安全性向上のための安全対策設備の充実と地域との関わり

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カテゴリ: 第17回
安全性向上のための安全対策設備の充実と地域との関わり 東北電力 佐々木 茂夫 Shigeo SASAKI Member 東北電力 田畑 光秀 Mitsuhide TABATA Member 東北電力 渡辺 寛之 Hiroyuki WATANABE Member At Onagawa Nuclear Power Station Unit 2, Tohoku Electric Power Co., Inc., many safety measures are implemented to further improve the safety level, giving top priority to ensuring safety. In addition, on November 18, 2020, we received prior approval from the local governments that are located nuclear power plant regarding the application for conformity assessment to the new regulatory standards based on the safety agreement, and we were able to make great progress toward restarting Onagawa Unit 2. This manuscript explains these two connections from the perspective of relationships with the community. Keywords: New regulatory standards, Safety improvement, Safety measures, Community, Trust, Restart 1.はじめに 東北電力女川原子力発電所2 号機では、新規制基準を踏まえ、更なる安全対策や、さまざまな状況を想定した訓練や中長期の安全対策などを実施しています(2013 年12 月27 日 新規制基準への適合性審査申請、2020 年2 月26 日 原子炉設置変更許可申請の認可)。また、東京電力福島第一原子力発電所の事故や地震・津波に対しての知見を収集し、さらなる安全性の向上に努めながら、2022 年度の工事完了を目指しているところです。 一方、立地自治体に対する再稼働に係る対応については、2020 年11 月18 日に立地自治体から再稼働合意が得られました。これは、発電所をゼロから立ち上げた諸先輩方から継続されてきた地域との深い交流が、地域の皆様からの信頼を得られ実を結んだものと考えています。本文では、安全対策工事の状況と地域とのつながりを 織り交ぜながら紹介します。 2.東北電力女川原子力発電所2号機の安全対策 従来設計 敷地の高さ 号機の設計時(昭和40 年代)、文献調査や地元の方々への聞き取り調査から津波の高さを3m 程度と想定 していました。しかし、専門家を含む社内委員会での 「貞観津波(869 年)や慶長津波(1611 年)などを考えれば津波はもっと大きくなることもあるだろう」等の議論を経て、当社は敷地の高さを14.8m と決定しました。 敷地高さの変更 号機の建設にあたっては、昔の津波の痕跡を調べるなどして、想定津波をそれまでの3m 程度から9.1m に見直し(昭和60 年代)、建設時には敷地法面が津波で削り取られないように9.7m の高さまで防護工事を行いました。 2002(平成14)年には、土木学会が最新の知見を踏まえて公表した津波評価手法に基づき、13.6m と評価しましたが、敷地高さ14.8m を下回っており、あらためて津波に対する敷地の高さの安全性が確認されました。 O.P.+14.8m※ 図1 防潮堤の法面防護工の構造 1.0m 図2 法面防護工の写真 法面防護工 海水ポンプ 原子炉を冷やすために欠かせない海水ポンプを、津波の影響を受けやすい港湾部ではなく、原子炉建屋と同じ敷地の高さ(14.8m、震災後は13.8m)を掘り下げたところに設置しました。 また、海底が見えてしまうほど海面が低くなることがある津波の引き波時でも原子炉や使用済燃料プールを冷却する海水を確保できるように、取水路の奥を深く掘る設計としていました。これにより、海面が取水口より低くなった場合でも、取水路にたまった海水で約40 分間冷却を続けられます。なお、震災時に引き波により、実際に海面が取水口より低くなったのは数分間でした。 図3 海水ポンプ室の構造 震災前の対策 2010(平成22)年6 月までに、機器や配管をサポートで補強するなど1・2・3 号機合わせて約6600 ヵ所の耐震工事を実施していました。また、緊急時対策室などがある事務棟の耐震工事(外壁の筋交い)も完了していました。 図4 耐震裕度向上工事 適合性審査を踏まえた安全対策工事の進捗状 況 大きな災害にも耐えられる発電所を目指し、震災前の安全対策に加えて、設備・運用の両面からさまざまな安全性向上対策に取り組んでいます。 地震・津波への対策 大きな揺れにも耐えられるように、震災前の580 ガル ※1 から1000 ガルの揺れにも耐えられるよう建物や配管類を補強しています。 ※1:「ガル」は地震の揺れの強さを表す単位。 図5 建屋の耐震工事 図6 配管類の耐震工事 津波から守る ・国内最高レベルの海抜29m の防潮堤を設置※2 しています。(東日本大震災における女川原子力発電所に到達した津波は約13m) ※2:津波の高さは最大23.1m を想定。 ・海とつながっている敷地内の開口部から敷地に海水が溢れ出るのを防止するため、防潮壁を設置しています。 図7 防潮堤 電源を確保する ・発電所外部(送電線)からの電力や原子炉建屋内の非常用ディーゼル発電機が使用できなくなった場合で も、新たに設置するガスタービン発電機など多様な電源装置で原子炉を冷却するポンプなどに電気を供給し続けることができます。 ・ガスタービン発電機などを稼働させるために必要な軽油は、火災などの影響を受けにくい地下に7 日分を確保します。 ・仮に、こうした電源全てが使用できなくなった場合でも、発電所のコントロールセンター(中央制御室)の機器などへは電源車で電気を供給できます。 図8 ガスタービン発電機 原子燃料を冷やす ・電気がなくても蒸気で駆動するポンプで原子炉に注水を継続します。また、消防車の約10 倍の送水能力がある送水ポンプ車や除熱のための熱交換器(熱 交換することで熱を海水に逃がす機能)の役割を持つ車両なども配備し、原子炉や使用済燃料プールへの注水と冷却を継続できるようにしています。 ・これまでの水の確保対策に加え、約1 万トン(25m プール約20 杯分)の水を貯める水槽を高台に設置しています。これにより、必要な冷却水7 日分を確保できます。 図9 大容量送水ポンプ車 事故の影響を抑える ・万一、炉心損傷などが発生し、原子炉格納容器内の圧力・温度が高まった場合でも、格納容器が破損することを防止するために除熱する設備を設置します。 ・除熱する設備が使用できず、格納容器内の蒸気などを大気に放出しなければならなくなった場合、放射性物質の放出量を1/1000 以下に大幅に抑制する特殊なフィルター装置を3 基設置しています。 ・原子炉建屋内で水素爆発が起きないよう、電気がなくても水素濃度を下げる装置を設置しています。 図10 放射性物質の放出量を大幅に抑制する設備 図11 水素爆発を防止する装置 訓練の対策強化 さまざまな設備面での安全対策を施しても、こうした設備を操作するのは人です。安全対策をより確実なものとするため、運用面においても継続的な強化を図っています。 図12 電源を確保する訓練 図13 重大事故を想定した運転訓練 3.地域との関わり 立地から震災前まで 1968 年、女川町に東北電力として初の原子力発電所建設計画を公表しました。この地は、三陸の良好な漁場を有する地域での立地となることから、漁業補償を巡り激しい反対運動が発生しました。しかし、地道な理解活動 の結果、1979 年に工事着工し、建設地点公表から工事着工まで12 年もの歳月を要しました。 なお、女川1 号機は、1984 年に運転を開始、2 号機は 1995 年、3 号機は2002 年に営業運転を開始しました。 震災時から現在 震災時は避難所として 東日本大震災時、津波によって自宅を流された方など多くの近隣住民の方々がおり、女川原子力発電所に避難されてきた方々を、女川原子力発電所長の判断で発電所構内に受け入れました。 避難された方々は最大364 名に上り、震災後から約3 ヵ月間、発電所構内で生活されました。震災当初は周辺の道路も寸断されており、物資が不足する厳しい状況の中、住民の皆さまと発電所員が協力し合い、寝食をともにしました。 図14 建物内の避難の様子 2013 年、世界原子力発電事業者協会(WANO)から、「震災で被災した地域住民を受入れ地域とともに困難を乗り越えたこと」等が評価され、原子力功労者賞※3を受賞しました。 ※3:原子力発電所の安全な運営に卓越して貢献した 人物を対象に厳正な選考を経て授与される賞で、2002 年の創設以来、日本人が受賞するのは2 例目 こんにちは訪問 震災前からの活動で、地域の皆様に発電所の状況をお知らせし、意見等をお聞きする「こんにちは訪問」を実施しています。至近では昨年12 月に実施し、「安全協定に基づく女川2 号機に関する事前協議の申し入れに対する了解」や「発電所の安全対策」への質問に対する回答等を記したリーフレットなどを各家庭に届けました。 住民説明会 昨年8 月、宮城県主催により「女川原子力発電所に関する住民説明会」が開催されました。女川原子力発電所からおおむね30km 圏内に在住、通勤・通学されている方々を対象に、合計7 回開催されました。当社も事業者側として出席し、女川原子力発電所の安全対策について説明を行いました。 事前協議へのご了解 当社は女川原子力発電所をゼロから立ち上げた先人たちが築き上げてきた立地地域の皆様との信頼を維持し、震災時に絆を強め、震災後も前述のような活動等を行い信頼関係の継続・向上に努めてきました。 このような活動に取り組んできた結果、昨年11 月18 日、2 号機の再稼働に向けた新規制基準への適合性審査申請に係る事前協議の申し入れについて立地自治体(宮城県、女川町、石巻市)からご了解をいただくに至ることができたと考えています。 4.当社の決意、「再出発」 当社は、今後も安全の高みを追求し、原子力発電に対する信頼の再構築に取り組んでいきます。 また、地域の皆さまから信頼され、これからも安心感を持って女川原子力発電所を受け入れてもらうため、安全協定を重んじ、今後も法令や協定を遵守するととも に、「安全を最優先とする文化」が原子力発電所だけではなく、東北電力の企業風土としてしっかり根付くよ う、全社を挙げて最大限の努力を継続していきます。 2 号機の運転再開については、単なる再稼働ではなく、発電所をゼロから立ち上げた先人たちの姿に学び、地域との絆を強め、事故を教訓に、新たに生まれ変わるとの決意を込めて「再出発」と位置付けています。 そして、地域の皆さまから信頼され、地域に貢献する発電所となるよう、社長のリーダーシップのもと、揺るぎない信念をもって「再出発」していきます。
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