柏崎刈羽原子力発電所における系統監視活動について

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カテゴリ: 第15回
柏崎刈羽原子力発電所における系統監視活動について System monitoring activity at Kashiwazaki-Kariwa Nuclear Power Station 東京電力 HD 株式会社猪口秀一ShuichiINOGUCHI One of the most important lessons learned from the Fukushima accident is the lack of technical proficiency. From that perspective, a strategic plan was developed to establish an organization of knowledgeable engineers who are familiar with and accountable for the performance and reliability of important plant systems. The System Engineering Group was founded in Kashiwazaki-Kariwa NPS in 2013 and started system performance monitoring as one of its core activities in 2016. In this report, the process used for training and qualification of the engineers and the system performance monitoring activities are outlined. Additionally some future prospects are briefly discussed. Keywords: Kashiwazaki-Kariwa Nuclear Power Station, System monitoring activity, System engineer training, System monitoring activity process 1.緒 言 2013 年3 月29 日に公表された「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン」の中で、福島原子力事 故の背後要因の一つとして技術力の不足が挙げられてい る。また、そのための技術力強化策の一つとして安全上 重要な設備に精通し、「設備信頼性向上に向けた保全計画立案、不適合や系統内の各機器の技術検討についての 保全部内のサポート」を役割とするシステムエンジニア 育成が提言された。 2013 年9 月1 日 システムエンジニアリンググループの発足を機に、システムエンジニアの育成および平常時における設備信頼性向上の取り組みの一環として系統監視活動を開始することを方針決定し、それらの具体的な実施事項やプロセスを定め、2016 年度より本格的に活動を開始した。 本論文では、システムエンジニア育成プロセス、およ び系統監視活動の実施概要および今後の展望を紹介する。 2.システムエンジニアの育成 系統監視活動を行うためには、設計、許認可、運転、 保守等の幅広い知識・技能が必要とされる。 育成プロセスを検討するにあたり、米国のパロベルデ 連絡先:猪口 秀一、 〒945-8601 新潟県柏崎市青山町16 番地46 柏崎刈羽原子力発電所 第二保全部 システムエンジニアリンググループ E-mail:inoguchi.syuuichi@tepco.co.jp 原子力発電所システムエンジニア経験者を通じたベンチ マークや米国ACAD98-004(米国INPO による技術者教育のガイドライン)を参考に、システムエンジニアに期 待する機能、必要知識・技能・経験の習得方法、および 認定確認・認定方法等のプロセスを関係者にて協議・構 築し、「システムエンジニア資格認定ガイド」を制定した。 習得すべき知識、訓練内容の特定においては、ベンチ マークで得た情報やACAD の教育内容を参考にしつ つ、ACAD に記載された研修項目と発電所内の既存の研修項目とを紐づけするなど合理的に整備を進めた。また不足部分については新たに研修資料を作成した。 習得すべきとされた知識の一例を表1 に示す。 システムエンジニアの認定においては、知識習得に必要な研修を外部講師や社内講師による研修および自主学習やOJT による研修を受講後、運転・保全・安全等の各部門管理職の面談による力量確認を経て、システムエンジニアとして認定される。 