再処理工場の運転・保守訓練用ハイブリッドコンパクトシミュレータ (J-HySIM?)の活用計画と実績

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カテゴリ: 第17回
再処理工場の運転・保守訓練用ハイブリッドコンパクト シミュレータ(J-HySIM?)の活用計画と実績 Program and achievement for the training of operation and maintenance with “J-tech Hybrid Compact Simulator (J-HySIM)” ㈱ジェイテック 髙橋 盛治 ShigeharuTAKAHASHI Member 池本 俊幸 ToshiyukiIKEMOTO 大坂 滝広 TakihiroOOSAKA 石原 正敏 MasatoshiISHIHARA 木村 貴宏 TakahiroKIMURA 向川 大敬 HirotakaMUKAIKAWA 中野渡 恵護 KeigoNAKANOWATARI 中山 大幹 HirokiNAKAYAMA To strengthen the operation and maintenance technology of Rokkasho fuel cycle facilities,J-tech developed J- tech Hybrid Compact Simulator (J-HySIM) in October 2018. Not only a normal operation mode but also abnormal operation ,maintenance mode and a part of severe accident mode of this facilities were experienced by 200 operators and 60 maintenance engineers.Furthermore two instructers are being brought up.With three years training with this machine, operation and maintenance skill were improved efficiently and certainly. This article reports these program and achivements in past three year with J-HySIM. Keywords: Hybrid Compact Simulator, maintenance and operation training, severe accident mode 1.緒言 当社は青森県六ケ所村において、日本原燃(株)再処理工場等の燃料サイクル施設の機械や電気・計装制御設備の運転と保守、およびこれらを収納する建物の保守を担当している。この施設は原子力発電所とは異なる機能の機器を含め膨大な物量の機器類を複雑に組み合わせており、安全で高品質な運転、保守・保全業務を遂行するためには本施設の構造や機能の特徴に対応した教育と訓練の継続が極めて重要である。当社は2018 年10 月、再処理工場を構成する主要プロセスや電源系、換気空調系等の重要共通機能を抽出してモデル化し、これらをソフトウエアとハードウエアの組合わせで構成した「ハイブリッド運転・保守訓練用コンパクトシミュレータ(以下J- HySIM?と略す)」を自社で独自に開発し、燃料サイクル施設に隣接した当社の技術・訓練センター内に設置して各種訓練に供してきた。(図1、2 参照)本稿ではこのJ- HySIM?を活用した教育訓練の計画と実績、その評価について紹介する。(参考:日本保全学会 第16 回学術講演会要旨集、2019、pp627-634) 図1 J-HySIM? 運転訓練の状況 図2 J-HySIM? 制御系保守訓練の状況 連絡先 : 髙橋 盛治、〒039-3212、青森県上北郡六ヶ所 村尾駮字弥栄平1-108、株式会社ジェイテック設備運転部 第二運転グループ E-mail: shigeharu-takahashi@j-tech66.co.jp 2.J-HySIM?による育成訓練計画 訓練項目 訓練内容 ① 基本概要習得 J-HySIM?全体構成、装置概要・シス コース テム構成と機能説明 ② 基本動作習得 通常運転操作、基本動作(指差呼称・ コース 復唱復命・報連相) (1) 運転員 ③ 通常運転操作コース 溶液移送設備・建屋換気設備・電気設備の運転操作、手順書を用いての運転操作 ④ 応用操作訓練 通常運転操作+単一故障、通常運転 コース1 中の単一トラブル対応訓練 ⑤ 応用操作訓練 通常運転操作+複合故障、通常運転 コース2 中の複合トラブル対応訓練 ⑥ 応用操作訓練 外部電源喪失および全交流電源喪 コース3 (事故対応) 失時対応訓練 ① J-HySIM?