「原発裁判と社会」第四報 リスクの理解ー社会認知の手法

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カテゴリ: 第16回
原発裁判と社会 第四報 リスクの理解一社会認知の手法 Nuclear Power Trials, Issue and Arguments No.4 Comprehension of Risk -Cognition Method- 0東京大学菊池豪Go Kikuchi 東京大学高田毅士Tsuyoshi Takada これまで、原子炉の運転差し止め裁判が数多く行われ、裁判所は運転を認める判断、禁止する判断のいずれも示している。原発裁判では、原子力安全に係る専門的かつ高度な事柄に関する論争が行われている。原発裁判で、安全確保の理解が進まない要因の1つに、「リスク」の理解が社会に進まないことが挙げられる。本 では、「リスク」とは んなことなのか、について自 と考えることのできるような議論、討論の手法を提案する。 Many lawsuits have been filed to stop the operation of nuclear power plants. Judgments in court show various decisions. In such lawsuits, some controversy over technical issues related to nuclear safety have taken place but it is hard to say that various efforts to ensure nuclear safety has been understood properly. One of the cause seems that the concept of “risk” doesn’t penetrate into society. In this report, a method is proposed. this method may enable people to think about risk easily. Keywords: Case of lawsuits, Claiming to suspend the operation, Risk, Social Cognition はじめに 原発の運転差止裁判では、原子炉の運転の可否に ついて何らかの判断が下されるが、その過程では、技術的争点に関して、裁判の当事者(電力事業者・ 市民)を元に、裁判官が何らかの判断を下している。技術的争点の難しさ 裁判で扱われるような技術的争点は、原子炉の安全性を確保するためのものであるため、原子炉の安全性が重要な争点の1つとなる裁判においては、扱われてしかるべきものである。 しかしながら、原子力安全、あるいは安全確保に向けた取り組みに関して、社会認知が十分進んでいるとは言い難い。この要因の1つには、リスクの考え方が十分理解されていないことが挙げられる。加えて、リスクについて理解する場、考える場が十分整っていないことも事実である。 さらに、この理解を阻害する要因として、言葉の難しさが挙げられる。技術が扱うべき課題や、意思決定に必要な制約条件について考えようにも、聴きなれない言葉を理解することができず、結果として問題の本質について考えることができない恐れがある。 そこで本稿では、リスクに関して理解を深め、一人一人が自ら考えることのできるような手法を提案する。その手法は、「リスクの考え方を体感できるような例題を作成し、その例題に取り組んでもらいながら、リスクについて考えてもらう」というものである。 ここで作成する例題は、「リスクを含めた様々な要素を考慮しながら、課題に対して意思決定を行う」という構造は失わせないまま、専門的な用語を極力用いず、容易に取り組むことのできるものとした。 作成した例題 作成した例題について説明する。この例題は、与えられた情 を取捨選択しながら、最終的に1つの意思決定をしてもらうというものである。作成した例題の一部を図1に示す。 この例題の概要は以下の通りである。 テーマ1: 「一市民として、自分の家に、耐えることを要求する積雪量を決める」 テーマ2: 「役場の職員として、避難施設を兼ねた保育園に、耐えることを要求する積雪量を決める」 与える情 : 法令上の基準・技術者向けガイドの推奨値・過去に観測された積雪量・歴史上の文献・積雪により建物が潰れた事例・対策にかかる費用 意思決定方法: 記述形式で、想定する積雪量(cm)とその理由を答えてもらう。併せて、提示した情 以外に必要だと感じた情 についても回答してもらう。 はじめにテーマ1 について意思決定を行い、その後テーマ2について同様の意思決定を行う。また、テーマ2については、意思決定後に、「住民からの質問」として以下の3つの質問を用意し、それらに対する回答を考えてもらう。 質問①: なぜ、その積雪量に決定したのですか。質問②: 隣町ではたくさん雪がふっていますが、この町は大丈夫でしょうか。 質問③: この前、「新潟で積雪300 mがあった」という新聞記事を見たが、当 それには耐えられますよね? また、図1に示した与える情 について、それぞれの要素は裁判でも扱われるような技術的争点の本質を失わないよう、今回のテーマに沿って置き換えたものである。以下に、各情 の概要と、その作成根拠となった技術的争点を示す。 情 ①~③: 「地震動の大きさとその発生頻度」を想定し,観測された積雪量に置換して設定した.頻度と積雪量が異な る情 を3 種類用意し,回答者にそれらの情 を採用するか否かを考えてもらう. 情 ④: 「地震に関する歴史上の記録」について,積雪に置換 した情 を設定した. 情 ⑤,⑥: 「当該敷地以外で観測された地震動記録」を想定し, 敷地の近さと積雪量を変えた情 を2 種類用意した. 情 ⑦: 「今後,起こることが想定される地震動」に対して, 積雪に関する同様の情 を用意した. 情 ⑧: 「定めた基準を超過した事例とその影響」として,想定以上の積雪による事故事例に関する情 を用意した. 情 ⑨: 「地震動対策にかかる費用」について,積雪量に応じて必要な対策費用を示した. まとめ このような例題を作成し、実際に考えてもらうことによって、存在している課題、意思決定の際に考慮しなければならない条件の存在、選択肢の多様性な を認識してもらうことができるのではないかと考える。 リスクを考慮した意思決定の必要性を認識してもらうことで、原子力の安全確保に係る技術的要件を理解する一助になり得ると考える。 図 1作成した例題の一部
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