低炭素ステンレス鋼溶接金属の熱時効特性評価に関する電中研の取組み
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カテゴリ: 第16回
低炭素ステンレス鋼溶接金属の熱時効特性評価に関する 電中研の取組み
CRIEPI Activities for Evaluation of Thermally Aged Stainless Steel Weld Metals
電力中央研究所
三浦
靖史
Yasufumi MIURAMember
電力中央研究所
赤澤
弾
Dan AKAZAWA
電力中央研究所
加古
謙司
Kenji KAKO
電力中央研究所
新井
拓
Taku ARAI
Abstract
Tensile test, fracture toughness test, and stress corrosion cracking (SCC) test were conducted in order to evaluate the effect of thermal aging on the mechanical properties and SCC crack growth rate of shielded metal arc weld (SMAW) and gas tungsten arc weld (GTAW) of type 316L stainless steel. Thermal aging at 350 oC induced a moderate increase of ultimate tensile strength in both the welds, and the value of GTAW was higher than that of SMAW. The resistance to ductile crack extension of aged welds was lower than that of unaged welds. The fracture toughness of both aged and unaged GTAW tended to be higher than that of SMAW, although the ferrite content, main factor in the embrittlement, of GTAW was larger than that of SMAW. On the other hand, it was found that there was no significant difference in SCC crack growth rate between aged and unaged material in this study.
Keywords: Boiling water reactor, Type 316L stainless steel, Weld metal, Thermal aging, Fracture toughness, Stress
corrosion cracking,
1 はじめに
オーステナイト系ステンレス鋼は、靱性、耐食性、溶接性等に優れることから、軽水炉の炉内構造物や配管等に幅広く使用されている。同鋼の金属組織は主と てオーステナイト相により構成されるが、溶接金属はステンレス鋳鋼同様にフェライト相 含む二相組織となっており、高 環境に長時間さらされること(熱時効)により、フェライト相が硬化 、破壊靱性が減少 る。熱時効
化の [1-3]が されているステンレス鋳鋼に比べ、溶接金属に する熱時効 は少数であり、にBWR プラントで広く用いられている316L 溶接金属の
は られている[4, 5]。 では、加 熱時効 316L 溶接金属 と 性( および破壊靱性)、 ク 組織、SCC 性の
ており、本報ではその 組みについて紹介する。
連絡先 三浦 靖史、〒240-0196 神奈川県横須賀市長坂
2-6-1、( ) 材料 、
E-mail: ymiura@criepi.denken.or.jp
2 試験方法
2.1 供試材および試験条件
供 材にはSUS316L の被覆アーク溶接(Shielded meatal arc weld 以下SMAW)継手と、ガスタングステンアーク溶接(Gas tungsten arc weld 以下GTAW)継手の溶接金属 用い 。SMAW とGTAW に用い 溶接材料はそれぞれES316L-16(JIS Z3221)、YS316L(JIS Z3321)である。
開先形状は 60゜の V 開先であり、BWR 再循環系配管
下で溶接 。 に用いSMAW のフェライト量(フェライトメータによる 定平均値)はおよそ8-9 %、GTAW は12-15 %であっ 。継手に する熱時効は350 で 長15000 h と 。
は Fig.1 に すよ な で 。
形状はJIS G0567 に 比 ( 6 mm)と
、破壊靱性 およびSCC には0.5T-C(T)
用い 。 および破壊靱性 についてはそれぞれJIS G0567 およびASTM E1820 に って 。い れの は BWR 288 であり、 と破壊靱性 は で、SCC
については溶 8 ppm、 10 ?S/m の高
水 で 。 部のSCC については 後にアトムプ ーブ分 、熱時効による相分離の
とG 相 物の べ、ステンレス鋳鋼における先 の [6]と比 。
について GTAW が優れている。 か 、 時効状 からのJ-R 曲線の傾きの減少量はGTAW の が きかっ
。これらの は 308 系溶接金属や他の 316 系溶接金属の傾 [7]と同等であり、316L 溶接金属において 、時効状 および時効後の破壊靱性が溶接 に きく
受けることが確認され 。
700
600
500
400
J (kJ/m?)
300
Fig.1 Schematic of specimen position in the welds.
3 結果
引張特性の変化
により求め 強さおよび破断伸びと時効
200
100
0
-0.50
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
時間の関係 Fig.2 に す。溶接 問わ 、熱時効時間の増加に伴い 強さが増加傾 。破断伸びについては 強さとは逆に減少傾 にあるが、SMAW についてはそれほど明確な減少は認められなかっ 。
700
600
Crack extension, ??a (mm)
Fig.3 J-R curves of SMAW.
60028
57526500
550
Ultimate tensile strength / MPa
525
500
475
24
400
J (kJ/m?)
22
Elongation / %
300
20
200
18
45016100
425
140
-0.50
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
400
0
4000
8000
Aging time / h
12000
12
16000
Crack extension, ??a (mm)
Fig.4 J-R curves of GTAW.
Fig.2 Aging time dependency of UTS and elongation.
