原子力規制検査の試運用状況について

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カテゴリ: 第16回
原子力規制検査の試運用状況について Status of Trial Use for Nuclear Regulation Inspection 東京電力 HD 株式会社星川茂則ShigenoriHOSHIKAWA 東京電力 HD 株式会社藤曲久元HisamotoFUJIMAGARI New nuclear regulation inspections will begin in April 2020. For the preparation of them, Trial use will begin on October this year, and we have assigned Kashiwazaki-Kariwa Nuclear Power Station as a pilot plant for it. This report describes the status about Corrective Action Program (CAP) improvement and Configuration Management (CM) development for the trial use and implementation of a new nuclear regulation inspection, cooperating with NRA study of it. Keywords: Kashiwazaki-Kariwa Nuclear Power Station, New nuclear regulation inspection 1 はじめに 2020 年 4 月から導入される原子力規制検査について, 2016 年から原子力規制庁,事業者双方が「検査制度の見直しに関する検討チーム会合」や「検査制度の見直しに関するワーキンググループ」の場で議論を重ね, 詳細な制度設計活動を行ってきた。導入に向け,原子力規制庁は規則やガイド類の作成を進め,事業者も原子力規制検査制度の根幹となるフリーアクセスの対応方法や是正措置プログラム活動(以下,CAPという) 等の検討を進めてきている。これまで双方が机上で検討してきた内容の検証を行うべ<,2018 年 10 月から実際に原子力施設において,個別の検査項目に係る検査ガイド(以下,検査ガイド)に基づ<基本検査を行ってみる原子力規制検査の試運用が開始された。 本稿では,原子力規制検査の試運用の内容や状況について紹介する。 2 法律施行に向けたスケジュール 図1 法律施行に向けたスケジュール 3 試運用の全体像[1] 試運用フェーズ1 検査官は,事業者の各プラントに割り当てた検査 ガイド試運用版と必要な文書類(原子力規制検査等実施要領等)を用いて,検査の視点を持って事業者の図書を確認したり,インタビューを行う。 検査官及び事業者は,検査で確認すべきもの,説明に用いるエビデンス類等について認識を共有し,フリーアクセスの状況を踏まえ,検討を進めてきた検査制度の成立性を確認する。 検査官は,図書類や設備類の確認やインタビューの中で見つけた気付きについて,スクリーニング,安全重要度評価(以下,SDPという)として,マイナ ー事象なのか緑を超える可能性のある指摘事項なのかの判断を行う。 試運用フェーズ2 検査官は,パイロットプラント(柏崎刈羽,大飯) において蓄積された検査の指摘事項に対し,SDPを実施してみることで,SDPの手法を習熟する。 検査官及び事業者は,SDPの評価手法や判断基準等の認識を共有する。 検査官は,アクションマトリックスを用いた追加検査の有無の判断を行う。更に追加検査の試行や総合的評定まで行い,検査官側と事業者側で結果の認識を共有する。 検査官及び事業者は,一連の試運用の活動の中で, 認識できた制度全体の問題点や課題を抽出する。 試運用フェーズ3 検査官及び事業者は,フェーズ1及び2における 問題点を解消し,本格運用を模して総合的に検査制度を運用し,制度全体の微調整を行う。 (2) 検査官及び事業者は,検討及び試運用を通して検査制度の総合的検証を行う。 4 試運用のねらい[1][2] 試運用フェーズ1 検査ガイドや必要な文書類の活用における問題 点の抽出・改善。 (2)各検査ガイドの所要時間やサンプル数の適正化。(3)検査官の新たな検査活動に対する経験の蓄積と 共有。 (4)新たな検査制度で必要となる,事業者が検討・準備を進めている,フリーアクセスなどの仕組みやルールの問題点や課題の抽出。 試運用フェーズ2以降 試運用フェーズ1における問題点等の改善と検証。 気付き事項のスクリーニング手法,指摘事項のSDP手法などの評価手法の確立。 評価手法,評価結果の考え方に対する検査官と事業者との認識の共有。 