原子力発電所の長期運転(高経年化対策)への取り組みについて

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カテゴリ: 第15回
原子力発電所の長期運転(高経年化対策)への取り組みについて The Activities for Long Term Operation of Nuclear Power Plants 関西電力株式会社南 安彦YasuhikoMINAMIMember Abstract The integrity of many SSEs of nuclear power plant has been maintained by various and continuous maintenance activities (replacement of components, preventive countermeasures for aging issues, etc.) so far. And the utilities have been implemented technical ageing evaluation for SSEs and established the long term maintenance policy for aging management. In this paper, the activities for long term operation and extension of operation period beyond 40 years that have been implemented by the utilities are described including some example of measures for ageing management in actual plants (Takahama unit 1/2, Mihama unit 3). Keywords: Plant life management, Long term operation, Plant life extension, Aging evaluation. はじめに 原子力発電所の機器・構築物については、建設時から相当長期間の運転が可能となるよう材料・構造強度等に余裕をもった設計が行われており、プラント供用段階では、保全計画に基づいて点検や評価、必要な補修などの保守管理活動が計画的かつ継続的に実施され、健全性の維持向上がはかられている。さらに、安全上重要な機器などにおける経年劣化事象に対しては、国の高経年化対策制度に基づき、60 年の運転期間を想定した経年劣化に対する技術評価を行って、機器等の健全性の確認を行うとともに、必要な長期保守管理方針を策定することを行ってきている。 本稿では、2016 年に40 年を超える運転期間延長の認可を得た関西電力の高浜発電所1 2号機、美浜3号機の対応を具体例に、長期運転のために実施してきた取り組みについてまとめる。具体的には、これまで実施してきた大型機器の取替えや予防保全対策などの取り組み、新規制基準への適合のための安全性向上対策や最新技術適用への実施中の取り組み、さらには、運転期間延長認可申請にあたり実施した原子炉容器などに対する特別点検と60 年の運転期間を想定した機器・構築物に対する劣化状況評価(高経年化技術評価)の概要について述べる。 〒919-1141 福井県三方郡美浜町郷市13 号横田8 番、関西電力(株)原子力事業本部高経年対策グループ、E-mail: minami.yasuhiko@c4.kepco.co.jp また、福島第一原子力発電所事故後に長期間プラントの運転を停止していることによる劣化評価への影響、今後の長期運転への課題等について述べる。 これまでの高経年化対策 原子力発電所では、巡視点検や状態監視技術を用いた 診断、ポンプなどの定期的な起動試験など、日々の点検 活動により機器・構築物の異常の早期発見に努めるとと もに、保全計画に基づいて、定期事業者検査時などでの 詳細な非破壊検査や機器を分解しての部品レベルの点検、必要な補修等の保守管理活動を品質保証体制の下で計画 的かつ継続的に実施することにより、設備の信頼性の維 持向上に努めている。 これらの活動の中では、国内外の原子力発電所で発生 したトラブル事例からの知見や、長期運転を想定した技 術評価等に基づいて、機器の故障や機能への影響が生じ る前に計画的に設備の取替や予防保全対策も行っている。長期の運転を想定して高浜1 2号機では、これまでに蒸気発生器や原子炉容器上蓋、燃料取替用水タンク、タ ービン、発電機や熱交換器等の大型機器や多くの配管等 の取替を実施してきており、さらには600 系ニッケル基合金部の応力腐食割れ対策として、原子炉容器等の管台 溶接部へのウォータージェットヒーニングによる応力改 善や690 系ニッケル基合金溶接などの予防保全対策を実 施してきている。 高浜1 2号機で実施した代表的な大型機器取替例を図1に、600 系ニッケル基合金部位への予防保全対策の実施例を図2に示す。 図1 の取 (高 1 2 の ) 図2 予防保全対策の実施(高 1 2 の ) 原子力発電所の高経年化対策については、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」に基づく高経年化対策制度が整備されており、運転年数が30 年を迎える時点から10 年ごとに、安全機能を有する設備に対し高経年化技術評価を実施し、評価 に基づいて必要な長期保守管理方針を策定(これを保安規定に反映)、実施管理するようにしてきた。 図3に高経年化技術評価の れを示す。