再処理施設における分析廃液配管のバルブシール材の物性評価

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カテゴリ: 第15回
再処理施設における分析廃液配管のバルブシール材の物性評価 Physical property evaluation of valve seal material at analytical radioactive liquid waste storage tanks in reprocessing facility 日本原子力研究開発機構 後藤 雄一 Yuichi GOTO (Non-Member) 日本原子力研究開発機構 山本 昌彦 Masahiko YAMAMOTO (Non-Member) 日本原子力研究開発機構 久野 剛彦 TakehikoKUNO (Non-Member) 日本原子力研究開発機構 稲田 聡 SatoshiINADA (Non-Member) Abstract Radioactive liquid waste from the Tokai Reprocessing Facility Analytical Laboratory is temporarily stored in intermediate waste storage tanks by using receiving valves. Then, the liquid waste is transferred to liquid treatment facility by using liquid feed valves. The deterioration of the gasket part of these valves (leakage of waste liquid) was confirmed in 2004. Since then, the material of gaskets was changed from polyethylene to polytetrafluoroethylene(PTFE). In 2016, the gaskets were replaced by periodical update. Therefore, physical properties of used gaskets were investigated, and the relevance between radioactive level and degradation degree was evaluated. Keywords: polytetrafluoroethylene(PTFE) gaskets, reprocessing facility 1.諸言 東海再処理施設の分析所では、各工程から採取された放射性の分析試料を1 階にある分析セルライン(マニプレータによる遠隔操作式の遮蔽付き気密ボックス)、グローブボックス等の閉じ込め設備で取扱っている。分析に伴い発生した放射性廃液(主に 0.1~0.5Mの硝酸系で放射能濃度は1×104~108Bq/mL)は、閉じ込め設備の排水配管から重力流で分析所地下 1 階の廃液貯槽セル内の 2 基の中間貯槽に切り替え式の受入れバルブを介して一時貯留された後、送液バルブを介してスチームジェットで廃液処理施設へ移送される。これらの受入れバルブ及び送液バルブには、硝酸への耐腐食性を考慮して、ステンレス鋼(SUS)を構造材としたボールバルブが使用されており、 バルブと配管フランジの接合面は、シール材にて密閉されている。 平成16 年には、これらのバルブのシール材であるポリエチレン製ガスケット類(シート、グランドパッキン含む)が、30 年超の使用による経年劣化でシール性能が低下し、分析廃液がバルブから漏えいする事象が発生した1)。このため、事象後にシール材の材質は、従来まで使用してきたポリエチレン製から化学的性質に優れたポリ四フッ化エチレン(PTFE)製へ変更している。しかし、PTFE は、 連絡先:後藤 雄一、〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松 4-33、核燃料サイクル工学研究所 再処理技術開発センター 施設管理部 分析課 電話:029-282-1111、E-mail: goto.yuichi@jaea.co.jp 放射線照射により分子鎖結合が切断され易く、分子量が 小さくなることによる材料特性の著しい低下のため2)、ポリエチレンよりも 2 桁程度、耐放射線性が劣ることが報告されている 3-5)。 このため、PTFE 製ガスケット類の放射線環境下での使用においては、ボルトの締付け応力や経年変化等による 通常の劣化に加え、放射線劣化についても考慮する必要 がある。一方、これまで放射線環境下で長期間応力が負 荷された条件下で使用したPTFE製ガスケット類の物性値 に関する報告はなく、劣化度に対する放射線の影響評価 は極めて貴重な知見と考えられる。 本件は、平成28 年に定期更新を目的とした作業において、回収したPTFE 製ガスケット類の物性を調査した。また、ガスケット類への線量率、照射線量及び接触した放 射能量の評価結果から放射線と物性の劣化度の関連性に ついて考察した。 図1 分析済廃液の系統図 2.試験 ガスケット類試料 試験で使用したガスケット類試料は、東海再処理施設 の分析所地下 1 階の廃液貯槽セルに設置された 2 個の受 入れバルブ及び 4 個の送液バルブ内から取出したガスケット、シート及びグランドパッキンである(図1,2)。 