表1 システムエンジニア習得知識の例 基礎学問 電気工学 機械工学 土木工学 材料工学 原子炉理論 流体力学 化学 プロセス制御 法令・法規 系統情報 系統・機器仕様 インターロック 保安規定 保全に関わる情報 JEAC4209 安全設計審査指針 技術基準 重要度分類指針 社内マニュアル プラント運転情報 起動・停止時挙動 スクラム時挙動 事故時の挙動 3.系統監視活動のプロセス 系統監視活動の基本プロセス 系統監視活動は、系統機能喪失の未然防止および系統 機能喪失リスク低減を目的とし、下記の基本プロセスに て構成される。 ・監視対象系統の設定 ・系統担当者の割り当て ・系統機能に立脚した系統監視プログラムの立案 ・系統機能劣化兆候早期検出のため日常的な監視 ・監視結果から系統における脆弱性抽出・分析 ・分析結果から保全改善・設備改良等立案 ・系統健全性の定期的な評価・報告 次節からそのプロセスの概要を説明する。 監視対象系統の設定 柏崎刈羽原子力発電所各プラントの系統数は1 プラン ト当たり約180 系統に分類される。監視対象の設定においては、系統設計上の安全重要度(安全重要度分類クラ ス1or2、ESS 設備、安全上重要な設備)、重大事故のリスクに対する重要度(PRA のリスク重要度高設備、SA 設備)、プラント出力運転時供給信頼性に係わる系統に該当するか等を考慮し、点数付による重みづけを実施し 監視対象を選定した。選定した40 系統を図1 に示す。 図1 監視対象40 系統 系統担当者の割り当て 監視対象40 系統に対し、1 系統1 名のシステムエンジニア、システムエンジニア1 名当たり4~5 系統を割当 てることとしている。 その際、システムエンジニア個々人の経歴、業務経験 等を鑑みた上で担当系統割当てを実施している。 システムエンジニアは割り当てられた担当系統に対 し、系統に関するより深い知識を習得すると共に、既システムエンジニアからOJT を通じ次節にて説明する系統 監視プログラム作成・系統性能監視・系統性能評価業務 の実施方法を習得後、先述の通り面談による力量確認を 経て、系統担当者として認定される。 系統監視プログラムの作成 系統監視プログラムは、系統機能の状態を定量的に把 握するため、主に系統の性能劣化に着目した監視項目と 監視方法、判断基準等をあらかじめ定めたものであり、 監視対象系統毎に作成する。 具体的には、監視対象系統に要求される機能毎に、機 能喪失に至る事象、機能喪失要因となる機器および機器 の故障モードを想定する。対象機器に対し、その劣化兆 候、異常兆候を検知するために必要なパラメータを抽出 し、系統設計仕様書等からその制限値、制限値に至る前 にアクションを実施するための検出基準等を設定する。 当該系統監視中に発生した設備不適合情報やOE 情報等から新たな知見や監視方法が判明した場合は、随時プ ログラムの更新を実施している。系統監視プログラムの イメージを図2 に示す。 図2 系統監視プログラムイメージ 系統の性能監視 系統監視プログラムに従い、各監視パラメータに対し システムエンジニアによる現場指示値の採取結果、運転 員が作成したサーベランス記録およびプロセスコンピュ ータの抽出結果等からデータを集約、グラフ等で見える 化し、監視パラメータの傾向を分析する。 各監視パラメータに対し、機能劣化有無の確認・評価 を実施しその結果を性能監視結果として纏める。性能監 視結果のイメージを図3 に示す。 検出基準や制限値を外れた監視パラメータを確認した 場合は、当該機能に対する影響評価を実施すると共に、 必要に応じ関係部署への情報提供および今後の対応につ いて提言し、対応策について協議を実施する。 系統状態コードと意味 R 重大な問題がある状態 Y 注意が必要な状態 B 許容できる状態 G 問題のない状態 図3 性能監視結果イメージ 系統の健全性評価 上述の系統の性能監視結果に加え、系統に関する下記 関連プロセス情報を合わせて確認・総合的に系統の健全 性評価を実施する。評価結果については、評価期間中に おける系統の状態を4 色にて区分し、系統健全性監視報告書として纏める。 ・運転管理:運転員引継日誌記載の設備関連情報 ・保守管理:設備点検結果情報 ・不適合管理:設備不具合情報 ・OE 情報:自他電力にて発生した設備不具合情報 ・設計管理:設備更新・改造情報 ・システムウォークダウン :システムエンジニアによる現場巡視結果情報 系統健全性監視報告書のイメージを図4 に、系統状態 コードとその意味を表2 に示す。 図4 系統健全性監視報告書イメージ 表2 系統の状態コードと意味 系統健全性監視報告書の報告頻度は、現在のプラント 状況における当該系統の機能要求有無、その重要性等を 鑑み、3、6、12 ヶ月毎に区分している。 また、系統健全性監視報告書と合わせて、系統健全性 監視報告書の報告月以外の監視対象系統の監視結果を、 月次系統報告書として纏め報告している。 月次系統報告書のイメージを図5 に示す。 