レーザー誘起超音波による構造物の健全性評価
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カテゴリ: 第16回
レーザー誘起超音波による構造物の健全性評価
Characteristics of structures using laser diagnostic techniques
日本原子力研究開発機構
山田
知典
Tomonori Yamada
レーザー技術総合研究所
大道
博行
Hiroyuki Daido
日本原子力研究開発機構
柴田
卓弥
Takuya Shibata
日本原子力研究開発機構
西村
昭彦
Akihiko NishimuraMember
日本原子力研究開発機構
田川
明広
Akihiro TagawaMember
Abstract
For decommissioning of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station of Tokyo Electric Power Company Holdings, Incorporated, we are now developing remote laser diagnostic techniques for integrity evaluation of support structures. Ultrasonic waves were induced on a sample by an impact laser. The waves propagating through the sample were detected with a laser Doppler vibrometer using a measuring laser. This technology enables remote, non-contact diagnosis.
Keywords: Laser, Noncontract, Ultrasonic wave, Diagnostics, Remote technique
はじめに
東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所(1F)の安全で確実な廃炉の実施は、国民の関心の高い 課題である。この廃炉作業では、原子炉圧力容器、原子炉格納容器等の構造物の長期健全性が重要視されているが、高線量等の理由により、人が近づいて診断を行うのが困難な箇所があるため、ロホット等の遠隔操作機器と組み合わせた技術が必要不可欠である。
レーザー技術は、遠隔操作機器とのマッチング性、コンパクト性等の優れた特徴を有することから、各分野で注目されている。診断技術としては、高度経済成長期に建設された道路、トンネル等の公共インフラを対象とし、 レーザーを用いて遠隔から診断を行うことで、表面及び内部欠陥の評価が行われている[1]。これは、従来の打音検査をレーザーに置き換えた技術であり、高所作業等で作業者が危険に晒されること無く、安全に、かつ効率的に検査を可能とするものである。
本研究では、同様にレーザーを用いることで、1F のコンクリート構造物を対象とした遠隔、非接触での健全性評価技術の開発を行っている。
レーザーを用いた健全性評価
レーザー診断では、レーザーを対象物表面に照射し、
連絡先:山田知典、〒979-0513 福島県双葉郡楢葉町大字山田岡字中丸1 番22 号、日本原子力研究開発機構E-mail: yamada.tomonori41@jaea.go.jp
対象物中に超音波を発生させるための加振用レーザーと、 その超音波を計測するための計測用レーザーの 2 種類を用いた。図1 に直径100 mm、高さ200 mm の円柱状の模擬試験体(コンクリート)での診断結果を示す。
Fig.1 Schematic diagram of laser diagnostics and its result.
加振用レーザーを対象物であるコンクリートに照射する と、対象物表面でプラズマが発生するとともに、アブレ ーションが起こり、その反作用で高い圧力が発生し超音 波が励起される。この超音波は対象物の表面及び内部を
伝播する。これを検出器で計測し、その結果を評価する ことで、表面及び内部欠陥の有無、その大きさ等の評価 や、物質の劣化等の検知が可能となる。計測用レーザー は、加振用レーザーと しないように なる波長を用いており、超音波の伝播に伴うレーザー照射部表面の振
の速度とその 分である変位の大きさ(振 )を、ップラー効果による波長シフトを検出することにより求める。図 1 は、透過法により速度の信号を検出した結果であり、最初の信号の立ち上がりを縦波として評価した。 計測用レーザーには内部 があるため、これを考慮すると超音波の伝播速度が4,657 m/s であることが確認 できた。この値は超音波探傷により計測した結果[2]と同等の値であることから、レーザー診断により遠隔、非接触で計測可能であることが確認できた。
考察
本技術を実際の廃止措置技術として適用を考える場合 には、以下の点を留意する必要がある。
劣化による影響
福島第一原子力発電所では、解析コー MAAP を用いて原子炉格納容器(PCV)の内部温度等の解析が行われており、1 号機では 800 で上 し、その 、温停止状態を達成したとされる[3]。コンクリートは、100 程度 では大きな変化は無いが、それ以上の高温になると、セメント硬化体が 和生成物の脱 により収
し、 材が する。 た、加 に 分を 収すると、その性質が変化することが知られている。こうした
劣化や 分による性質変化を遠隔、非接触で計測可能であることは、安全に作業を行う上で重要である。
システム小型化と遠隔操作機器との融合
本研究では、加振用レーザーと計測用レーザーの2 種類のレーザーを用いているが、レーザー診断を行うには、 レーザーの出力等が一定以上必要なため、レーザー発振器も比較的大きなサイズとなり、遠隔操作機器と直接組み合わせるには大き過ぎるのが現状である。より低出力で小型なレーザーを用いて精度良く計測する技術も必要となるが、近年、超小型で高出力なレーザー開発が進められており、これらの開発への期待も高 る。
既存の非破壊検査技術との比較
超音波探傷試験では、探触子を計測部位に接触させる際に、接触媒質を用いて密着させて計測を行うのが一般的であるが、レーザー診断では接触触媒が必要ないため、 探触子を密着させ難い対象物や場所の計測が比較的容易である。た し、レーザー診断の場合は、 用するレーザーの出力や波長にもよるが、計測対象物の表面状態、周囲の環境に計測結果が依存することが考えられる。例えば、レーザーの波長に対し反射率が低い材料の場合は、 計測が困難であり、 の波長を用いた場合には、 分の影響を受ける。これは、再帰性反射材を用いることや、波長を変更することで対応可能であるが、計測が困難な場合への対処も含めてシステム開発を行う必要がある。
おわりに
レーザーを利用した遠隔診断技術により、コンク リート中の超音波の伝播 が評価できることを示した。本技術の実用化に向けては、考察で論じたよ うな遠隔技術と組み合わせたシステム開発が必要で ある。
参考文献
島田 、 レグ コチ フ、 理、 田 俊、御崎 哲一、高山 宜久、曽我 寿孝、“レーザによるコンクリート剥離検査技術開発”、電気学会論文誌C、Vol.139、No.2、2019、P.131-136.
V. N. Luu, K. Murakami, T. M. Dung Do, M. Suzuki, T. Yamada, T. Shibata, H. Daido, “Applicability of ultrasonic-wave based method for integrity assessment of concrete severely damaged by heat”, Proceedings of 4th International Conference on Maintenance Science and Technology, 2018, 13-1.
正木 洋、 藤 靖之、小林 之、紺谷 修、澤田 祥
平、“過酷 を経た鉄筋コンクリート物性把握のための基礎試験(その1)全体計画”、 日本原子力学会「2014 年秋の大会」、2014、E16.