安全性向上評価届出書の概要について
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カテゴリ: 第17回
安全性向上評価届出書の概要について
Overview of Safety Improvement Assessment on Kyushu Electric Power Company
九州電力
安東潤一
Junichi ANDOU
Member
九州電力
菅能久
Yoshihisa KAN
Non-member
Under the new regulatory requirements introduced in response to the Fukushima-Daiichi Nuclear disaster, licensee is required to submit Safety Improvement Assessment (SIA) , which is new framework to improve safety of nuclear power plants continuously in visible ways, to the NRA and to make it available to public.
SIA is set within six months after the date of completion of each periodic facility inspections. Kyushu Electric Power Company has restarted Sendai unit1&2 in 2015 and submitted their SIA 3times at present. Furthermore, first SIA for Genkai unit3&4, which restarted in 2018, were submitted in 2020.
This paper describes the overview of first SIA for Genkai Unit 3 and new safety measures to improve and enhance nuclear power safety.
Keywords: Safety improvement, Safety analysis report, Periodic safety review, Probabilistic risk assessment, Stress test, Global assessment
1.はじめに
東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえて改正された「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」では、原子力施設の安全性を継続的に向上させていくことが原子力事業者の責任として新たに義務付けられ、また、原子力施設の安全性の向上を目に見える形にするための仕組みとして、安全性向上のための評価「安全性向上評価」を実施することが事業者に義務付けられた。
安全性向上評価は規制基準を満足したうえで、更に自主的・継続的に原子炉施設の安全性・信頼性を向上させることを目的とし、原子力発電所のリスクを合理的に可能な限り低減することを目標に実施するものである。
本評価は、定期事業者検査終了後 6 か月以内に実施し、その後遅滞なく原子力規制委員会に届出することとされており、当社においては、これまでに川内原子力発電所 1、2 号機の第 1 回、第 2 回及び第 3 回安全性向上評価、並びに玄海原子力発電所 3、4 号機の第 1 回
安全性向上評価の届出を行い、この結果を公表している[1]。
本稿では、玄海原子力発電所 3 号機の第 1 回安全性向上評価を代表に、届出書の内容についてその概要を説明する。
2.安全性向上評価の概要
安全性向上評価の概略フローを図 1 に示す。
図 1 安全性向上評価フロー
まず、①保安活動の実施状況調査を実施し、定期事
連絡先:安東 潤一
〒810-8720 福岡市中央区渡辺通二丁目1 番82 号
九州電力株式会社 原子力発電本部 原子力設備グループ
E-mail:Junichi_Andou@kyuden.co.jp
業者検査終了時点の発電所の状態(設備、運用)を確認する。
