-
44(33
1500
-
67(50
2000
-
89(67
(注 括弧内の数値は板材の照射回数
照射試験体の温度計測
照射による温度上自に伴う絶縁材の劣化評価を目的として、温度計測用 ンプルを用いて照射中のシース表面および芯線の温度計測を打った。結果をTable 3 に示す。1kGy/回と比較して30kGy/回は温度上自が である。
C-1,C-3 は耐熱試験温度以下、C-2 は耐熱試験温度付近まで上自するものの、5 分程度で照射前と同程度まで低下した。これは絶縁材の耐熱試験時間(46 時間以上 と比較して十分短く、熱による絶縁材の影響は小さいと考えら れる。
上記結果から、以降は放射線そのものによる劣化について評価する。
Table 3 Temperature measurement result
Sample Type
Sample name
Heat resistance test temperature
Measuring position
Measured temperature
[℃]
T[℃]
time
[h]
1kGy
/time
30kGy
/time
cable
C-1
120
96
Surface
18
75
Core wire
20
80
C-2
100
48
Surface
19
100
Core wire
21
100
C-3
150
96
Surface
19
80
Core wire
20
100
plate
P-1
-
-
Surface
18
70
Internal
18
80
P-2
-
-
Surface
18.5
90
Internal
18.5
90
JIS C 3005 Test methods for rubber or plastic insulated wires and cables
ケーブルおよび樹脂の劣化評価
ケーブルおよび樹脂の放射線照射による劣化評価として、AE ン を用いた 、およびシ ハンマで計測した。
AE 打音検査による劣化評価
AE ン を用いた固有周波数解析は、AE ン が取り付けられた 象の状態(重量や形状など と周囲から受ける拘束の変化を 出し、 象の施工状態や健全性を評価する手法である8。AE をFig. 2 に示す。
AE 要領をFig. 4 に示す。Fig. 4 における各計測点において、それぞれ5 回 つ 撃して得られる信号波形を高速フーリエ変換(FFT し、平均化処理することで周波数分布を得る。ケーブルヘの より得られる周波数分布をFig. 5 に示す。
1.0
0.8
0.6
Magnitude
0.4
0.2
0.0
0
2000
4000
6000
8000
10000
Frequency(Hz)
Fig. 5 Frequency distribution (C-1)
Fig. 3 AE Hammering Inspection system
AE 打音検査による計測
照射前のケーブル(C-1 におけるAE 結果を Fig. 6 に示す。計測点におけるばらつき(図中の誤差棒は十分小さいため、以降は各試験体において照射前後の評価ヒーク周波数の差分で評価する。
2000
C面
Frequency[Hz]
1500
②プレート(P-1)
計測条件①
打撃
計測条件②
AEセンサ設置面
計測条件④
A面B面
AEセンサ(位置は固定)
1000
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33
Sample number
Fig. 6 Peak frequency (C-1, before irradiation)
計測点④
計測条件③
計測点③
③プレート(P-2)
A面
計測点②
B面
AE 打音検査結果
照射条件ごと(試験体3 体ごと の評価ヒーク周波数変化量(照射後-照射前 のプロ をFig. 7,... Fig. 11 に示す。ケーブル3 種類、プレー 2 種類のい れの試験体も、照射後は照射前と比較して評価ヒーク周波数が概
上自した。これは、電子線照射により試験体が 化したためと考えられる。
絶縁材料は機械的特性の低下が放射線照射に であり、電気的特性の低下は機械的特性が相 低下した後に現れることが多いことがこれまでの研究で明らかになっ
Fig. 4 AE hammering inspection method
てきている9。
以上から、AE により絶縁材の機械的特性劣化を非破壊的に 出することで、電気的特性の低下を事前に 出 能であることを確認した。
300300
1kGy/time 30kGy/time
0
50
100
200
300
400
500
1000
1500
2000
200200
Change amount of Frequency[Hz]
Change amount of Frequency[Hz]
100100
00
-100
Total dose[kGy]
-100
Total dose[kGy]
Fig. 7 Influence of irradiation dose on peak frequency, C-1Fig. 10 Influence of irradiation dose on peak frequency, P-1
300300
200200
Change amount of Frequency[Hz]
Change amount of Frequency[Hz]
100100
00
-100
Total dose[kGy]
-100
Total dose[kGy]
Fig. 8 Influence of irradiation dose on peak frequency, C-2Fig. 11 Influence of irradiation dose on peak frequency, P-2
300
200
Change amount of Frequency[Hz]
100
0
-100
Total dose[kGy]
シュミットハンマによる劣化評価
シ ハンマは非破壊的にコンクリー の圧縮強度が測定できる計測器である。シ ハンマに内蔵されているハンマがバネの力でコンクリー 表面を 撃し、その反発度によりコンクリー 圧縮強度の推定が能である10。ここでは、ケーブルおよび樹脂の放射線照射による劣化の定量評価に用いた。