オペレータ・インストラクタコ ンソール点検訓練 電源電圧の確認、取付状態の確認、モニタ清掃 (2) 保守 、保全員 ② 制御盤・MCC 盤点検 電源電圧の確認、取付状態の確認、接続端子状態の確認、バッテリーの確認 ③ PLC 保守保全訓練 PLC と PC の接続、PLC ソフトウェアの読込・書込・照合 ④ PLC ソフト・タッチ PLC ソフト製作、タッチパネル画 パネル画面製作訓練 面の製作 ⑤ 合同保守訓練 運転部門と合同での系統隔離確認、電源隔離実施 ① 基本概要習得コース J-HySIM?全体構成 装置概要・系統・システム構成・機能説明の理解 (3) 次世代インストラク タ ② 基本動作習得コース 通常運転操作、基本動作(指差呼称・復唱復命・報連相)の指導方法 ③ 通常運転操作コース 通常運転操作の進め方とその指導方法 ④ 応用操作訓練コース1 通常運転時の単一故障時対処方法とその指導方法 ⑤ 応用操作訓練 通常運転時の複合故障時対処方法 コース2 とその指導方法 ⑥ 応用操作訓練 外部電源喪失および全交流電源喪 コース3 (事故対応) 失時の対処方法とその指導方法 2021 年度までに複数のインストラクタ体制とする計画とした。 J-HySIM?を完成後、2018 年下期より本機を用いた訓練を開始し、まず同一訓練条件にて現状の運転員と保 守・保全員の力量を把握した。この結果、各人の今までの担当設備の特徴や実務経験の差による技術力のばらつきが大きく、それぞれに合致した訓練内容と同一技量における評価の尺度を設定する必要性を確認した。また、長期継続的な訓練に向けて、複数の次世代インストラクタを育成することとした。これら課題等に対応し、2022 年度上期竣工予定の日本原燃(株) 六ヶ所再処理工場の操業開始を目標に育成計画を策定して訓練を行ってきた。 訓練対象の設定 訓練の主対象者は以下の3 職能とした。 運転員 系統隔離を含む電気計装制御系設備の保守、保全員 運転部門出身の次世代インストラクタ なお上記以外にも、各部門に配属前の当社新入社員や日本原燃(株)新入社員、インターンシップの学生およ び当社の運転に関わる協力会社社員にも可能な限り開放することとした。 訓練項目の設定 運転員、保守・保全員、インストラクタのそれぞれの特徴にあった訓練を計画した。表1 に訓練項目を示す。 運転員の育成 運転訓練は、各操作技術の経験年数等に応じて5 段階に設定した。表1 の①、②の基本コースは新規~経験1 年、③の通常コースは経験2 年以上、④、⑤の応用コースは経験3 年以上とし、基本動作から熟練操作までの運転や、単一故障と複合故障を組み合わせ、力量向上と技術力向上に向け訓練を計画した。 保守、保全員の育成 保守・保全訓練では、J-HySIM?を構成する機能部位毎の個別保守と、運転部門と連携した系統や電源の隔離に関わる合同保守訓練等を計画した。 次世代インストラクタの育成 従来インストラクタは原子力発電所等での当直長経験を持つベテラン社員1 名が担当してきた。そこで次世代インストラクタ候補として再処理工場での当社運転経験者2 名を選任し、現インストラクタの指導の下で、基本動作から重大事故初動対応の操作方法とその指導方法を 表1 各対象者別の訓練項目と訓練内容 訓練スケジュールの設定 2021 年度までの訓練スケジュールを図3 に示す。 る。 拡大活用の実績 2020 年度からは各部門に配属前の当社新入社員や日本原燃(株)新入社員、インターンシップの学生及び当社の運転に関わる協力会社社員にも可能な限り開放した。特に新入社員は配属後の業務に関係なく、指差呼称、復命復唱、報告・連絡・相談等の基本動作の重要性を意識付けするために繰り返し体感訓練を行った。 これらの活動により再処理工場を構成する設備の機能と重要性に関する参加者の理解が進んだ。また日常の継続訓練の必要性を相互に共有することができたと考え る。 図3 保守・保全訓練スケジュール 3.育成訓練の実績 J-HySIM?を使用した育成訓練計画に基づく2 年以上の活用実績を表2 および表3 に、その訓練状況を図4 および図5 に示す。 運転員訓練 全運転員約200 人を対象にして延べ592 回の訓練を実施した。運転手順書を使用した通常運転モードの訓練に加え、再処理工場実機では発生頻度の非常に少ない項目として、通常運転中に単一故障が発生した場合の対応 や、一つの故障から次の故障に派生する故障への対応、電源喪失時の対応等の訓練を繰り返し実施することが運転員の力量向上に極めて有効であることを確認した。 