安全性と経済性を兼ね備えた改良型ABWRの開発

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カテゴリ: 第17回
安全性と経済性を兼ね備えた改良型 ABWR の開発 Development of Improved ABWR with Safety Enhancement and Economic Competitiveness 東芝エネルギーシステムズ株式会社亀井 一央Kazuhiro KAMEIMember Toshiba Energy Systems & Solutions Corporation develops improved ABWR which can be implemented in early 2030s. Our development course is that the improved ABWR has both of world highest level safety feature and economic competitiveness against other power generation systems. In safety feature, the improved ABWR introduces passive safety systems for elimination of common caused failure and enhancement of safety reliability, air-cooled ultimate heat sink for reduction of tsunami risk and reinforcement of the Reactor Building against commercial air plane crash. In economic competitiveness, the improved ABWR introduces 10% power uprate needing no major equipment change, enhancement of capacity factor and flattening of outage load of utility. Keywords: New construction, Safety, Economy, ABWR, Passive, Air-cooled UHS, Air Plane Crash, Power Uprate, Outage shortening 1.はじめに 2011 年の東日本大震災における福島第一原子力発電所での事故(以下、1F 事故)以降、わが国のエネルギー基本計 画においては、原子力発電所の新設が明記されていない ものの、原子力発電は依然として地球温暖化とエネルギ ーセキュリティ確保の課題を解決する有効な手段である。これを踏まえ、東芝エネルギーシステムズ(株)(以下、東芝ESS)では、今後の国内原子力発電所の新設を想定し、2030 年代前半に実用化可能な改良型ABWR*1 を開発している。ABWR は、国内で運開している最新型の沸騰水型炉ではあるものの、初号機運開から約25 年が経過し、新設にあたっては昨今の原子力発電を取り巻く環境を踏ま えた改良が必要である。この改良型ABWR の開発にあたっては、新設炉にふさわしい、世界最高水準の安全性と経 済性を兼ね備えた、魅力ある電源とすることを方針とし ている。 *1:Advanced Boiling Water Reactor。国内初のABWR は、東京電力ホールディングス(株)柏崎刈羽原子力発電所第6 号機が1996 年に運開。また、米国では1997 年に米国原子力規制委員会(NRC)における設計認証を取得。 2.改良型ABWR の概要 改良型 ABWR は、2013 年に施行された新規制基準に適合することを前提に、建設や運転で豊富な実績を蓄積してきた ABWR をベースとしつつ、東芝 ESS でこれまで開発してきた要素技術を取り込み、安全性と経済性を追求したプラントとしている。また、東芝ESS の経験や開発実績を十分に活用することで、2030 年代前半に実用化とすることを念頭に置いている。 安全性の追求 安全性の追求にあたっては、1F 事故の教訓を踏まえた改良が必須である。1F 事故では、設計想定外の津波により安全機能が広範囲にかつ同時に喪失し、炉心損傷が発生し、さらに放射性物質が格納容器外に大量に放出された。この事故の要因の一つとして、深層防護が機能しなかったことが挙げられる。1F のプラントを含む従来炉は、交流電源および最終ヒートシンクに安全系統が依存しており、Station Black Out (SBO)およびLoss of Ultimate Heat Sink (LUHS)が生じた際に、炉心冷却機能および格納容器冷却機能が同時に喪失する。