原子炉容器用自動超音波探傷装置 A-UTマシンの開発の歴史

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カテゴリ: 第17回
原子炉容器用自動超音波探傷装置 A-UT マシンの開発の歴史 Automatic ultrasonic flaw detection machine for reactor vessel History of A-UT Machine Development 三菱重工業株式会社 井原亮一 Ryoichi IHARA Member 三菱重工業株式会社 武田義勝 Yoshikatsu TAKEDA Non-member 三菱重工業株式会社 須田洋介 Yosuke SUDA Non-member 三菱重工業株式会社 板橋佑真 Yuma ITAHASHI Member Abstract As "A historic heritage related to maintenance technology and a cultural heritage of humankind with the aim of encouraging the development, dissemination and contribution to society of Maintenology." the automatic ultrasonic flaw detection machine for reactor vessel (A-UT Machine) was recognized as the first heritage. The A-UT machine was used for the first time in the world for the inspection of reactor vessels of PWR nuclear power plants in 1995. Since then, improvements have been made to improve the accuracy of the inspection and to shorten the operation time. This paper describes the features and development history of A-UT machines. Keywords: Reactor vessel, Ultrasonic testing, Automatic flaw detection machine, Maintenance heritage 1.緒言 「保全学の発展、普及、社会への貢献を奨励することを目的とし、歴史に残る保全技術関連遺産でありかつ人類の文化的遺産」として、原子炉容器用自動超音波探傷装置(A-UT マシン)が保全遺産第一号として認定されました。当社が加圧水型原子力発電所(以下、PWR プラント)で培ってきたプラント信頼性の貢献や保全技術の発 展へ大きく寄与できたことを高く評価して頂けたものと深く感謝を申し上げます。A-UT マシンは1995 年に世界で初めて原子炉容器の検査に用いられ、その後改良を重ね、検査の高精度化及び作業時間短縮に成功していま す。本紙ではA-UT マシンの特徴と開発の歴史について 紹介致します。 2.検査工事及びA-UT マシンの概要 検査工事の概要 PWR プラントの主要機器である原子炉容器(RV)の溶接部は、10 年に一度健全性を確認することが義務付け 連絡先: 井原亮一 〒652-8585 神戸市兵庫区和田崎町 1-1-1 三菱重工業株式会社 原子力セグメント品質保証部 E-mail:ryoichi.ihara.cp@nu.mhi.com られており、供用期間中検査として超音波探傷試験(以 下、UT)が行われています。本検査工事に原子炉容器用自動超音波探傷装置A-UT マシンを適用しており、これまで延べ46 プラントの適用実績があります。RV は原子燃料を制御しながら核分裂させてエネルギーを取り出 す発電所の中核であり、常に原子燃料から高い放射線に 曝されていることから、RV 自体が放射化して高い放射能を有しています。また、放射線の影響を減らすため に、原子炉容器は水没させた状態であり、水中かつ高放 射線という環境での検査を行う必要があります。 A-UT マシンの概要 A-UT マシン(図1)は完全防水の構造であり、スラスタ (プロペラ)による推力で水中を自由に移動できる水中自 航型台車に7 軸マニピュレータを搭載した構造としています。検査対象箇所の溶接部はRV 全域に亘って存在するため、検査対象近傍まで水中台車が移動し、RV 内面へ自身を吸着固定した後、搭載したマニピュレータで検査ツール を動かして検査を行うことで、各検査対象部位へアプロー チが可能です。 RV 内面へ吸着固定した水中台車の位置は RV 上方に配置されたパン・チルトカメラを搭載した位置標定装置で水 中台車に搭載した計測用ターゲットをトレースし、画像処 理で得られる位置情報とカメラ角度から算出して計測さ れます。計測された水中台車位置からマニピュレータの手 先へ座標変換することで、検査している溶接部の位置を特 定することができます。 各装置の内部品保護のために、周囲から受ける水圧に対してわずかに高い内圧になるように、水中台車及び位置標定装置の水深に応じて内部空気を加圧できるように設計しています。また、A-UT マシンに搭載するモータ、カメラ、電装品等の機器は RV からの放射線下で使用可能な耐放射線性を有しており、あらかじめ計画した頻度に応じて交換を計画し運用しています。 また、検査対象部位及び対象形状に応じて検査ツール は数種類必要となります。検査ツールの交換は、マニピュ レータ先端のワンタッチ着脱機構により行います。 験)の要求事項を満足すべく多関節マニピュレータ、旋回 レール、支持脚などを構成し、50mm/sec の探傷速度で 5 方向同時探傷できるマスト型 UT マシンを開発し、適用しました。その後に採用した米国製 UT マシンはマスト型に比べて軽量で操作性の観点で取り扱いが容易であり、 クイックチェンジ機構による水中環境下で検査ツールが 交換できることで作業の効率化による工程短縮を図ることができました。 3.