この確認結果をもとに、②確率論的リスク評価
(Probabilistic Risk Assessment; PRA)、③安全裕度評価
(所謂、ストレステスト)等を実施し、保安活動の結果を評価するとともに、安全性向上対策を抽出する。
これらを踏まえ、④総合評価を実施し、安全性向上計画を策定する。
なお、PRA、ストレステストは、大規模工事等による変更がない場合、5 年毎に実施する。
図 2 に安全性向上評価による継続的な安全性向上の流れを示す。安全性向上評価を定期事業者検査毎に実施し、継続的に原子炉施設の安全性を向上させる。
3.安全性向上評価届出書の内容
反映状況を調査し、保安活動が適切かつ有効であることを確認した。
また、調査の結果、保安活動から抽出された主な安全性向上対策を表 1 に示す。
表 1 保安活動から抽出した主な安全性向上対策
主な安全性向上対策
概要
施設管理
設計基準文書(Design Basis Documents; DBD)の整備
設計要件の管理強化による信頼性向上
原子炉安全保護盤等更新
長期保守信頼性向上
2 次系シーケンス盤更新
原子炉上部ふた取替
最新設計を取り入れた予防保全
運転管理
リスクモニタを用いた運転停止時のリスク管理の考え方の明確化
運用の明確化
緊急時措置
運転シミュレータへの重大事故解析コード導入
運転員の技術力向上による安全性向上
安全規制によって法令への適合性が確認された範囲
第 14 回施設定期検査終了時点(2019 年 8 月 20 日) の発電所の状態を対象に、原子炉設置変更許可申請書、設計及び工事計画認可申請書、原子炉施設保安規定、原子力事業者防災業務計画、廃止措置実施方針及び環境影響調査書の記載内容を主な情報源とし、IAEA の安全標準 GS-G-4.1 Annex「Typical Table of Contents of a Safety Analysis Report」のセクション構成に従ってとりまとめた。
なお、上記の主な情報源に記載されていない事項に
3.3
安全性の向上のため自主的に講じた措置の調査及び分析
関しては、「今後検討」と記載し、今後の安全性向上評価において継続的に改善を図っていくこととしている。
安全性の向上のため自主的に講じた措置
前回の定期安全レビュー(Periodic Safety Review; PSR) からの連続性を考慮し、前回 PSR 評価対象期間(2015 年 3 月迄)後の 2015 年 4 月 1 日から第 14 回施設定期検査終了時点(2019 年 8 月 20 日)迄の保安活動の実績
(改善活動、実績指標)、最新の科学的・技術的知見の
3.1 項及び 3.2 項で調査した発電所の状態に基づき、確率論的リスク評価、安全裕度評価等を実施し、これらの評価結果から、安全性向上措置を抽出した。
確率論的リスク評価
炉心損傷頻度(Core Damage Frequency; CDF)、格納容器機能喪失頻度(Containment Failure Frequency; CFF)等を評価した。また、評価結果から今後取り組むべき、安全性向上対策を抽出した。
図 2 安全性向上評価による継続的な安全性向上
CDF、CFF の評価
定期検査終了時点での発電所の構築物、系統及び機器の状態に基づき CDF、CFF を評価した結果、図 3 に示すとおり、従来から自主的に取り組んできた重大事故対策及び新規制基準への適合のための重大事故対策
(図中 SA)によるリスク低減効果が確認できた。
137Cs の放出量が 100TBq を超えるような事故の発生頻度
格納容器が機能喪失する場合には、137Cs の放出量は
100TBq を超えると定性的に判断し、137Cs の放出量が
100TBq を超えるような事故の発生頻度は、CFF と同じとした。
CDF
CFF
図 3 CDF、CFF の比較
敷地境界における実効線量
炉心損傷後に格納容器の機能が維持されている場合において、環境に放出される放射性物質が最も多くなる事故を現実的な条件にて評価した。
この結果、137Cs の放出量は約 0.86TBq となり、事故後 7 日間の敷地等境界(敷地境界に隣接する地役権設定地域等を含む境界)における被ばく線量は約 18mSv となった。
安全性向上対策の抽出
前項までの評価結果を踏まえ、炉心損傷、格納容器機能喪失に寄与する割合の高い要因を以下のとおり分析し、この結果より表 2 に示す安全性向上対策を抽出した。