従って、多重に備えられていると考えられていた安全設備は、SBO およびLUHS に対する独立性を有しておらず、この交流電源および最終ヒートシンクへの依存が、1F 事故の最大の要因の一つと言える。国内既設炉ではこの課題解決したプラントから順次再稼働しているものの、新設炉では更なる改善が必要 である。これを踏まえ、改良型ABWR では、以下の安全性改善策を施している。 静的システムの導入 1F 事故の最大の教訓である系統依存による多重故障 (SBO とLUHS による共通原因故障)の根本要因そのものを排除すべく、重大事故等対処設備として静的原子炉冷却系(以下、PRCS)および静的格納容器冷却系(以下、PCCS)[1]を採用している。これらの設備は外部からの動力源が喪失した状態においても、原子炉圧力容器(以下、RPV)および格納容器(以下、PCV)内の蒸気を、自然力によって循環させ、熱交換器を介して蒸気から奪った熱を大気に放出するシステムである。またこの冷却源となる水は、PCV ヘッドの上にあるプール(原子炉ウェルとD/S プール)に常時水を張っておき、熱交換器が設置されたタンクに供給することで長期間の冷却維持を可能とする。なお、この常時プール水張は重大事故時のPCV からの水素漏えいの主要パスになりうるPCV ヘッドフランジ部の冷却にも寄与し、水素漏えいを抑制することも可能となる (図1 参照)。 また上記安全対策を適用した場合であっても、万一適切に機能せず、炉心が溶融し、RPV が破損し、溶融炉心がPCV 底部に落下した場合に備えて、コアキャッチャー [2]を設置している。海外の新設炉ではほぼ標準的に設置さ れている設備であり、国内新設炉でも設置すべき設備である。コアキャッチャーは溶融炉心を一時的に受け止め、サプレッションプールから静的に注水される水と相まって溶融炉心を上面、下面、側面から冷却することで、溶融炉心・コンクリート相互作用(以下、MCCI)を発生させることなく、安定的に溶融炉心を保持することが可能となる(図1、2 参照) 図1 静的システムの導入 図2 コアキャッチャー概念図 最終ヒートシンクの空冷化 1F 事故の直接的な主要因は、設計想定外の津波により冷却手段を失ったことである。地震国であるわが国において、この要因を根本から排除すべく、最終ヒートシンクに冷却塔を適用し、安全系を海から縁切りするコンセプトを適用する(図3 参照)。これにより、津波に対するリスクを大幅に低減できるとともに、プラントとして耐震S クラスの構築物の設置面積が小さくて済むことから配置裕度向上にもつながる。 原子炉建屋 冷却塔 図3 最終ヒートシンク用冷却塔の例 大型航空機衝突に対する原子炉建屋の頑健化 1F 事故の教訓ではないものの、昨今の国内外の原子力発電プラントでは、2001 年9 月11 日の米国同時多発テロ をきっかけとした、大型航空機衝突(以下、APC)対策も 求められるようになってきている。国内の新規制基準で も特定重大事故等対処施設の設置が義務付けられている。このような状況の中、新設するプラントにおいては、放射 性物質の放出源そのものを収容している原子炉建屋本体のAPC 防護も考慮すべきと考えられ、国内でも議論が始まっている[5]。ABWR を含むBWR においては、特に、原子炉建屋の屋根部(オペレーティングフロア壁)の構造に おいて、建屋耐震性を確保しつつ、APC に対する頑健性も両立させることが課題となる。 この課題に対し、東芝ESS では耐震性とAPC に対する頑健性を両立可能な軽量の特殊APC 防護構造を開発した (図4 参照)。これを適用することにより、PCV ヘッドおよび核燃料が保管されている使用済燃料プールの防護、またオペレーティングフロアから原子炉建屋下階への航空機燃料の流入の防止を達成可能となる。 図4 特殊APC 防護概念図 経済性の追求 大型原子力発電所は他電源に比べ、一般的には建設時 の初期コストが大きい代わりにランニングコストが小さ いことが特徴である。1F 事故を踏まえた安全性の追求は原子力発電所を新設するにあたっては必須であるが、同 時に初期コストを増大させる要因となる。また、設備増加 によるメンテナンス費用の増加や新検査制度への対応等、事業者のプラント運営負荷増大(すなわちランニングコ スト増大)も想定される。これを踏まえれば安全性の追求 と合わせてプラントの経済性の追求も必須である。これを踏まえたコンセプトを以下に示す。 10%出力向上 安全対策設備追加による初期コスト増加を踏まえても高収益および早期の投資回収ができるよう、標準ABWR から出力を 10%向上させたプラント仕様とする(表 1 参照)。