イオン照射したステンレス鋼モデル合金に形成される 溶質原子クラスタの硬化寄与の検討

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カテゴリ: 第17回
イオン照射したステンレス鋼モデル合金に形成される溶質原子クラスタの硬化寄与の検討 Study about irradiation hardening contribution of solute atomic cluster formed in ion-irradiated stainless steel model alloys 福井大原子力研 福元謙一 Ken-ichi FUKUMOTO Member MHINS 馬渕貴魁彰 Takaaki MABUCHI Abstract An experiment of post-irradiated annealing for ion-irradiated stainless steel model alloy was performed to investigate the mechanical changes and microstructural changes by using nano-indenter, TEM observation and 3DAP measurement. The thermal stability and barrier factor strength of solute atom clusters formed by ion irradiation were evaluated. Keywords: stainless steel, solute atom cluster, irradiation hardening, TEM, 3DAP, ion irradiation 1.緒言・目的 SUS316 鋼を含めたオーステナイト系ステンレス鋼はその優れた強度、延性、耐腐食性から構造材として軽水炉に広く使われている。原子炉の長期運転においてはステンレス鋼製炉内構造物の照射脆化は高経年化事象の一つとして問題となる。オーステナイト系ステンレス鋼の照射脆化については多くの研究がなされており、照射により形成されたフランクループやブラックドットが転位運動を阻害する障害物であり、主な照射脆化要因となる[1]。 これらは透過型電子顕微鏡(TEM)による観察より得られたものであるが、近年オーステナイト系ステンレス鋼に対してアトムプローブ(APT)観察が行われるようになり、従来のTEM 観察では確認されなかったひずみを持たない微細な溶質原子クラスタが報告された[2] [3] [4]。溶質原子クラスタはTEM による観察が難しく、照射脆化への寄与も情報が少なく詳細は不明である。また照射硬化要因の検討においても従来の照射硬化メカニズムではフランクループ周辺に偏析する溶質原子クラスタの影響は考慮されていない[2]。そこで本研究では、SUS 鋼モデル合金に対し、イオン照射と照射後焼鈍を行い超微小硬さ試験による硬化量の測定とTEM、APT によるミクロ組織の観察を実施し、溶質原子クラスタおよびフランクループに偏析する溶質原子の照射硬化に対する寄与について評価と考察を行った。 連絡先:福元謙一、〒914-0055 福井県敦賀市鉄輪 1-3- 33、福井大学附属国際原子力工学研究所、 E-mail: fukumoto@u-fukui.ac.jp 2.実験方法 試料は京都大学、エネルギー理工学研究所のアーク溶 解炉にて SUS316 鋼モデル合金(Fe-17Cr-12Ni-1Si)を作製した。試料は厚さ0.6mm まで圧延し、12mm×3mm の短冊状に切り出した。溶体化処理は高温真空炉を用いて1100℃,2h の条件で行った。 京都大学エネルギー理工研 DuET 施設にて Fe3+イオンを加速電圧 6.2MeV、200℃の条件で照射した。損傷量のピークは深さ 1.5μm、最大損傷量は 6.7dpa となった。250℃~550℃で 50℃ごとに 0.5h の照射後焼鈍を実施した。 超微小硬さ試験の押し込み深さは損傷領域を考慮し、300nm とし、15 点以上の試験を行った。TEM 観察はFIB を用いて、厚さ約100nm まで加工し、観察を行った。APT 観察は照射後材のみ試料深さ500nm,1200nm,1450nm からサンプリングし,他の試料に関しては 1450nm のみの観察を行った。測定はレーザーパルスモードで、試料温度は- 223℃で行った 3.結果と考察 超微小硬さ試験より、照射による硬化と照射後焼鈍による回復過程を確認した。250℃焼鈍まで硬化が進行、400℃ 焼鈍から回復が顕著となり、550℃焼鈍では照射硬化の84%回復した。APT 観察より Ni-Si クラスタの形成を確認した。照射後におけるクラスタの数密度はフランクループの約1000 倍であり、非常に高密度に形成されていた。