図5 月次系統報告書イメージ 月次系統報告書および系統健全性監視報告書について は、社内イントラネット専用ページに掲載することによ り、関係者と共有を図っている。 4.系統の脆弱性改善例 系統の性能監視活動において発見、脆弱性を改善した 事例を紹介する。 RSW 系には冷却水流量計が設置されていないためQ- H カーブより冷却水流量を算出・監視していたところ、冷却水の流量が徐々に低下し定格流量を下回っていることが確認された。合わせて熱交換器差圧も上昇していたことから熱交換器の詰まりと判断し、関係部署へ点検・清掃実施を推奨し清掃した結果、冷却水流量は回復した。 今後、当該事例の様なシステムエンジニアによる機能劣化兆候監視結果が、時間基準保全(TBM)適用機器に 対する機器点検周期の最適化や点検時期の計画・調整等へのインプット情報の一つとして活用されることが期待される。 RSW 系のシステムウォークダウンにおいて、配管保温材の損傷および配管壁貫通部保護カバーの破れを発見 し関係部署に連絡・是正依頼を実施した。当該事象は系 統機能に影響は無かったものの、系統機能に着目したシ ステムエンジニアが現場巡視を継続的に実施することに より、今後系統機能に影響を及ぼす可能性のある様々な 状況を発見・是正し、系統機能喪失を未然に防止される ことが期待される。 5.今後の展望 保全プログラムへの組み込み 現在、JEAC4209 に基づく保全プログラムに、米国AP-913(米国INPO が定めた設備信頼性プロセス説明書)のプロセスを加えた新たな保全プログラムを構築中 である。系統監視活動はAP-913 のプロセスのうち「性能モニタリング」のセクションに当てはまる。このこと を考慮してQMS 上の業務として新たな保全プログラムに組み込んでいく予定である。 また、「性能モニタリング」セクションには発電所幹部への定期的な系統監視結果報告の実施が定められてい る。それは、発電所幹部による系統の現状把握および系 統に発生している問題に対しその重篤度・投資額・リソ ース等を鑑みた優先順位を含めた解決策の意思決定を目 的としたものである。 現在、月次系統報告書および系統健全性監視報告書は、 社内イントラネット専用ページに掲載するなど関係者と の共有を図っているものの、直接的な発電所幹部への報 告プロセスやそのための会議体は確立されていない。 今後、直接発電所幹部へ報告する会議体を設ける予定 であり、系統監視活動結果が問題解決のための意思決定 の判断材料の一つとして活用され、設備信頼性の向上と 保全の合理化に繋がることが期待される。 新たなプロセスとの関連性および活用 今後導入が予定されている原子炉監督プロセス(以下 ROP)およびリスク情報を活用した意思決定プロセス (以下RIDM)の2つのプロセスについて、系統監視活 動との関連を精査中である。 ROP は現在国や関係機関において日本の原子力発電所への導入に向けて体系・運用方法等を整備中であり、詳細内容は未確定であるが、今のところ性能モニタリングに関連した直接的な要求はないと認識している。 ただし今後、ROP の実施内容が確定する過程で性能モニタリングに関連する間接的要求および指標の設定が想定されるとすれば、要求の満足度および指標の達成度確認の際、確認資料の一つとして系統監視活動結果の活用が期待される。 RIDM の基本フローは、安全に係るプラントの状態を現物・現実に則して正しく把握「パフォーマンス監視・評 価」し、把握されたリスクに対しPRA を用いてリスク低減効果を定評的に評価「リスク評価」し、改善に向けた決 定「意思決定実行」を行うことであるが、系統監視活動は 「パフォーマンス監視・評価」に該当する。 RIDM の目的は、従来のように規制要求への適合によって安全の水準を確保することにとどまらず自立的な安 全性向上のマネジメントに変革することであるが、系統 監視活動も自主的に安全をより向上させるための活動で ある。RIDM の目的と合致するものであり、RIDM に深く関連する活動として一層の拡充が期待される。 6.結 論 福島原子力事故の背後要因の一つである技術力の不足 に対応した技術力強化策の一つとしてシステムエンジニ アリンググループが発足したのを機に、システムエンジ ニアの育成や系統監視活動の具体的な実施事項やプロセ スを定め系統監視活動を開始した。 日々の監視を通じて得られた結果や知見を元に監視内 容・報告頻度・報告方法等を改善しつつ活動を継続した 結果、4.系統の脆弱性改善例で挙げたような事象も徐々に抽出されるようになり成果が現れてきている。 今後、系統監視活動が保全プログラムや新たなプロセ スへ組み込まれることにより更に活用されることが期待 されることから、システムエンジニアの力量維持向上お よび系統監視活動の改善を日々重ねることにより原子力 安全の更なる向上の一助になるべく本系統監視活動に取 り組んで行きたい。 参考文献 なし
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