保全分野におけるAIを用いた順解析、逆解析、未来予測の試み

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カテゴリ: 第16回
保全分野におけるAI を用いた順解析、逆解析、未来予測の試み Attempts of forward analysis, reverse analysis and future prediction using AI in the field of maintenance 原子燃料工業 掬 O議部 仁博 Yoshihiro ISOBE Member 原子燃料工業 掬 松永嵩 Takashi MATSUNAGA 原子燃料工業 掬 藤吉宏彰 Hiroaki Fujiyoshi Member 原子燃料工業 掬 小川良太 Ryota OGAWA Member 原子燃料工業 掬 匂坂充行 Mitsuyuki SAGISAKA 東京大学 山田知典 Tomonori YAMADA 東京大学 吉村忍 Shinobu YOSHIMURA Abstract As an attempt to apply AI in the field of maintenance, we have been studying "forward analysis", "inverse analysis" and "future prediction". As for the “forward analysis”, as a theoretical verification of the digital hammering inspection results using the AE sensor, the natural frequency obtained in the hammering inspection is confirmed by “time history response analysis”. Because there is a combination of the shape, material properties to be inspected, measuring position of natural frequency, etc., it is necessary to perform enormous amount of analysis. Therefore, learning the relationship between typical analysis conditions and analysis results using AI eliminates the need to perform the analysis each time. As for “inverse analysis”, we report the case of evaluating the restraint state of the inspection object from the digital hammering inspection results and the shape of the object. By learning the relationship between “natural frequency”, “shape of the inspection object” and “restraint state of the object” by AI, the restraint state can be calculated immediately from the natural frequency and the shape. With regard to "future prediction", changes in the "objective function" when changing the "design variable" are predicted based on the relationship between the "design variable" and the "objective function" learned by AI in advance. Keywords: Maintenance, AI, Forward analysis, Reverse analysis, Future prediction はじめに 保全分野においてAI を適用する試みとして「順解析」、 「逆解析」、「未来予測」について紹介する。 「順解析」の例としては、AE(音響)センサを用いた デジタル打音検査[1-3](以降は、AE 打音検査)結果の理論的検 として、打音検査で られる固有振動数を時を要する「時刻歴応答解析」により確認するが、打音条件、検査対象の形状・物性、内部状態、固有振動数の計 測位置(AE センサ位置)等の組合せがあり膨大な解析を行う必要がある。そのため代表的な解析条件と解析結果 「逆解析」の例としては、AE 打音検査結果(固有振動数)と検査対象の形状から、検査対象の拘束状態を評価する場合を紹介する。検査対象が簡単な形状、拘束状態 であれば固有振動数は理論式により求めることが可能で あるが、実際の検査対象は必ずしもそうではない。