動的荷重を受ける配管の塑性崩壊に関する基礎的研究

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カテゴリ: 第17回
動的荷重を受ける配管の塑性崩壊に関する基礎的研究 Fundamental study on collapse of piping under dynamic load 東京大学 長谷川 翔 ShoHASEGAWA Student Member 東京大学 笹木 龍之介 RyunosukeSASAKI Non-Member 東京大学 一宮 正和 MasakazuICHIMIYA Non-Member 東京大学 笠原 直人 NaotoKASAHARA Member Abstract According to experimental observations, as the failure modes of piping in nuclear power plants caused by large seismic motion, ratchet collapse was observed. Ratchet collapse is the collapse which is followed by ratchet deformation. However, the mechanism of ratchet collapse under the large seismic load is not so clear. In order to clarify ratchet collapse, it is important to examine ratchet deformation and collapse at first. Ratchet deformation occurrence condition and mechanism have already been clear. In this study, in order to clarify collapse under dynamic loads, authors conducted experiments and analyses of beams which simulates piping under large seismic motion. As the results, authors confirmed that collapse occurrence conditions are strongly affected by the frequency ratio, frequency of input wave divided by natural frequency. Moreover, the mechanism of collapse was explained from the view point of energy transfer from input loading to the beam. Keywords: Collapse, Dynamic load, Piping, Frequency ratio, Input energy 1.はじめに 福島第一原子力発電所事故の教訓として、「事故が起こらないように設計する」ことに加えて「事故が起こることを前提とした対策」という考え方の必要性が高まった。そこで設計基準を超える事象(BDBE:Beyond design basis event)に対しての適切な安全評価が必要であるが、過大地震など従来想定していなかった極限荷重に対する原子炉構造物の壊れる順番や場所、壊れ方ははっきりわかっていない。そこで、ここでは過大地震下で最も破局的な様式の破壊の一つである配管の塑性崩壊に着目して、その発生条件とメカニズムを解明する。 2.地震動による破損様式 地震動によって引き起こされる配管の破損様式には初 連絡先:長谷川 翔 〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学大学院工学研究科原子力国際専攻 E-mail:sho9780@gmail.com 通過破壊、進行性変形(ラチェット)、ラチェット先導型塑性崩壊と繰り返し荷重による累積疲労破壊がある。本論文では相互に関連する以下の3 つの破損様式に着目する。 初通過破壊 初通過破壊とは過大地震等で構造物の応答が最初に破壊レベルを超えた際に起こる破壊を意味し、その破損様式には延性破壊や塑性崩壊、座屈が当たる。従来の耐震設計では破損様式として初通過破壊を想定した静的荷重で保守的に評価しているが、動的荷重による崩壊について発生条件やメカニズムは明確ではない。 進行性変形(ラチェット) 地震動下の進行性変形(ラチェット)とは、地震動の繰 り返し荷重によって一方向に変形が進行する現象である。正弦波加速度を梁に与えたときの進行性変形の発生条件 については実験及び解析を用いて既に著者らによって研究されている [1]。実験による進行性変形発生条件がFig.1 である。図のXは梁にかかる重力による一次応力を、Y は入力加速度による慣性力による応力を降伏点で正規化して表し、fn は梁の固有振動数を表す。例えば2.0fn は fn の2.0 倍の振動数を有する加振入力波を意味する。 Fig.1 Ratchet deformation occurrence conditions (experiments) 入力加速度の振動数が、固有振動数と同じ、もしくはそれより低いときに進行性変形が発生しやすく、固有振動数より高いときは進行性変形が発生しにくいという結果が得られた。 ラチェット先導型塑性崩壊 過大地震発生時の構造物の挙動と破損様式についての研究の一つにEPRI によるプロジェクトがあげられ[2]、このプロジェクトの振動強度実験で変形が進行的に蓄積された後に崩壊に至る現象が観測された。