廃棄物管理を考慮した大規模燃料デブリ取り出し工法の提案

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カテゴリ: 第17回
廃棄物管理を考慮した大規模燃料デブリ取り出し工法の提案 Proposal on large- scale fuel debris retrieval considering waste management 東京大学 鈴木 俊一 Shunichi SUZUKI Member 東京大学 高橋 佑介 Yusuke TAKAHASHI Non-member Abstract In order to retrieve fuel debris on a large scale, it is effective to use Geopolymer to stabilize the fuel debris. In this study, we proposed a new disposal concept for various radioactive wastes and evaluated the barrier material performance and heat generation as wastes when using Geopolymer. As a result, it was shown that the method using Geopolymer was effective in the process from fuel debris retrieval to waste disposal. Keywords: Fukushima Daiichi NPP, Geopolymer, Waste Management, Fuel Debris Retrieval 1.大規模燃料デブリ取り出し 福島第一原子力発電所(以下、1F)の廃止措置で最大 の課題である燃料デブリ取り出しは2022 年からの開始に向けて工法の検討が進められている。取り出し案とし て冠水工法と気中工法が主に検討されているが[1]、バウ ンダリーの止水や放射性核種を含む粉塵の飛散防止など 不確定要素は多い。 一方、1F2 号機及び3 号機において原子炉格納容器 (以下、PCV: Primary Containment Vessel)の内部調査が行われ、燃料ハンドルや制御棒がPCV 底部において観察された[2] [3]。この結果はともに事故時に原子炉圧力容器(以下、RPV: Reactor Pressure Vessel)の底部に制御棒のRPV 貫通孔よりも大きな開口部が生じたことを示しており、燃料デブリ取り出し時にはRPV 底部を構造的により安定な状況にして作業安全を高める必要性がある ことを示唆している。 従って、燃料デブリ取り出しに際して何らかの手法で燃料デブリや構造物を一旦移動しないように安定化してから取り出すことは、燃料デブリの安定性維持、放射性物質の飛散防止及び構造物の補強の観点から重要な概念である。この場合、安定化材料は、RPV 底部やペデスタルを補強可能で、高温の燃料デブリに耐性があり、また将来の廃棄物として長期にわたり保管可能であることが とが条件であり、上記理由から欧州において廃棄物 必須条件であり、欧州において廃棄物処理に使用されているジオポリマー[4]により、燃料デブリを安定化してか ら取り出しする方法は安全かつ合理的な工法であると判断される[5] 。 このように安定化により一旦廃棄体がつくられると、切断、スライス、構造物との一体移動などの様々なオプションが可能となるため、時間軸を考慮した工法選択肢が増えると考えられる。例えば、図1 に示すようにRPV 内の燃料デブリをワイヤーソーにより切断し、分割した廃棄体を原子炉建屋外に新設する廃棄体保管建屋に輸送して保管し、その中で内容物を確認しつつ細断して、保管容器に入れることも可能となる。 図1 ジオポリマーによる大規模燃料デブリ取り出し 通常の原子力発電所の廃止措置で発生する放射性廃棄 物は、放射能レベルによってL1からL3までの低レベル放射性廃棄物と放射性廃棄物として扱う必要のないクリアランス廃棄物、そして再利用不可の放射能レベルの高い 高レベル放射性廃棄物に分類される。一方、1F事故に起 因する放射性廃棄物及び燃料デブリも放射能レベルに応 じて区分して分類ごとに処理、処分することは必要であるが、通常の原子力発電所の廃止措置で発生する廃棄物とは異なり、燃料デブリを含む多種多様で膨大な量の廃棄物が発生している。