10%の出力上昇幅は、これに起因する初期コストの増加やスケジュール遅延が発生しないよう、原子炉側の主要な設備仕様を変更することなく、またPCV の性能検 証の範囲内で、炉心出力密度を上げるのみで達成できる範囲として設定したものである。これにより初期コストを可能な限り増やさずに、プラントの生涯発電量の最大化を図る。 表1 主要仕様 項目 改良型ABWR 標準ABWR 熱出力 4300MWt 3926MWt 電気出力 約1500~1600MWe 約1400MWe 燃料体数 872 体 制御棒本数 205 本 再循環ポンプ台数 10 台 原子炉圧力 7.07MPa 原子炉圧力容器 φ7.1m×H 21m 設備利用率向上と定検負荷の平準化施策 さらに設備利用率向上策として、原子炉が停止する定期検査期間を可能な限り短くするための最新技術を導入する。例えば、長寿命型制御棒CR99 導入による制御棒交換体数低減[4]、自立型制御棒導入による燃料のシャッフリング期間の短縮[3]、RPV 直接ヘッドスプレイの導入による原子炉開放時間の短縮[3](図 4 参照)を計画している。 長寿命型制御棒CR99 (b)自立型制御棒 (c)RPV 直接ヘッドスプレイ 図5 定検短縮技術の例 さらにはメンテナンス建屋の導入を行い、入替方式メンテナンスを可能とする。定期検査期間のサブクリティカルとなりうる機器や高線量エリアに設置されている機器のメンテナンスについて、定期検査中に予備機器と入替を行い、メンテナンスをプラント運転中に実施することにより、当該機器メンテナンスのクリティカル化を回避するとともに、運営負荷の年間を通じた平準化、さらには被ばく低減が達成可能である。メンテナンス建屋導入による入替方式メンテナンスの概念を図6 に示す。 運転定期検査 13か? 運転定期検査 運転 参考文献 K. Kamei et al.、 “Safety Feature of EU-ABWR for 発電所 入替入替 ・サブクリティカル?程機器 メンテナンス建屋 ・?線量域メンテ機器 例えば、主蒸気逃がし安 全弁、制御?圧制御ユニッ ト、主タービン等 Fukushima Accident”、ICONE22 Proceedings, 2014 R. Hamazaki et al.、“Evaluation on Core Melt Retention in Core Catcher of Toshiba’s EU-ABWR”、ICAPP 2011 ⇒運転期間中にメンテナンス建屋で機器の点検を実施することにより、クリティカル化回避とともに、負荷平準化(地元貢献)、被ばく低減を達成。 図6 メンテナンス建屋導入による入替方式メンテナンスの概念 3.まとめ 東芝 ESS で開発している 2030 年代前半に実用化可能で、かつ新設炉にふさわしい、世界最高水準の安全性と経済性を兼ね備えた、魅力ある電源となりうる改良型ABWR の概要について紹介した。安全性追求の観点では、1F 事故の教訓を踏まえた、静的システムの採用による共通要因故障の排除および信頼性向上、最終ヒートシンクの空冷化による津波リスクの低減、また大型航空機衝突に対する建屋頑健性の強化を行っている。また経済性の追求の観点では、従来から基本的な設備を変更することなく 10%出力を向上すること、また設備利用率向上と定検負荷の平準化施策を取り入れた設計としている。本プラントが、わが国におけるエネルギー供給の「3E+S」*2に貢献できる原子力発電プラントとなることを期待する。 *2:安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定 供給(Energy Security)を第一とし、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に、環境への適合(Environment)を図るため、最大限の取り組むこと。 (第5 次エネルギー基本計画(平成30 年7 月)より) Proceedings, 2011 K. Kamei et al.、 “Enhancement of Plant Availability by Outage Shortening in European Advanced Boiling Water Reactor (EU-ABWR)”、ICONE21 Proceedings, 2013 “沸騰水型原子力発電所 CR99 型制御棒について(N 格子用)”、 TLR-079 “次期軽水炉の技術要件について (「次期軽水炉の技術要件検討」ワーキンググループ報告書)”、日本原子力学会 原子力発電部会 「次期軽水炉の技術要件検討」ワーキンググループ、2020 年6 月
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