照射後焼鈍では 400℃焼鈍により SC の数密度の低下、500℃焼鈍により消滅を確認した。焼鈍によるサイズ変化 はほぼ見られなかった。また、照射後材のAPT 試料からループ状に偏析するNi,Si を確認した。直径は約30nm であり,サンプリングした領域のフランクループの平均直径 とほぼ一致していた。 TEM 観察およびAPT 観察より得られたBD とFL、SC の直径と密度の結果からオロワンの式を用いてそれぞれ の硬化量を求め、最小二乗法よりαclst を算出した。降伏強度は超微小硬さ試験の結果より換算を行った。計算の結 果、αclst=0.029 となり、SC であるNi-Si クラスタの硬化寄与は照射後~450℃焼鈍では硬化量全体の約5 割を占めた。 照射後の APT 試料より、Ni,Si が偏析したフランクループが確認された。しかし、上記の計算ではフランクルー プに偏析するNi,Si の硬化影響は考慮されていない。そこでNi,Si の偏析によりフランクループの障害物強度αL が増大すると仮定し、計算を行った。フランクループにNi,Si が偏析することで障害物強度αがβ倍されると仮定、最 小二乗法よりβとその時のαclst を算出した。 ( ?????????= ????× ????????????????????????????? 計算の結果、β=1.18, αclst=0.026 となった。αL は実質 0.47 となる。β=1.18 の条件ではループによる硬化寄与が大きくなり、約 5 割を占め、一方クラスタによる硬化寄与は4 割程度となる。これからNi-Si クラスタは弱い障 ここでMはTaylor 因子、μは剛性率、f は整合析出物の体積率、r は整合析出物の平均半径、b はバーガーズベクトルを示す。この場合304 ステンレス鋼で8.6%Ni 添加子定数a304=0.3592nm とし、整合析出物として、fcc-Ni:a Ni=0.3524nm、Ni3Si 析出物:aNi3Si=0.3591nm とする。多変数解析により、実測硬化量と最もよくフィットする析出 物中のNi 濃度はfcc-Ni リッチ析出物において31%、Ni3Si 析出物において25%と求められた。APT による析出物中のNi 濃度及びSi 濃度は23%と10%であることが分かっている。APT の結果から Ni3Si の組成比であることから30%程度の濃度であると推定される。このことから、fcc- Ni リッチ析出物および Ni3Si 析出物の双方において析出物の組成による硬化量の推定はよい一致を示すものであ る。この推定から溶質原子クラスターは弱い障害抵抗を 持つ整合析出粒子として取り扱うことができることを意 味する。このためオロワン式による障害抵抗強度因子に よる説明を用いることなく整合析出物による効果理論を 用いることが可能であることが分かる。 200 硬化量(MPa) 100 0 害物であるが、その数密度による硬化への寄与が支配因 子であることが示された。 Ni-Si クラスタによる硬化量について整合析出による硬化モデルを用いて検討を行った。整合析出粒子による硬 化モデルは原子サイズのミスマッチにより発生する応力 に起因する。Ni の濃縮によるfcc-Ni の格子サイズとステンレスモデル鋼の格子定数の格子ひずみミスマッチ因子、 あるいは Ni-Si クラスタ形成による Ni3Si 金属間化合物の格子サイズとの格子ひずみミスマッチ因子を以下の式で 示す。 200 100 硬化量(MPa) 0 照射後 250℃ 300℃ 350℃ 400℃ 450℃ 500℃ 550℃ 各欠陥による硬化量 照射後 250℃ 300℃ 350℃ 400℃ 450℃ 500℃ 550℃ ループへの偏析を考慮した各欠陥の硬化量 ???????????????????????????? ? (1 - ???? - ???????????????????????????????????????????????? ? ????ε = ????????????????????????????ここでamatrix を母相の格子定数、aprecipitate を正号析出物の格子定数、cを整合析出物中のNi 濃度とする。整合析出物による析出硬化は刃状転位による降伏応力増加量と して以下の式で示される[1]。 ???? ?σ = 3Mμ|????3?2?????????? 図1 照射後焼鈍材への硬度試験結果と損傷組織により算出さ れるオロワン応力の損傷組織成分ごとの寄与の比較(上図は損 傷組織により推定される硬化量、下図はループへの偏析を硬化 した書く欠陥の硬化量) 参考文献 [1] V.Gerold and H.Haberkorn, phys.stat.solidi, 16 (1966) 675
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