原子炉容器等クラス1容器のベアメタル目視試験ガイドラインの 制定について

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カテゴリ: 第17回
原子炉容器等クラス 1 容器のベアメタル目視試験ガイドラインの制定について Establishment of Bare Metal Visual Examination Guideline for Class 1 Pressure Vessels such as Reactor Pressure Vessel 三菱重工業株式会社 名越康人 Yasuto NAGOSHI Member 関西電力株式会社 一ノ瀬雄平 Yuhei ICHINOSE Non-member (一社)原子力安全推進協会 佐藤寿志 Hisashi SATO Non-member Abstract Bare metal visual examination (BMV) is required for dissimilar metal welds of class 1 component for PWR (Pressurized Water Reactor) in inspection and evaluation guidelines published by Japan Nuclear Safety Institute (JANSI). However, there have been no guidelines which specify the procedures for BMV. In 2021, the guideline stipulating specific procedures for BMV were established by JANSI. This guideline includes both lessons-learned related to the boric acid corrosion on reactor pressure vessel upper head at the Davis-Besse nuclear power plant in the USA and other operational experiences with reactor coolant system leakage, which are intended to alert the examiners to the possibility of similar events occurring at domestic nuclear power plants. In this paper, the guideline for BMV established in 2021 is overviewed. Keywords: Bare metal visual examination, PWSCC, Reactor pressure vessel, Guideline, Davis-Besse, Boric acid corrosion 1.緒言 (一社)原子力安全推進協会(JANSI)より発行しているPWR 炉内構造物等点検評価ガイドライン[クラス1 容器 管台異材継手部][1]及び[原子炉容器炉内計装筒][2]においては、加圧水型原子力発電所(PWR)のクラス1 容器異材継手部や容器貫通部の点検手法の1 つとして、ベアメタル目視試験(以下、BMV)を要求している。 また、原子力規制委員会「実用発電用原子炉及びその附属施設における破壊を引き起こす亀裂その他の欠陥の解釈」[3]においても、異材継手部や管台貫通部に対してBMV を要求している。しかし、現在の規格やJANSI ガ イドライン体系の中で、BMV の具体的な実施手順を定めた要領やガイドラインは存在しない。そこで、JANSI では、PWR 炉内構造物等点検評価ガイドラインの1 つとして、BMV の具体的な手順を明確化するため、「ベアメタル目視試験」のガイドライン[4]を制定した。 名越 康人 〒652-8585 兵庫県神戸市兵庫区和田崎町1 丁目1 番1 号、三菱重工業㈱ 原子力セグメント 機器設計部 原子炉機器設計課 E-mail:yasuto_nagoshi@mhi.co.jp 2.ベアメタル目視試験ガイドラインの概要 試験対象 ベアメタル目視試験の対象部位は、耐圧部のうち、一 次冷却水漏えいの原因となる劣化事象であるPWSCC が想定される部位とする(Fig. 1)。なお、これらの部位に対する具体的なBMV の実施範囲や頻度は、個別部位を対象としたPWR 炉内構造物等点検評価ガイドラインにて定めている。 Fig.1 BMV required parts of class 1 components [4] 試験の考え方 BMV では、保温材をはがして地金にほう酸の付着が ないかを目視により確認することで、一次冷却水の漏え いの痕跡及び近傍の低合金鋼のほう酸腐食の有無を確認 する。更に、漏えいの痕跡及び近傍の低合金鋼のほう酸 腐食がある場合は、漏えい源の特定まで実施する。 試験手法 本ガイドラインでは、BMV の実施要領として、主に以下のような内容を規定している。