当該ガスケット及びシートは、これまで分析廃液と接 触して、平成16 年以降、12 年にわたり、放射線及び硝酸を主とした化学物質に暴露されてきた。また、グランド パッキンは、駆動部の度重なるバルブ操作により摩耗し ている可能性がある。なお、試料は、放射性物質に汚染 されていることから、密閉された設備であるグローブボ ックス内に搬入し、物性値等の調査を行った。 リファレンスとして、未使用品を比較評価の対象とした。 図2 バルブ構成図 外観・寸法調査 各バルブのガスケット、シート、グランドパッキンについて、目視によるひび割れ、変色、変形等の損傷状況を観察した。また、ノギス、マイクロメータ等を使用して幅、外形等の寸法を90 度刻みに4 方向から測定した。 物性値(硬さ、圧縮変形量)の測定方法 各バルブのガスケット、シート、グランドパッキンに ついて、強度の指標となる硬さ、ボルトの締付力による 圧縮の影響を表す圧縮変形量を測定した。硬さは、JIS K7215 6)に準じて、タイプD 硬度計(ミツトヨ811-337-10) を用いて、図 3 に示す 5 点を測定し、各ガスケット類について、その平均値を評価した。 図3 硬さの測定箇所 圧縮変形量は、ノギス、マイクロメータ等を使用して 求めた各ガスケット類の厚み測定結果を基に、リファレ ンスとした未使用品との寸法を比較することで、圧縮変 形量を以下に示す式(1)から評価した。 線量率、照射線量、送液量と全放射能量調査 ガスケット、シート、グランドパッキンは、電離箱式 サーベイメータ(ALOKA 製 ICS-321)を使用して、グローブボックスに付帯するビニルバッグ越しに、線量率の測定 を行った。なお、PTFE は、化学的性質に優れているものの、他の材料に比べ、耐放射線性に劣ることが知られて いる(表1)。このため、線量率の測定結果を基に、照射線 量について評価した。 表1 各材料の耐放射線性3-5) 材料 照射線量( Gy) ポリエチレン 1 ×105 テフロン 1 ×103 また、平成16 年以降に中間貯槽から廃液処理施設へ送液した履歴を調査し、送液前の分析による全ガンマ 線放出核種の濃度値を用いて、各送液バルブを通過し た廃液中の放射能量を求めた。これらの結果から、照 射線量及び放射能量がガスケット、シート、グランド パッキンへ与える影響について評価した。なお、受入 れバルブについては、分析セルライン及びグローブボ ックスからの排水の際、液組成分析は実施していない ことから放射能量の評価は対象外とした。 3.結果及び考察 外観・寸法 全てのガスケット、シート及びグランドパッキンは、 長期間バルブのボディ及び配管フランジとの接合面に取り付けられ、応力が負荷されていたが、外観調査の結果、これらにひび割れ、変色、変形等の損傷は確認されなかった。なお、シートの一部には、黒色の汚れが付着していた。汚れは、濡れウエスで容易に除去できるものであり、母材への浸透は確認されなかった(図4)。また、汚れた部分は、線量率測定において最も高い値を示した。このため、汚れは分析廃液のシート表面上への付着であると考えられる。 使用済みガスケット類の寸法は、使用したノギスの 精度を考慮すると不確かさの範囲内で未使用品の測定 値と一致し、両者に差異は確認されなかった。 図4 シートの外観の汚れ 硬さ、圧縮変形量 硬さ測定の結果を図 5 に示す。この結果より、同種のシール材において、受入れバルブ、送液バルブ間で大きな違いは見られなかった。各シール材について比較してみると受入れバルブ、送液バルブともにガスケットは、リファレンスに対して3~4°の硬化を示していたものの、 その値は、PTFE の硬さ指標であるD50~65°7)の範囲内であった。これらのガスケットについては、任意に曲げ、ねじれ等の負荷を加えても、ひび、割れ等の発生はなかった。また、受入れバルブ、送液バルブともにシート、グランドパッキンの硬さは、未使用品と同等の値であり、硬化は認められなかった。なお、グランドパッキンでは、他のシール材と比べて測定値にバラツキが見られた。これは、グランドパッキンの外寸が小さく、5 枚を重ねて測定したため、重ね方の程度により測定値が変動したものと推察される。圧縮変形量も同種のシール材において、受入れバルブ、送液バルブ間で大きな違いはなかった。 シール材で比較すると圧縮変形量は、ガスケットで3~6%、 シートで0~1%、グランドパッキンで4~7%の範囲であり、ガスケット、グランドパッキンでわずかに大きい値を示した(図6)。ガスケット、グランドパッキンは、締付けボルトにより、SUS 製のバルブ本体と直接接触するシール材であり、応力が負荷されたため圧縮変形量が大きくなったものと考えられる。しかしながら、シール材の健全性の目安となる具体的な圧縮変形量の値はないものの、各バルブの使用時において、バルブからの廃液の滲み、漏れ等は確認されていなかったことから、最大7%の圧縮変形量は、シール材としての機能を担保する値であったと言える。また、物性値の変化量は小さく、本件で評価した硬化及び圧縮変形の度合いは、密閉性に影響を及ぼすものではないと考えられた。 図5 送液バルブ(上)、受入れバルブ(下)の硬さ測定結果 図6 各バルブの圧縮変形量 線量率・照射線量率、放射能量 線量率の測定結果及び送液した放射能量の調査結果を 図 7 に示す。線量率は、各バルブによって大きく異なっていた。