再エネ接続量増加に向けた原子力発電設備の活用に関する検討
公開日:
カテゴリ: 第17回
再エネ接続量増加に向けた原子力発電設備の活用に関する検討
Study of utilization of nuclear power plants for increasement of renewable energy installation
日立製作所
村上洋平
Yohei Murakami
Member
日立 GE
守田俊也
ShunyaMorita
Non-member
日立製作所
渡辺雅浩
MasahiroWatanabe
Non-member
日立製作所
小海裕
YutakaKokai
Non-member
日立製作所
加藤大地
DaichiKato
Non-member
日立製作所
奥山圭太
KeitaOkuyama
Non-member
Abstract:
Rapid growth in renewable energy (RE) is essential for achieving carbon neutrality. However, the resilience of bulk power system is decreased due to the installation of large amount of RE, and there is a possibility that the transmission accident causes disasters such as a large-scale blackout. As a result, the amount of RE is limited in order not to cause such disasters. In such a situation, nuclear power plants will be useful items to reinforce the resilience of bulk power system. In this research, we evaluate the effect of restart of nuclear power plants to the stability of bulk power system by a grid simulator developed in Hitachi, which imitates the power grid in Japan. We confirm that the stability of bulk power system is increased by the restart of nuclear power plants.
Keywords:
Renewable energy, Nuclear power plant, Bulk power system, Reactive power, Grid simulator
1.背景と目的
2015 年の第 21 回気候変動枠組条約締結会議(COP21: Conference Of the Parties 21)において「パリ協定」が採択され、2020 年以降の温室効果ガス排出削減等のための新た
な国際的な枠組みが示された。日本はこの中で,2030 年度に温室効果ガス排出量を2013 年度比で26.0%、2050 年に 80%削減することを目標としていた[1]。この目標値も近年のカーボンニュートラルへの動きを受けて高い値に 見直されており、2021 年の「気候サミット」では、中期目標として2030 年度の電源構成におけるRE 比率を46% とする方針が宣言された[2]。この方針の下,日本では太 陽光、風力、バイオマス、地熱および水力発電といった再 生可能エネルギー(Renewable energy、以下RE)の導入が進んでいく。日本における RE の全発電電力量に占める割合は、2010 年度の9%から2019 年度には18%まで増えており、今後もこの割合は増加する見通しである [3]。
連絡先: 村上洋平
〒319-1292 茨城県日立市大みか町7丁目1番1号日立製作所 原子力システム研究部
E-mail: yohei.murakami.pq@hitachi.co.jp
RE はその発電量が日射量、風況などの自然環境に依存することから、その導入好適地は限定されており、日 本においては千葉・秋田の洋上風力や、九州の太陽光発 電の接続量が今後増加すると考えられている[4]。一方、 電力の主な需要地は東京や関西など、RE の発電地とは 地理的に離れた場所に立地している。そのため、将来の 日本の電力系統においては、RE で発電した数GW の電力を、数百km という距離に渡って送電する系統構成になることが予想されている[5]。
しかしながら、大量の電力を長距離送電する際に は、発電機の同期安定性や電圧安定性に依存する電力系統全体の安定性が課題になると考えられている[5]。RE の導入に伴い火力発電所が停止することにより、電力系統として同期発電機が有している周波数調整・電圧維持 機能が相対的に低下し、送電線の事故時の発電機脱調に 伴う大規模停電などのリスクが高くなっている。
このような電力系統において原子力発電所は、大容量の発電機を活かした周波数調整・電圧維持機能のみでなく、CO2 排出量削減が期待できることから、電力系統の安定性の確保と温室効果ガス排出量の削減を両立する手 段として重要な電源になると考えらえる[5]。
本研究では、原子力発電所の設備を活用することによる電力系統のレジリエンス向上の効果を定量的に解析 することで、今後の日本の電力系統における電源構成の 形態について議論することを目的としている。
2.解析手法
日立では、送電線の構成、発電機出力、RE 導入量などを公開情報から設定し、東・西日本における広域な電力系統を模擬したシミュレータを開発している[6]。本研究では、広域系統シミュレータを活用し、原子力発電所の稼働による電力系統の安定性の向上を評価した。Fig. 1 に広域系統シミュレータのイメージ図を示す。Fig. 1 に 示す通り、本シミュレータは東北や東京などを含む広域な電力系統を模擬したものとなっている。本シミュレータを活用することで、東北地方で発電した電力を東京へ送電する際の模擬など、エリア間を跨いだ長距離送電時の系統解析が可能となる。
Fig.1 Image of grid simulator developed by Hitachi [6]
3.研究内容、結果
本研究では、日本の系統構成において原子力発電所がRE の発電地と電力の需要地の中間付近に立地している場合が多い点に着目した。そこで、日本の電力系統の構 成の典型例として、5GW 程度のRE を500km 程度の距離で送電する系統を対象に、系統事故により送電線が断線した場合などを想定し、事故時の電圧・周波数の変化 や、原子力発電所の稼働による安定性の向上の結果をシ ミュレータを用いて評価した。送電線の事故時に発生す る、事故発生点付近の変電所における系統動揺(電圧変化)について、解析例をFig. 2 に示す。図中の点線で示す
通り、原子力発電所が稼働していない場合には、系統事 故時の電圧低下が大きく運用上の目標値を下回る結果と なった。それに対し、図中の実線で示す通り、原子力発 電所が稼働した際には、同期発電機による慣性・無効電 力の供給により、系統事故時においても電圧を一定に保 つことで、変電所の電圧が運用上の目標値を下回ること はないことを確認した。
Fig.2 Voltage drop with and without nuclear power plant
4.まとめ、今後の展望
再エネ増時の電力系統において、原子力の慣性・無効電力供給により、事故時の系統動揺(電圧変化)を抑制し電力系統の安定性を向上できることを示した。今後は各発 電所、系統、電力会社管内での具体的な事故事象を想定し、 電力系統のレジリエンス向上に貢献する既設原子力設備の活用方法を検討していく。
参考文献
環境省、“パリ協定から始めるアクション50-80~地 球の未来のための11 の取り組み~について”、2016
“気候サミット”での菅総理の発言を引用、 2021
経済産業省、“今後の再生可能エネルギー政策につ いて”,、2021
国土交通省、 “港湾における洋上風力発電の主な導入計画”、2017
電力広域的運営推進機関、“マスタープランに関する 議論の中間整理について”、2021
加藤大地、 他3 名、“再生可能エネルギー連系時の年間の経済・環境性評価を可能とするシミュレータ 開発” 、2019 年電気学会