炉心損傷の主な要因(内部事象出力時の例)
操作失敗等による 2 次冷却系からの除熱機能喪失、原子炉補機冷却機能喪失、非常用炉心冷却系再循環機能喪失
格納容器機能喪失の主な要因(内部事象出力時の例)
操作失敗等による格納容器隔離失敗、水蒸気・非凝縮ガス蓄積による過圧破損
表 2 PRA から抽出した安全性向上対策
主な安全性向上対策
期待される効果
重要シナリオに対する教育・訓練の強化
重要シナリオに対する教育・訓練を重点的に実施することにより、事故時の対応能力を向上させる。
特定重大事故等対処施設による格納容器スプレイ及びフィルタベントの導入
原子炉格納容器の過圧破損のリスク低減が期待できる。
安全裕度評価
設計上の想定を超える事象に対し、炉心(出力運転時、運転停止時)及び使用済燃料ピット(SFP)の燃料の著しい損傷、原子炉格納容器機能喪失を発生させることなく、施設がどの程度の事象まで耐えることができるかを評価する。評価において考慮する事象は、地震・津波(これらの重畳を含む)及び地震・津波随伴事象並びにその他の自然現象とし、これらの結果を踏まえ安全性向上対策を抽出した。
地震・津波に対する評価
地震、津波に対する炉心(出力運転時)の評価結果を表 3 に示す。また、地震単独のクリフエッジ加速度、津波単独のクリフエッジ津波高さは、互いに影響し合うことがなく地震及び津波が重畳して発生した場合にも、各評価のクリフエッジまで頑健性を維持できることが確認できた。
表 3 地震、津波に対する安全裕度評価結果
クリフエッジ*事象
クリフエッジ
(参考) 設計基準
地震
タービン動補助給水ポンプによる蒸気発生器への給水不能
1,080Gal
基準地震動
620Gal
津波
電気盤他、建屋内の主要機器水没
13m
基準津波約 4m
(約 6m**)
*炉心損傷を防止する等の安全系機器の一連の機能喪失が起きる限界
** 発電所取水ピット前面での潮位のバラツキなどを考慮した満潮時の最大津波高さ
地震及び津波随伴事象
地震に伴う溢水と火災、津波に伴う火災を想定し、これらの事象がクリフエッジ成立に必要な機器に影響を及ぼさないことを確認した。
その他の自然現象
竜巻、落雷、高温、低温、積雪、降雨の発電所へ影響 を及ぼす可能性のある年超過確率 10-6 相当の自然災害及び森林火災、火山、生物学的事象(くらげ)等に対し、既存の運用手順により、これらの事象に対処できることを確認した。
安全性向上対策の抽出
安全裕度評価から抽出した安全性向上対策を表 4 に示す。設計基準を超える自然現象が発生した場合の事象進展、対応について、教育を行うことにより緊急時対応要員の対応能力向上を図ることとした。
表 4 安全裕度評価から抽出した安全性向上対策
主な安全性向上対策
期待される効果
安全裕度評価結果の発電所員への教育
設計を超える自然現象に対する緊急時対策要員の対応能力を向上させる。
4.総合的な評定
保安活動の実施状況調査、確率論的リスク評価、安全裕度評価等の結果を踏まえ、総合評定を実施し、安全性向上計画を策定した。
総合評定
運転開始以来、安全・安定運転を継続しており、こ れは当社が保安活動を確実に実施していることによると考えられる。
今後実施すべき安全性向上対策が抽出されたが、 いずれも保安活動の欠陥によるものではなく、プラ ントの安全性をさらに向上させるためのものである。
今後も、保安活動の確実な実施を基本に、リスク情 報を活用しつつ、原子力発電所のリスクを合理的に実行できる限り低減させていく。
安全性向上計画
抽出した主な安全性向上対策の実施計画を表 5 に示す。
なお、2021 年 3 月 31 日時点の実績を反映している。
参考文献
[1] 九州電力ホームページ、
https://www.kyuden.co.jp
表 5 主な安全性向上対策と実施計画
主な安全性向上対策
実施時期
設計基準文書(DBD)の整備
対応済み
原子炉安全保護計装盤等更新
第 16 回定検
2 次系シーケンス盤更新
対応済み
原子炉上部ふた取替
第 17 回定検
リスクモニタを用いた運転停止時のリスク管理の考え方の明確化
対応済み
運転シミュレータへの重大事故解析コード導入
対応済み
特定重大事故対処施設による格納容器スプレイ及びフィルタベントの導入
2022 年度
重要シナリオに対する教育・訓練の強化
初回教育を 2021 年 1 月までに完了
以降継続的(1 回/年)に実施
安全裕度評価結果の発電所員への教育