そのような場合に、「固有振動数」と「検査対象の形状」と「検査対象の拘束状態」の関係をAI(NN)により事前学習することで、固有振動数と検査対象の形状から検査対象の拘束状態を直ちに算出する。 「未来予測」の例としては、AI(NN)により事前学習 (AE センサで計測される固有振動数)の関係をA(I NN: した評価対象の「設計変数」と「目的関数」の関係から、 ニューラルネットワーク)により学習することで、毎回、時刻歴応答解析を実施する必要性を無くす。 「設計変数」を変更した場合の「目的関数」の変化を未来予測する。 連絡先: 議部仁博、〒590-0481 大阪府泉南郡熊取町朝代西一丁目950、原子燃料工業株式会社 E-mail: isobe@nfi.co.jp 保全分野におけるAI の適用の試み 順解析 トンネル、橋梁、高層ビル等の大型コンクリート構造 物建設時の安全性、品質向上のために、AE 打音検査とAI・シミュレーション技術を組み合わせることにより、コンクリート内部構造を診断する技術開発を以下の手順 で進めている(図1)。 実験的DB 構築 各種施工不良を模擬したデジタル打音検査データを DB 化する。 AI・シミュレーション技術による大規模DB 化 AE 打音検査のFEM シミュレーションを実施し、実験的DB で検 する。その後、FEM シミュレーションの各種パラメータ(コンクリート強度、ひび割れ深さ、ひび割れ密度、内部空洞サイズ等)とFEM シミュレーションで られるAE 打音検査データをAI で学習、検 しながら、「順解析」によりDB を大規模化する。 逆解析モデルの構築と適用性検 コンクリート表面における複数点測定データから内部構造を診断する逆解析モデルを構築する。また、現場で の実 試験で、その適用性や評価精度を確認する。 図1 デジタル打音検査とAI・シミュレーションの統合的活用によるコンクリート内部構造診断 前記、(2) AI・シミュレーション技術による大規模DB 化における、FEM シミュレーションの各種パラメータ(コンクリート強度、ひび割れ深さ、ひび割れ密度、内部空洞サイズ等)とFEM シミュレーションで られるAE 打 音検査データをAI で学習、検 しつつ、「順解析」によりDB を大規模化するプロセスの例を図2、図3に示す。図2にはコンクリート構造物に対する AE 打音検査を シミュレーションする時刻歴応答解析のモデル形状と解析条件を示す。中央部にはサイズが異なるシース穴(空 洞)が存在する。図3は内部空洞サイズを?30、50、100mm 等と変化させ、打音検査を実施(打撃付与)した場合に られる周波数分布を示している。FEM シミュレーションの入力情報と解析結果として られる固有周波数をAI で学習することにより、解析を実施していない条件(例: ?70mm)における固有周波数(4410Hz)を る。 逆解析 AE 打音検査に基づく、グラウンドアンカー(以下、「アンカー」という)の緊張力評価の例について紹介する。 アンカーは、のり面・斜面を安定化させる工法に用いられる。アンカーの維持管理では、残存引張り力(以下、「緊張力」という)の測定が実施されているが、労力的、経 的にも 大な を要するため、簡 的にアンカーの緊張力を把握する非破壊調査法の開発が必要とされている。 筆者らは、AE センサをアンカー頭部に押し当て、ハンマーで打撃した際の頭部振動を評価することで、緊張力 を推定する診断技術を開発しており(図4、図5)、その 診断手法は、緊張力の増加に伴い固有振動周波数が上昇することに着目している(図6)。但し、片持ち梁の曲げ 振動の理論解(式(1))、 び、梁が軸力(引張)を受ける場合の理論式(式(2))に示すように、固有振動数は、緊張力以外にアンカー径、頭部長さ等にも依存するため、緊張力評価の定式化は 少複雑になる[4]。 f ? 2互 1 ? 入2 ? L2 (1) ここに,f;固有振動数,入;1.875,L;振動長さ,E;縦弾性係数,I;断面定数,p;密度,A;断面積である. 図2 コンクリート構造物に対するAE 打音検査をシミ f ? ? f (2) ュレーションするFEM モデル形状と解析条件 図3 AI・シミュレーション による 、逆解析のイメージ ここに,f ?;軸力(引張)を受けるときの固有振動数, f;軸力を受けないときの固有振動数,T;軸力,PC;オ イラーの限界荷重,n;振動モードである. ここでは、理論式に基づかずに、NN 技術を応用することで、「結果(固有振動数)+形状等の条件」から直接的 に「求めたい原因(緊張力)」を算出した。具体的には、形状等の条件(アンカーの径、頭部長さ)、測定結果(1次周波数、2 次周波数)を入力層として、緊張力を出力層として、NN で学習させた。学習データは、緊張力(6 段階)、アンカーの径(4 種類)、頭部長さ(3 段階)を系統的に変化させた際の実験結果(6X4X3=72 データ)を用いた。 学習 み NN に対して、学習データを用いた検 を行 た結果を図 に示す。推定緊張力は、学習 み NN が学習用データのインプット情報に基づいて算出した緊張 力であり、実緊張力が実験時の値である。一次回帰線のR2 は、0.9502 と高く、強い相関が られていることから、NN 技術を用いることで容 に緊張力評価が実施可能であることが示された。 