志賀原子力発電所におけるリスク情報を活用した意思決定に係る 取り組みについて
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カテゴリ: 第17回
志賀原子力発電所におけるリスク情報を活用した意思決定 に係る取り組みについて
Approaches to Risk Informed Decision Making at Shika Nuclear Power Station
北陸電力株式会社
四十田 俊裕
Toshihiro AIDA
Member
北陸電力株式会社
新谷 俊幸
Toshiyuki ARATANI
Non-member
Nuclear Power Companies have decided to introduce a Risk Informed Decision Making (RIDM) process into the management of their power plants, based on the lessons learned from the accident at the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Station. The strategic plan and action plan for the realization of Risk Informed Decision Making (RIDM action plan) were published in February 2018. This paper introduce the risk management system established at Hokuriku Electric Power Company to implement the RIDM process. The risk management system was established to enable timely decision-making at each stage based on the RIDM action plan. In addition, the status of the probabilistic risk assessment (PRA) model, which is being developed and upgraded as a plant risk assessment tool, is introduced. And, a case study of Risk Informed Decision Making at the Shika Nuclear Power Station is also presented.
Keywords: RIDM, Risk Informed Decision Making, risk management, PRA, risk monitor, safety improvement
1.はじめに
原子力事業者では,福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえ,リスク情報を活用した意思決定(RIDM)プロセスを,発電所のマネジメントに導入することとし,これを実現させるための取り組み方針等を取りまとめた
「リスク情報活用の実現に向けた戦略プラン及びアクションプラン(RIDM アクションプラン)」を2018 年2 月に公表している。
本稿では,北陸電力においてRIDM プロセスを実施するために構築したリスクマネジメント体制について紹介する。また,プラントのリスク評価ツールとして整備・高度化を進めている確率論的リスク評価(PRA)モデルの状況,及び志賀原子力発電所におけるリスク情報を活用した意思決定事例について紹介する。
2.リスクマネジメント体制
北陸電力では,RIDM アクションプランを踏まえて, 各段階においてタイムリーに意思決定ができるようにリスクマネジメントを行う体制を構築した(図1)。
図1 リスクマネジメントを行う体制の全体像
・「リスク情報・CAP ミーティング」では,プラント状況,リスクの検討,他社情報の周知等の情報共有と対策を検討
・「発電所パフォーマンス改善会議」では,パフォーマンス指標を基にした発電所の状況把握とリスク傾向の監視・分析を実施
・「リスク情報活用WG」では,リスクマネジメントの活動内容の検討及び今後の方針を議論
・「リスクマネジメント会議」では,OE 情報分析結果の確認,リスクの把握,改善策の検討及び実行,有効性の評価を継続的に実施
・「原子力部門パフォーマンス改善会議」では,パフォーマンスの分析結果や向上活動の状況確認,助言及び活動を支援
・「マネジメントレビュー」では,社長による,実効性の確認及び改善事項の指示を実施
3.確率論的リスク評価(PRA)モデルの整備・高度化
PRA モデルの整備
北陸電力では,発電所における日々の弱みを把握するために,2015 年度よりPRA モデルの自営化を開始している。2018 年度までに,出力運転時レベル1PRA,レベル1.5PRA,停止時レベル1PRA,停止時・出力運転時リスクモニタモデルを整備した。整備したモデルは,発電所のプラント状態・作業工程を踏まえたリスク評価の実施及び周知等において活用している。
なお,モデル整備時にはスタッフをエンジニアリング会社に出向させ,PRA モデル整備を通じたPRA 実務者の育成を図っている。
PRA モデルの高度化
2020 年度から開始された新検査制度では,リスク情報が積極に活用されているが,その基となるPRA については,現在のPRA モデルが米国のモデルに比べて検討や品質の面でギャップがあるという点が指摘されてい る。国内では電力中央研究所主導の下,各社のPRA モデルを高度化する取り組みが行われている。
北陸電力においては,取り組みへの対応として,2020 年度までに出力運転時レベル1PRA モデルの高度化を実施した。高度化では,起因事象として考慮する知見の追加,計算機解析を基とした事象進展の詳細化,換気空調系・圧縮空気系といった系統を追加する等,モデルの検討を新しく追加している。PRA モデルを高度化することにより,更に実態のプラントに近い評価が可能となっ た。
現在は出力運転時レベル1.5PRA の高度化に取り組んでおり,今後は停止時PRA,停止時・出力運転時リスクモニタモデルについても高度化の実施を予定している。
図2 志賀2 号機 PRA モデル整備状況
4.リスク情報を活用した意思決定事例
復水補給水系ポンプ運用台数の合理化
志賀原子力発電所は定期検査時に使用済み燃料貯蔵プールへの注水手段として,復水補給水系(MUWC)ポンプを2 台待機させる運用としている。停電作業により3 台中2 台が同時に使用不可となる場合は,仮設給電を準備していた。対応について検討するため,リスク評価を行い,MUWC ポンプが1 台のみの場合においてもリスクの上昇が限定的であることを確認し,仮設給電は不要と判断した。
図3 MUWC ポンプ運用台数と燃料損傷リスクの変化例
手順書整備の検討
停止時リスクモニタを用いて定期検査工程のリスク評価を実施した際に,燃料損傷リスクが相対的に高くなっている日程を確認した。当該日は母線停電作業によりリスクが高くなっていると考えられたことから,リスク低減対策として,号機間電源融通の手順書を整備することでリスク上昇が抑制されることを確認した。
図4 停止時リスクモニタの評価結果例
5.おわりに
志賀原子力発電所におけるリスク情報活用の取り組みについて紹介した。今後ともリスク情報活用を拡大し, 発電所の安全性向上を追求する。