浜岡5号機海水混入に伴う配管溶接金属の腐食メカニズムの解明

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カテゴリ: 第17回
浜岡 5 号機海水混入に伴う配管溶接金属の腐食メカニズムの解明 Elucidating the corrosion of the stainless steel welded joint caused by seawater intrusion at Hamaoka-5 中部電力 原子力安全技術研究所 熊野秀樹 Hideki YUYA Member 中部電力 原子力安全技術研究所 大村幸一郎 Koichiro OMURA Non-member 東北大学 大学院工学研究科 渡邉豊 Yutaka WATANABE Member 東北大学 大学院工学研究科 阿部博志 Hiroshi ABE Member In May 2011, at Hamaoka-5, the main condenser thin tube was damaged and seawater intruded to the reactor facility. It was purified to a level where corrosion did not occur by replacing the intruding water. However a few years later, the leak occurred from the stainless steel welded joint. It is presumed that the cause is that crevice corrosion was caused by the welded part of stainless steel with high corrosion sensitivity, the inflow of chloride ions, and the crud deposits. And in this study, we aim to elucidate the corrosion mechanism by reproducing the actual corrosion. Keywords: welded metal, localized corrosion, crevice corrosion, chloride ions, crud, stainless steel 1.緒言 2011 年5 月、浜岡5 号機にて原子炉停止後の冷温停止操作過程で主復水器細管が損傷し、原子炉施設全体に海水が約 400m3 混入する事象が発生した[1]。この事象に対し滞留水置換による洗浄を行うことで施設内のCl-を取り除き、腐食が生じない水準まで浄化した。しかし、2017 年2 月に制御棒駆動系スピルオーバー配管(ステンレス鋼) の溶接継手から一次冷却水の漏えいが発生した。 調査の結果、図 1 のように当該個所の配管内表面には溶接熱影響部を起点に、壺状の腐食が溶接金属を通過し 外表面側へと続いていること、外表面近傍には微細な樹枝状の腐食があることを確認した[2]。また、滞留水置換 の際、一部にCl-を含んだ残水環境が維持されていたこと や、配管立ち上がり部の内面にクラッド(配管内面の錆) が堆積していたことが判明した。以上を踏まえた要因分析の結果、この特徴的な腐食は腐食感受性の高いステンレス鋼の溶接部、Cl-の流入、クラッドの堆積の 3 つの要因の重畳により発生したすきま腐食であると推定した。当該配管は取替後復旧されたが、今後の系統復旧作業に 向け、実機で発生した腐食の再現試験を行うことで、詳細 連絡先: 熊野 秀樹、〒437-1695 静岡県御前崎市佐倉 5561、原子力安全技術研究所、プラントグループ E-mail: Yuya.Hideki@chuden.co.jp な腐食メカニズム解明に向けた知見を拡充した。本内容では試験片を用いた定電位保持試験と自然浸漬電位測定 試験の結果について報告する。 図1 断面観察結果 2.試験結果 定電位保持試験 実機と同種のステンレス鋼溶接金属(SUS308L)の試験 片に対し、温度 30℃、人工希釈海水(Cl-:1000ppm)溶液中かつ人工空気を吹き込んだ曝気環境で固定し、pH (1.0, 3.0, 7.4)および電気化学的電位を変数とした定電位保持試験を実施するとともに、試験片表面に発生した腐食箇所を電子顕微鏡により観察した。試験結果と試験に より発生した腐食のうち代表的なものをそれぞれ図 2, 図 3 に示す。各条件で電位上昇時に電流値の上昇が確認 でき、表面観察の結果からも中性~酸性環境下において、 金属電位の貴化があることですきま腐食や局部腐食が発生したのを確認した。腐食形態は主にオーステナイト(γ) 相が優先溶解しフェライト(δ)相が残存するものであり、 一部にδ/γ 二相の界面あるいはフェライト(δ)相が優先溶解したと考えられる実機と類似したネットワーク状の腐食形態を確認した。 図2 定電位保持試験結果 図3 発生したすきま腐食の代表例 自然浸漬電位測定試験 電位を貴化させる要因として考えられるクラッドの影 響について、自然浸漬電位測定を実施することで確認し た。条件は2.1 と同様に温度を30℃、人工希釈海水 (Cl-:1000ppm)溶液かつ曝気環境とし、この際、実機クラッドの分析結果を踏まえ設定した粉末状の鉄酸化物 (Fe3O4,α-Fe2O3,α-FeOOH,γ-FeOOH)をステンレス鋼溶接金属(SUS308L)に接触することにより実施した。その結果を図4 に示す。α-FeOOH については安定するまでに時間を要したものの、いずれも明確な電位貴化が確認された。特にγ-FeOOH については最大で105mV 程度まで貴化しており、当該条件において予測される腐食すき ま再不働態化電位よりも貴であった[3]。今回使用したγ- FeOOH は比表面積が他の3 種の鉄化合物と比較して大 きいため、カソード源となり腐食の駆動力になった可能性がある。以上よりクラッド堆積に起因した電位貴化が局部腐食の要因となり得ることが示された。 図4 自然浸漬電位測定試験結果 3.まとめ 今回設定した電位・pH 条件範囲では、電位の貴化があれば溶接組織に沿った局部腐食形態を示すことが認め られた。主としてオーステナイト相が優先溶解してフェライト相が残存する腐食形態と、一部δ/γ 二相の界面あるいはフェライト(δ)相が優先溶解したと考えられるネットワーク状の腐食形態が認められた。 鉄化合物(Fe3O4,α-Fe2O3,α-FeOOH,γ-FeOOH)がステンレス鋼溶接金属に接触することで、いずれも明確な電位貴化が認められた。特にγ-FeOOH を接触させた際に最大で105mV 程度まで貴化した。 局部腐食の原因にクラッド堆積に起因した電位貴化が主要因となり得ることから、腐食の原因であるγ-FeOOH 等の除去が重要であることが示された。 参考文献 中部電力,浜岡原子力発電所5 号機海水混入事象に係る点検状況について, 2014 年10 月3 日 中部電力,浜岡原子力発電所5 号機 タービン建屋内の連絡配管の溶接部において確認した微小な孔につ いて, 2018 年6 月29 日 明石正恒,ステンレス鋼の腐食と水質, 空気調和・衛生工学, 87, 205(2012)
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