図4 AE センサを用いたデジタル打音検査状況 図5 AE センサを用いたデジタル打音検査概要 1 次周波数 2 次周波数 図6 F A の緊張力に 分 の 実 試 図 実緊張力と推定緊張力の対比 未来予測 保全活動のさらなる信頼性向上のためには、ヒューマ ンエラーを低減することの重要性が指摘されている。ヒ ューマンエラーの発生比率は作業環境に依存することはよく知られているが、著者らは「 次元可視化ツール」と「ニューラルネットワーク」を用いたBIG DATA 解析・シミュレーションシステム Dr. Design を用いて、作業環境を改善するためのアプローチと作業環境の改善効果の未来予測について検討している[5-11]。 ヒューマンエラーの低減は人 が係わるが故に単純ではなく、例えば、ヒューマンエラーに関する3つの誤解 が指摘されている[12]。 ・ヒューマンエラーは注意力によ て防げる ・ヒューマンエラーは教育・訓練によ て防げる ・ヒューマンエラーは人による検査・確認によ て防げる 表1が示すように、ヒューマンエラーは人 の意識、換言すれば生理的状態に依存することが知られており、 生理的状態が改善されない限り、単純に注意力を高めるというだけでは限界があるようである。 図8が示すように、「標準と異なる作業をした」ケース について分析した結果、「標準を知 ていた」→「標準通り作業できる」→「標準を守るつもりだ た」にも係わらず、40%ものヒューマンエラー発生比率があ た。ち、このケースについては、教育・訓練が役立たない。 図 が示すように、人による検査・確認の 重度によ てヒューマンエラーは1一(0.35)5 = 0.99 によ て低減すると思いがちであるが実際はそうではない。また、エラーの含まれる割合が減少すると検出力が低下することも知られている。 表1 ュー ン ーは 力によ る 1 図8 ュー ン ーは ・ によ る 1 図 ュー ン ーは人による検査・確認によ る 1 前述のようにヒューマンエラーを低減することは単純ではないものの、ヒューマンエラーの発生比率は作業環境に大きく依存することも知られている。そのため、ヒ ューマンエラーと作業環境の関係を分析・把握して、作業環境の改善がヒューマンエラー低減のために有効と考えられる。しかしながら、ヒューマンエラーは人 の感性に係わり、人 の感性が一般的に非線形であるため、従来の 変量解析法では線形解析法のためにヒューマンエラーの分析に制約があると考えられる。 以上のような から、著者らは 保全最適化のための統合型シミュレータ Dr. Design の機能である「次元可視化」と「ニューラルネットワーク」を用いて、作業環境を改善するためのアプローチと作業環境の改善効果の予測を検討している。そのアプローチの概要を以 下に示す。 作業環境を規定する『設計変数』と作業者の作業環境 に対する満足度を表す『目的関数』の因果関係を定量的に把握し、作業環境の改善効果を定量的に予測、最適化する手法である。 Step①;作業者の満足内容(『目的関数』)と、それを左右すると考えられる作業環境(『設計変数』)を設問に含めたアンケート調査(5段階評価)を実施。 Step②:「ニューラルネットワーク」を応用した非線形解析によ て、『設計変数』と『目的関数』の因果関係を 定量分析(図1 )。 Step③:「 次元可視化」により、『設計変数』と『目的関数』の因果関係を視 的に しながら、インタラク ティヴな操作で作業環境の最適化について検討(図11)。 Step④:さらに、『設計変数』と『目的関数』の因果関係を学習した「学習 ニューラルネットワーク」により、作業環境の改善効果(『設計変数』の改善による『目的関数』への影響)を定量予測。 以上のようなアプローチによ てヒューマンエラーの発生比率に大きく影響を与えるとされる作業環境の改善効果について定量的に予測し、作業環境の効率的な改善が期待される。 原子力発電所での作業員のアンケート調査並びに評価は未実施であるが、首都圏に立地するIT 企業の役員を除く全従業員を対象とし、660 名から回答を た。回答率は78.5%、その内訳は男性550 名(83.3%)、女性110 名(16.7%) で、平均年齢は33.4 歳である。 アンケートは、モチベーションに着目した実態調査を目的とし、質問項目は仕事のやり方や評価、人 関係、職場の環境、健康状態や職務の満足度等について 角的視点に ぶ。内容は標準的に用いられる職業性ストレス簡 調査票 び簡 職務満足度チェックリストに加え、新たに設計した独自アンケート15 質問項目の3 種類から構成されている。 図1 では 次元可視化空 において、永年勤続?2.5、 職務内容?3.5、全般的満足?3.5 となる点を濃い色で表示させ、対応する設計変数も同様に変化させた。設定範囲 を変化させ、対話的・視 的に比較することにより、設計変数をどの様に変化させれば目的関数がどの様に向上するかを考察する。 次元空 上で提示される 様な方策の中から、実現の可能性が高い方策を選択すればよい。更に、ニューラルネットワークで学習 みのDr. Design に設計変数を向上させたデータを入力し、方策の効果を 確認することも可能である。 図11 では 次元可視化空 において、目的関数である 「永年勤続する気持ち」、「職務内容の満足度」、「仕事の 全般的満足感」が高い点の回答が、設計変数である「会社の安定性・成長感」、「仕事の適正」、「成長できる環境」 も高い点であることに着目し、これらの設計変数を20% 向上させた場合、アンケート回答者全体として目的関数にどの程度影響するかを予測するシミュレーションを行 た。