シ ハンマによる計測要領をFig. 12 に示す。なお、 撃時のばらつきを考慮し、1 計測点あたり5 回 つ
撃した。
照射前のケーブルおよびプレー の計測結果から、絶
Fig. 9 Influence of irradiation dose on peak frequency, C-3
縁材料に じた圧縮強度の計測が 能であることを確認した(Fig. 13 およびFig. 14 参照 。なお、計測条件ごとのばらつきを誤差棒で示す。
①ケーブル(C-1,C-2,C-3)
ト ン ー
②ケーブル(P-1,P-2)
ト ン ー
シュミットハンマ計測結果
各照射条件における圧縮強度変化量をFig. 15 Fig. 19 に示す。なお、同一照射条件の試験体3 体ごとのばらつきを図中の誤差棒で示す。
A面い れの試験体も照射により圧縮強度が上自した。なお、C-3 において、2000kGy 照射した試験体は3 体ともシ
ハンマによる計測時に絶縁材の が発生し、機械的強度の大幅な低下を確認した。
以上から、シ ハンマ計測により照射にともなC面う絶縁材の劣化( 化に伴う圧縮強度の上自 を 出能であることを確認した。また、劣化傾向はAE
と同じ傾向であることを確認した。
10
A面
8
Change Amount of Compressive Strength [N/mm2]
6
B面
Fig. 12 Schmidt hammer measurement method4
2
30
0
20-2
Compressive strength[N/mm2]
Total dose[kGy]
Fig. 15 Influence of irradiation dose on compressive strength, C-1
10
10
8
Change Amount of Compressive Strength [N/mm2]
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33
Sample number
6
Fig. 13 Compressive strength (C-1,C-2,C-3, before irradiation)
4
80
2
70
600
Compressive strength[N/mm2]
50
-2
40
Total dose[kGy]
30Fig. 16 Influence of irradiation dose on compressive strength, C-2
20
10
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 2122 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33
Sample number
Fig. 14 Compressive strength (P-1 and P-2, before irradiation
10?照射中の温度計測結果から、本開発の照射条
件の範囲において、照射に伴う熱の影響は限
Change Amount of Compressive Strength [N/mm2]
8
定的
6?AE 、シ ハンマ計測におい
て、 線量(1kGy/回,30kGy/回 の影響は
4限定的であったことから、本開発の照射条件
2の範囲におけるケーブル絶縁材の劣化の進
打度は、吸収線量(総量 に依存し、 線
0量には依存しない
-2
Total dose[kGy]
参考文献
Fig. 17 Influence of irradiation dose on compressive trength,C-3
[1“]
ケーブル絶縁材料の 年劣化研究”JAEA-Review
10
8
Change Amount of Compressive Strength [N/mm2]
6
4
2
0
-2
Total dose[kGy]
Fig. 18 Influence of irradiation dose on compressive trength,P-1
10
8
Change Amount of Compressive Strength [N/mm2]
6
4
2
0
-2
Total dose[kGy]
Fig. 19 Influence of irradiation dose on compressive trength,P-2
まとめ
本開発結果から得られた知見を整理する。
ケーブルヘの電子線照射により、AE
で得られる固有周波数、およびシ ハンマ計測で得られる圧縮強度はい れも上自し、照射に伴う絶縁材の劣化を 出 能
2012-027
https://jopss.jaea.go.jp/pdfdata/JAEA-Review-2012-027. pdf
“原子力発電所の低圧ケーブル非破壊劣化診断技
術” 三宅悟
http://www.inss.co.jp/wp-content/uploads/2017/03/1998_ 5J098_107.pdf
“インデンターモジ ラス(IM 法のケーブル状
態監視ラウンドロビン試験結果の評価について”
INSS JOURNAL Vol . 23 2016 R-2
http://www.inss.co.jp/wp-content/uploads/2017/03/2016_ 23J160_167.pdf
“高浜発電所 1,2 号炉の劣化状況評価(電気・計
品の絶縁低下 ”平成 27 年 12 月 10 日http://www.nsr.go.jp/data/000132661.pdf [5]“10MeV 電子線の特徴” 関西電子ビーム) http://www.kbeam.co.jp/kenkyu/#TOKUCHO
“電子線照射技術の工業利用” 中井康二 他日新電機技報 Vol.54, No.2 (2009.10)
“高浜発電所 1 号炉ケーブルの技術評価戸”
http://www.nsr.go.jp/data/000032350.pdf
“AE ン を用いた による ル の健全性、施工品質点 システムの開発” 匂坂充打 他日本原子力学会 2017 年秋の大会
“高分子系材料の耐放射線特性とデータ ” 日本原子力研究所 2003 年 9 月
“シ ハンマー取扱説明戸” 富士物産) http://www.eg.aktio.co.jp/product_pdf/torisetsu_038-1_N R.pdf