5 事業者の対応 事業者共通の方針 原子力規制検査導入の基本理念『事業者は自らの 主体性により継続的に安全性向上を行う』のもと,事業者は電事連を中心に対応体制を構築し,より良い検査制度となるよう,制度設計のための「検査制度の見直しに関する検討チーム会合」や「検査制度の見直しに関するワーキンググループ」へ参加し,制度設計に協力する。 各事業者とも原子力規制庁が実施する,検査試運用を受け入れ,制度の成立性の確認や,問題点の抽出に協力する。 各事業者で行われる,検査試運用の状況について事業者間で情報を共有し,全社が 2020 年4月本格運用にスムーズに移行できるよう,準備を整える。 試運用に向けた当社の取組 (I)検査ガイドの内容確認及び準備 「検査制度の見直しに関するワーキンググループ」の場で原子力規制庁から提示された,検査ガイドの内容を確認し,不明な点や日本では適用不要な項目などを,電事連大で意見集約し,原子力規制庁へ提出した。また,試運用フェーズ1で当社へ割り振られている検査について業務の振り返りを実施し,管理すべき図書類を改めて把握するなど試運用にスムーズに対応で きるように準備を行った。(2)フリーアクセスの環境整備 原子力規制検査の根幹となる,検査官自ら自由に事業者所有の図書を閲覧したり,原子力施設の現場を確認に行ったりするフリーアクセスについて,各社にて検査官のアクセスに関するルールや方法を検査官の意向を踏まえながら検討し,環境整備に取り組んでいる。 図2 原子力規制検査の概略イメージ CAPの高度化 事業者が自主的安全性向上をはかっている姿を直接的に確認できるのがCAPの仕組みである。原子力規制検査でも,検査官は必ずこのCAPの中身を確認するようになっている。これまで不適合管理の名のもと, 発生後の不適合事象に対する是正措置が中心的な活動を行ってきたが,自主的安全性向上を体現するため, 以下のとおりCAPの高度化に取り組んでいる。 ① 是正を中心とした不適合管理から脱却し,予防に重点を置いたCAPを実装する。 ② CAQ(品質に影響を与える状態)の概念を取り込み、情報を一元管理し,重要業務プロセス(重要度に応じた対応)と連携させる。 図3 当社が目指すCAPの仕組みのイメージ 図4 CAQの概念 第 2 象限 CAQ・非不適合 第1象限 CAQ・不適合 パフォーマンス劣化の予兆 パフォーマンス劣化 (原子力安全上の不適合の (原子力安全上重大な不適 予兆) 合) 例 例 ・DIG 関連設備の振動増加 ・DIG 危機の劣化,振動大(管 (管理値内) 理値超) 第 4 象限 NCAQ・非不適合 第 3 象限 NCAQ・不適合 パフォーマンス劣化の予兆 パフォーマンス劣化 (軽微な要改善事項) (発電所運営上の不適合) 例 例 ・RW 設備の機器振動増加(管 ・RW 設備の機器劣化,振動大 理値内) (管理値超) ・ヒャリ・ハット事例 ・人身災害 発電所所員への意識付け 原子力規制検査は,これまで原子力規制庁が行ってきた保安検査や施設定期検査等が一本化され,更に規範的な検査から,検査官自ら事業者活動をフリーアクセスで網羅的に監視する検査へ変わる。事業者は原子力安全に一義的責任を持ち,自らの主体性により継続的に安全性向上をはかってい<必要があり,この検査制度はそこを重点的に監視するものである。これには実際に検査で監視される発電所所員の意識を更に高めてい<ことも非常に重要であり,その意識付けの活動として,協力企業も含め発電所所員に対し,原子力規制検査が従前の検査制度からどのように変わるのか, 原子力規制庁の検査実施要領書などを使用して説明会を開催した。また,試運用フェーズ1が開始する1ヶ月前には,原子力規制庁の検査担当の方々が,発電所に赴き,検査試運用が開始される旨の説明会を開催し, 原子力規制検査の概要や試運用について説明がなされ, 質疑にも真摯に対応していただいた。 コンフィグレーション管理 ,設計要 ,実機器,設備図書の3要 の整合を維持・管理することで,各種安全性評価,保全計画立案,改造等を適切に実施することを目指している。現在,管理すべき設計・設備情報を抽出し,残留熱除去系,高圧代替注水系を手始めに設計基準文書の作成を進めているところ。 また、変更時の管理を行う関連図書支援システムを開発しており、今後試運用を行う予定である。 図5 設計基準文書作成のイメージ 6 試運用フェーズ1の開始 6.1 試運用フェーズ1の状況 2018 年 10 月 1 日 関西電力株大飯発電所3・4号機 における「火災防護」を皮切りに試運用フェーズ1がスタートした。 (I)検査官の活動状況 ①記録類の確認 ・事業者のレクチャーで,検査官自ら情報端末を操作し,イントラネット上で閲覧できる情報,紙ベースでしか閲覧できない情報の認識合わせを行った。 ・イントラネット上で,CAPの入力状況,入力内容等を確認した。 ②現場ウォークダウン ・事業者の情報共有会議の傍聴や作業予定一覧等の確認を行い,検査官自らその日の作業予定を確認し,2 班~3班に別れ,選定した作業現場へ移動した。 ・作業現場では足場の組立て状況や,仮置き物品の状況,非破壊検査の状況,現場で使用している工事要領書のチェック状況など検査ガイドの内容にとらわれず, 設備への影響について幅広い目で確認を行った。 ③気付き事項の事実確認 ・検査終了後,確認会議が行われ,検査官の気付き事項について,事業者に対し事実確認を行った。 事業者側の対応状況 ①記録類の確認 ・情報端末を使用したイントラネットへのアクセス方法をレクチャーした。 ・紙ベースでしか閲覧できない図書・資料類の提供を行った。 ②現場ウォークダウン ・エスコートによる現場入域の支援を行った。 ・検査官によるインタビューや質問の対応を行った。 試運用終了後の検査官と事業者との意見交換会 ①検査官側からは,事業者に対し情報端末の操作に慣れるまでの間,継続的支援の要望が出された。 ②事業者側からは,検査官に対し検査情報の蓄積のため,気付き事項等の判断理由の共有をしてほしいことや,検査ガイドの重複の整理などの要望を出した。 6.3 これまでの試運用に関する所感 試運用フェーズ1のねらいとして,検査官,事業者 で,検査ガイドごとにリスクインフォームド/パフォーマンスベース等本 の主旨に則った,検査が混乱せずに実施できることを確認することにある。また検査官ごとで検査の視点の設定や,検査対象の選定等に差異が生じないよう,検査ガイドの内容の不明な点や曖 な点を抽出, 正してお<ことも重要である。これまでの試運用では,本 事業者のパフォーマンスを監視し評価する検査手法であるべきところが,検査ガイドによって,事業者の業務プロセス等を確認する内容のものもあり,実際試運用において業務プロセスの確認に注力する場面が散見されている。抽出された課題については,原子力規制庁において精査され改善されることになるが,事業者においても継続して検査ガイドの内容について改善点等がないか確認し,内容の精査に協力してい<。もう一つ試運用フェーズ1のねらいであるフリーアクセスの試行があり,検査官自らがスムーズに必要な情報にアクセスし,検査に応じた情報の収集が行えるか確認することになる。これまでの試運用では,情報端末の操作,検査に必要な図書類の検索に時間を要する場面が見受けられた。また,本庁の検査官が発電所に赴いて検査を行うチーム検査などで,検査官の要望に応じ,事業者側から図書類を提示する,従前同様の方法による検査が行われ事業者に負担がかかる状況も散見され,効率的に検査を行うという点で,情報へのアクセスの方法やアクセスするタイミング等課題が出ている。これら課題についても,継続して検査官,事業者双方で要望や意見を出し合い, 効率的に検査が行われるよう,情報へのアクセス性の向上をはかってい<。 7 今後の対応 原子力規制庁[1][2] (I)検査官の検査活動に対する経験の蓄積 各発電所の検査官のフリーアクセスによる検査ガイドの試行の実施を通し,検査活動の習熟・理解をはかる。 (2) 検査ガイドや必要な文書類の問題点の抽出・改善検査ガイドの重複箇所,不明箇所の解消や事業者の コメント等を整理しガイドへ反映する。(3)評価手法の確立 スクリーニング活動に加え,SDP等の評価結果について,事業者と認識を共有し,ガイドへ反映する。 事業者 (I)各社試運用の状況の共有 引き続き試運用の状況を事業者間で共有し,試運用全体の情報把握し,原子力規制検査の経験の蓄積に努めてい<。 試運用を通じた検査ガイド類の確認等 試運用を通じ検査ガイド類の確認を行い,不明な点や曖 な点等事業者意見を集約し,原子力規制庁へ提示してい<。 自主的安全性向上活動の定着 CAPやコンフィグレーション管理,リスク評価等 活動を継続・ 実させ,自主的安全性向上活動を定着させてい<。 PRA(確立論的リスク評価)モデルの高度化SDPにおけるリスク評価をするためのツールとし てPRAを活用してい<ことから,現在ROP検査制度の中で,PRAを活用している米国にならった, PRAモデルの高度化を実施し,活用するための準備を進める。 評価手法検討への協力 検査官の気付き事項のスクリーニング活動の情報提供に協力し,積極的に検査官と議論を行う。また,原子力規制庁と共に,検査官の気付き事項や過去の不適合事例をサンプルとしたSDP評価手法の検討に協力し,認識を共有する。 参考文献 原子力規制検査の試運用について 2018 年 9 月 11 日検査制度の見直しに関する検討チーム第 12 回会合 資料1 新たな検査制度の試運用について(試運用 1) 2018 年9 月3 日第 21 回検査制度の見直しに関するワーキンググループ 資料2 連絡先 星川 茂則 〒100-8560 東京都千代田区内幸町1丁目1番3号、東京電力ホールディングス(株)原子力運営管理部、 E-mail hoshikawa.shigenori@tepco.co.jp
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