安全機能を有する設備を対象に、各設備を部品レベルまで展開、使用材料や環境条件などから想定される経年劣化事象を抽出整理して、60 年運転を想定した劣化に対する技術評価を実施する。この中では、現状の保全方法の妥当性についての評価、劣化状態を想定した耐震安全性評価、耐津波安全性評価、さらには、重大事故等時の条件等を 慮した必要な評価も実施して、設備の健全性が維持確保されることを確認している。 図3 高経年化技術評価の流れ この高経年化技術評価は、日本原子力 会「原子力発電所の高経年化対策実施基準」と同基準附属書“経年劣化メカニズムまとめ表”に基づいて実施するとともに、国内のトラブル情報や保全品質情報、規格基準、米国N RC文書などの最新知見の反映が図られている。 なお、日本原子力 会「原子力発電所の高経年化対策実施基準」附属書“経年劣化メカニズム表”は、国内各プラントの最新の高経年化技術評価書における知見や、国際原子力機関(IAEA)が海外の経年劣化に関する知見を集約しているI-GALL(International Generic Ageing Lessons Learned)レポートなどの最新知見の反映を継続的に実施し改定が図られている。 運転期間延長への対応 特別点検と劣化状況評価 高浜1 2号機、美浜3号機は、40 年を超える運転期間延長認可申請を行って、2016 年に れ れ原子力規制委員会から認可を得ている。運転期間の延長認可申請に当たっては、原子炉容器等に対する特別点検を実施し、異常のないことを確認するとともに、 れらの を慮して安全上重要な機器・構築物に対する60 年の運転期間を想定した劣化状況評価(高経年化技術評価)を実施し、設備の健全性が維持確保できることを確認した。*1,*2 特別点検は、原子炉容器、原子炉格納容器及びコンクリート構造物を対象に実施している。例えば、原子炉容器では、中性子照射脆化の想定される炉心領域部について、運転開始以降初めて全域(母材及び溶接部)に対する超音波探傷検査を原子炉容器内面から実施し、割れ等の欠陥のないことを確認した。(図4) 図4 特別点検の実施概要(PWRの ) 劣化状況評価では、原子炉容器における中性子照射脆化、低サイクル疲労割れ、炉内構造物に対する照射誘起型応力腐食割れ、2相ステンレス鋼の熱時効、電気計装 設備の絶縁低下、コンクリート構造物の強度等の低下などの主要な劣化事象に対する60 年の運転を想定した経年劣化程度の評価、経年劣化に対する健全性評価を行って、現状の保全活動の適切性評価も含めて機器・構築物の健全性が維持・確保されることを確認している。表1に主 要な劣化事象に対する技術評価の概要を示す。 表1 要 劣化 に対 技術評価(高 1 2 の ) 例えば、クラス1機器に対する疲労評価では、60 年までの運転に対し十分保守的な起動停止操作などの過渡回数を設定した疲労強度評価を行って、疲労累積係数が60 年の運転想定に対しても十分に小さいことを確認している。原子炉容器の中性子照射脆化に対しては、実機原子炉容器内に設置している原子炉容器と同じ材料の試験片を計画的に取り出して監視試験を実施することにより脆化の状況の確認や、関連温度の予測評価を行うとともに、 れらの を 慮した60 年での破壊靱性曲線を適用した破壊力 的な健全性評価(原子炉容器内面側に欠陥が 存在することを仮定した加圧熱衝撃事象に対する評価) を行って、裕度をもって構造健全性が確保されることを確認している。表2に劣化状況評価の に基づき策定した長期保守管理方針の一例を示す。 表2 長期保守管理方針(高 1 2 の ) これらの特別点検の実施方法と点検 、劣化技術評価の評価方法と評価 については、国内の 協会などで確立された規格基準に基づき実施している。原子力規制委員会では、これらの特別点検実施 、劣化状況評価 、延長しようとする期間に対する保守管理方針を含む運転期間延長認可申請書に対する審査を行い、定められた審査基準への適合性を確認して運転期間延長の認可を行っている。 さらに、関西電力では、事業者として実施した検査や 劣化技術評価の内容について、国内外の第三者機関によ る客観的観点からの技術レビューを受けて、あらためて 劣化評価方法や検査手法の適切性について確認すること を行っている。例えば、高浜1 2号機の主要劣化事象 に対する技術評価方法等について、米国のEPRI(Electric Power Research Institute)からの技術レビューを受けており、米国の運転ライセンス更新などで適用されている手法等 に照らした確認により、米国の評価の え方と概ね同様であり、プラントの長期の安全性、設備の健全性確保の 観点から、評価方法の適切性が確認されている。*3 長期停止期間の劣化評価への影響について 国内の原子力発電プラントは、福島第一原子力発電所事故後、運転を停止している期間が長期間に及んでおり、現在もなお多くのプラントが新規制基準への適合に係る審査などにより運転再開ができていない状況にあるが、原子力発電所では、長期の運転停止期間中においても、必要な点検や試験など、機器・構築物の保守管理活動を 継続して実施している。 機器・構築物に想定される経年劣化事象の長期プラント停止期間中の劣化影響については、多くの場合、プラントの運転に伴う中性子照射環境や、高温・高圧力の状態にないことなどから、劣化の進展影響がないか、プラントの運転に伴う劣化影響に対して非常に小さな影響しかないと評価している。 具体的には、主要な劣化事象である、原子炉容器の中性子照射脆化や低サイクル疲労、2相ステンレス鋼の熱 時効、炉内構造物の照射誘起型応力腐食割れに関しては、プラントの長期停止中には、運転中のような中性子照射環境にはなく、起動・停止等の運転操作にともなう応力の繰返しによる疲労等への影響がないことから、劣化事象進展への影響はほとんどないと えられる。 