リスク情報活用のための人材育成に対するNRRCの 取り組み状況について
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カテゴリ: 第17回
リスク情報活用のための人材育成に対する
NRRC の取り組み状況について
NRRC's approach to human resource development for RIDM
電力中央研究所
原子力リスク研究センター
古田泰
Tai FURUTA
会員
電力中央研究所
原子力リスク研究センター
喜多利亘
Toshinobu KITA
非会員
電力中央研究所
原子力リスク研究センター
竹原広樹
Hiroki TAKEHARA
非会員
電力中央研究所
原子力リスク研究センター
岩谷泰広
Yasuhiro IWAYA
非会員
概要
人材の育成は原子力発電所で RIDM プロセスを実現させるために非常に重要であり、意思決定者のみならず、RIDM プロセスに関わる組織の構成員全てが役割に応じて RIDM プロセスに関する知識を理解していることで、RIDM プロセスがより円滑に実施される。加えて、RIDM に資するリスク評価のための PRA の専門知識を持った実務者も必要となる。NRRC におけるこれら発電所の人材育成をサポートするための取り組みを概説する。
Keywords: リスク情報活用、人材育成、RIDM、PRA
1.RIDM における人材育成の位置づけ
事業者はリスク情報を活用した意思決定(以下
「RIDM」)プロセスを発電所のマネジメントに導 入することとし、産業界一体となって取り組む基本方針や計画を「リスク情報活用の実現に向けた戦略プラン及びアクションプラン」に取りまと め、取り組みを推進している。[1]
事業者が同プランで示す RIDM を導入したマネジメントシステムを遂行するためには、組織の構成員をリスク情報の意味を正しく理解し組織における自身の役割に応じて活用できる人材に育成することと、リスク情報の一つである確率論的リスク評価(以下「PRA」)の開発・評価を行う専門的な実務者を育成することが必要である。(図 1)
図1 RIDM によるリスクマネジメントの概念図
連絡先:竹原 広樹、〒100-8126 東京都千代田区大手町1-6-1、(一財)電力中央研究所 原子力リスク研究センター、E-mail: takehara3911@criepi.denken.or.jp
2.NRRC が提供する教育プログラム
電力中央研究所原子力リスク研究センター(以 下「NRRC」)は、事業者の RIDM 人材育成を支援するため、対象とする人材の役割を以下の三者 に整理して教育プログラム(2.1~2.3 節で解説) を開発し事業者へ提供している。(図 2)
・「RIDM プロセスに関わる全ての構成員」
・「PRA の実務者」
・「意思決定を行うマネジメント層」
なお本取り組みは「リスク情報活用の実現に向けた戦略プラン及びアクションプラン」において示された事業者と NRRC が共同で取り組む「共通」事項に該当している。(表 1)
図 2 NRRC が提供する教育プログラムの概略図
表1 NRRC が提供する教育プログラムの位置づけ
「リスク情報活用の実現に向けた戦略プラン及びアクションプラン」の項目
NRRC が提供するプログラム
プログラム名
対象者
対象者数
形式
開催数
【B3.3.2 確率論的評価】
PRA 実務者、PRA ユーザ向け共通訓練プログラム
PRA およびリスク情報活用基礎教育
発電所の RIDM プロセスに関わる全ての構成員
大人数
NRRC が作成した教材を事業者の社内教
育で活用
事業者にて設定
PRA 実務者育成教育
業務として PRA の開
発・評価を行う実務者
少人数
NRRC が主催する集合研修
6週間× 年
1回開催
【B.4 意思決定・実施】
意思決定者の共通訓練プログラム
リスク情報活用演習
各事業者において意思決
定を行うマネジメント層
2日間× 年
1回開催
PRA およびリスク情報活用基礎教育
・目的と対象者
事業者の構成員が RIDM プロセスと自らの業務との関係を理解し、また RIDM プロセスの中で PRA がどのように使われるか理解することを目的としており、発電所の RIDM プロセスに関わる構成員(主に技術系の発電所員)を幅広く対象としている。
・内容と実施状況
本教育の対象となる構成員は非常に多くNRRC による集合教育は適さないため、教材を NRRC が開発して事業者に配布し、各事業者が自社の教育体系に合わせて教材を編集 して教育するプログラムである。
教材は RIDM と PRA に関する基礎知識を醸成する「RIDM プロセス基礎」及び「PRA 概要」と PRA の詳細版となる「PRA 実務者入門」で構成しており、事業者の講師が説明 する際の補足と各キーワードの解説を含めて200 頁程度のファイルで提供している。
本教育は 2020 年度に最初の教材提供を開始しており、今後事業者からのフィードバッ クにより改善を図っていく予定である。
PRA 実務者育成教育
・目的と対象者
PRA の開発・実行・評価を行うために必要な能力を集中的に醸成することを目的とし ており、各事業者等において実務として PRA を扱っている人材又はこれから実務を担う人材を主な対象者としている。
・内容と実施状況
本教育は米国の Electric Power Research Institute(EPRI)と共同で開催しており、国内外の PRA 専門家を講師に迎えて 6 週間(1 週間×6 週)で PRA の実務者を養成するプログラムである。
教育は PRA に関する基礎知識の習得からスタートし、各週のテーマに沿った講義・演 習・討論等を通じて PRA モデルの構築や評価を経験することで、実務として PRA を行 える人材を養成する内容としている。
受講生は事業者やエンジニアリングメーカ等より 30~40 名程度である。なお討論や演習、発表の頻度が高いプログラムのため、コロナ禍により 2020 年度の第 2 週目以降の開催を中断しており、現在オンラインによる開催を含めて再開方法を検討している。
リスク情報活用演習
・目的と対象者
意思決定者が、自らの意思決定におけるリスク情報の活用度を高めていくとともに、自らの組織に RIDM を根付かせるための行動がとれるようになることを目的としており、各事業者において意思決定を行うマネジメント層を対象としている。
・内容と実施状況
RIDM の歴史が長い米国の事業者や規制当局において RIDM に携わってきた講師を招き、講義と実体験を基にした 4 種類の演習を通じて意思決定者の RIDM に対する理解を深めていくプログラムである。
受講生は最初に RIDM の知識を講義で確認し、講師の経験に基づく実例を用いた 2 種類の演習(設備故障から意思決定までのケーススタディ、組織対応の失敗から得た教訓)により RIDM のプロセスを経験する。その後、自らの組織に RIDM を導入するために何をすべきかを 2 種類の演習(RIDM を組織に導入する際の課題、マネジメント層が自ら取り組む行動)で考える内容としている。
本演習は各事業者より 10 名程度の受講生
を募り 2019 年度より開始したが、コロナ禍の影響もあり 2020 年度は中止し、2021 年度はオンラインによる開催を予定している。
参考文献
[1] リスク情報活用の実現に向けた戦略プラン及びアクションプラン(2020 年改訂版),2020年 6 月 19 日
(https://www.fepc.or.jp/about_us/pr/oshirase/ i csFiles/afieldfile/2020/06/19/press_20200619_b.p df)