原子炉水位計指示誤差解消システムの開発
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カテゴリ: 第15回
原子炉水位計指示誤差解消システムの開発
Development of Back-Fill System for Water Level Measurement Drift
東京工業大学
奈良林直
Tadashi
NARABAYASHI
Member
北海道電力
倉佑希
Yuki
KURA
Member
北海道大学千葉豪GoCHIBA
北海道大学山本泰功Yasunori YAMAMOTOMember
In Fukushima accident on 2011, molten core supposed to be leaked on the concreate floor in containment vessel. After the loss of both the emergency core cooling system and IC core cooling, primary containment vessel (PCV) pressure increased. Water level measurement drifted because of water evaporation in the reference leg. Radiation level increased at a turbine building (T/B). There was a hydrogen explosion the after suppression chamber (S/C) wet venting.
Modular Accident Analysis Program (MAAP) code analysis results and actual data suggest that depressurization of the reactor pressure vessel (RPV) began before its bottom failed. The data shows that the measured water level measurement drifted by more than 4 m owing to water loss in the reference leg. This is likely to have been caused by the high-temperature superheated core. Water should have been supplied to the water level reference leg through instrumentation piping. The system is named the back fill system. The system test was conducted and succeeded the recovery of water level gage.
Keywords: Severe Accidents, Core debris, Concreate, Water Level Gauge Drift, High temperature, Back Fill System
1.緒 論
福島第一原子力発電所の過酷事故では、1 号機において原子炉水位計の指示誤差が発生している (1)。東京電力が公表した1 号機の原子炉水位のシビアアクシデント解析コード MAAP による解析結果によれば原子炉のシュラウド内水位は11 日の18 時10 分頃には有効燃料頂部(TAF)、19時40分頃には有効燃料底部(BAF) に到達したと考えられる。しかし水位計の実測値はTAF 以上を示しており、特にA 系では12 日0 時ごろに水位計の指示値が上昇している。21 時30 分から22
時20 分にかけてと23 時24 分から0 時前後には注水が行われていないにもかかわらず指示値が一時的に上昇した。しかし、1 号機に注水が行われたのは12 日早朝からである。このことから、水位計の実測値と実際の原子炉水位の間には大きな差異があり、実際よりも高い水位が表示されていたと考えられる。
連絡先 奈良林 直、北海道大学名誉教授、
〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1, N1-36
東京工業大学 E-mail: tnaraba@lane.iir.titech.ac.jp
東京電力はその原因について、水位計の基準面器側配管から水が蒸発により失われたためとしている(1)。この方式の水位計では、基準面器内の水位が蒸気の凝縮により補水され、常に一定の値となっていて、基準面器側配管と炉側配管の二つの配管の差圧を計測することにより原子炉水位を計測する。圧力容器からの気相漏えい等により格納容器内温度が上昇すると、基準面器配管内の水温が飽和温度以上に達し水が蒸発する。すると、基準水位が本来の値よりも低下する。しかし水位計では基準面器配管と炉側配管の差圧のみを計測しているため、見かけ上は原子炉水位の指示値が上昇する。なお、気相漏えいが想定される個所として、東京電力は炉内核計装のドライチューブや主蒸気配管のフランジを挙げている。前者は核燃料の温度上昇に伴い損傷する可能性があり、後者は 450℃程度でシール機能を喪失する可能性がある。
福島第一原発事故では、水位計の指示値が実際の水位よりも高いという測定誤差が発生した。同様の誤差はスリーマイル島原発事故でも発生している。水位が正確に測定できないと、運転員が注水に関わる判断を誤るなど、事故を悪化させる要因になりうる。そのため、
測定誤差を防ぐための備えは不可欠である。
米国では、過酷事故時でも従来の凝縮槽式の水位計を用いて、原子炉水位を正確に測定できるように、基準面器に格納容器外の計装ラックの計装配管から補水するバックフィル(Back Fill)というシステムが設置されており、補水を CRD ポンプで行うことは、SBO 時に CRD ポンプがトリップするため、脆弱であるといったリスク評価も行われている。米国TMI-2 の事故と、福島第一事故の2回、人類は事故時に原子炉水位を正しく測定することに失敗し、運転員の判断ミスを引き起こしている。この判断ミスは運転員に帰するべきではなく、水位計測システムとして、過酷事故時にも、原子炉の重要なパラメータである原子炉水位を正しく測定するシステムを我が国でも設置すべきとして研究を行った。なお、国家プロジェクトで、高さ方向に複数の熱電対を設置した中性子検出器を設置するシステムを開発中であるが、炉心損傷後は熱電対も作動不能になるため、バックフィルシステムの設置が必要である。
2. 本研究の目的と研究内容
米国ではバックフィルの高圧水源を制御棒駆動