地震荷重下における構造物の破損様式に着目した近年の試験研究においても進行性変形が観測されている[3] [4]。この試験でも加振ごとに変形が進行し、最終的に崩壊に至る進行性変形が観測された。 この破損様式を本研究ではラチェット先導型塑性崩壊と呼称する。おもりによる重力と入力加速度の慣性力によって先導型塑性崩壊が発生したと考えられているが、その発生のメカニズムは十分に解明されていない 3.目的 従来の配管の耐震設計では、破損様式として初通過破壊である塑性崩壊に着目しているが、過大な地震動ではラチェットを伴う塑性崩壊が起きる場合があり、これについては発生条件やメカニズムは明らかになっていな い。これらを明らかにするためには、動的荷重によるラチェットの発生メカニズムに加え初通過塑性崩壊の発生メカニズムを先ず解明し、これらを踏まえてラチェット先導型塑性崩壊の解明につなげることが重要になり、ま たこれは減災への取り組みに対してきわめて有益なものになる。 ラチェットを伴う塑性崩壊の発生条件とメカニズムを明らかにするために、まず振動荷重の初通過条件における塑性崩壊についてそれらを明確にする必要がある。本研究では地震動における最大加速度による配管の初通過破壊を想定して、パルス状の過大な加速度を配管要素を模擬した梁に加えて塑性崩壊が発生する条件とメカニズムを実験的・解析的に明らかにすることを目的とした。具体的には、振動数と最大加速度をパラメータとした正弦半波の加振で塑性崩壊を発生させる実験を行い、解析結果と比較しながら塑性崩壊の発生条件とメカニズムを解明する。 4.実験 本実験では実機材料の力学特性を小さな荷重で模擬する鉛アンチモン合金[5]を使用し、曲げモーメントを受ける配管を模擬した梁試験体を使用した。Table1 は鉛アンチモン合金の物性値である。梁の先端に金属棒を取り付けて、その金属棒の先端におもりを固定しておもりにかかる重力を荷重としている。これは配管にかかる内圧や自重による一定荷重を模擬している。梁の下端を振動台に水平加振することで地震荷重を模擬する。入力加速度の波形は最大加速度による初通過破壊が起こるようにFig.2 のような正弦半波とした。前後の小波は試験機制御上必要なものである。複数の振動数の入力加速度で実験を行い、塑性崩壊が発生する加速度の大きさを求めた。ここで、塑性崩壊の発生基準は試験体付け根部の最大ひずみが3%のときとした。試験体の形状がFig.3 である。Fig.4 の左側の写真は試験前の試験体の様子であり、右側の写真は崩壊後の試験体の様子である。Fig.4 の梁の付け根の部分にひずみゲージを貼り付け、この部分のひずみを測定した。 Table.1 Material properties of lead antimony alloy Young’s modulus 19 GPa Yield stress 8.5MPa density 11340kg/m3 Poisson ratio 0.36 Fig.2 Shape of input wave Fig.3 Size of specimen Fig.4 Specimen (left) and after collapse (right) 5.解析 実験と同様の条件での有限要素法を用いた解析を行なった。解析から得られる発生した応力や動的変位など、実験では測定することのできないデータから塑性崩壊のメカニズムを明らかにする。解析方法は大変形を考慮した動的弾塑性時刻歴解析である。 モデルの作成はプリ・ポストプロセッサFEMAP ソフトウェアを用いて行い、有限要素解析ではソルバーとしてFINAS/STAR[6]を使用し行った。材料は鉛アンチモン 合金とし、弾完全塑性モデルを用いている。Fig.5 はモデルの略図である。 実験と同様の波形の入力加速度で複数の振動数比について塑性崩壊が発生する加速度を求めた。実験と同様に塑性崩壊の基準はひずみが3%のときとした。 Base acce. Fig.5 analysis model 6.結果 実験および解析から得られた塑性崩壊発生条件をまとめたグラフがFig.6 である。実験と解析の結果はともにX の値が大きいほどY の値が小さくなり1 次応力の影響が大きいことが分かる。また、Y 値は理論的崩壊強度をはるかに上回っており地震荷重下で塑性崩壊が起こりにくいことを示唆している。 Fig.6 collapse deformation occurrence conditions 7.考察 振動数比の塑性崩壊発生条件への影響について実験および解析から得られた X=0.8 における塑性崩壊発生条件がFig.7 である。グラフから振動数比(入力振動数/固有振動数)が大きいほど塑性崩壊発生加速度は大 きいことがわかる。 Fig.7 Y value vs frequency ratio 振動数比の位相差への影響 実験の動画および解析から Fig.8 のように入力加速度と梁の応答には位相差が生じていることがわかり、この位相の遅れは振動数比が大きいほど大きい。また振動台と梁の相対運動に着目すると、固有振動数より低振動数側では同相であり、高振動数側では逆相となっていた。Fig.9 とFig.10 は0.5fn と2.0fn における入力加速度が最大となったとき(振動台が一番右に移動したとき)の試験体の様子の写真である。0.5fn では変形が進んでいるのに対して2.0fn ではほとんど変形が進んでおらず、低振動数側に対して高振動数側の応答の位相が遅れていることがわかる。これらの位相差は後述するように入力エネルギーの違いの原因になっている。 