志賀原子力発電所におけるプラント停止時の安全管理の 強化について
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カテゴリ: 第17回
志賀原子力発電所における停止時安全管理の強化について
Reinforcement of shutdown safety control in Shika nuclear power plant
北陸電力㈱
山口
達也
Tatsuya
YAMAGUCHI
Member
北陸電力㈱
西村
隆人
Takato
NISHIMURA
Non-member
北陸電力㈱
長田
真吾
Singo
NAGATA
Non-member
北陸電力㈱
吉田
友城
Yuuki
YOSHIDA
Non-member
北陸電力㈱
小路
和己
Kazumi
SHOJI
Non-member
北陸電力㈱
塚本
高輝
TakateruTSUKAMOTO
Non-member
Abstract
Shutdown safety control is important because most of the troubles occur in nuclear power plant during plant shutdown. In Shika nuclear power plant to deal with such situation, we thought we need to reinforce shutdown safety control. Therefore we considered “Which equipment should be protected during plant shutdown”, ”How to protect the equipment” and “Standards for setting up scaffolding around the equipment”, etc. and we reinforced shutdown safety control. This time, we would like to introduce the way to reinforce shutdown safety control in Shika nuclear power plant.
Keywords: Shutdown safety, Scaffolding, Analysis, WANO SOER,
1.停止時安全管理強化の目的
WANO(世界原子力発電事業者協会)に報告された原子力発電所におけるトラブル事象の約23%はプラント停 止期間中に発生している。プラント停止期間は世界的には約5%しかないことを踏まえるとプラント停止期間中にトラブルが発生する確率が高くなることになる。これは,プラント停止期間中は定期点検のため現場で多くの作業を行っているためであり,この状況を受け,WANO からはプラント停止期間中の推奨事項を定めたWANO SOER 2010-1「停止時安全」が発行されている。
国内の原子力発電所においては,東日本大震災以降, プラント停止期間が長期化しており,志賀原子力発電所 も同様に長期化している。また,志賀原子力発電所では 新規制基準に適合するための工事を進めており,通常の プラント停止期間(定期点検期間)に比べ作業員数や仮 設足場等が多い状態となっていることから,トラブル発 生確率が高い状態が長期化している状況にある。
この状況を受け,志賀原子力発電所ではプラント停止 期間中の安全管理(以下,「停止時安全管理」という。) を更に強化する必要があると考え,検討を進めることとした。
連絡先:塚本 高輝、〒925-0161 石川県羽咋郡志賀町赤住1 番地、北陸電力㈱ 志賀原子力発電所 保修部 機械保修課
E-mail: t.tsukamoto@rikuden.co.jp
2.停止時安全管理機器を選定
プラント停止期間中に防護すべき機器(以下,「停止 時安全管理機器」)の選定を実施した。
①志賀原子力発電所の系統に対し,WANO SOER 2010-1
「停止時安全」にて定められている5つの主要安全機 能に該当する系統を以下の通り整理した。(表1)
表1 主要機能に該当する系統抽出結果
主要安全機能
系統
崩壊熱除去
・残留熱除去系
・燃料プール冷却浄化系
・原子炉冷却材浄化系
・原子炉補機冷却水系
・原子炉補機冷却海水系
原子炉冷却材
インベントリ管理
・残留熱除去系
・原子炉冷却材浄化系
・原子炉水位計
電源の確保
・非常用ディーゼル発電設備
・原子炉補機冷却水系
・原子炉補機冷却海水系
・開閉所設備
・非常用AC,DC 設備
・計装用CVCF
反応度制御
・制御棒駆動制御系
・ほう酸水注入系
格納容器閉止機能
・非常用ガス処理系
・中央制御室換気空調系
②INPO ガイドライン(INPO-13-001)の故障要因に示す誤接触等により機器の機能が喪失するかを評価し,機 能喪失を否定できない機器を以下の通り抽出した。
(表2)
表2 機能喪失を否定できない機器
分類
選定
機械
設備
ポンプ,安全弁,ファン・ブロア,
冷凍機,非常用ディーゼル発電機等
電気
設備
モータ,遮断器,変圧器,計測装置,
操作・制御盤,M/C,P/C,C/C 等
③①主要安全機能に該当する系統内のうち,②にて抽 出した機器の機能喪失によりWANO SOER 2010-1
「停止時安全」に示す主要安全機能の喪失に至る機 器を停止時安全管理機器として選定した。