分析廃液の受入れバルブW425、W426 に設置された全てのシール材において、送液バルブよりも線量率は 高く、その最大値は約2000μSv/h であった。一方、送液バルブW427~W430 は、受入れバルブW425、W426 よりも1 桁から 2 桁低い結果であった。これは、当該受入れバルブ内のガスケット類は、分析セルラインやグローブボッ クスから高濃度の放射性物質を含む分析廃液が排水時に 直接接液する機会が多々ある。一方、送液バルブ内のガ スケット類が接液する分析廃液(中間貯槽内廃液)につい ては、分析器具類の洗浄液等により希釈された分析廃液 である。これらのことから、送液バルブに比べ放射性物 質濃度が高い廃液と接液がある受入れバルブ内のガスケ ット類の線量率が高くなったものと考えられる。 シール材で比較すると全バルブについて、ガスケット、 グランドパッキンよりもシートの線量率が高い傾向を示し、物性値の低下が見られたガスケット、グランドパッキンと線量率に相関性は見られなかった。 平成16 年から平成28 年の約12 年間において、廃液処理施設への送液は、各送液バルブ(W427~W430)を使用して、送液回数:130 回、送液量:233 ?を実施している。そのうち、送液回数、送液量ともに中間貯槽 B の送液に使用されたW428 が最も多く、送液回数:114 回、送液量223 ?で全体の95%以上を占めていた。このため、バルブと接 触した総放射能量は、W428 が最も高い結果であったものの線量率との関連性はなかった(図7)。 図7 各バルブガスケット類の線量率・放射能量 PTFE は、照射線量が 103? 5)の放射線で劣化するが、線量率の測定結果で得られた最大線量率が12年間照射されたと仮定して評価した推定照射線量は、最大でも約 102?であり、これを下回る値であった。すなわち、当該分析廃液のような放射性試料との接触におけるシール材の照射線量は、材料であるPTFE が劣化するレベ ルには至っていなかったと言える。なお、硬化、圧縮変形等の物性値の変化は、バルブ間で確認されず、物性値の変化と放射能量についても相関性は見られなか った。これらのことから、締付け応力が負荷された条 件においても、この程度の照射線量ならば放射線が硬 さや圧縮変形量の物性値の変化に与える影響は殆どな く、物性値の変化は締付けボルトによる圧縮応力に起 因することがわかった。なお、本件で確認された物性 値の変化は、締付け応力の長期間負荷に伴う経年変化 によるものと推測されたため、密閉性能を維持するた めには、ナットの増し締めを定期的に行い、適正なト ルク管理を実施していくことが重要と考えられる。 4.結言 東海再処理施設の分析廃液中間貯槽の受入れバルブ(W425、W426)、送液バルブ(W427~W430)に12 年間取り付けられていたシール材であるガスケット、シート、グランドパッキンについて、外観、寸法を確認し、物性値である硬さ、圧縮変形量を測定した。その結果、一部のバルブのシートで外観に若干の汚れが見られた。物性値は、バルブ間で違いは見られなかったが、シール材の種類で比較するとガスケットで硬化及びガスケットとグランドパッキンで圧縮変形量の増加が見られた。物性値の変化と放射線との関連性については、各バルブ及び各シール材の線量率・照射線量、接触した放射能量を調査した。その結果、線量率、照射線量、接触した放射能量は、バルブ毎に異なり、物性値の変化と放射線について相関は見られなかった。このことは、当該シール材への推定照射線量は最大でも 102?とPTFE が劣化する照射線量である103?を下回るためであり、このような条件においては、締付け応力が負荷された状況においても放射線がPTFEの物性値の変化に与える影響は殆どないことがわかった。バルブガスケット類の健全性を維持管理していくためには、定期的な点検、トルク管理による増し締めが重要である。 参考文献 "東海再処理施設分析所における汚染について". 日本原子力研究開発機構HP.https://www.jaea.go.jp/ jnc/news/press/PE2004/PE04091002/houkoku.pdf, (参照2018 年4 月6 日). 萩原幸二. 放射線崩壊法による廃棄プラスチックの回収と再利用. 日本原子力学誌. 1973, 15, pp.771-773. P.Beynell,P.Maier and H.Schonbacher. Compilation of Radiation Damage Test Data-PartⅢ:Materials Used Around High-Energy Accelerators.Geneva,E uropean Organization for Nuclear Research, 1982, CERN 82-10, 258p. 日本バルカー工業株式会社. バルカーハンドブック -技術編-, 2010, p473. 大強度陽子加速器施設開発センター計画グループ. 高分子系材料の耐放射線特性とデータ集, 日本原子力研究所, 2003, JAERI-Date/Code 2003-015, p10. JIS K7215:1986. プラスチックのデュロメーター硬さ試験方法. 日本分析化学会編, 化学便覧 基礎編Ⅰ, 改訂第5版, 丸善,2004,p716.
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