Fig.8 Phase difference vs frequency ratio Fig.9 Specimen when input acceleration was max (0.5fn) Fig.10 Specimen when input acceleration was max (2.0fn) 入力エネルギーによる塑性崩壊のメカニズム 加速度を入力した際に振動台から梁に入力されるエネルギーを考える。 ここで入力エネルギーの定義を説明する。梁の重さと 先端荷重の重さの合計を???入力加速度の大きさを??とすると、梁に働く慣性力は-?????なる。このときの 梁の先端の応答速度を???すると、慣性力による仕事 率は-???????表せる。この仕事率を時間で積分するこ とで梁に入力されたエネルギーを求めることができる。ここで応答速度の値は、解析から得られた梁の先端の 速度の値を用いている。振動数比ごとに塑性崩壊が発 生する入力加速度の大きさが異なるが、同じ力を与え た時の入力エネルギーを求めたいので、慣性力の最大 値が1N とした。 Fig.11 は梁に働く外力を一定値に定めたときの振動数比ごとの入力エネルギーの図である。入力エネルギーは梁の速度と慣性力の積であることと、同相では慣性力と応答速度の向きが同じで逆相では慣性力と応答速度の向きが異なることを考えると、入力エネルギ計算式から分かるように同相では入力しやすく、逆相では入力しないことと分かる。この理解と Fig.11 は整合している。振動 数比が大きいほどエネルギーが入力しにくいことがわかり、Fig.7 の傾向を説明できる。また、この傾向はラチェットにも共通している。 Fig.11 Input energy vs frequency ratio 8.結論 実験と解析の比較 本研究では、梁に動的荷重を与えて塑性崩壊を発生させる実験と実験を再現した FEM による解析を行なった。それぞれから得られた結果はよく一致しており、解析は実験を十分に再現できている。 振動数比による梁の塑性崩壊発生条件への影響 実験および解析から、振動数比(入力波振動数/固有振 動数)が大きいほど塑性崩壊が発生しにくいという結果が得られた。また X=0.8 における塑性崩壊発生条件とラチェットの発生条件を比較したグラフが Fig.12 である。グラフより塑性崩壊はラチェットと比べて格段に起こり にくい現象であると言える。 Fig.12 Collapse deformation occurrence conditions and ratchet deformation occurrence conditions 振動数比による梁の位相差への影響 入力加速度と梁の応答の間には位相差があり、入力加速度に対して応答は遅れていることがわかった。位相差は振動数比が大きいほど大きくなり、塑性崩壊時は低振 動数側では同相、高振動数側では逆相となった。 入力エネルギーによる塑性崩壊のメカニズムの 説明 慣性力により梁に入力されたエネルギーは振動数比が大きいほど小さいという結果が得られた。低振動数側ではエネルギーが入力しやすく、高振動数側ではエネルギーが入力しにくいと言える。入力エネルギーは梁の速度と慣性力の積であることと、同相では慣性力と応答速度の向きが同じで逆相では慣性力と応答速度の向きが異なることを考えるとこの結果は位相差と関連があると考えられる。 これらの結果から梁の塑性崩壊発生条件は動的荷重の 振動数から影響を受けており、振動数比が小さいほど塑性崩壊は発生しやすく、振動数比が大きいほど塑性崩壊は発生しにくいと言える。またそのメカニズムは低振動数側では同相となりエネルギーが入力しやすくなり塑性崩壊が発生しやすく、高振動数側では逆相となりエネルギーが入力しにくくなり塑性崩壊が発生しにくいためと考えられる。 実際の配管における固有振動数はサポートによる固定の仕方によって変化するので、今後は配管のサポートの有無による塑性崩壊の発生条件や変形の仕方について研究していきたい。 参考文献 Bari Md Abdulla Al, “Numerical and experimental study on failure mode classification of piping components under seismic loading”, PhD thesis, The University of Tokyo, 2017. EPRI, “Piping and Fitting Dynamic Reliability Program Volume 1: Project Summary”, 1994. Kasahara. N, Nakamura. I, Machida. H, Nakamura. H, “IDENTIFICATION OF FAILURE MODES UNDER DESIGN EXTENSION CONDITIONS”, ASME, PVP2015-45381, 2015. Nakamura. I, Kasahara. N, “EXCITATION TEST ON ELBOW PIPE SPECIMENS TO INVESTIGATE FAILURE BEHAVIOR UNDER EXCESSIVE LOADS”, ASME, PVP2015-45711, 2015. Nakamura. I, Kasahara. N, “IMPROVED MODEL TESTS TO INVESTIGATE THE FAILURE MODES OF PIPES UNDER BEYOND DESIGN BASIS EARTHQUAKES”, ASME, PVP2018-84424, 2018. “FINAS/STAR 大規模非線形構造解析シス テム”,https://www.engineering- eye.com/FINAS_STAR/.
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