不確実性を含む廃棄物の処理・処分 を考える際には、廃炉戦略のエンドステート(最終形態) を明確に示し、廃棄物ストリーム、即ち、廃棄物の発生、 性状把握、保管、処理、処分まで放射性廃棄物をどのよう に扱うのかをマクロ的に示したプランが必要となる。 2.基本シナリオ 1F 廃棄物処分にあたって考慮すべき基本シナリオを、以下に示す。 ① 長期の亘る安全性を最優先で確保 ・安定化した状態(核種が移動しない状態)を早くつ くる(例えばジオポリマーで安定化する) ・低レベル廃棄物に対しても、より安全な設計を採用 ・被曝の時間的ピークを深さ方向でずらす ② 多種・多量の廃棄物を極力シンプルに処理・処分 ・作業性向上 発生廃棄物をその都度廃棄可能 ・被曝低減 ・手間・コスト低減 極低レベル廃棄物測定の合理化 人工バリアの合理化 ③ 社会的な認知 ・“掘削時の気づき”など将来の人間侵入への配慮ここで、一旦ジオポリマーで安定化する概念は、燃料デ ブリ取り出しの合理化とともに、廃棄体化をPCV 内で行うことになるため、廃棄物処分概念が成立する場合には、 極めて有効な工法となりうる。 図2 には、新たに考案した廃棄物処分概念を示す。本処分概念では、異なる汚染レベル、異なる種類の放 射性廃棄物が一つの処分場で処分され、最深部では汚染レベルの異なる廃棄体が混在(ブレンディング)する。利点としては、詳細な検認が省略でき、膨大な数のサンプリ ングや核種分析調査を回避し廃棄物を容易に分別して収納可能となることや、管理対象施設を一つに絞ることに より、時間が短縮されコストが削減できるということが 挙げられる。ここで汚染レベルが曖昧で評価が困難な廃 棄物は、より上位の概念(より深い位置)で処分を行うこ とにより安全性を担保する。 具体的には、次のステップで燃料デブリを取り出して、 廃棄体を一時保管し、最終的には処分場で管理を行う。 ①まずは解析でPCV 内のWaste Stream をつくり、廃棄体の代表性を議論し、サンプリングを行って確認する。それ が成立する場合には、廃棄体をレベルに応じて、青、黄、 赤にわける。わかりにくいものはより管理レベルをあげる(青は黄色、黄色は赤に入れる)。 ②廃棄体は、青・黄・赤のラベルを貼って移送・保管する。なお、α 核種が若干ついて可能性のある廃棄物は黄色(あるいは赤)として保管する。 ③ジオポリマーで安定化した燃料デブリや炉内構造物は 赤として管理する。 ④原子炉建屋から取り出し後には、建屋外に設置される 一次保管場所において廃棄体を十分に調査し、最終処分 時の管理レベルに反映する。 ⑤赤ラベルの廃棄体は、処分要件として必要なインベン トリと発熱量を評価する。 但し、黄色を赤に入れる場合、ベントナイト緩衝材の付 与により、コストが高くならないか、評価する必要がある。 図 2 1F廃棄物の新たな処分イメージ 一方、本処分概念を実現させるためには、インベントリ 評価、燃料デブリの発熱性評価、核種侵出性評価等の技術 的な課題から、規制や合意形成等の社会的な課題まで幅広く検討する必要がある。 本処分概念では、ジオポリマーで安定化した燃料デブ リ等の高線量廃棄物は処分場の最下層に埋設することになるが、廃棄体間の離間距離を小さくすると燃料デブリを被覆している廃棄体の温度が上昇し、ベントナイトの 緩衝材としての性能が劣化する。このため、発熱性評価で は長期的に性能を保つために廃棄体の離間距離と温度上 昇の関係を調べ、どの程度の離間距離であればバリア機能を失わずに、かつ高効率に廃棄体を地層に埋設できるかを評価する必要がある。 なお、ジオポリマーは取り出し時の安定化材料として 使用されるが、同時に廃棄物処分においては、高い耐熱性 や耐放射線性を有し、放射性核種の溶出率が低い緩衝材 としての機能が期待される。 以下ではジオポリマーの性能評価を行い、緩衝材とし ての適用可能性を評価する。 3.ジオポリマーの性能評価 必要な要求性能 ジオポリマーは、アルカリシリカ溶液とアルミナシリ カ粉末の反応によって形成される非晶質ポリマーの総称であり、材料の組合せにより性状が異なる[6] [7]。ジオポリマーを処分工程において緩衝材として使うための要求性能を表1 に示す。 