これに加えて、試験 員に対しては、VT-2 及びVT-3 の技量を有することに加え、米国Davis-Besse 原子力発電所で2002 年に顕在化した原子炉容器上蓋のほう酸腐食やベアメタル目視試験を 誤って解釈した事例等をもとに、BMV に関する教育訓練を受けることを要求した。 試験対象の地金を目視で観察し、「評価対象状 態」*1 の有無を確認する。 通常時に保温材等で覆われており、地金を直接目 視できない機器については、保温材等を取り外し、試験対象の地金を直接目視できる状態にする。 直接目視試験は、試験対象部から1.2m 以下の距離で実施する。 試験対象部は、表面において18%中性灰色カー ド上の幅0.8mm の黒線が識別できるか、又は540 ルクス以上の明るさとなる環境とする。 「評価対象状態」が確認された場合は、その痕跡 を保存した状態で、評価対象状態に対する評価と 処置を実施する。 *1: 目視点検中において観察される状態であって、補足試験、是正処置、補修/取替、又は評価を必要とするもの。本ガイドラインにおいては、具体的には、ほう酸腐食、ほう酸付着物、変色等の600 系ニッケル基合金を用いた異材継手からの漏えいが疑われる状態を示す。 試験結果の評価 BMV によって、評価対象状態が確認された場合、この状態を評価することで、異材継手からの漏えいの有無 を確認する必要がある。本項では、評価における留意点 を明確化した。この留意点は、米国Davis-Besse 原子力発電所上蓋ほう酸腐食事例やBMV を誤って解釈した2 件の事例も踏まえて、国内において同様の事例が発生し ないよう規定したものである。主な留意点は以下のとお り。 評価に先立って、評価対象状態を写真等により記 録する。 評価対象状態のうち、ほう酸水の析出物等に対し て、漏えい源の特定、及びその証拠の取得が完了 するまでは、ほう酸水による析出物等が除去され るような清掃をしてはならない。 評価対象状態がほう酸水によるものと評価された 場合、ほう酸水の発生源を特定する。 評価対象状態が試験対象の異材継手周辺に存在す る場合は、他の発生源から漏えいした一次冷却水 に起因したものであることが明確であっても、異 材継手からも漏えいしている可能性を考慮し、異 材継手からの漏えいの有無を確認する。 漏えい源の特定及び処置 評価対象状態の評価結果に応じて、漏えい源の特定及 び処置を実施する。BMV の対応フローをFig. 2 に示 す。異材継手から漏えい源の可能性があると評価された 場合、異材継手でPWSCC が発生している可能性があることから、内面又は外面からの体積検査(UT)を実施して、異材継手における亀裂の有無を確認する。体積検査が不可能な場合は、表面検査(PT 又はECT)を実施して、異材継手における亀裂の有無を確認する。異材継 手に亀裂が認められた場合は、構造健全性評価を実施す る。構造健全性評価においては、亀裂に対する評価(亀 裂進展評価、破壊評価)に加えて、ほう酸腐食による減 肉が認められた場合は、正確な腐食量(残肉厚)を測定 し、ほう酸腐食により構造健全性が喪失されるまでの裕 度も評価する必要がある。構造健全性に影響を与える恐 れがあると評価された場合、補修又は取替えを行う。当 該部位に対しては、1 運転サイクル後の計画停止時に、再度、BMV を行い、評価対象状態の有無を確認する。 また、ガイドラインの付録として、米国Davis-Besse 原子力発電所で2002 年に発生した原子炉容器上蓋のほう酸腐食事象の概要(発生経緯)、米国におけるベアメタル目視試験要求、米国のベアメタル目視試験の実例に 基づく注意喚起を掲載しており、米国のベアメタル目視 試験においてどのようなことが問題となったかが理解で きる内容となっている。 Fig.2 Examination and evaluation flow of BMV[4] 3.まとめ JANSI より発行しているPWR 炉内構造物等点検評価ガイドラインでは、加圧水型原子力発電所 (PWR)のクラス 1 容器に対する点検手法の 1 つとして、BMV を要求しているものの、その具体的な要領を示すガイドラインが存在しない。一方、米国では、Davis-Besse 発電所で発生した原子炉容器上蓋のほう酸腐食やBMV を誤って解釈した事例が報告されている。そこで、日本国内において、米国と同様の事例が発生しないよう、米国の事例で得られた教訓を踏まえて、BMV の具体的な実施要領を規定した PWR 炉内構造物等点検評価ガイドライン「ベアメタル目視試験」(第 1 版)を制定した。 謝辞 本ガイドラインの制定にあたり、貴重なご助言を賜り ました学識経験者、電力会社の方々等、関係各位に深く 感謝いたします。 参考文献 (一社)原子力安全推進協会“PWR 炉内構造物等点検評価ガイドライン[クラス1 容器 管台異材継手部] (第2 版)”、2020 年 (一社)原子力安全推進協会“PWR 炉内構造物等点検評価ガイドライン[原子炉容器炉内計装筒] (第2 版)”、平成25 年 原子力規制委員会“実用発電用原子炉及びその附属 施設における破壊を引き起こす亀裂その他の欠陥の 解釈の制定について”、令和2 年 (一社)原子力安全推進協会“PWR 炉内構造物等点検評価ガイドライン[ベアメタル目視試験] (第1 版)”、2021 年
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