装置開発 開発の経緯 図1 A-UT マシン 図2 A-UT マシンの2 台運用 1991 年には、現有機のベースとなる初期型A-UT マシンを開発して実機投入し、位置決め精度の向上を図るレ ーザー光方式及び7 軸マニピュレータの採用で位置再現性を向上させ、かつ探傷速度の高速化(150mm/sec)を PWRプラントにおけるRV 検査対象部位は外面からの接近性が困難、高放射線下であるため水中環境下で容器内部から超音波探傷試験できる遠隔装置が必要であることから、1980 年より三菱重工製マスト型 UT マシンや米国製UT マシンを使用してきました。 その後、プラントの増加に伴い、被曝低減及び探傷クリ ティカル工程の大幅な短縮を図るべく次世代 UT マシンとして、1991 年に小型、軽量で水中自航方式の画期的なA-UT マシンを研究開発し、一社)発電設備技術検査協会により実用性に関する機能及び評価が行われ、供用期間中検査工事に適用してきました。更に、1995 年に定期検査に占める割合が高い探傷クリティカル工程を短縮するために、2 台のA-UT マシンを使用する探傷方式を確立しました(図2)。 装置技術の変遷 PWR プラント運転開始当時の供用期間中検査工事向けの超音波探傷試験装置は、ASME Sec.?-1970 年版 IR- 7901(ASME ?検討報告書 容器溶接部の超音波探傷試 達成し、探傷クリティカル工程の大幅な短縮を実現しま した。その後、1994 年にメンテナンス性の向上を目的に、位置標定方式をレーザー光方式からカメラを用いた画像処理及び水深計方式に変更し、検査ツールの遠隔水 中交換システムや検査ツールの浮力差を補正する浮力調 整機構を実装し、メンテナンス回数を低減するに成功、 更なる検査期間の短縮(図3)及び被曝低減を可能としました。 図3 工程短縮への取組み 4.超音波自動装置への性能要求 位置決めの性能 原子力発電所で行われる供用期間中検査においては、 検査時の機器の健全性の確認だけではなく、経年変化を確認することが重要です。その為には要求される試験範 囲に検査ツールが確実に走査する必要があり、検査位置 を正確に標定することが求められます。 A-UT マシンでは、検査位置を標定するために2.2 項に示した当社独自の技術を使用し、正確な検査位置の特定 を可能にしています。また、複数の探触子から同時に発す る超音波信号は、光ケーブルにより低ノイズで高速伝送され、UT データの高い信頼性及び再現性を確認しています。 また、複数の探触子から構成される検査ツールは、各部 位の複雑形状部に応じて設計された専用制御アルゴリズ 型形状で、ECT ツールを連続的に検査面に走査させる倣い性の確保が特に難しくなっています。このため、検査面 に対して垂直方向に独立して摺動するクロスコイルをアレイ配置した ECT 探触子複数個を開発し、3D プリンタで製作したモックアップを使って走査性を検討し、ツールに搭載できるコイル数、検査方法の運用を工夫し、試験 要求範囲全体を検査可能としました。(図4)このECT ツールは、7 軸マニピュレータに搭載可能なフレーム構造に搭載し、開発した制御ソフトを使用し、複雑な鞍型形状の 検査対象面に規定の押し当てをしながら、一定速度の倣い走査を実現しました。 ムにより、各部位への正確かつ一定した押し付けによる 探触子の走査が可能になっています。 規格要求事項 JEAC4207-2008(2012 年追補版)(以下、JEAC)が供用 凸部内側用センサ ( 1 2 コイル) D 断面 C 断面 B 断面 凸部外側用センサ ( 1 2 コイル) 凸部内側 凹部用センサ ( 1 6 コイル) 期間中検査に適用される以前は、試験部位に要求される 検査手法と検査範囲を満足するために必要な試験項目 (検査範囲の確認、欠陥検出機能、安全性、性能維持性等) を独自に設定し、実機への適用に向けた装置の性能試験を行っていました。JEAC 適用後は、上記の試験項目に加え、検査装置の機能及び性能確認項目を確認する時期、確認方法及び判定基準が明確に定められたことにより検査装置の性能や精度の有効な維持管理、性能確認がより高度化できるよう図られています。 5.原子力発電所運転延長に係る保全活動 プラント40 年超え運転対応 発電所の主要構成機器の健全性確認検査に対する新規 制基準があり、この規制基準を満たした発電所は、当初計 画した運転期間(40 年)を超えた運転が認められます。RV においては、母材部(炉心領域 100%)及び溶接部と冷却材出入口ノズルコーナーのクラッド溶接部の表面検査が、運転期間延長への追加試験として拡大されています。当社では検査プローブ及び検査ツールの新規開発を進めるとともに、A-UT マシンの性能向上を行い、新しい要求に対応しています。 40 年超え追加試験技術の開発 冷却材出入口ノズルコーナーのクラッド溶接部の表面 検査として、渦電流探傷検査(ECT)ツールを開発し、適 用しました。冷却材出入口ノズルコーナー部は複雑な鞍 A 断面 図4 40 年超え運転対応ECT プローブ 6.おわりに 今回の保全遺産認定にあたり、本装置に係わる研究開 発、設計、製作及び検証試験に携わってこられた諸先輩方 を含め、協力頂いた関係者の皆さまに深く感謝申し上げます。 今後も、原子力プラントの運転期間延長に係る保全活 動を継続するために、日頃からの技術開発や装置改善・改 良に対する意識を持つとともに、これら活動が若手エンジニアに引き継がれて、原子力プラントの保全活動を継続していくことに努めていきます。 参考文献 一般社団法人 日本機械学会、発電用原子力設備規格 維持規格 JSME S NA1(2012 年版)(2013 年追補及び2014 年追補を含む)、2014 一般社団法人 日本電気協会、軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における超音波探傷試験規 定 JEAC4207(2008 年版)(2012 年追補を含む)、 2012 谷口ほか、原子炉容器新型超音波探傷試験装置(A- UT マシン)三菱重工技報Vol.32 No.3、1995 藤田ほか、原子力発電所向けロボット開発の歩みと 新分野への展開 三菱重工技報Vol.57 No.4、2020 椎塚ほか、保全技術の更なる向上に向けた取組み - 高経年化対策 / 新検査制度 / 運用高度化 - 三菱重工技報Vol.57 No.4、2020
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