表1 ジオポリマーに求められる機能 機能 内容 評価指標 目標数値・状態 流動性 廃棄体容器内に完全に充填する 粘度・テーブル フロー 注入完了前に固化しない 強度特性 廃棄体および周囲 の構造を一体化し、支持する 圧縮強度 1.47MPa [8] 熱伝導性 廃棄体からの発熱を閉じ込める 熱伝導率 発熱廃棄体の温度が許容温度を 超えない 耐熱性 高温環境下で性能 を失わない 各種 想定環境で諸性 能を保つ 耐放性 放射線環境下で性 能を失わない 各種 想定環境で諸性 能を保つ 水素発生 水の放射線分解によ る水素発生を抑える G(H2)値 水素発生量 従来の緩衝材よ り低い値 核種浸出 放射性核種を閉じ 込める 溶出率等 溶出を抑える 実験 流動性評価試験 試験方法・条件 溶液の混錬完了後から15 分毎に計8 回、サンプルの粘度を振動式粘度計で測定した。 試験結果 粘度測定結果を図3 に示す。 図3 粘度測定結果 室温養生試料は養生開始後 105 分まで粘度が単調に増加することが確認された。一方40℃養生試料では、養生開始後 15 分で粘度が一度減少し、その後に増加した。60℃および 80℃養生試料でも同様であり、養生温度が 60℃以上では固化過程の進展が速いことが確認された。これは周囲からの熱によりジオポリマーの縮重合反応が促進されるためと考えられる。80℃養生試料では、養生 完了後30 分以内では十分な流動性を確保できた。また珪砂添加により流動性の減少が確認されたが、ジオポリマ ー内の相対的な含水量が減少しているためと考えられる。 強度評価試験 試験方法・条件 強度評価試験として圧縮強度試験を実施した。試験体 の大きさは直径50mm、高さ100mm であり、種類は27 種類、サンプルサイズはn=1 である。 試験結果 試験結果を図4 に示す。 図4 圧縮強度試験結果 室温養生試料では、珪砂 10wt%以上添加によって、圧縮強度向上が確かめられた。また粒径による圧縮強度への影響は認められなかった。 室温養生以外の高温養生試料については、珪砂添加による圧縮強度の向上は確認されなかった。養生温度別の傾向としては、40℃養生試料の圧縮強度は室温養生試料よりも大きく、60℃養生試料では室温養生試料と同程度、80℃以上では室温養生試料よりも小さくなった。 熱伝導性評価試験 試験方法・条件 未照射材及びγ 線照射材(約1MGy)について、保護熱流計法で熱伝導率測定を実施した。サンプル種類は10 種類(珪砂やTi、Zr 粉末添加等)である。 試験結果 試験結果を図5 に示す。 図5 熱伝導率測定結果 未照射試料のデータでは、無添加試料と比較して、Ti 粉末やZr 粉末を添加した試料の熱伝導率が2 倍以上に向上することが確認された。Ti、Zr の熱伝導率はジオポリマーよりも高いため、一定量以上添加することで熱伝導率を向上可能と考えられる。また未照射試料と照射済試料 の熱伝導率を比較すると、添加剤無しおよび珪砂 6 号 20%添加の試料を除いて、照射により熱伝導率が小さくなる傾向が確認された。この傾向は含水率の増減とも概 ね一致していることから、照射によってジオポリマー内 の水分が抜けたため熱伝導率が低下したと考えられる。 ジオポリマーの緩衝材としての検討 本研究で実施した試験結果のまとめを表2 に示す。 表2 ジオポリマーの性能評価 (?:性能向上に寄与、?:性能低下、→:影響無し、?:本研究の対象外) 流動性 強 度 熱伝導 性 耐熱 性 水素発 生抑制 含水率 高い ? ? ? → ? 低い ? ? ? → ? 養生温 度 高温 ? ? ? ? ? 中温 → ? ? ? ? 室温 ? ? → → → 添加剤 無し ? → → ? → 珪砂 → ? ? ? → 金属 粉 → ? ? ? → Pd 系 → ? ? ? ? 廃棄体材料として検討したジオポリマーは、室温環境 だけでなく高温・放射線環境下においても各種性能を発揮することが確認され、求められる状況に応じて添加剤 (珪砂、Pd、Gd2O3)等の添加材もしくは養生条件(乾燥・ 湿潤)を変えることで、さらに性能向上を図れる見通しが得られた。 4.処分場の廃棄体発熱影響に関する検討 目的 処分時に緩衝材として用いられるベントナイトは、高 温環境で人工バリアとしての機能が失われる。ジオポリマーについてもベントナイトと比較すると耐熱性に優れ てはいるが、特に300℃以上で表面にひび割れが生じるこ とが過去の研究より判明している[9]。よって燃料デブリ 等の発熱性廃棄物の処分を考える際には熱解析にて伝熱による緩衝材の温度上昇を評価する必要がある。また廃 棄体間の距離(ピッチ)は処分場のサイズにも直結し、採 掘コストにも関係する。ピッチが大きければ大きいほど 採掘体積も大きくなり、採掘コストも増大していく。そこ で、熱流体解析プログラム(STAR-CCM+)を用いてベン トナイトの温度上限値である 80℃に達する離間距離について解析を行った。 方法 解析モデルおよび条件 解析モデルにおける処分場のイメージを図6 に示す。 