一方、プラントの長期停止期間中においても、経年劣化の可能性、あるいは の進行が えられるものに、電気ケーブルの絶縁性能低下や、コンクリート構造物への中性化・塩分浸透がある。電気ケーブルは、もともと経時的に必要なものは取替える設備であるが、 常運転中に劣化影響のある原子炉格納容器内のケーブルでは、プラント停止中の放射線照射影響は非常に小さく、環境温度も非常に低いことから絶縁性能低下への影響程度は非常に軽微であると評価している。また、コンクリート構造物の中性化や塩分浸透の影響は、非常に緩やかなものであり、高浜1 2号機などの60 年運転想定での影響評価においても健全性に対する十分な裕度を有していること、中性化や塩分浸透がコンクリート強度に影響を及ぼすのは、 れらの影響が鉄筋に到達し、鉄筋が腐食することにより生じ始めるものであるため、例えば10 年のプラントの停止期間の中性化や塩分浸透の進展がコンクリート構造物の健全性に及ぼす影響は非常に軽微なものと えられる。 安全性向上対策等への取り組みについて 運転期間延長認可申請の認可のためには、新規制基準 (技術基準)への適合が必要であり、 のための安全性向上対策等の工事計画の認可が求められている。このため、2016 年に運転期間延長の認可を得た高浜1 2号機や美浜3号機では、今後の運転再開に向けて、自然災害や火災への防護対策、重大事故等への対処施設などの多くの安全性向上対策を実施しているところである。さらに、事業者の自主的な取り組みとして、中央制御盤を最新のデジタル方式のものに一式取り替える(図5)など、 安全性・信頼性向上のための施策についても実施中である。このように、各発電所では、40 年を超える運転プラントに対しても必要な安全性向上対策や設備の改善・最新技術適用等に取り組んでいる。 図5 デジタル式中央制御盤(イメージ) 長期運転に係 今後の取り組み 原子力発電所の長期運転には、長期保守管理方針を含 む保守管理活動と高経年化対策の継続的かつ確実な実施、保全活動の C により継続的に安全性と信頼性の維持向上を図っていくことが重要である。 前述した高経年化技術評価では、安全上重要な機器・構築物等に想定される経年劣化事象について、60 年の運転期間にも十分に設備の健全性が維持確保されることを確認しているが、今後も継続的に実機の状況を確認・評価し、機器等の取替を含む予防保全活動を計画的に実施していく必要がある。 海外では、既に90 基を超えるプラントが40 年を超えて高い設備利用率で運転されており、欧州、米国はじめ 各国では40 年を超える長期運転への対応が進められている。IAEA では、各国の長期運転を支援するためのガイドライン制定や、レビュー活動、世界各国の経年劣化等に 関する知見を集約整備する活動を精力的に実施しており、我が国においても保守管理活動や研究活動、規格基準整 備に活かしていこうとしている。 具体的には、IAEA が取り組んでいるI-GALL のWG活動では、国内の事業者も参加し貢献を続けており、今後の長期運転へのプ゜アクティブな取り組みのために重要なものとなっている。また、関西電力では、米国や ランスなどが主導する国際的な研究プ゜ジェクトにも参加しているが、今後も海外関係機関と協調して経年劣化事象のさらなる解明や評価技術の高度化等に取り組んでいくことが有効と える。さらに、機器材料等の経年劣化に関する知見(データ)拡充や実機の状況確認のために、 廃止措置プラントからの実機材料を活用した調査研究についても、有効なものを国内外関係機関で協調して実施していくことが必要と える。 保守管理活動における今後の取り組み課題には、リスク情報やこれまでの保全データ、確率論的評価アプ゜ーチなどを活用した保全計画の最適化や高度化が必要と えられ、経年劣化に対する安全裕度の評価の充実などについても、最新の知見を踏まえた確率論的な評価を適用し検討を進めていくことが有効なものとなると える。 おわりに 原子力発電は、3E+Sの観点から今後の我が国のエネルギーミックスを支える重要なベース゜ード電源であり、運転開始40年の超える運転期間となるプラントも含めて安全性の確認されたものについて、有効に活用していくことが重要である。原子力発電所の設備(機器・構築物)の経年劣化に対しては、保守管理活動の C を確実に実施継続すること、高経年化対策制度に基づく活動を継続することにより、60 年を想定した運転期間にも十分に健全性の維持確保を図ることができると評価しているが、我が国の原子力発電所の長期運転の信頼性の維持向上を一層図っていくためには、今後も、海外の取り組みや国内外の最新の知見を踏まえながら、保全活動の改善に取り組んでいくことが重要である。 参考文献 高浜発電所(1・2号発電用原子炉施設)の運転期間延長の認可申請書 添付書類(特別点検 報告書、劣化状況評価書、保守管理に関する方針書) 美浜発電所(3号発電用原子炉施設)の運転期間延長の認可申請書 添付書類(特別点検 報告書、劣化状況評価書、保守管理に関する方針書) EPRI, 2018 TECHNICAL REPORT, “Materials Reliability Program: EPRI Review of the Kansai Takahama Units 1 and 2 Aging Evaluations for Extending Operational Periods (MRP-429)”
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