電気計装制御系設備の保守・保全訓練 関係する保守・保全部員約60 人を対象にしてJ- HySIM?を構成する生産系・安全系の制御盤を使用し、 延べ158 回の訓練を実施した。さらにこのような個別の保守・保全訓練に加え、2020 年度からは実際の現場業務に多数存在し、かつ安全と品質上非常に重要な運転中の部分隔離の訓練を実施し、運転と保守の両部門の現場での連携を深める訓練ができた。 次世代インストラクタの育成 2 名の候補者を対象にして、通常運転操作、故障対応操作(単一故障・複合故障)、重大事故等に対応した訓練を計画どおり推進中で、現在までに計113 回実施済であ 表2 社内および社外の運転員活用実績 表3 保守・保全部門活用実績 2018年 2019年 2020年 合計 ①J-HySIMオペレーター・インストラ クターコンソール 6 27 18 51 ②教育訓練装置安全系制御盤 6 9 6 21 ③プロセス・インストラクタ表示盤 6 27 16 49 ④教育訓練・生産系制御盤 6 3 16 25 ⑤訓練用コントロールセンタ 6 6 - 12 図4 運転・保守・保全合同訓練の状況 図5.インターンシップ訓練の状況 4.評価 J-HySIM?を活用した運転や保守・保全訓練の完了後にアンケート等で確認し、受講者の約90%が訓練に満足 し、知識・スキルの向上、実践および担当業務への活用を期待できるとの結果を得た。以下に各部門での評価を示す。 運転部門 当社は再処理工場で4 施設の運転を担当しているが、各施設の特徴や運用経過等から「担当者間で指差呼称や報連相等の基本動作に若干の差」があることを運転員自らが確認した。今回の訓練を通じて運転員自らがこれらをより適正で標準的な形に統一することにより、特にトラブル発生時の初動対応が統一され、相互の連携性も向上した。 訓練では操作手順書だけでなく、常に設計図書を用いながら運転操作をさせることにより、運転操作と動作する機器の動きや関係する設計図書の理解力が向上した。この結果 実運転業務において誤った操作・動作に起因するトラブルの低減が可能であると評価している。 保守・保全部門 保守部門員がJ-HySIM?の安全系・生産系の制御盤のソフト製作を行い、この保守・保全に直接繰り返し携わることによって、保守ミスや異常事象時への対応を含む技術・技能が向上した。 基本的な設計図書であるインターロックブロック線図や展開接続図等の記載情報の理解と、実際の機器類の挙動との関係の理解が向上した。 運転部門と保守部門の合同訓練により、特に隔離作業時の両者の連携とコミュニケーション力の向上につながり、今後の隔離時以外を含むヒューマンエラーの防止に繋がると評価している。 次世代インストラクタ J-HySIM?という標準訓練装置の活用により、運転部門と保守部門の訓練対象者の現状の技術力と訓練の理解度と定量的に把握するとともに、各対象者にあった訓練指導法を繰り返し習得中である。 当社社員以外による活用 基本動作や基本操作から始まり、トラブルの体感を含めた総合運転訓練まで経験していただいた。この結果、受講者より「机上説明だけでなく実践によって工場の理解が深まった」「今後の業務に大いに生かせる」「現場でも自信を持って作業できる」等との貴重な意見があり、今後の訓練方法をカイゼンしていく上で非常に有効であった。 5.今後の展開 現在、六ヶ所再処理工場のプラント運転と並行してJ-HySIM?運転訓練を実施していることから、プラントの状況等により、計画どおりに訓練を実施できないことがある。そのことから、効率的な訓練計画の見直し等の強化に努めていく。 再処理工場の安定操業に向けて、異常兆候の早期発見や対応訓練および外部電喪失事象、全交流電源喪失事象等の重大事故初動対応力向上訓練、保守・保全部門と運転部門の連携訓練等を常に進化させ実施していく。 6.結言 運転や保守・保全のプロフェッショナル育成を目的としてJ-HySIM?を自社で開発・製作し活用中である。約3 年間の繰り返し訓練を通じ、関係部門員の全体レベルが確実に向上していることを実感している。さらに地元協力会社にもJ-HySIM?を有償開放し、主要な設計図書の 理解や機器類の作動との関係、および運転手順書を使用した操作基本動作等を訓練することにより、当社と連携して六ヶ所再処理工場の安定操業へ貢献していく。 今後も現状の技術レベルに満足することなく、常により安心・安全で高品質な現場作業を提供できるよう努力していく所存である。 参考文献 [1] 向川大敬、中山大幹、佐々木崇文、他“運転・保守訓練用ハイブリッドコンパクトシミュレータ(J- HySIM)の開発と活用実績”日本保全学会 第16 回学術講演会 要旨集、2019、pp627-634
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