原子力機構における高温ガス炉研究開発取組の現状
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カテゴリ: 第17回
原子力機構における高温ガス炉研究開発取組の現状
Current Status of HTGR Research and Development in JAEA
日本原子力研究開発機構 坂場 成昭 Nariaki SAKABA Non-member
The Japan Atomic Energy Agency (JAEA) has been developing High Temperature Gas-cooled Reactor technology since 1960s. In December 2020, Japanese Government clearly stated “Green Growth Strategy Through Achieving Carbon Neutrality in 2050” that noted a commitment to the milestone and developing and implementing significant efforts in various sectors for achieving carbon neutrality around 2050. High Temperature Gas-cooled Reactor (HTGR) is expected to play one of a dominant roles to reduce carbon generated from non-electric fields by utilizing heat and hydrogen produced by HTGR. To produce hydrogen from HTGR, it is necessary to establish a connecting technology including safety case between HTGR and hydrogen production process. The milestone for hydrogen production by HTTR (High Temperature Engineering Test Reactor) is given by the Green Growth Strategy. JAEA is now planning its R&D towards generation of hydrogen using heat from HTTR by 2030. This paper describes current status of HTGR R&D in JAEA.
Keywords: HTGR, HTTR, SMR, Inherent Safety, Hydrogen Production, Carbon Neutrality
1.はじめに
高温ガス炉は、950℃の高温熱が得られることから、高温域での水素製造、ガスタービン発電、低温域での地域暖房、海水淡水化等の多目的用途に使うことができる原子炉である。日本原子力研究開発機構(原子力機構)は、1960 年代に高温ガス炉の研究開発を開始し、茨城県大洗町にHTTR(高温工学試験研究炉)[1]を建設し、1998 年の初臨界、2004 年に原子炉出口冷却材温度950℃の達成、以降、50 日間の高温試験運転、強制冷却を停止し固有の安全性を確認する安全性実証試験等を進めてきた。東京電力福島第一発電所事故以降、新規制基準への適合審査を進め、2020 年6 月に規制庁から認可を受け、本年7 月の運転再開を目指している。
2020 年10 月、菅内閣総理大臣は2050 年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言し、これ を踏まえ、経済産業省が中心となり、関係省庁と連携して
「2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し12 月に成長戦略会議に報告した。
連絡先: 坂場成昭、〒311-1393 茨城県東茨城郡大洗町成田町 4002 番地、日本原子力研究開発機構 高温ガス炉研究開発センター 副センター長
E-mail: sakaba.nariaki@jaea.go.jp
グリーン成長戦略[2]には 14 の重要分野が示され、高い目標を掲げた上で、現状の課題と今後の取組を明記し、予算、税、規制改革・標準化、国際連携など、あらゆる政策を盛り込んだ実行計画が策定された。14 分野のうち1 分野として原子力産業とされ、高温ガス炉は、小型炉(SMR)、核融合とともに 3 つの重要分野として、イノベーション加速化のための現状と課題、今後の取組が明示された。具体的には、「開発・運転ノウハウの蓄積と実用化スケールへの拡張が必要」であり、「日本企業が水素製造・発電コジェネプラント、蓄熱可能な発電用高温ガス炉などを開発中」「高温ガス炉と水素製造施設との接続技術の確立が必要」とされ、「HTTR を活用した試験・実証等」の今後の取組が示された。ここには、「HTTR を活用し、安全性の国際実証に加え、2030 年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造に必要な技術開発を支援」「安全性・経済性・サプライチェーン構築・規制対応を念頭に置いた開発支援を行い、技術開発・実証に参画」「海外の先行プロジェクトの状況を踏まえ、海外共同プロジェクトを組成」
「日本の規格基準普及に向けた他国関連機関との協力を 推進」を行うとの方向性が示された。
原子力機構は、これらを受け、従前の取組を強化、加速すべく進めている。本報では、特に国際連携を中心と した現在の取組の概要を示す。
2.高温ガス炉の国際連携
概要
エネルギー基本計画(第 5 次)において、高温ガス炉は、「海外市場の動向を見据えつつ国際協力の下で推進す る」とされた。国外のプロジェクトが国内より先行するで あろうこと、我が国が有する高温ガス炉技術を維持すること等を考慮し、原子力機構は、Fig.1 に示すように国際協力と HTTR を活用した試験を並行し進める計画を定めた。
ポーランドとの連携
ポーランドは、電力としての軽水炉、化学プラントへの 熱供給としての高温ガス炉の利用が脱炭素政府方針であ る。ポーランド政府から日本政府への協力要請以降、JAEA はポーランド国家原子力研究センター(NCBJ)との間で研究協力覚書(2017 年)、実施取決め(2019 年)を締結した。内容は、ポーランドにおける高温ガス炉(研究 炉、熱利用炉)開発を支援するとともに、高温ガス炉に関 する燃料・材料のシミュレーション技術等を共同開発することである。技術会合だけではなく、ポーランドに対す る技術セミナー等を東大等と連携し進めてきた。本年5 月に、外相間の行動計画に高温ガス炉協力も引き続き明記され、今後、建設を目的とする次のフェーズへの連携協力 へ進む見込みである。
英国との連携
英国は、SMR 技術・経済性評価(2016 年)以降、AMR 計画(Phase 1 2018, Phase 2 2020)、BEIS 諮問機関NIRABによる政策提言(Achieving Net Zero)(2020 年)、グリーン産業革命のための10 要点計画(2020 年)、エネルギー白書(2020 年)が示されてきた。高温ガス炉は電力分野以外からの脱炭素として期待され、NIRAB 報告書では原子力機構との協力を推奨する記述が為されている。原子力機構は、英国の国立原子力研究所(NNL)との間で包括技術取決めに高温ガス炉分野を追加し改定(2020 年)、規制側ONR と情報交換取決め締結(2020 年)を行い、BEIS と経産省の協力覚書の下、連携を進めている。今後、英国 における高温ガス炉導入に向け協議を継続し、双方の役割分担、民間間の協力体制構築を図る。
OECD-NEA HTTR-LOFC プロジェクト
HTTR を用いた安全性実証試験、炉心流量喪失試験及び炉心冷却喪失試験に係る事業を経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)原子力施設安全委員会のプロジェクトとして契約した。米国、仏国、独国、韓国、チェコ、
ハンガリーの資金分担により、Fig. 2 に示すようにHTTR の炉心冷却流量を停止する炉心流量喪失試験(30%出力及び 100%出力の 2 ケース)、商用電源喪失を模擬した炉心冷却喪失試験(30%出力の 1 ケース)の合計 3 ケースの試験を行う。30%出力からの試験は2010 年に既に実施し、残りの 2 ケースの試験は運転再開後速やかに行うことを計画している。
3.おわりに
高温ガス炉の実用化に向け、HTTR の活用は世界から期待され、原子力機構は国際連携の下、高温ガス炉の研究 開発をより一層進める。関係各位の今後益々のご指導、ご 鞭撻をお願いする次第である。
Fig.1 JAEA’s plan towards realization of HTGR
Fig.2 OECD-NEA HTTR-LOFC (Loss Of Forced Cooling)
Project’s test result and plan
参考文献
S. Saito et al.: JAERI-1332, “Design of High Temperature Engineering Test Reactor (HTTR)” (1994).
“2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略”、成長戦略会議、2020、https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/2020 1225012-2.pdf (Accessed 2021-5-23).