延性亀裂進展抵抗および破壊靭性の変化
Fig.3 およびFig.4 にSMAW およびGTAW のJ-R 曲線
それぞれ す。なお、各 の 数は2 つである。
より明らかなよ に、 時効材の延性亀裂 は
GTAW の がSMAW より 高く、ま 、時効後の
ASTM E1820 に って求め J-R 曲線のべき乗近似式における延性亀裂 量1.5 mm におけるJ 積分 破壊靱性J1.5 と定 、J1.5 熱時効に伴 化 Fig.5 に す。破壊靱性 J1.5 は熱時効時間の増加とと に減少 。ま 、8000 h から15000 h の時効時間の増加における 化量はごくわ かであり、いわゆるsaturation の傾 が見られ 。
本報告で 全 はNUREG CR7185[7]で提案されている保守的な推定値 上回る となっ 。破壊靱性の減少に及ぼす時効 の や、更なる長時間の熱時効により 化が継続するか否かについては き続き検討 ていく 定である。
10-8
10-9
Crack growth rate (m/s)
600
10-10
500
400
10-11
300
J (kJ/m?)
10-12
202530
354045
200
100
Stress intensity factor, K (MPam0.5)
Fig.6 Relationship between crack growth rate and stress intensity factor K.
0
04000
8000
Aging time (h)
12000
16000
3.4 ミクロ組織の変化
アトムプ ーブ 定により求め フェライト相の相分
離の程 である Variation[11](Cr 原子の理想的な二項分布
Fig.5 Relationship between fracture toughness J1.5 and aging time.
SCC 進展試験結果
Fig.6 に 時効材、5000 h 時効材、10000 h 時効材のSCC
、 の平均応 拡 係数の値により 理
[8] す。各熱時効 間で応 拡 係数の値が異なる め 接比 は困難である のの、本報で 得
殆どの ータが 1X10-11(m/s)オーダーの
すとと に、見かけ上5000 h でヒーク 持つよ な
となっ 。 だ 、原子 安全基盤 構は、 時効の316L 溶接金属 に応 拡 係数がおよそ 10~40 MPam0.5 の で SCC において、同材料、同応 拡 係数であって が 1 桁程 ばらつくこと 報告 ており、かつ報告され ータの くは本報同様1X10-1(1 m/s)オーダーであっ [9, 10]。これらのばらつきと レンジ 考慮すると、本
のみから 350 の熱時効が SCC に明確に するか否か 判断することは困難である。 か ながら、400 での熱時効により SCC が 2 倍程 に増加するとい 報告 [5] 在することから、今後更なる長時間時効材や、350 以外の時効材の ータ 拡充することで、熱時効がSCC 性に及ぼす の有無 明確化する めの検討 継続 ていく 定である。
からのズレの絶 値)と、G 相 物の数密 、
SUS316L と似 組成 持つステンレス鋳鋼SCS16A の
[6]に てオーバープ ット Fig.7 とFig.8 にそれぞれ す。なお、Variation は 時効、5000 h、10000 h 時効材に て、G 相 物の数密 につい
ては 時効材と5000 h 時効材の に 。G 相 物については、Hamaoka らの報告[12]と同様に定
て 。両 の色分けは時効 に 応 、溶接金属の は の塗りつぶ のプ ットに相当する。時効後の溶接金属の値は、2 種類のSCS16A 鋼の350 の熱時効材の ータ群と近い位置にプ ットされ、SCS16A 同様、熱時効により増加する傾 。G 相
物は 時効状 では観察され 、5000 h 時効材においてのみ観察され 。本材料の場合、G 相 物は主にNi、Mn、Si、Mo より構成されており、2 種のSCS16A と同様であっ 。なお、G 相 物の数密 は に す2 種のSCS16A の内、H 材に近い値となっ 。D 材、H 材、SMAW、GTAW について上記G 相構成元 の合計割合はそれぞれ13.53 wt%、15.13 wt%、16.07 wt%、16.09 wt%であり、SMAW および GTAW の値は H 材に近い。このめ、G 相の がD 材より H 材に近い のとなっ
と推定される。
1.4
1.2
1.0
0.8
Variation
0.6
0.4
0.2
0.0
100101102103104105
Aging time (h)
toughness of thermally aged cast duplex stainless steel piping”, ASME PVP2005-71528, 2005.
O. K. Chopra, “Estimation of Fracture Toughness of Cast Stainless Steels during Thermal Aging in LWR Systems”, NUREG/CR-4513, ANL-15/08 Revision 2, 2016.
C. Faidy, “Ageing Management of Cast Stainless Steel Components in French PWRs”, ASME PVP-2012-78843 2012.
W. J. Mills, “Fractire Toughness of Type 304 and 316 Stainless Steels and Their Welds, International Materials Reviews, Vol. 42, No. 2, 1997, pp. 45-82.
T. Lucas, R. G. Ballinger, H. Haninen, and T. Saukkonen, “Effect of Thermal Aging on SCC, Material Properties and
Fig.7 Relationship between variation and aging condition.
1025
-3
Number density of G-phase precipitates (m )
1024
1023
1022
102103104105
Aging time (h)
Fig.8 Relationship between number density of G-phase precipitates and aging condition.
4 まとめ
本報ではSUS316L 溶接金属に する350 での加 熱時効が、 性、破壊靱性、SCC 性およびフェライト相の ク 組織 化に及ぼす についての
紹介 。今後350 以外の熱時効材の ータ拡充等により熱時効 の や加 熱時効の妥当性等 検討することで、各 性に及ぼす 明確化 ていく 定である。
参考文献
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