その結果、「永年勤続する気持ち」は11.0%、「職務 内容の満足度」は5.2%、「仕事の全般的満足感」は8.5% 向上する予測結果が られた。 図1 ン ート 査 を によ する とを するための プローチ 図11 とAI を用いた の未来予測 まとめ 保全分野においてAI を適用する試みとして「順解析」、 「逆解析」、「未来予測」について紹介した。 「順解析」の例としては、FEM 解析において、膨大な解析条件があり、長時 の解析時 が必要な場合には、代表的な解析条件と解析結果の関係をAIにより学習する ことで、毎回、FEM 解析を実施する必要が無くなる場合に有効であると考える。 「逆解析」の例としては、AE 打音検査とAI・シミュレーションの統合的活用により、コンクリート表面の打音検査からコンクリート内部構造の診断の可能性の検を進めている。 「未来予測」の例としては、アンケート調査に含まれ る「設計変数」と「目的関数」の関係をAI により事前学習し、「設計変数」を変更した場合の「目的関数」の変化を未来予測した。保全活動におけるヒューマンエラー低減のための環境設計に役立てることが可能と考える。 紹介した例以外にも、複数センサを用いた逆止弁オン ラインモニタリング[13]、非破壊検査の複雑な信 理、並びに信 理の自動化にAIを活用する開発を継続している。 参考文献 Takashi MATSUNAGA, Ryota OGAWA, Mitsuyuki SAGISAKA, Hiroaki FUJIYOSHI and Yoshihiro ISOBE, “Social infrastructural diagnosis by hammering inspection with AE sensor”, E-Journal of Advanced Maintenance Vol. 11 No. 1 (2019) 27-33. 議部仁博, 松永嵩, 匂坂充行, 小川良太, 藤吉宏彰, 下田彩子, “i-Construction 新技術現場試行: AE センサを用いた打音検査によるコンクリート施工品質評 価”, 日本保全学会第15 回学術講演会要旨集 pp.135-136, 福岡 際会 場 ( 2018). 松 計 , 議部仁博, 藤吉宏彰, 小川良太, “ ルト簡 診断法の開発研究(2)”, 日本保全学会第15 回学術講演会要旨集 pp.451-452, 福岡 際会 場 ( 2018). [4] , , 松永嵩, 小川良太, 議部仁博, 山政幸, “打音診断技術を活用したグラウンドアンカーのあらたな緊張力計測手法に関する実験的研 究”, 土木学会論文集C(地圏工学)75 巻 (2019) 1 p.90-102. 議部仁博, 高坂 , 吉村忍, “ 次元可視化ツールとAI を用いた顧客アンケート要因分析と設計”, 日本経営工学会秋季大会予稿集, p142-143, パシフィコ横 (2017). 議部仁博, 匂坂充行, 小川良太, 松永嵩, 高坂 , 松本 , 吉村忍, “ 保全最適化のための統合型シミュレータDr. Mainte によるヒューマンエラーの影響とその低減効果の検討 2”, 日本保全学会第13 回学術講演会要旨集, p371-374, 神奈川県立かながわ労働プラザ (2016). 議部仁博, 匂坂充行, 江藤淳二, 松永嵩, 高坂 , 松本 , 吉村忍, “ 保全最適化のための統合型シミュレータ Dr. Mainte”, 日本保全学会第11回学術講演会要旨集, p347-348, 八戸工業大学 (2014). 議部仁博, 江藤淳二, 松永嵩, 匂坂充行, 高坂 , 松本 , 吉村忍, “ 保全最適化シミュレーションツール Dr. Mainte を用いたヒューマンエラーの影響とその低減効果の検討”, 日本原子力学会2013 年秋の大会, I38, p402, 八戸工業大学 (2013). 匂坂充行, 議部仁博, 江藤淳二, 松永崇, 高坂 , 松本 , 吉村忍, “ 保全最適化のための統合型シミュレータ Dr. Mainte による作業環境の改善検討”, 日本原子力学会2012 年秋の大会, N27, p599, 広島大学 (2012). 高坂 , 太 ,議部仁博,吉村忍, ニューラルネットワークと 次元可視化ツールを用いた企業における従業員モチベーション要因分析と設計,’日本経営工学会平成22 年度秋季研究大会予稿集,福岡工業大学(2010). 高坂 , 太 ,議部仁博,吉村忍, 従業員のモチベーション要因分析とその向上における非線形データ解析/ 次元可視化ツールの応用,’日本リスク研究学会第23 回年次大会講演論文集,Vol.23, p43-48, 大学(2010) . 中 ,ものづくり・サービス提 におけるヒューマンエラーの防止 http://www.indsys.chuo-u.ac.jp/~nakajo/open-data/pokayo ke.pdf 松永嵩, 江藤淳二, 川 , 議部仁博, 逆止弁診断システムの開発’, 日本原子力学会2014 年春の年会, L40, p571.
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