(CRD)ポンプの吐出水を使用しているため、福島事故のような全電源喪失時には使用できない。そこで、バッテリーでも駆動可能な小型のプランジャーポンプによる注水が望ましい。そのためには注水量を最低限にする必要があるが、格納容器内の基準面器側配管に断熱材を装着することで、温度上昇時にも水の蒸発を抑え、注水量を削減できると考えられる。本研究では、日本国内の既設原子炉の凝縮槽式水位計でバックフィルによる機能維持が有効であることを確認することを目的として、以下の研究を行った。
水位計の指示誤差をバックフィルによって回復可能 であることを確認するために、基準面器側配管を模 擬したモックアップを作成した高温高圧実。
過去に水位計配管への冷水の流入により圧力変動が 発生した事例が存在するため、バックフィル時の圧 力振動やウォーターハンマーの有無の調査。
配管に断熱材を装着した場合の注水量削減効果の評 価。
プランジャーポンプによる注水が可能であることを 確認と実機において必要な注水量の評価。
3.モックアップ試験
本研究では断熱材の取り付けとバックフィルによる注水の有効性を確認するため、凝縮槽と基準面器配管を模擬した実験装置を製作し、加熱実験を行った。実験装置は恒温槽と圧力容器(アキュムレーター) で構成されている。実験装置の模式図を図1、外観を
図2に示す。圧力容器は内部に電気ヒーターが2本あり、加熱により内部の水蒸気の圧力を最大6MPaまで昇圧することができる。恒温槽は内部の温度を最大400℃で一定温度に保つことができる。
Fig.1 Back fill mock up test facility
Fig. 2 Mock up test facility for back fill
恒温槽は半割式で、内部には基準面器配管と凝縮槽が図3のように収められている。基準面器配管の下部には図のようにプランジャーポンプが接続されており、任意に注水することができる。凝縮槽は圧力容器と接続されているため、過剰に注水した場合でも基準水位は一定に保たれる。圧力容器内と基準面器配管との間の差圧計(図中のdP2)が実機における原子炉水位計に相当する。基準側配管の表面には熱電対が3点(図中のT1~T3)設置されている。断熱材は恒温槽内の基準側配管に脱着が可能である。
Fig. 3 Test section of reference leg in a thermal camber
Fig.4 Plunger pump for back fill
実験における、基準側配管表面の温度変化を図5、図6 に示す。恒温槽内の温度上昇に伴い、差圧計の指示値が 徐々に減少していることが確認できる。圧力容器内の水
位がほとんど変動していないため、この差圧の変動は基 準水位の低下によるものである。これが実機における、 注水していないにもかかわらず水位の指示値が上昇する 現象に相当する。
実験開始から約3 時間後に注水を行うと、差圧計の
指示値が実験開始時の値に復帰した。その後再び基準水位が低下したが、再度注水を行うことで再び実験当初の基準水位に復帰させることができた。このことから、注水によって水位計の指示誤差を回復可能であると確認できた。
Fig.5 Temperature transient during high temperature test
Fig.6 Pressure and differential pressure transient during high temperature test
1 回目の注水中 300 秒間の圧力変動を図 7 に示す。
プランジャーポンプの性質上、注水中は差圧に微弱な振動が見られる。しかし懸念されていたウォーターハンマー等の異常な圧力変動は生じないことが確認できた。
Fig.7 Pressure and differential pressure transient during high temperature test and
図6と比較すると、実験開始から1回目の注水までの時間が、約3時間から約7時間へ倍以上に伸びている。つまり、配管への入熱量が半減していることがわかる。この結果から、断熱材を実機の配管に装着した場合、注水に必要なポンプやタンクの小型化が可能になることが確認できた。断熱材の効果を検証するため、基準面器配管に金属断熱材を装着し、同様の実験を行った。圧力・差圧の時間変化を図8 に示す。
Fig.8 Pressure and differential pressure transient
after install metal insulator
実機における注水量を推定するため、伝熱計算を行った。
モックアップの基準面器配管の内径は 1inch(約25mm)、配管長は1300mmである。実機の配管長は30mと仮定した。格納容器から基準面器配管への入熱量は、輻射伝熱と伝導伝熱を考慮し、それぞれ式(1)、(2)で計算した。
…(1)
…(2)
伝熱計算の結果、今回の実験条件、つまり格納容器内温度を 400℃と仮定した場合の配管への入熱量は約100W と計算された。この値を元に、実機においてポンプによる継続的な注水により基準水位を維持するために必要な流量を計算すると、約0.1kg/min となった。この流量は、蓄電池で運転できる小型のポンプで十分に注水可能な値である。
ただし、実機の実際の配管寸法や、事故の状況によ
って必要な注水量は変化するため、正確な流量の導出 にはそのプラントに合わせた計算が別途必要である。 また、バックフィルを行った場合でも、実際に基準水 位が回復したかどうかの判断は差圧の計測からは困難 である。その為、凝縮槽付近に熱電対を設置するなど、 満水になったことを確認するための手段が必要である。
4.結論
本研究により得られた結論は次のとおりである。
モックアップを用いた高温高圧実験により、水位計の指示誤差をバックフィルによって回復可能であることを確認できた。
基準面器配管への注水による圧力の異常な振動やウォーターハンマーなどは生じなかった。
配管への断熱材装着により、注水量を削減する効果を確認した。
実機におけるバックフィルに必要な流量を推定し、バッテリー駆動可能な比較的小型のポンプで注水可 能なことを確認した。
以上より、既存の原子力発電所においてもバックフィルを適応可能であり、SBO 時であっても原子炉水位計の指示誤差を回復可能であると考えられる。
参考文献
T. Narabayashi, Fukushima Nuclear Power Plant Accident and Thereafter, Energy Technology Roadmaps of Japan, Editer:Y.Kato, M. Koyama, Y. Fukushima and T. Nakagaki, Springer, pp.57-119 (2016).
US NRC, Office of Nuclear reactor Regulation, Information Notice 2002-06: Design Vulnerability in BWR Reactor Vessel Level Instrumentation Backfill Modification,
https://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/gen-com m/info-notices/2002/in02006.html