3.停止時安全管理機器との接触防止策
選定した停止時安全管理機器が誤接触により機能喪失 しないよう,「機材等との接触」と「作業員等との接 触」に分けて接触防止方法を検討した。
機材等との接触防止策
現場に配置されている機材は仮置物品と仮設足場に分 類されるが,仮設物品については重要機器からの離隔距離を原則1.5m以上確保するとともに,必要に応じて転倒防止措置を行うことを規定していた。
一方,仮設足場については,運転に支障を及ぼさない ように適切な間隔を保つことを規定していたが,具体的な基準は設定していなかったことから,停止時安全管理 機器と仮設足場の離隔距離を定量化する必要があった。 仮設足場の離隔距離を設定するにあたり,建屋内におけ る仮設足場の移動量は地震時による移動が支配的である ことから,この移動量を解析により算出することとした。
仮設足場の移動量解析と離隔距離の設定
仮設足場の移動量解析においては,志賀原子力発電所 にて使用される単管足場とし,単段,2 段,3 段の仮設 足場をモデル化し,各寸法及び物性値については安全衛 生規則や建設業労働災害防止協会の仮設足場設置指針を 参考に設定した。(図1)
【単段モデル】
【2段モデル】
【3段モデル】
図1 仮設足場の解析モデル図
想定する地震動は志賀原子力発電所において最大加速 度が最も大きい建屋の応答解析結果を適用した。また, 地震発生時における仮設足場の移動量解析の知見がなか ったことから,摩擦係数や減衰係数,積載荷重について は,パラメータケーススタディを実施した。(表3)
表3 パラメータケーススタディ
№
静止摩擦係数
(-)
動摩擦係数
(-)
減衰係数
(%)
積載荷重
(kg/m2)
1
0.5
0.25
5
150
2
0.25~0.75
0.1~0.75
5
150
3
0.5
0.25
1~7
150
4
0.5
0.25
5
0~300
パラメータケーススタディの解析結果より,№2の静 止摩擦係数0.75,動摩擦係数0.1 の条件にて,仮設足場の最大移動量は24cm となることを確認した。(表4)
表4 仮設足場の移動量解析結果
№
移動量
「撓み量+滑り量の最大値」(cm)
単段モデル
2段モデル
3段モデル
1
13※1
13※1
9※2
2
5~24
静止摩擦係数0.75,
動摩擦係数0.1 にて最大
3
8~13
減衰係数4%にて最大
4
6~12
積載荷重150kg/m2 にて最大
※1:滑り量が支配的,※2:撓み量が支配的
最大移動量24cm に余裕を考慮し,仮設足場と停止時安全管理機器の離隔距離を50cm に設定した。
仮設足場の接触防止策の検討
仮設足場の移動量解析結果を踏まえ,停止時安全管理 機器周辺における仮設足場の接触防止策を以下の通り定 めた。(対策の優先順位は①⇒②⇒③⇒④)
①停止時安全管理機器との離隔距離を水平50cm 以上確保する。
②仮設足場を壁・床等に拘束し,仮設足場の移動を制 限する。
③障壁(緩衝材)を設置し,停止時安全管理機器の損 傷を防止する。
④停止時安全管理機器への影響を評価し,機器が機能 喪失しないことを確認する。
作業員等との接触防止策
作業員等の停止時安全管理機器との接触防止策につい ては,停止時安全管理機器から原則50cm 以内の範囲を保護範囲とし,接触を禁止する保護標示及びバリケード等による物理的防護を行うことで作業員等に注意喚起を行うこととした。(図2,図3参照)
また,停止時安全管理機器が部屋の広範囲に存在する 場合は部屋全体を保護範囲として設定した。
図2 保護区画イメージ図
図3 保護標示,保護区画状況
4.停止時安全管理機器周辺での作業管理
接触防止策に加え,停止時安全管理機器周辺での作業 については,以下の対策を講じることとした。
①機能要求のある停止時安全管理機器周辺での作業は 原則禁止とする。やむを得ず作業を実施する場合は 対象となる停止時安全管理機器の系統を待機除外す る。
②待機除外できない場合は,作業内容や離隔距離,接 触防止策を考慮した上で当直長が作業を許可する。
③安全処置工程(保安規定の運転上の制限を満足する よう,主要機器の運転及び待機期間を明確化した工程)において,停止時安全管理機器を識別化するこ とで,当該機器の待機状態を明確化する。
④停止時安全管理機器周辺に仮設足場を設置する際 は,仮設足場設置前に工事担当者と運転員が仮設足 場の位置・構造について協議し,仮設足場設置後は 双方にて現場確認を行った上で,作業に着手する。
5.まとめ
志賀原子力発電所の停止時安全管理の強化として,停 止時安全管理機器を選定し,仮設足場及び作業員等との 接触防止策の規定化,作業管理の改善を行うことで,停 止時安全管理の強化を実施した。強化以降,約2年間経 過しているが,誤接触等による停止時安全管理機器の機 能喪失は発生おらず,有効に機能していると評価してい る。今後も停止時安全管理の有効性を評価し,必要に応 じて改善することで更なる安全性向上を図こととしてい る。
最後に,今回の停止時安全管理にて確立した安全管理 手法については,プラント運転中の安全管理にも活用可 能であることから,停止時安全管理を強化することは原 子力安全を確立する重要な基礎のひとつであると考える。
参考文献
WANO、“重要運転報告書 WANO SOER 2010-1「停止時安全」”、WANO SOER 2010-1、2010
INPO、“INPO ガイドライン Protecting Equipment”、 INPO-13-001、2013