図6 最終処分場イメージ図 燃料デブリ廃棄体を 3 次元空間上に並べて、基本単位として赤枠をモデルとして抜き出し、4 つの廃棄体を縦に並べて二次元非定常熱伝導解析を行った。解析モデルを図7 に示す。 側面は断熱境界とし、地表面は 15℃、最深部は3℃/100m の地温勾配より 45℃の温度固定境界と仮定した。 また、1F 各号機の放射性核種量をORIGEN2 コードにより評価した報告書[10]より、発熱量を合計し、廃棄体容 器1基当たりの発熱量を算出し、処分までの冷却期間を 20 年と仮定した。 ここで本解析で用いた材料の物性値を表3 に示す。 図7 解析モデル 表 3 熱解析に用いた材料物性値 ジオポリマー 岩盤(花崗岩) 燃料デブリ 密度 [kg/m3] 4940 1750 2600 熱伝導率 [W/m・K] 2.5 0.5 3.8 比熱 [J/kg・K] 350 700 840 解析結果 解析結果を図 8 に示す。ピッチが 6m 以上の場合ではベントナイトが機能を失わず緩衝材として使用できることが確認された。またピッチが大きくなると最高温度が下がることが確認された。 図8 ジオポリマーの温度の経時変化 5.結論 ―処分概念の総合評価― 本研究では、ジオポリマーを使った大規模燃料デブリ取り出し工法により発生する廃棄体に対して、材料因子、 ならびに処分場における発熱性を検討し、1F 廃棄物の処分概念に関する技術的成立性を評価した。 取り出し時の安定化材として使用するジオポリマーは、 室温環境だけでなく、高温・放射線環境下においても各種性能を発揮することが確認された。また他研究において、水素発生は Pd 等の添加により抑制されることが示されている[9]。今後ジオポリマーへの添加材についてさらに検討を深める必要があるが、求められる状況に応じてジオポリマーに適切な添加材を加えることにより、さらなる性能向上が可能であると判断される。 処分場における燃料デブリからの発熱に関しては、解 析結果から離間距離を一定以上取ることで、周囲の緩衝 材の温度上昇を抑えられることが分かった。具体的にはピッチを 6m 以上確保することで、ベントナイトの温度上限値である80℃を下回ることが確認された。 本提案処分概念成立のためには、この他にも検討すべき事項は残されているものの、物理的強度、流動性、水素 ガス発生等の人工バリア材の性能および発熱の観点から、 ジオポリマーは本処分概念に適用可能であるとの見通しが得られた。 以上の結果及び低い核種浸出性の結果[4]等から、ジオ ポリマーを使った大規模燃料デブリ取り出し工法は、取り出し時の安全性や時間短縮のみならず、廃棄物管理の 視点からも有効な手法であり、燃料デブリ取り出しから廃棄物管理に至る廃炉工程全体を合理的に実施可能な工 法であると判断される。 参考文献 NDF, 「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2020」 3 号機原子炉格納容器内部調査について(2017 年11 月30 日廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議(第48 回)報告資料) 福島第一原子力発電所2 号機原子炉格納容器内部調査実施結果(2018 年 2 月 1 日廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議(第50 回)報告資料) 富士電機株式会社, “ジオポリマーによる廃棄物封じ込め技術,”2016. 鈴木俊一、“俯瞰的アプローチによる燃料デブリ取り 出し代替工法の提案”,日本保全学会, 保全学 Vol.1 7, No. 3 (2018 ) 原田耕司, “ジオポリマーの特性と施工事例,” 西松建設技報 VOL.39, 2015 河尻留奈,国枝稔,上田尚史,中村光,“ジオポリマーの 基礎物性と構造利用に関する基礎的研究”,コンクリ ート工学年次論文集, Vol.33, No.1, 2011 原子力規制庁, “廃棄物確認に関する運用要領”, 2014 平成元年度英知を結集した原子力科学技術・人材育 成推進事業, "燃料デブリ取出し時における放射性核種飛散防止技術の開発", JAEA-Review2020-043, 2020 西原健司, 須山賢也 , 岩本大樹, “福島第一原子力発電所の燃料組成評価,”日本原子力研究開発機構, 2012
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